ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》
No.1―10 疑わしきは………
「あ〜、飽きたッ!暇すぎる!」
「ちょっとユグド、静かにしてよ。まだ読んでる途中なんだからさ」
ハーネスが大量に用意した資料を読み始めて10分。
早くも飽きて叫びだしたユグドを横目に見ながらも、黙々と読み進めて行くクリスト。一度集中すると周りが見えなくなるクリストは、真横で行われる騒ぎに我関せずの姿勢を貫き通す。
そんなクリストを見て叫んでも無駄だと悟ったユグドは、標的をルーナに絞って話しかける。
「なあなあルーナ、なんかいい情報あったか?」
「あったら言うから、少し黙っててくれる?」
「………冷たいなぁ、お前」
「そう思うんなら、空気読んで?お願いだから」
ルーナに軽くあしらわれ、さすがに空気を読んで黙りこむユグド。だが、飽きっぽいユグドは1分もたなかった。
「なあ団長〜、オレどうすればいいと思う?」
「少しうるさいから、その辺で筋トレでもしてろ」
「………へぇーい」
適当な対応へのささやかな仕返しとして、わざと音をたててウサギ跳びを始めるユグド。しかし、その選択が思わぬ悲劇を生む。
ウサギ跳びで部屋を往復していたユグドが、床に落ちていた紙を踏んづけてすぐ近くにあった本棚へと頭から突っ込んだのだ。
するとそれまでギリギリの均衡を保っていた書類の山が、本棚の上から雪崩のように落ちてきてユグドを埋める。
「おわぁぁぁぁ!?」
「あの馬鹿、余計な手間増やしやがって………」
「まったくもう!コレだからユグドは!」
「いやコレはオレが全面的に悪かったです!ホントにごめんなさい!だから拾うの手伝ってお願い!」
「やれやれ、しょうがねぇなぁ………」
そう言ってあたり一面にばらまかれた書類を広い集めるクリスト。しかし何気なく手に取ったその書類を見るやいなや―――
「―――ッ!これはっ!」
「ん?どうかしたのか、団長?」
「ユグド………、お前お手柄かもな。ほらコレ」
「えっ?」
クリストがその手に持つ書類の見出しには、『騎士団の武器保管庫から旧式の武器が紛失』というものだ。だがそれは一般にも出回っている情報であり、今さら驚くようなものではない。
「それが何だって言うんだ?」
「ああ、この旧式の武器には昔の騎士団の紋章が入ってたんだ。この2本の剣が交差した紋章、地下でゼラスが使ってた短剣にも入ってた!」
「………それって、騎士団の武器が教団に流れてるって事なのかな?それとも盗まれた?」
「いや、盗まれたということは無いだろうな。私が知る限りあそこは国内最高峰の防衛がされている」
 
ルーナの疑問に横から答えたのは、今まで執務机に向かって書類の山と格闘していたハーネスだ。どうやらその作業も一段落ついたらしい。
「そんじゃ、横流しで決定か?」
「………認めたくは無いが、その可能性が高いな」
「ちょっと待ってよ、その保管庫って確か団長クラスの権限がないと入れないんじゃ………?」
「まあそうだな。正確に言えばこの王都にいる団長クラス以上の役職の人物、ということになる」
「その中で犯行動機がありそうなのは………」
3人の疑惑の視線が完全にシンクロした動きで向けられる。真っ正面に立っていたクリストへと。
「………え?俺か?」
「だって団長、金に困ってたろ?」
「いや確かにそうだけれども!確かに今月の生活費すら怪しいけども!犯罪なんかやんねぇよ!」
「本音は?」
「………やらないこともねぇけど、今回は俺じゃない!」
「やったことあるんだね………」
クリストのまさかの言葉に呆れ半分ドン引き半分の表情の3人。思わず漏れた本音をごまかすかのように、クリストは話題をすり替える。
「そ、そんな事よりだ!俺もう1つ気になってることがあるんだけど………」
「………?気になること、だと?なんだ?」
「今回、何で騎士団が出動したのかな〜って」
「………確かに」
その疑問は2人も感じていたらしく、そのままクリストの狙い通りに話題がそれていく。ただし、脳筋であるユグドには少々難しい話だったようで、すでに爆睡してしまっているが。
