ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―6 面白い仕事

王都トライス西区。
とある時計塔の上で、男はその時を待っていた。

男の名はルーペント。又の名を《絶殺》。
闇の世界に生きるフリーの凄腕狙撃手スナイパーだ。
今回、魔導教団の依頼を得てハーネス・リアスター暗殺へと乗り出したのだが―――

「………つまらん仕事だ」

ルーペントは、思わずそう呟いていた。
自作の改造魔力拳銃マナリボルバーの上部に取り付けられたレンズには、標的である国王の顔が映っている。

国王というVIPの暗殺、裏家業に携わる者なら1度は挑戦してみたい難題を前にしても、ルーペントの心は踊らなかった。

答えは単純。
やりがいが無い。
護衛もいない、障害物も無い。
そんな畑のカカシみたいな標的など、簡単すぎる。

「まあ、仕方ない………。残念だがな」

ふう、とため息を吐いて再度レンズを覗く。
通りを歩く国王の後ろでは、なにやら怪しげな5人組がうろついている。恐らくあれが護衛だろう。

その存在を意識的に排除し、レンズに付呪エンチャントされた魔術を操って倍率を上げ照準を額に合わせる。引き金トリガーに指を掛け、意識を集中させていき―――

不意にルーペントの耳が、遠くから響く空気を切り裂くような音を捉えた。顔を動かさずに目だけを音のする方に向けると、高速で飛んでくる炎の矢が。

「―――ッ!?チッ!」

咄嗟に銃口を矢に向け、引き金を引く。
ルーペントの魔力マナが銃弾の形で自動生成され、轟音と共に銃口から飛び出す。

発射された銃弾は大通り上空で激突し―――

ズドォォォオン!!!!!!と大爆発を引き起こした。
空中で撒き散らされた爆風が辺りを揺さぶり、破壊していく。建物の窓ガラスは砕け、通行人や馬車は吹っ飛んでいく。
 
「むぅ………。なんなのだ、一体?」

とっさに時計塔の壁に隠れて爆風をやり過ごしたルーペントは、魔力拳銃マナリボルバーのレンズを炎の矢が飛んできた方向に向ける。

すると、屋根の上に人が立っていた。
ホワイトシャツの裾を爆風にひるがえしながらも、ルーペントを真っ直ぐに見据える少年が。

よく見れば、少年の唇が動き、言葉を発している。
だが声は聴こえずとも、ルーペントにはその内容が理解できた。

―――次は必ず、当てる。

「………前言撤回、面白い仕事だったか」

そう囁き、ルーペントは魔力拳銃マナリボルバーを肩に担いで立ち去る。普段は無表情なその顔に、珍しく獰猛な笑みを張り付けて。



**********************



クリストとルーペントが人知れず対峙していた頃。
地上では、ハーネスと執行部のメンバーが路地の奥へと逃げ込んでいた。

「ふぅ………。ここまで来れば安全かしら?」

「どうだろうね?狙撃を回避するなら屋内に入った方がいいと思うけど………」

顔を見合わせるソラミアとルーナ。
そう、狙撃を回避するなら屋内に入るのが得策だ。
ならば何故こんなところにいるのか?

「まったく………クリストのヤツも何考えてるのか分かったものではないの………」

はぁ………と長いため息を吐くアリス。
それはここにいる全員同じ意見らしく、揃って大きなため息。

「あぁーっ!まったく、あのダメバカ団長はよぉ!」

ユグドがそう愚痴ったその時。
近くから返事が返って来た。
正確には、屋根の上から。

「ダメバカ団長で悪かったな、脳筋野郎!」

「………へ?」

思わず上を見上げたユグドの顔面に、自然落下してきたクリストの右足がめり込んだ。メコベキリグシャァッ!!!と尋常じゃない音と速度でユグドの頭部が地面に埋没する。

そして、ユグドの顔を犠牲にして着地に成功したクリストは、爽やかな笑みでこう言った。

「よっ、みんな無事でなにより!」

「無事じゃねーよ!たった今死にかけたぞ!?」

「大丈夫だよ。ゴキブリはそう簡単に死なねーから」

「そりゃオレがゴキブリだって言ってんのか!?」

両の拳を握りしめて食って掛かってくるユグドをのらりくらりとかわすクリスト。そんな日常的な光景の最中、アリスが不意に口を開いた。

「それでクリスト。お主、先ほど何をしたんじゃ?」

「………何がだ?」

「とぼけるでない。妾はしかと見たぞ。お主が炎の矢を作り出したところをな」

「いやいやー、俺には何がなんだかさーっぱり?」

ヘラヘラと笑って誤魔化そうとするクリスト。
表面上は普段通りを装っているが、内心は冷や汗だらだら、ヤバいヤバいと連呼中のパニック状態だ。

そこにセリルが、助け船を出してきた。
クリストにではなく、アリスにだが。

「僕も見ましたよ。確か………『紅蓮の業火よ』、でしたっけ?」

「何で知ってんだよ!?読唇術!?お前メガネのくせに目ぇ良すぎんだ………ろ………。ヤベェ言っちまった」

もはや装うどころか頬をひきつらせ冷や汗を垂らすクリスト。そんな怪しすぎる行動をとる団長殿に、他の団員プラス国王の視線が突き刺さる。

―――さすがに誤魔化しきれないか。

そう考えたクリストは、ふっと笑って言う。

「わかったわかった、分かりましたよ。話せばいいんだろ?ただし―――」

そこでクリストは1度言葉を切り、後ろを振り向く。
そして仲間ではなく、いつの間にかそこに立っていた黒ローブの人影へと告げる。

「アンタの相手してからで、良いよな?」

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