怪談殺し

ダイナソー

復讐戦と鎮魂歌

 一月。晴天の空の下。
 ヨモツヒラサカ神社の前で、ニャルは彼女を待っていた。
「まさか貴方が私を呼ぶとはね」
 ニャルの前に姿を表したのは雷だった。
 雷はニャルに呼ばれて此処へ来た。雷にはその理由が、何となく察しは付いている。
「目的は私の持っている二つの鍵でしょ?」
 ニャルは雷に笑顔を向ける。
「ええ、その通り」
 雷は腰の刀に手をかける。
「お前は私に協力してくれと言うのだろうが、今の私にそのつもりは全くない」
 そう言って雷は腰の刀を抜いた。
「ええ、僕もそのつもりだ。だから力づくであなたの鍵を奪わせてもらう」
 ニャルの目の奥が冷たく輝く。その瞳は除くもの全てに得体の知れない恐怖を与えるものであり、雷もその例外ではない。雷は自分の体が震えているのを感じていた。
「怖いかな? この姿を人に見せるのは久しぶりだから」
 ニャルの体が歪んで行く。その手足は長く伸び巨大なかぎ爪が生える。その胴体には無数の目が生え、その瞳を除くものを恐怖に縛り付ける。そしてその頭は捻れ、円錐形の、顔の無い顔が高く天に聳えた。
「これは……また……」
 雷が呟いた。それはあまりにも醜く、恐ろしい姿だった。
 異形の怪談は語る。
「あなたに、僕の本当の姿を見せた。なら次は神の子として、本当の名前をあなたに名乗ろう」
 雷は震える体を無理矢理に動かしながらその手に持つ刀を構える。
 そんな雷へ、機械的に、無感情に、異形の怪談は自らの本当の名を名乗った。
「僕の名前はプロメテウス。さあ、鍵を貰おうか」

 夕暮れの空の下。
 その巨大なクレーターを眺めながら十金は車を走らせている。その車には運転手の十金の他、助手席の武者、後部座席の明美とヤミコが乗っていた。
 巨大なクレーターを指差して、明美がヤミコに言う。
「あれ、クレーターって言うんだよね? 隕石が落ちて出来るんだって!」
 ヤミコは明美に答える。
「うん……そうだね」
 ヤミコは浮かない顔だ。無理も無いと、武者と十金は思った。今の明美は知る由もないがこのクレーターの出来た土地には、かつて闇子の生まれ育った村が有った。ヤミコはその村の記憶も持っている。幼少の頃の記憶から滅んで行く寸前の記憶まで。
 武者が明美に話しかける。
「明美、もうすぐ神社に着くぞ」
 明美の意識がクレーターから神社へ移る。明美は武者に質問する。
「元旦の初詣に来たのは分かるけど、どうしてこんな遠くを選んだの?」
 武者は明美に答える。
「俺の友達の……ほら、黒服の美形な兄ちゃんがいたろ。あいつが見せたいものが有るって俺を呼んだんだよ。それでヤミコも見たいって言うし、明美も俺達と一緒じゃないと寂しいと思ってね。それで皆で行こうってわけだ。まあ、何人かは留守番だったり実家に帰ってたりするが」
 明美はヤミコの顔を見る。その視線に対してヤミコが明美に聞く。
「何かな?」
 明美はヤミコに言う。
「ママの顔色が悪かったから。気分でも悪い?」
 少しの間が車内に流れる。
「……うん。ちょっと車酔いしただけだよ」
 少しの間の後、ヤミコは笑顔で明美にそう言った。

