ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.1―18 復讐の狂気

夕暮れが終わり、世界が闇に包まれ始めた頃。
今はもう誰もいない魔導教団のアジトにある牢獄の中で、1人の男は目を覚ました。ボロボロになった黒いローブを纏った男は呻く。

「こ………ここは………?」

男は立ち上がろうとするが、手足を壁に縛り付ける鎖がそれを許さない。唯一自由な顔を動かすと、頑丈な鉄格子とそこに貼り付けられた1枚の紙切れが見てとれた。 

その意味を男の脳が理解する前に、暗闇の中から近づいてくる足音があった。その足音は男がいる牢獄の前で止まる。そして闇の中から、声がした。

「やあ、ようやくお目覚めか、ゼラス?」

「―――っ!この声は………まさか………!?」

男には、いやゼラスにはその声に聞き覚えがあった。その声の主には、1日振り回された。目的を妨害された。そして………倒された。
そんな聞き覚えのある、少年の声。

「クリスト………なのか………?」

「ご名答だ。俺の名前、覚えてくれてたんだな」

そう返したクリストの唇がさらに動き、言葉を紡ぐ。その瞬間、壁に立て掛けてあった木片から炎が燃え上がった。

「よし、明かりはこんなもんでいいだろ」

「………あり得ない」

感情の読めないクリストとは対照的に、ゼラスの顔色は悪い。だが、それは具合の問題ではない。
聴いてしまったからだ。クリストの唇が『紅蓮の業火よ』と言葉を紡いだのを。

「ん?どうしたんだよ、あり得ないもの見たような顔して」

クリストがそんなことを訊いてくるが、ゼラスには答える余裕がない。なぜなら、先ほどクリストが使ったのは魔術なのだ。
だが、あり得ない。
魔法と魔術は相容れない存在。 
どちらかを修得すれば、もう一方は使えない。
だが、今目の前にいるクリストは、その両方を使ったのだ。絶対に、起こり得ない現象。

「ああ、もしかして。俺が魔法と魔術両方使えんのに驚いてんのか?」

「………ああ、そうだ」

「まあ詳しいことはよく知らねぇけどよ、俺の取り柄は器用さなんでね。多分だからだと思うぜ?」

そんなことを言いながら、牢獄へと入ってくるクリスト。その様子を油断なく見ながら、ゼラスは脱出の機会を窺う。
だが、そんなゼラスの心を見透かしたかのように、クリストは言葉を続ける。

「さてと、俺もこの後予定あるし、お前に逃げられても意味ないからな。さっさと始めようか」

「始める、だと?一体何を………」

「なーに、お前にちょっと訊きたいことがあるだけだよ。まあ、場合によっては強引な手段もとらせてもらうけどな」

その言葉により一層警戒するゼラス。だがそれを悟られないよう、あくまで平静を装って話を続ける。

「私に訊きたいこと?魔術の指導とかか?」

「いやー、それはやぶさかで無いけどな。でも違う」

「………ならば何だ?」

魔導教団お前らのトップについてだ」

そのクリストの言葉に、心の中で軽く舌打ちをするゼラス。この状況を見るに、恐らくこれはクリスト個人の仕業だ。ならば、知らぬ存ぜぬでは通らない。
だが、知らないことを話すことは出来ない。

「………トップについては、何も知らない」

「まあ、そうだろうな。正直、最初から話すとは思ってなかったよ。だから………ちょっと強引にいくぜ」

クリストは暗く呟くと、胸元のポケットから宝石を取り出して右手に握る。

喚装コール

その短い囁きで宝石が起動し、1振りの長剣へと姿を変える。それを肩に担ぐと、クリストは冷たい光を宿した瞳でゼラスを見据える。

「さぁて、いっちょやってやりますか」

そんな宣言と共に、クリストの右手の魔剣が高く振り上げられる。漆黒の刃が炎を反射して鈍く輝く。

「………なにをする気だ?」

「まあ、お前が知っていて隠している可能性も有るからな。念には念を入れておこうということだ」
 
「私を殺すのか?」

「まさか。そんなことしなくても、お前の体を少しずつ切り刻んでいけば、いつか話してくれるだろうさ」

そんな言葉を告げながら、どこか歪んだ笑みを浮かべるクリスト。それはまるで、人の命を刈り取る死神のような。

自分の死という極大の窮地に立たされたゼラスの脳裏に、いくつもの記憶がフラッシュバックする。その中には、ゼラスが魔術師を目指した理由である少女の姿もあった。

大きく弧を描いて振り下ろされる魔剣を見ながら、ゼラスは無意識の内に叫んでいた。己の本能のままに。

「私はここで………死ぬ訳にはいかないんだ!!!」



**********************



闇が支配する夜の道を、1人の少年が歩いていた。
その少年は、歌うように囁く。

「執行部、魔導教団、そして封印の魔導書グリモワール………全ての駒は出揃った」

その顔に狂気の笑みを張り付けて。
少年は闇に輝く月を見上げて、静かに宣言した。

「さあ始めよう。この俺の物語を。狂気に彩られた復讐の物語を!」

魔導騎士団執行部団長、クリスト。
彼の復讐の物語は今、ここから始まる。

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