ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―7 秘匿領域《クローズド》

王都トライス、西区の路地。
そんな場所で今、2人の影が対峙していた。

片方はホワイトシャツに黒いスラックス。
茶色の髪と瞳の、これといった特徴に乏しい少年。

もう一方はフードを目深にかぶって顔を隠し、襟元に銀の紋章エンブレムがついた黒ローブ姿。顔が見えず性別も不明。
 
そんな2人が、一瞬互いを睨み付け。
そして直後、人間の限界レベルの速度で激突した。

2人同時に地を蹴り、前へと飛び出す。
飛び出す直前に身体能力強化の魔術を詠唱していたクリストは、素早い踏み込みからのアッパーカットを繰り出した。

それを黒ローブは右手でいなし、カウンターを放つ。
放たれた左手はクリストの顔面、正確には両目へと吸い込まれるように突き進み―――

カパァァン!と音を立てて、クリストの左手に弾かれた。だが黒ローブは、間髪入れずにミドルキックでクリストの腹を狙う。

しかしクリストはそれを身体を捻って回避、同時にバク転で距離を取る。

この攻防わずか10秒。
だがクリストは、この間に確信を得ていた。
目の前の、黒ローブの正体について。

ゆえに、クリストは目の前の不審人物に話しかける。
敵対心の欠片もない、友人にあいさつするかのような気軽さで。

「まったく、来るなら普通に会いに来いよな、イノじいさん?」

「おお、すまんのクリスト。つい出来心でな」

そう言って不審人物は目深にかぶっていたフードを払った。フードの下から出てきたのは、『剛毅』という言葉がよく似合う、白髪の老人。

「………ねえルーナ、あの人誰?」

ハッハッハ!と笑いあいながら互いの肩を叩き会う2人を見ながら、ソラミアは隣のルーナに尋ねた。

「ん?あの人はサイラス・イーノンて言ってね。まあ団長の友達………というか悪友かな」

「ついでに付け加えれば、《秘匿領域クローズド》の団員メンバーでもあるがの」

「えっ?《秘匿領域》って………あの?」

あはは、と苦笑いを浮かべるルーナとアリス。
それを見るに、敵対する関係では無いらしい。

そう判断したソラミアは、《秘匿領域》という言葉へと思考を移した。おぼろ気な記憶をたどり、1つ1つ確認するように思い出していく。

「たしか………王国最高にして最強、だっけ?」

「そうですよ。団員全員が固有魔法オリジナル使いで構成されている、怪物騎士団です。付け加えれば、全騎士団を統括する《正騎士団長》も所属していますね」

「そ、そうなんですか?」

さりげなく解説してくれるセリルに感謝しつつ、ソラミアは目の前のクリストへと視線を移したその先に、

「おい、そこはお前のオゴリ確定だろ!」

「なんじゃと!?ワシはお主に奢るなどそんな馬鹿なことはせんわ!」

「ふっ、ならばいいさ。俺の全財産は500ユール。酒の一杯しか飲めねぇぞ。さあどうする!?」

「いやどうするって、お主がどうするんじゃ。明日の朝飯すら食えんじゃろに………」

胸を張って無一文宣言をするダメ人間な上司と、それを呆れた表情で見るサイラスがいた。

(いや、分かってたけどね?アレがダメ人間なのは。でも流石にここまでとは………)

挙げ句の果てには目の前の老人に全力で土下座してお金を借りるという、あまりのクズっぷりに冷や汗を垂らすソラミアなのだった。



**********************



そして、無事クリストは交渉を終え。
安全な城へとたどり着いた一行は、国王の執務室にて情報の共有を行っていた。

「教団が動いた、だと?」

「うむ。総勢100名の大部隊が出撃したらしい。そしてそやつらの狙いが………」

そこでサイラスは1度言葉を切り、視線を移した。教団が最も狙うであろう、1人の少女へと。

「………え?私?」

「そうじゃ。詳しくは分からんが、どうも執行部の存在も、そしてそこのお嬢ちゃんが入っていることも知っているらしいの」

その情報に、その場にいた一同は息を飲んだ。それはつまり、情報がどこからか漏れたということなのだ。

「誰かが教団に情報を流した………?」

「まあ、そうなりますね」

ハーネスの言葉にため息混じりにセリルが応じ、周囲に緊張感が漂う。だがその沈黙を、今まで黙っていたクリストが破った。

「いやいや、そうとも限らねーぞ。室内を盗聴する魔術もあるし、他人に成り済ますのも有りだしな」

「………やけに詳しいわね、魔術について」

「「「………確かに」」」

当たり前のように知識を披露するクリストに、ソラミアが訝しげな言葉を投げ掛ける。そしてその言葉に他の全員が同意見。

全員の視線を一斉に受けたクリストは、ウグッと喉を鳴らすと、観念したように話し始めた。

「実は俺、魔術使えるんだよねー」

「「「は?魔術が………使える?」」」

「うん、そうだけど?」

事も無げにそう言ってのけたクリスト。
執務室を一瞬の静寂が支配し―――直後。

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」

という全員見事にシンクロした絶叫が響き渡るのだった―――

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