 クレーターの外れにある小さな道の前で明美達を乗せた車は止まった。
 四人を乗せた車の前には、一台のキャンピングカーが停まっている。
「どうやらニャルは先に着いてるみたいだな」
 車から降りた武者が、そのキャンピングカーを見ながら言った。
 武者以外の三人も車から降りている。
 四人が向かうのは小さな道の先にある神社だ。
「パパ! ママ! 十金さん! 私先に行ってるよ!」
 そう言って明美は三人を置いて走り出した。その無邪気にはしゃぐ姿に、武者は寂しさを感じながらも声をかける。
「ニャルが先で待ってると思うが、あまり一人で変な所に入るんじゃないぞー!」
 道の先から明美の声が武者に答える。
「うん! 分かってるー!」
 武者は肩を竦め、その後に隣を歩くヤミコを見た。
 武者はヤミコに問いかける。
「大丈夫か? やっぱりヤミコは家で待ってもらっていた方が良かったか?」
 ヤミコは首を横に振る。
「大丈夫だよ、武者さん。私は大丈夫。でもまさか私の故郷にドリームランドへの扉が有ったとはね。灯台下暗しとはこの事だよ」
 そうだな、と武者は言おうとした。その時武者は異変に気付く。血の匂いに。
 直後、武者は聞いた。明美の悲鳴を。

 武者は全速力で明美の元へ駆けつけた。
「明美! 大丈夫か!」
 小さな道を抜けた先、神社の前で明美は血だらけで倒れる雷を見ていた。
 明美はすぐ側に駆けつけた武者に気付き、武者に助けを求める。
「パパ!? 私は、私はどうすれば良いの!? この人は助けられるの!?」
 武者は明美に頷き、すぐに雷の側へ駆け寄った。
 武者は雷の息を確かめる。雷はまだ生きている。だがその背中は切り割かれ、手足の骨は折れている。
「誰かと思えばお前達か……悪いね……顔も上げられないんだ」
 武者は遅れて駆けつけたヤミコ達に車の中の救急箱を用意する様に頼んだ。ヤミコ達は車へ走り戻って行った。
 武者は雷に問いかける。
「待ってろ。すぐに止血してやる。その後に車で病院まで運ぶからな……だがお前程の奴が此処までやられるってのはどんな相手だ?」

 ヤミコ達が戻って来て雷の止血を終わらせた。
 その間に雷が武者に語った内容は、武者には信じがたいものだった。
 あのニャルが恐ろしい怪物と化して雷をこの様な姿にしたと言うのだ。
「しかも奴も時間認識者だってのかよ……元々俺達と雷は敵同士だったが、だが……」
 雷は何とか意識を保って会話を続ける。
「ああ、しかも奴は……」
 そこで会話は途切れる。倒れたままの雷も、それ以外の誰もが新たな訪問者に気付いたからだ。
「あらら、無様だね。君のために悲しみの歌を歌おうか?」
 新たな訪問者、杓は明美達を一瞥し、その後神社の本殿に目を向けて呟く。
「扉はあの建物の中かな? でもその前に」
 杓はその手に持つ鎖を振り回しながら、笑顔で明美達に言い放つ。
「ここで目障りな奴らは全員殺しておこうかな?」
 武者は腰の刀を抜き、杓へ向けて構えながら、明美達に指示を出す。
「三人で雷を後ろへ。そのまま其処で動かず、特に明美はヤミコ達の側を離れるな」
 そのまま武者は刀を構えたまま、ジリジリと杓との距離を積める。
 その間に三人は雷を抱え、なるべく奥へ、神社の本殿へと下がった。
 杓が武者に語りかける。
「一対一かな? 僕としては全員で一度に掛かられるより楽で良いけどね。まあ、仮に全員が同時に襲いかかって来ても僕は勝つよ」
 武者は杓に短い質問をする。
「お前は何なんだ?」
 武者の質問に杓はクスクスと笑いながら答える。
「何かと言われれば、そうだね。僕は復讐者さ。地獄から戻って来たフロッグマンだよお!」
 そして杓の笑い声は高く高くなっていき、歌う様に笑っていた。
「さあ、戦おう! 復讐戦を! さあ、歌おう! 鎮魂歌を!」

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