ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―4 空間複製結界

ズズゥ………ンと路地裏全体が不気味に振動する。
大量の土煙が舞い上がり、太陽の光を遮る。
そんな場所に、1人の少年が立っていた。

「ふぅ………まあ上出来かな?」

石畳は捲れ上がり、周りの建物の壁にはあちこち穴が空き、崩れかけている。そして、クリストによって半殺しにされた魔術師が死屍累々と転がっている。
そして―――

「なっ、なぁぁぁぁぁ………!?」

最初に偉そうに『魔導騎士団執行部団長だな?』と言ってきた魔術師が、腰を抜かしていた。慌てて逃げ出そうとする魔術師のローブを、クリストは剣で地面に縫い止める。

「なあ、ちょーっと話聞きたいんだけど良いかな?」

「………ッ!き、聞いてないぞ、こんなこと!」

何事かをわめき散らす魔術師を、クリストは昏く冷たい瞳で強制的に黙らせる。それは『団長』ではなく、『復讐者』の顔。

それに頬をひきつらせながらも、魔術師は精一杯の虚勢を張って、

「ふ、ふふふ。無駄だ。援軍さえ来ればお前1人なんか簡単に………」

「あっそ。『紅蓮の業火よ』」

ビビらせるためにクリストが適当に放った魔術が、ズッドン!と路地裏を揺さぶった。



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そしてそれと時を同じくして。
近くの屋根の上で城を見張っていたユグドは、呆けた顔で呟いていた。

「………暇過ぎんだけど」

「………不本意だけど、同感」

いまにも夢の世界へと旅立ちそうなとろんとした目をしたルーナが、ユグドに反応する。

ちなみに根が真面目なソラミアは律儀に城を見張り続けて、アリスとセリルはイチャついている。この2人、現在真剣交際中なのだ。

だが独り身のユグド(加えてモテない)は、その微笑ましい光景にイライラを募らせ、

「滅べリア充ー!乱れろ平和ー!そしたらオレがカッコ良くヒロイン助けて最強ハーレム作ってやるからよぉー!」

と虚空に向かって魂の絶叫。
その叫びを聴いたルーナは、はぁーと大きなため息をついて一人言。

「ああ、今日も平和だなー………」

その囁きは、事件どころか路地裏のケンカ1つ無い・・・・・・・・・・・・・・・・・王都の街へと消えていった。



**********************



「ゲホッ、ゴホゴホ………こりゃやり過ぎたかな?」

クリストが放った《フレイム・バースト》であちこち焼け焦げた路地裏。炎が建物へと燃え移り、周囲は火の海と化しているが、クリストは気にしない。

「まあいいか。所詮、ここは使い捨て・・・・だからな」

誰ともなくそう呟き、クリストは真っ正面に転がっているボロ切れを軽く蹴る。すると、ボロ切れは呻き声を上げた。

それは、元魔術師の成れの果て。
身体中火傷だらけで、右腕など吹っ飛んで肩から先が無くなってしまっている。

クリストはそんな瀕死の魔術師の傍らに膝を着くと、手をかざして詠唱する。

「『癒しの輝きよ・かの者の身体に・安らぎを』」

回復魔術《ヒーリング・ライト》。
魔力の輝きが魔術師の身体を包み、出血を止め、火傷を消していく。さすがに腕はくっつかないが、それ以外は一通り治っていた。

「おーい、起きろよー」

クリストがペチペチと軽く頬を叩くと、魔術師が目を覚ました。

「お、目ぇ覚めたか」

「ヒイッ!!?」

魔術師は後退りしながら、懐から取り出した通信用の宝玉を握りしめる。そして何度も魔力マナを込めるが、一向に反応しない。

「な、なんで!?何でなんだよぉぉっ!!!」

パニックに陥りながら同じ事を繰り返す魔術師に、クリストはふぅと呆れたような表情で、

「繋がるワケないだろ?空間が断絶されてんだから」

「は、はああっ!?空間の断絶!?馬鹿げてる!」 

魔術師が驚くのも無理はない。
空間を断絶、つまり元の空間を複製して別次元に作り直すというのはかなりの離れ業なのだ。それこそ、世界を1から創造するようなものだろう。

だが、クリストは得意気に笑うと、まるで世間話をするかのように気楽に言った。

「いやー、俺も大変だったぜ。なにせこの魔術作るのに100年ほどかかっちまったからな。でもまあ、まだ試作品なんだけどな、これ」

「は、え………?」

手の中で結界を構築している核である小さな立方体を弄びながら放った言葉が、ついに魔術師の理解を追い越す。思考停止して呆然とする魔術師を他所に、クリストは話を続ける。

「この魔術な、魔導士には効かないのよ。だから前回の戦いでは使えなくてね。それにこの核も、作るのが難しくてさぁ………」

やれやれとため息を吐くクリストを見ながら、魔術師は必死に脳を回転させる。部下は見捨ててもいい。
自分だけが、助かる為に。

だが、クリストはそんな心の底を見透かしたかのように、パチンと指を鳴らした。その瞬間、今まで死屍累々と転がっていた部下達の身体が、虚空に融けるように消失した。
 
「邪魔だから消させてもらったぜ。と言っても、元の空間に飛ばしただけなんだがな」

「―――ッ!」

思わず息をのむ魔術師に対して、クリストは告げる。口元を酷薄に歪め、その瞳に狂気を宿して。

「なあ、俺と取引しねぇか?」

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