ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》
No.1―16 崩落する貯水場
ギャリイン!と剣と剣が交差し、火花を散らす。
その火花が、至近距離でにらみ会うクリストとフリウスの顔を照らし出した。
その顔にはどちらも、余裕の色はない。
あるのはただ、勝利への道筋を見据える瞳だけ。
「―――ふっ!!!」
「シッ―――!」
刀身が霞むような速度で幾度も剣が振られ、激突する。いつしかフリウスは魔法を使わなくなっていた。
いや、違う。
使いたくても使えないのだ。
魔法を使うために意識をそちらに割けば、その瞬間クリストの剣は容赦なくフリウスの命を奪うだろう。歴戦の猛者であるフリウスでも、経験したことのないほどの高速戦闘。
何度目かの激突の時、クリストは言っていた。
―――何故、教団に与するのか、と。
それはフリウス自身にも分からない。だから答えた。
―――それは僕が知りたいですよ、と。
その言葉に対する答えは、今まで以上に鋭い一撃だった。その一撃の意味は、まだ分からない。ただ苛ついただけなのか、それとも別の意味があるのか。
そんなことを考えていたフリウスの意識は、頬を薄く切り裂いた剣によって現実へと引き戻された。
「おいおい、戦闘中に考え事とは随分余裕だな」
「ああ、すいません。余りにも暇なもので」
とっさにそう返したフリウスだが、内心は冷や汗が止まらない。固有魔法へとたどり着けなかった分を剣へと費やしたフリウスは、直感的に悟っていたのだ。
クリストの、剣に込めた時間を。
ちょっとした動きや剣の振りが、尋常じゃない精度なのだ。ここまでのものは、10年や20年で身に付くものじゃない。もっと長く、それこそ一生をかけなければたどり着くものではないだろう。
だが、あり得ない。
目の前の少年はどう贔屓目にみても10代後半がいいところだ。あんな子供が―――
とフリウスの意識を再び逸れかけたその時。
何かが迫ってくる気配を感じた2人は、同時にその方向へと顔を向けると―――
「―――ッ!?」
「わっちょっ、馬鹿!」
2人同時にその場を飛び退く。
その直後、飛来した炎球が着弾。辺りに轟音とその余波を撒き散らした。それは当然、あの馬鹿の仕業で。
「おい馬鹿、俺ごと抹殺する気か!?」
「んなわけねーだろ?ちゃんと狙ったじゃん」
「お前の狙いは大雑把すぎんだよ!」
「何だよ、別に良いじゃんか適当で!」
合流するなりケンカを始める2人を、ルーナが間に入って制止する。
「もう2人とも、ケンカは後回し!今はあっちが先でしょ!」
そう言ってルーナはフリウスを指差す。その正論に納得したのか、2人はとりあえず矛を収める。
「なあ団長、どっちが早く倒せるか勝負しね?」
「嫌だ、断る」
「………相変わらずケチだな」
そのユグドの不用意な一言にカチンときたクリストは、思い切り言い返してやろうと深呼吸。だがクリストの口から暴言が飛び出す前に、別の場所から叫び声が上がった。それはユグドに倒されたゼラスだ。
「ぐふっ………これで終わったと………思うなよ!」
そんな典型的なやられ役のような台詞とは裏腹に、地面にはゼラスが自分の血でで書いたであろう巨大な血の魔方陣が。
「設置型魔方陣!?」
「くそっ、させるかよ!」 
魔方陣の起動を阻止するべく、ユグドの拳に炎が宿る。だが、ゼラスが魔方陣を起動させる方が一瞬早かった。
「『魔力よ廻れ・愚者を穿つは・極大の閃光』!」
《ラスト・エクスダート》。
全てを破壊すると謳われた最強魔術の一角で、巨大な魔方陣ありでも使えるだけで天才とよばれた代物だ。
血の魔方陣を魔力の光が流れ、中心へと集まる。そしてその光は徐々に強さを増していき―――
カッ!と莫大な量の光が、上空へ向かって放たれた。それは天井も地面も突き破って、大空へと消えていった。
それと同時に、巨大な風穴が開いた天井が崩落を始める。天井全体に亀裂が入ると、塊となって落ちてくるのだ。
「お、おい団長!早く脱出しねーとヤバイぞ!」
「そうだよ団長!早く逃げよう!?」
慌てた様子のユグドとルーナが袖を引っ張りながら言ってくるのを聞きながら、クリストは目を閉じて考え込む。そしてゆっくりと目を開けると、指示を出す。
「2人とも、ソラミアを連れて先行ってろ。俺もフリウス倒したら追いかけるから」