「それで、今回何で騎士団が出動したかだけど………アタシが屋根の上から会話を盗み聞きしたところによると、フリウス・レイズより上からの命令らしいよ?」
「上ってことは………正騎士団長か国王だな」
「………言っておくが、私ではないぞ?それに正騎士団長は現在国外に出張中だ」
つまり、全魔導騎士団を統括する1人は不在、国全体を統括するもう1人は無罪なワケで。
「となると怪しいのは………フリウス・レイズが嘘つきって可能性だな」
「だろうな。実際に報告は上げず、独断で騎士団を出動させた。だがなぜだ?そんな事をして何の得があるというんだ?」
うーん、と頭を悩ませる3人に、夢の中から戻ってきたユグドがポツリと言う。
「もしかして魔導教団だったから、とか?」
「―――!それだ!」
「うえっ!?な、何が!?」
3人から同時に同じ反応を返され、慌てるユグド。だが当の本人達はそんなことを気にせず会話に没頭していく。
「もしフリウス・レイズが教団の人間だったとしたら、全て納得がいく!教団に武器が流れたのも、アジトを無断で襲撃したのも!」
「アジトを襲撃したのは、仲間に逃走させるため?」
「そうだろうな。恐らくそのゼラスとやら以外の仲間を殺害したのも、計画の内だ」
「だとしたら実行犯がゼラス、黒幕がフリウスだね。というかこれってマズくない?だってあの女の子………」
「そうか!ソラミアはまだこの事を知らない!………行くぞ、ルーナ、ユグド!」
叫んで駆け出そうとしたクリストを、ハーネスの落ち着いた声が呼び止める。
「待てクリスト!」
「んだよ!?今急がなきゃなんねぇんだ………」
食ってかかるクリストに、ハーネスは1つの宝石を手渡す。
「武器無しで行くつもりだったのか?」
「………チッ。もらってくからな!」
そう返して部屋の扉を蹴破らんばかりの勢いで駆け出して行くクリスト。そしてそれを追ってユグドとルーナも出ていく。
そうして1人になったハーネスは、たった今クリスト達が出ていった扉を見つめて呟く。
「………無事に帰ってこいよ、クリスト」
「ちょっとユグド、静かにしてよ。まだ読んでる途中なんだからさ」
ハーネスが大量に用意した資料を読み始めて10分。
早くも飽きて叫びだしたユグドを横目に見ながらも、黙々と読み進めて行くクリスト。一度集中すると周りが見えなくなるクリストは、真横で行われる騒ぎに我関せずの姿勢を貫き通す。
そんなクリストを見て叫んでも無駄だと悟ったユグドは、標的をルーナに絞って話しかける。
「なあなあルーナ、なんかいい情報あったか?」
「あったら言うから、少し黙っててくれる?」
「………冷たいなぁ、お前」
「そう思うんなら、空気読んで?お願いだから」
ルーナに軽くあしらわれ、さすがに空気を読んで黙りこむユグド。だが、飽きっぽいユグドは1分もたなかった。
「なあ団長〜、オレどうすればいいと思う?」
「少しうるさいから、その辺で筋トレでもしてろ」
「………へぇーい」
適当な対応へのささやかな仕返しとして、わざと音をたててウサギ跳びを始めるユグド。しかし、その選択が思わぬ悲劇を生む。
ウサギ跳びで部屋を往復していたユグドが、床に落ちていた紙を踏んづけてすぐ近くにあった本棚へと頭から突っ込んだのだ。
するとそれまでギリギリの均衡を保っていた書類の山が、本棚の上から雪崩のように落ちてきてユグドを埋める。
「おわぁぁぁぁ!?」
「あの馬鹿、余計な手間増やしやがって………」
「まったくもう!コレだからユグドは!」
「いやコレはオレが全面的に悪かったです!ホントにごめんなさい!だから拾うの手伝ってお願い!」
「やれやれ、しょうがねぇなぁ………」
そう言ってあたり一面にばらまかれた書類を広い集めるクリスト。しかし何気なく手に取ったその書類を見るやいなや―――
「―――ッ!これはっ!」
「ん?どうかしたのか、団長?」
「ユグド………、お前お手柄かもな。ほらコレ」
「えっ?」
クリストがその手に持つ書類の見出しには、『騎士団の武器保管庫から旧式の武器が紛失』というものだ。だがそれは一般にも出回っている情報であり、今さら驚くようなものではない。
