ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―5 狙撃を防げ

王都の路地裏を全力疾走する1人の少年。
少年は荒い息を吐きながら、声を漏らす。

「くっそ………ッ!よりにもよって………呼ばれたのが《絶殺》かよ!ツイてねぇなぁ!」

元の空間に戻すことを条件に情報を引き出したクリストは、その情報の最悪さに舌打ちをする。それほどに《絶殺》という狙撃手は危険なのだ。

壁に手をついて息を整えながら、通信用の宝玉に魔力マナを込める。

「早く出てくれよ………ッ!」

その危険を、仲間へと伝えるために。



**********************



西区の大通りを歩いていたソラミアは、懐から鳴り響く音に気づいた。それは、執行部に入った時にクリストから渡された通信用の宝玉。

「はい、もしもし?」

『あっ、ソラミアか!?ハーネスは今どうしてる!?』

通信機を通して聴こえたクリストの焦った声に、ソラミアはただならぬものを感じ取った。故に、驚きながらも現状を伝える。

「え、えっと………今、ちょうど西区の大通りを歩いているけど?どうしたの、そんな焦って」

『………多分、すぐ近くに狙撃手がいる。《絶殺》の通り名で呼ばれる凄腕だ』

「なっ………!?」

返ってきた情報の重大さに思わず頬をひきつらせ、ソラミアは慌てて辺りを見回す。するとソラミアの不審な行動に気づいたルーナが、問いかけてきた。

「ねえ、どうしたの?何かあった?」

「じ、実はかくかくしかじか………ということを言われたのよ」

「なっ………!?」

数秒前のソラミアとまったく同じ反応をしたルーナはすぐに仲間内で情報の共有を行う。

「………ってことなの」

「おいおい、マジかよ………」

ユグドは顔をしかめて呟く。
するとアリスが、腕を組んだまま尋ねる。

「その情報の信憑性はいかほどじゃ?」

「団長の情報だよ?普段から信憑性は何故か100%じゃない」

「ま、確かにの。どーせロクでもない情報網や手段で獲得してるんじゃろうけどな」

ふぅ、とアリスが息を漏らしたその時。
周囲を警戒していたセリルが、声を上げた。

「見つけましたよ!間違いありません!」

セリルが指差した先は、時計塔の上部。
そこに作られた窓から、遠距離狙撃用へと改造されて
1メートルほどにまで巨大化した魔力拳銃マナリボルバーを構えた1人の男。

そしてその男の指は、引き金トリガーへとかけられている。

「ヤベェ!あの野郎、ぶっぱなす気だ!」



**********************



「おいおい、まさかの西区かよ………。南区ここからじゃ以外と距離あんぞ………」

路地を走りながら、クリストはそうぼやく。
なにしろこの王都トライスはとにかく広いため、端から端まで行くのに徒歩2時間ほどかかることもあるらしい。

とはいえ、それは普通に地上を歩いた場合だ。
今のクリストには、その時間は当てはまらない。

タン、タンと軽快に壁を蹴り、クリストは高速で移動していく。そんな人間外れの動きをするクリストの身体を、魔力の光が被っていた。

魔術《エンハンス・アビリティ》。
一時的に身体能力を底上げする魔術を持って、クリストの身体は人間の限界へと近づいているのだ。

だがそれは、道幅の狭い路地だから出来ること。
広い大通りなどを越えることは出来ない。
そう、例えば目の前に迫っている通りのような。

「ヤッベ、中央通りか!………跳べるかな?」

苦笑いを浮かべてそう呟いたクリストは、壁を強く蹴り上げて屋根の上へ着地、そのまま全力疾走。そして通り寸前で右手を足元に向けて叫ぶ。

「『烈風よ・集い合わさり・荒れ狂え』!」

その瞬間、魔術《ウインド・フォール》が発動して、尋常じゃない勢いで烈風が吹き荒れた。

「うおぉぉぉっ!?」

吹き飛ばされると同時、思い切り屋根を踏み切ったクリストの身体が、大きな弧を描いて空中を横切る。
数秒の浮遊感が身体を包み、そしてぐんぐんと地上が迫ってきて―――

直後、ズダン!と向かい側の屋根に着地した。
ミシリ、と足首が不気味な音をたて、激痛が襲う。
だが、クリストはそれを強引にねじ伏せる。

「んなことで痛がれるかよ………。あの時・・・よりかは全然マシだろうがっ………!」

そう自分に言い聞かせ、クリストは駆け出す。
視界の中央に、とある時計塔を捉えながら。
そこの近くにいる、自分の仲間を信じながら。

だが、時計塔に陣取る《絶殺》の指は、すでに引き金トリガーへとかけられている。このままでは、クリストがたどり着く前にハーネスは撃たれる。

通りにいる仲間達は、人の流れに阻まれて動けない。
ならばどうするか。
やるしかない。

自分が持ちうる全ての技術を使って。
この狙撃を阻止する。

「………『紅蓮の業火よ』」

走りながらボソリと呟いたクリストの右手に、炎が宿る。《ブレイズ・バースト》。大勢の魔術師が好んで使う、高威力の紅蓮の炎。

しかし、発動した魔術をそのまま放つのは三流だ。
『イメージによる、魔術の加工』。それこそが、魔術の応用性の真骨頂。

故に、クリストは思い浮かべる。
長く、速く、強く、とにかく飛べと。

その途端、クリストの右手の炎が揺らぎ、一本の矢へと姿を変えた。それをグッと握りしめ、オーバースローに構えると、クリストは腹の底から声を張り上げる。

「いっ………けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

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