ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.1―17 執行部の新入り

時は過ぎ。
場所は王城の執務室へと変わる。

「さて、事後報告といこうか」

そう言って話を切り出すのは、部屋の主であるハーネス・リアスターだ。部屋にはクリスト達執行部の面々と今回の騒動の中心であるソラミア。

「被害は王都地下貯水場の崩落、西区域の路地裏での爆発、その他もろもろ………数えればキリがない」

手の中の書類を淡々と読み上げるハーネス。
執行部の面々はハーネスの言いたいことを察したらしく、先ほどから部屋の隅で「うわぁ………」といった微妙な表情を浮かべている。

「さてと………それじゃあお前ら、報酬ゼロな」

「そりゃないだろぉ、ハーネス!俺今月の食費すら危ういんだよぉ!」

涙目で食って掛かるクリストに、ハーネスは優しい笑顔を向けて一言。

「飢えろ」

「人でなし!鬼!悪魔!」

暴言を飛ばすクリストに、やれやれと言ったカンジでハーネスは伝える。

「安心しろ。ただ報酬をゼロにする訳じゃない」

「え!?マジで!俺今月まだ生きれんの!?」

「お前、そこまでなのか………?」

悲惨すぎる状態にハーネスは思わずユグドとルーナに目を向ける。するとそこには、真面目な顔で頷く2人の姿が。

「なあハーネス、いくらくれるんだ!?」

「お前だけゼロだ」

「………ふざっけんなよ、このヤロォォォォ!!!」

絶望のあまりハーネスに飛びかかろうとするクリストを、執行部の面々が全力で押さえつける。

「ちょっと待て団長!国王に暴力はマズい!」

「知ったことか!納得いかねーよ、あんなの!何でなんだよ、ハーネス!」

「団長としての責任問題だ」

暴れるクリストに冷静にそう言い返して、ハーネスは1人その騒ぎを遠くから眺めていた少女に話しかける。

「さてと、これから君はどうするんだ。ソラミア・シーネルタ」

「………私は、ここには居られません。皆さんに迷惑をかけてしまいますから。すぐに消えますよ」

「………………」

ソラミアの言葉を聞いてバカ騒ぎをしていた3人もさすがに黙ると、ハーネスに期待の視線を向ける。
その無言の圧力を受けたハーネスは、しばし腕を組んで考え込むと、1つの提案を出した。

「ソラミア、君も執行部に入らないか?」

「………え?私が、ですか?」

「そうだ」

「え、ええぇぇぇ!?無理ですよ!皆さんに迷惑かけちゃいますから!」

両手を胸の前でぶんぶん振るソラミアを見て、今度はハーネスが3人に無言の圧力をかける。

「大丈夫だよソラミア!」

「そうだよ!迷惑なんかじゃないよ!」

「魔導教団なんてオレたちが蹴散らしてやるぜ!」

そう力強く説得する執行部の面々を順番に見渡して、呆気にとられた顔のソラミア。純粋にソラミアを仲間として迎えたいユグドとルーナ。そして―――

(仲間が増えれば俺の負担仕事も減るじゃねーか!)

そんなゲスい考えで一杯のクリスト。なのに目が他の2人より異様に澄んでいるのが謎である。そんな3人に気圧されたのか説得されたのか、ソラミアは頷いて答える。

「えと………それじゃあ、よろしくお願いします?」

「よし!今日付けで執行部入団を許可する!」

国王としての強権を発動して強引に話を纏めるハーネス。真面目そうに見えて、案外平気で無茶をやらかす人物なのだ。

なにはともあれ、これでソラミアは晴れて執行部の仲間入りを果たした。一度失った居場所を再び作ることが出来たのだ。
そのことにソラミアが歓喜に震え、新しい仲間達へと視線を向けると―――

「おい団長、女の子だぜ!いよっしゃあ!ここからオレの春が始まるんだ!」

「ちょっと、アタシも立派な女の子なんだけど!」

「まあ、ガサツなルーナと優しそうなソラミアちゃんじゃジャンルが違ぇよな」

「ねぇユグド、それアタシに対する挑発と受け取っていいのかな?ふふふ久しぶりにアタシのアイアンクローが火を吹いちゃうかもね!」

「おいちょっと待てルーナ、殺るのは勘弁な。俺が後処理すんのメンドくさいからさ」

「………相変わらず騒がしいな、コイツら」

いつの間にか現場はカオスへと突入していた。ユグドはルーナから顔面アイアンクローを受けて悲鳴を上げて。それを見ているクリストとハーネスはため息混じりに苦笑い。
そんな中でも、クリストは団長として新たな仲間へと歓迎の言葉を伝える。

「さてと、改めて。これからもよろしくな?ソラミア。ついでに言っておくと敬語禁止だから」

「り、了解。こちらこそ、よろしくね?クリスト」

そう言って微笑み合う2人に、ユグドとルーナが割り込む。

「おい、団長だけ良いカンジになってんじゃねーよ!オレはユグドラシル、気軽にユグドって呼んでくれ」

「アタシはルーナだよ。女の子同士仲良くしてね、ソラミア」

「よ、よろしく………。ユグド、ルーナ」

おずおずといった様子で言葉を返すソラミアに、ユグドはニヤニヤとした(本人としてはキメ顔のつもり)笑みを浮かべる。

「いよっし!そんじゃあソラミアちゃんの歓迎会も兼ねて飲みにいこうぜー!」

「そうだね。ソラミアも大丈夫?」

「ええ、問題ないわよ。クリストも行く?」

「いや、俺はやることがあるから。先に行って始めててくれ。後から行くよ」

満面の笑みのソラミアの誘いを、クリストはやんわりと断る。途端に少し残念そうな表情になったソラミアに一抹の罪悪感を覚えながら、クリストはハーネスと2人で見送った。

そして2人きりになった部屋。
窓から夕日の光が射し込む執務室で、ハーネスは誰ともなく囁く。

「………ここまで全て、お前の計画通りか?」

「まあな。即興アドリブのオンパレードだったにしては、上出来ってところだろ」

ハーネスの疑問をあっさりと肯定したクリストは、そのまま立ち去ろうとする。しかしその背中に、ハーネスは言葉をぶつける。

「クリスト、お前は何が狙いなんだ?執行部を組織して、封印の魔導書を抱え込んで、何を………」

「………ハーネス。それ以上踏み込むな」

ハーネスがぶつけた言葉は、クリストの冷たさを孕んだ声によって止められた。まるで聞く者の本能的な恐怖を呼び起こすような、鋭利な鋭さを秘めた声。

「―――っ」

思わず怯んだハーネスに一瞥もくれず、クリストは部屋の外へと立ち去っていく。そしてバタンと扉が閉まる音を聴いたハーネスは、窓から見えたオレンジに染まる空を見上げ一人言。

「なあクリスト、お前とは子供の頃からの付き合いだけど………。私には、何も話してくれないのだな」

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