「なに言ってんだ、命の方が大切だろ!?」
驚いて叫ぶユグドに、クリストは冷静に言い聞かせるように話す。
「いいかユグド、よく聞け。これは団長の命令だ」
「―――っ!………分かった」
さすがに命令を無視するわけにもいかず、2人は瓦礫の雨が降る中を走っていった。すれ違いざまに「死ぬなよ」とメッセージを残して。
「おやおや、逃げなくていいのですか?」
「当たり前だろ?まだ決着ついてないんだから」
「………そうですね。それではそろそろ」
「決着、つけようぜ」
その言葉で、2人は武器を構える。クリストは右手の剣を肩に担ぐようにして。フリウスは右手の短剣をクリストへ真っ直ぐ向け、左手の短剣を逆手に握る。
「魔導教団実行部隊隊長、フリウス・レイズ」
「魔導騎士団執行部団長、クリスト」
互いに名乗り、にらみ合う。
次の瞬間、2人同時に地面を蹴って前へと飛び出した。 
「―――リャッ!!!」
「ハッ―――!!!」
2つの影が交差し、火花を散らした。
そして―――
ブシュッ!と迸る鮮血。
それはフリウスの短剣で切り裂かれた、クリストの右肩からだ。思わず右肩を押さえるクリストを振り替えって、フリウスは宣言する。
「僕の………負けですね」
その瞬間、フリウスの胸に斜めに傷が走り、鮮血が溢れ出す。そのまま後ろへと倒れたフリウス。
その瞳から光が消えるのを見届けて、クリストは剣を元の宝石に戻すと、呟いた。
「さてと、どう脱出したものかな………」
**********************
「おいおい、嘘だろ………?」
崩落していく壁の外の地面を見て、ユグドが呆然と漏らす。それはその場の全員の胸中を代弁したものだ。崩れ落ちる通路をなんとか脱出した3人は、王都を取り囲む壁上でその光景をただ眺めていた。
もはや自然災害のレベル。
あんなところにいたら、命どころか身体すら残らないだろう。3人の頭に、『絶望』の2文字が浮かぶ。
だが。
そんな場所からも。
少年は笑って帰還する。
「ようお前ら、無事だったか!」
笑って片手を上げ、そんな呑気なことを言う少年。
あちこち汚れているものの、無傷で。
そんな少年に、仲間達は一言だけ返す。
「「………おかえり」」
その火花が、至近距離でにらみ会うクリストとフリウスの顔を照らし出した。
その顔にはどちらも、余裕の色はない。
あるのはただ、勝利への道筋を見据える瞳だけ。
「―――ふっ!!!」
「シッ―――!」
刀身が霞むような速度で幾度も剣が振られ、激突する。いつしかフリウスは魔法を使わなくなっていた。
いや、違う。
使いたくても使えないのだ。
魔法を使うために意識をそちらに割けば、その瞬間クリストの剣は容赦なくフリウスの命を奪うだろう。歴戦の猛者であるフリウスでも、経験したことのないほどの高速戦闘。
何度目かの激突の時、クリストは言っていた。
―――何故、教団に与するのか、と。
それはフリウス自身にも分からない。だから答えた。
―――それは僕が知りたいですよ、と。
その言葉に対する答えは、今まで以上に鋭い一撃だった。その一撃の意味は、まだ分からない。ただ苛ついただけなのか、それとも別の意味があるのか。
そんなことを考えていたフリウスの意識は、頬を薄く切り裂いた剣によって現実へと引き戻された。
「おいおい、戦闘中に考え事とは随分余裕だな」
「ああ、すいません。余りにも暇なもので」
とっさにそう返したフリウスだが、内心は冷や汗が止まらない。固有魔法へとたどり着けなかった分を剣へと費やしたフリウスは、直感的に悟っていたのだ。
クリストの、剣に込めた時間を。
ちょっとした動きや剣の振りが、尋常じゃない精度なのだ。ここまでのものは、10年や20年で身に付くものじゃない。もっと長く、それこそ一生をかけなければたどり着くものではないだろう。
だが、あり得ない。
目の前の少年はどう贔屓目にみても10代後半がいいところだ。あんな子供が―――
とフリウスの意識を再び逸れかけたその時。
何かが迫ってくる気配を感じた2人は、同時にその方向へと顔を向けると―――
「―――ッ!?」
「わっちょっ、馬鹿!」
2人同時にその場を飛び退く。
その直後、飛来した炎球が着弾。辺りに轟音とその余波を撒き散らした。それは当然、あの馬鹿の仕業で。
「おい馬鹿、俺ごと抹殺する気か!?」
