ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―12 アイツ

覗き魔ユグドが巻き起こした事件は、全員でユグドを素手で叩きのめすことによって解決を迎え。クリストは、王城にある執務室へと足を運んでいた。

「さて、早速本題に入ろうではないか」

「本題に入る前に、まずは一息つかせてくれ………。こっちは突発的な格闘戦でヘトヘトなんだ………」

「ちょっと待て、格闘戦?お前今度は何をやらかしたんだ?ケンカか?」

「俺じゃねぇよ、ユグドがな………。とにかく、西区一帯が更地と化すとこだったんだぞ……」

ぜぇはぁと肩で息をしながら、クリストはその辺の書類の山の1角に腰かける。今にも崩れ落ちそうな高さまで積み上げられた山だが、クリストはこれが自然に崩れたのを見たことがない。

そんな奇跡のようなバランスで積み上げられた山を見上げながら、クリストは深呼吸して息を整える。

「ふぅ………そろそろ良いか。んで?用ってなんだ」

「うむ。本題に入る前に、だ。この会話、お前以外は聴いて無いだろうな?」

「あ?まあアイツらは城の前で待たせてるし、この城は何重もの防護魔法が掛けられてんだろ?ならどうやって聞き耳立てるんだよ」

警戒心をあらわにするハーネスに、クリストは怪訝そうな顔を見せる。すると、ハーネスは『まあ少しな』と応じ、

「ここからは、1部の騎士と私、そしてお前しか知らないことだ。くれぐれも外部に漏らさないでくれ」

「はいはい、わかったよ。だからとっとと本題に入ってくれるか?このままだとアイツらに『遅い』って怒鳴られそうだからよ」

ヒラヒラと手を振って先を促すクリストに、ハーネスは真剣な、そしてどこか緊張を含んだ表情で話を切り出した。

「実は………西区のとある路地の1角で、大勢の魔術師達が倒されているのが発見された。それも、全員が重症を負った状態でな」

「ほーう?そりゃまた何とも凄惨な事件ですなぁ」

あくまで飄々とした態度で感情を表に出さないクリストに、ハーネスはゴクリと喉を鳴らして一歩踏み込む。

「お前の仕業、なのか?」

「………なぜそう思うんだ?是非理由を聞かせてもらいたいね」

「理由は単純だ。現場が西区、つまりあの魔導具店・・・・・・の近くだからな。それにお前は………」

と、ハーネスがそこまで言い終えた瞬間。
スウッ、と室内の空気が一気に5度も10度も下がったような錯覚をハーネスは覚えた。

「―――ッ!?」

思わず息を飲んだハーネスは、見た。
ドロリとした昏い感情が宿った、クリストの瞳を。
そして、狂気に歪んだその笑みを。

「………それで?」

「あ、え?」

「俺がやったってんなら、何だってんだ?」

ゆらりと書類の山から立ち上がり、冷酷な瞳でハーネスを射抜く。ハーネスの人間としての本能が逃げろと警報を鳴らすが、それを無理矢理押さえ込んで、クリストと真正面から向き合う。

「お前が、やったのか?」

「だからそうだっつってんだろ?」

「………なら、何故全員に重症を負わせた?お前の技量なら、安全に昏倒させることも出来たはず………」

「なに言ってんだよ、ハーネス」

クリストは愉しそうに笑いながら、小さな子供を諭すように優しく言う。その優しい笑みの裏に、極大の狂気を隠して。

「んなもん、ワザとに決まってんだろ?」

「………なん、だと?お前は、魔術師に対して、故意に重症を負わせたと、そう言うのか!?」

ハーネスは大股で部屋を横切ると、ガッ!とクリストの胸ぐらを掴む。その弾みで、ホワイトシャツの胸元に入っていた眼鏡が滑り落ちた。

「おっと、眼鏡落ちちまったじゃねぇか」

「はぐらかすな!お前、何考えて………ッ!」

顔を近づけ、怒鳴るハーネス。そんなハーネスに、クリストは変わらず笑顔のまま一言。

「………放せよ、殺すぞ?」

「―――ッ!?」

背筋を撫でられるような冷たい感覚がハーネスを襲う瞬間的に殺気を向けられ、ハーネスが怯んだ隙にクリストはその手を払いのける。

「何考えてるか、だって?そりゃあ、今も昔も変わらずアイツのことだけさ」

「………アイツ、だと?まさか、お前まだ………?」

「当然だろ?俺はアイツのことを………いや、これ以上はお前に言っても仕方ないか」

フッ、とクリストは一瞬悲しげな表情を見せるが、それもまたすぐに狂気に流され消えていく。そして、入れ替わりに憎悪が顔を出す。

「まあ、結論を言うとだ。俺はアイツを殺した魔術師も魔導教団も許さない。必ず、絶対に、いつか俺が叩き潰す!たとえどんな犠牲を払ってもな!」

「クリスト………」

ハーネスは、クリストの言葉にある種の決意を見た気がした。どこまでも強く、真っ直ぐで、折れない芯。
だがそれは、復讐という狂気を孕んでどこか危うさを秘めている。

仮に1度でも折れてしまえば、どう変貌するか分かったものではない。その道を捨てるか、もしくはさらなる深みへと嵌まっていくのか。

「そんなワケで、だ。俺はこれからも、俺のやり方でやらせてもらうぜ?それでも良ければ、俺はここに止まる」

「………もし、ダメだと言ったら?」

ハーネスの問いに、クリストは少し考え込むと、どこまでも純粋な悪意に満ちた声で答えを返す。その悪意の中に、多少の苦笑も混ぜ込んで。

「そん時は、全部ぶっ壊して出ていくさ」

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