「それが何だって言うんだ?」
「ああ、この旧式の武器には昔の騎士団の紋章が入ってたんだ。この2本の剣が交差した紋章、地下でゼラスが使ってた短剣にも入ってた!」
「………それって、騎士団の武器が教団に流れてるって事なのかな?それとも盗まれた?」
「いや、盗まれたということは無いだろうな。私が知る限りあそこは国内最高峰の防衛がされている」
 
ルーナの疑問に横から答えたのは、今まで執務机に向かって書類の山と格闘していたハーネスだ。どうやらその作業も一段落ついたらしい。
「そんじゃ、横流しで決定か?」
「………認めたくは無いが、その可能性が高いな」
「ちょっと待ってよ、その保管庫って確か団長クラスの権限がないと入れないんじゃ………?」
「まあそうだな。正確に言えばこの王都にいる団長クラス以上の役職の人物、ということになる」
「その中で犯行動機がありそうなのは………」
3人の疑惑の視線が完全にシンクロした動きで向けられる。真っ正面に立っていたクリストへと。
「………え?俺か?」
「だって団長、金に困ってたろ?」
「いや確かにそうだけれども!確かに今月の生活費すら怪しいけども!犯罪なんかやんねぇよ!」
「本音は?」
「………やらないこともねぇけど、今回は俺じゃない!」
「やったことあるんだね………」
クリストのまさかの言葉に呆れ半分ドン引き半分の表情の3人。思わず漏れた本音をごまかすかのように、クリストは話題をすり替える。
「そ、そんな事よりだ!俺もう1つ気になってることがあるんだけど………」
「………?気になること、だと?なんだ?」
「今回、何で騎士団が出動したのかな〜って」
「………確かに」
その疑問は2人も感じていたらしく、そのままクリストの狙い通りに話題がそれていく。ただし、脳筋であるユグドには少々難しい話だったようで、すでに爆睡してしまっているが。
「それで、今回何で騎士団が出動したかだけど………アタシが屋根の上から会話を盗み聞きしたところによると、フリウス・レイズより上からの命令らしいよ?」
「上ってことは………正騎士団長か国王だな」
「………言っておくが、私ではないぞ?それに正騎士団長は現在国外に出張中だ」
つまり、全魔導騎士団を統括する1人は不在、国全体を統括するもう1人は無罪なワケで。
「となると怪しいのは………フリウス・レイズが嘘つきって可能性だな」
「だろうな。実際に報告は上げず、独断で騎士団を出動させた。だがなぜだ?そんな事をして何の得があるというんだ?」
うーん、と頭を悩ませる3人に、夢の中から戻ってきたユグドがポツリと言う。
「もしかして魔導教団だったから、とか?」
「―――!それだ!」
「うえっ!?な、何が!?」
3人から同時に同じ反応を返され、慌てるユグド。だが当の本人達はそんなことを気にせず会話に没頭していく。
「もしフリウス・レイズが教団の人間だったとしたら、全て納得がいく!教団に武器が流れたのも、アジトを無断で襲撃したのも!」
「アジトを襲撃したのは、仲間に逃走させるため?」
「そうだろうな。恐らくそのゼラスとやら以外の仲間を殺害したのも、計画の内だ」
「だとしたら実行犯がゼラス、黒幕がフリウスだね。というかこれってマズくない?だってあの女の子………」
「そうか!ソラミアはまだこの事を知らない!………行くぞ、ルーナ、ユグド!」
叫んで駆け出そうとしたクリストを、ハーネスの落ち着いた声が呼び止める。
「待てクリスト!」
「んだよ!?今急がなきゃなんねぇんだ………」
食ってかかるクリストに、ハーネスは1つの宝石を手渡す。
「武器無しで行くつもりだったのか?」
「………チッ。もらってくからな!」
そう返して部屋の扉を蹴破らんばかりの勢いで駆け出して行くクリスト。そしてそれを追ってユグドとルーナも出ていく。
そうして1人になったハーネスは、たった今クリスト達が出ていった扉を見つめて呟く。
「………無事に帰ってこいよ、クリスト」
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