「んなわけねーだろ?ちゃんと狙ったじゃん」
「お前の狙いは大雑把すぎんだよ!」
「何だよ、別に良いじゃんか適当で!」
合流するなりケンカを始める2人を、ルーナが間に入って制止する。
「もう2人とも、ケンカは後回し!今はあっちが先でしょ!」
そう言ってルーナはフリウスを指差す。その正論に納得したのか、2人はとりあえず矛を収める。
「なあ団長、どっちが早く倒せるか勝負しね?」
「嫌だ、断る」
「………相変わらずケチだな」
そのユグドの不用意な一言にカチンときたクリストは、思い切り言い返してやろうと深呼吸。だがクリストの口から暴言が飛び出す前に、別の場所から叫び声が上がった。それはユグドに倒されたゼラスだ。
「ぐふっ………これで終わったと………思うなよ!」
そんな典型的なやられ役のような台詞とは裏腹に、地面にはゼラスが自分の血でで書いたであろう巨大な血の魔方陣が。
「設置型魔方陣!?」
「くそっ、させるかよ!」 
魔方陣の起動を阻止するべく、ユグドの拳に炎が宿る。だが、ゼラスが魔方陣を起動させる方が一瞬早かった。
「『魔力よ廻れ・愚者を穿つは・極大の閃光』!」
《ラスト・エクスダート》。
全てを破壊すると謳われた最強魔術の一角で、巨大な魔方陣ありでも使えるだけで天才とよばれた代物だ。
血の魔方陣を魔力の光が流れ、中心へと集まる。そしてその光は徐々に強さを増していき―――
カッ!と莫大な量の光が、上空へ向かって放たれた。それは天井も地面も突き破って、大空へと消えていった。
それと同時に、巨大な風穴が開いた天井が崩落を始める。天井全体に亀裂が入ると、塊となって落ちてくるのだ。
「お、おい団長!早く脱出しねーとヤバイぞ!」
「そうだよ団長!早く逃げよう!?」
慌てた様子のユグドとルーナが袖を引っ張りながら言ってくるのを聞きながら、クリストは目を閉じて考え込む。そしてゆっくりと目を開けると、指示を出す。
「2人とも、ソラミアを連れて先行ってろ。俺もフリウス倒したら追いかけるから」
「なに言ってんだ、命の方が大切だろ!?」
驚いて叫ぶユグドに、クリストは冷静に言い聞かせるように話す。
「いいかユグド、よく聞け。これは団長の命令だ」
「―――っ!………分かった」
さすがに命令を無視するわけにもいかず、2人は瓦礫の雨が降る中を走っていった。すれ違いざまに「死ぬなよ」とメッセージを残して。
「おやおや、逃げなくていいのですか?」
「当たり前だろ?まだ決着ついてないんだから」
「………そうですね。それではそろそろ」
「決着、つけようぜ」
その言葉で、2人は武器を構える。クリストは右手の剣を肩に担ぐようにして。フリウスは右手の短剣をクリストへ真っ直ぐ向け、左手の短剣を逆手に握る。
「魔導教団実行部隊隊長、フリウス・レイズ」
「魔導騎士団執行部団長、クリスト」
互いに名乗り、にらみ合う。
次の瞬間、2人同時に地面を蹴って前へと飛び出した。 
「―――リャッ!!!」
「ハッ―――!!!」
2つの影が交差し、火花を散らした。
そして―――
ブシュッ!と迸る鮮血。
それはフリウスの短剣で切り裂かれた、クリストの右肩からだ。思わず右肩を押さえるクリストを振り替えって、フリウスは宣言する。
「僕の………負けですね」
その瞬間、フリウスの胸に斜めに傷が走り、鮮血が溢れ出す。そのまま後ろへと倒れたフリウス。
その瞳から光が消えるのを見届けて、クリストは剣を元の宝石に戻すと、呟いた。
「さてと、どう脱出したものかな………」
**********************
「おいおい、嘘だろ………?」
崩落していく壁の外の地面を見て、ユグドが呆然と漏らす。それはその場の全員の胸中を代弁したものだ。崩れ落ちる通路をなんとか脱出した3人は、王都を取り囲む壁上でその光景をただ眺めていた。
もはや自然災害のレベル。
あんなところにいたら、命どころか身体すら残らないだろう。3人の頭に、『絶望』の2文字が浮かぶ。
だが。
そんな場所からも。
少年は笑って帰還する。
「ようお前ら、無事だったか!」
笑って片手を上げ、そんな呑気なことを言う少年。
あちこち汚れているものの、無傷で。
そんな少年に、仲間達は一言だけ返す。
「「………おかえり」」
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