ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―10 因縁の狙撃手

「馬鹿な、有り得ない………」

とある建物の屋根上で、ルーペントはそう呟いた。
その言葉は、眼下で繰り広げられる激しい攻防に向けられたものだ。

最初はノーガードの国王1人の狙撃という、簡単な仕事だった。だが、それはあの少年によって食い止められてしまった。眼下で戦う、あの少年に。

8人の魔術師に取り囲まれた少年は、前後左右から放たれる魔術によって身体を撃ち抜かれ、死ぬ―――その寸前で。

身体を捻り、地を壁を屋根を蹴って3次元的な機動でかわす。目の前まで迫ったのを右手の長剣で無効化することもあった。

異常なまでの機動力、目の前の魔術に怯まない度胸。
間違いなく、絶対に普通の人間には出来ない芸当。それも、見た目15、6の少年には。

「何者だ?」

改造魔力拳銃マナリボルバーのレンズを覗き、額に照準を合わせ、引き金をひく。2度3度と轟音が鳴り響き、銃口から銃弾が撃ち出された。

だが、少年はこれを読んでいたかのように魔術師の身体を盾にして防ぐ。その少年は―――嗤っていた。

憎み、恨み、絶望。
昏く翳ったその瞳を、ルーペントは知っている。

「昔の俺そっくりだな………」

とあるスラム街で生まれ育ったルーペント。
そこの掟はただ1つ。『殺して奪え』。
だから殺しの腕を磨いた。生き残るために。

そして恨んだ。街を。
そして憎んだ。人を。
そして絶望した。世界に。

その後、傭兵や狙撃手となることでいつしかその感情も薄れていったのだが………。

「やはりあの時の勘は間違っていなかったか………」

かつてルーペントは、少年を『面白い』と評価した。
その評価は間違っていなかったと、改めて思う。

何故ならば、あの少年の瞳は昏すぎる。
一体どれだけの絶望を目の当たりにすればあの瞳が生まれるのか、それすらも分からない。恐らく、並外れた『絶望』を見たのだろう。

「それでこそ、狩りがいがあるというものだ!」

往年の好敵手ライバルに出会ったかのように、ふつふつと感情が湧き上がる。それは、『狩りたい』『倒したい』という、一種の本能。

だが、この時ルーペントは1つ重大なミスを犯した。
眼下で行われる戦闘から、一瞬目を放したのだ。

だから気づかなかった。
いつの間にか、少年の姿が消えていることに。

「………ッ!?ど、どこに行った!?」

「ここだよ」

ルーペントの言葉に、返事が帰って来た。
ただし、ルーペントの後方、完全な死角から。

「クソッ!」

振り向きざまに懐から小型の魔力拳銃マナリボルバーを引き抜き、銃口を向け、引き金に指を掛けて―――

「………遅せぇよ!」

ガッ!と少年の魔剣がそれを手から弾き飛ばした。
カラカラと屋根を転がっていく拳銃を見ながら、ルーペントは咄嗟に逃げ出そうと立ち上がる。
しかし、

「させるとでも思ったのか?」

少年がそう言った途端。
ガクリ、とルーペントの身体が傾いた。
そのままルーペントは屋根に倒れ込む。

「………な、何が………?」

腕から胴体、腰へと徐々に視線を下げていったルーペントは、そこで見た。膝から下の無い己の右足と、遠くに転がる見覚えのあるピンクの断面の物体を。

「え?あ………あぁぁぁああああぁぁぁあ!!?!??」

傷を自覚した途端、遅れて激痛。
あまりの痛みにのたうち回り、正気をかなぐり捨てようとした―――その時。

「はぁ、仕方ねぇな………。『癒しの輝きよ』」

傷口に手をかざし、少年は呟いた。
多少の魔術の知識があるルーペントは、その魔術の正体を見抜いた。回復魔術《ライト・ヒーリング》。

「だ………?な、なん………?」

「今死なれちゃ困るんだよ。俺の目的が達成出来なくなっちまうからな」

顔を伏せながらそう言われて、黙るルーペント。
少年の瞳には、様々な感情がよぎっているのだろう。
やがて出血が治まると、少年は立ち上がり――― 

すっ、と倒れ伏したルーペントの顔面に剣先を突き付けた。そして、冷たい光を宿した瞳で見下ろしながら問いかける。

「なあ、お前は覚えているか?お前が《絶殺》として初めて撃った人のことを。あの、少女のことを」

「………もちろんだ。忘れるはずがない」

痛みも消えて動くようになった唇を懸命に動かし、言葉を紡ぐ。ルーペントの脳裏に、記憶が鮮明に甦る。

とある地下、手に残る拳銃の感触、自分が撃ち抜いた少女、その身体から溢れ出す鮮血、耳が痛くなるほどの静寂、そしてそれを破る叫び、走り寄る少年。

そう、少年。
今目の前に立つ、その少年。

「まさかお前………あの時の!?」

「そうか、覚えていたんだな。それはなりよりだ。おかげで………」

そこで少年は一度言葉を切り、何かを噛み締めるように目を閉じた。そして、狂気と怒りを宿した瞳で、ルーペントを見据え、言う。

「おかげで、心置きなく復讐できる!」

そう叫んで、振り上げた剣を一息に振り下ろした。
ブシュアッ!とルーペントの左腕が、肩の辺りから切断された。

「ぐぁぁぁああぁああああッッッッ!!!」

「痛い?痛いか?そうかそうか。それは良かった!」

絶叫するルーペントを見ながら、少年は楽しそうに嗤っていた。だがルーペントはそれどころではない。

再び襲い来る激痛。
そして流れ出た血によって意識が薄れ始め―――

「おおっと、まだ死なせないぜ?」

そう言って、少年はルーペントの傷口を癒す。
傷はふさがり、血も少し戻ったルーペントの意識が回復する。

「しっかりしてくれよ、《絶殺》。こちとらこの日のために回復魔術を習得してんだからよ。とりあえずそうだな………100回ぐらいは死んでもらおうか?」

「―――ッ!!?」

背筋も凍りつくような悪魔の宣言をしながら、少年は嗤う。まるで願いが叶った子供のような、純粋な笑顔で。

こうして少年―――もといクリストは、思い切り剣を振り上げると、楽しそうに囁く。

「楽しもうな、アイツの敵討ちをさぁ………ッ!」

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