ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.1―8 クリストの正体

リアスター王国の王都であるトライスの街は、正円を描いた壁によって囲まれている。そして、中央にそびえ立つ王城を起点にクロスに交わる大通りによって分けられている。
北区域、東区域、西区域、南区域、そして中央区域。
その5つの区域にはそれぞれ統括する騎士団が存在していて、当然各騎士団を指揮する団長がいる。
そしてその1人が今クリスト達の目の前にいる人物。
フリウス・レイズだ。

「………我々魔術師の命を頂く、だと?」

「ええ、その通りです。といってもすでにあなた以外の方々は葬ってしまいましたがね………」

そう言ってゼラスの足元に向かって何かを放り投げるフリウス。ガシャン!と音と共に地面に落ちたのは、血でベッタリと汚れた1本の剣。その剣はゼラスの部下が使っていたものに間違いはない。

「すでにこの場所は騎士団が取り囲んでいます。あなたに逃げ場などありませんよ?」

降伏を進めるかのように宣告するフリウス。だが今の現状をかえりみるに、おそらく逃げても降伏しても待っているのは死だろう。
故に、ゼラスは少しでも生きる望みのある方を選択する。つまりは逃走。

「………悪いな」

「えっ、ちょっ!?」

突然の出来事に棒立ちになっていたソラミアの首に手刀を叩き込み気絶させると、その体を担ぎ上げて部屋の奥へと走り出す。だがそこにあるのは壁のみだ。

「アイツ、どうする気だ………!?」

ゼラスがとった行動の意味が分からず、思わずそう叫ぶクリスト。しかしその疑問はすぐに解決した。
壁際までたどり着いたゼラスは、その勢いのまま壁に右手のてのひらを叩きつけたのだ。するとそこに小さな魔方陣が現れる。それと同時に壁の1部が重厚な音をたてて横にスライドしていく。

「逃がすかッ………!」

「逃がしませんよ!」

ゼラスの狙いを悟ったクリストとフリウスは、同時に叫んで駆け出す。しかし2人が部屋を駆け抜けるよりもゼラスの行動の方が早かった。

「私はこんなところで………死ぬわけにはいかないのだッ!喰らえ、『紅蓮の業火よ』!」

ゼラスの1節詠唱で起動した魔術は、狙いがわずかに逸れて床へと着弾する。だが相手の足を一瞬止めるには十分だ。

「ヤバッ!」 

「くっ………!」

とっさに後ろへと跳んだ2人の体を、爆風が容赦なく吹き飛ばす。幸い威力がそこまで高くなかったため建物は崩壊するという最悪の事態は免れたが。

「ソラミア!」

「待ちなさい!魔術師はボクが追う。君はここで安全に保護してもらうんだ!」

そう言って壁の向こう側へと消えたゼラスを追ってフリウスも走っていく。その後ろ姿を見届けたクリストは、1人残された部屋の中で呟く。

「………とりあえず出るか。ここから」



**********************



王都トライスのとある路地裏。
普段は人気のないこの場所だが、今はたくさんの人で溢れかえっている。それも全員が同じ魔導騎士団のローブを身に纏って。
そう、魔導教団のアジト前である。

「………ここが魔導教団のアジトってホントなんですかね?それも子供が2人もさらわれてるなんて」

そう呟くのは、地下へと続く扉の前にたたずむ青年。
青年の名はスミラス・ソレイドという。
まだ入団したてのヒョッコ君だ。

「さぁな。レイズ団長よりも上からの情報らしい」

「ということは………十中八九ホントですね」

「だろうな」

スミラスとそう言葉を交わすのは、扉を挟んで向かい側に立つもう1人の魔導騎士。立場的にはスミラスの教育係にあたる人だ。 

「どうした?ガラにもなくビビってんのか?まあ、こんな仕事は本来オレらの役目じゃないからビビるのも無理ねぇけどよ………」

心の底から嫌そうにそうぼやく上司を見て、スミラスはこう告げる。

「………ってませんよ」

「え?今なんて言った?」

「ビビってませんよ!むしろ嬉しいんです、俺は!」

「………は?」

いきなり妙な事を口走り始めたスミラスを、怪訝そうな目で見る上司。だがスミラスそんな視線を軽く無視して、熱く語り続ける。

「だって魔導教団のアジトですよ!?国にあだなす不届き者との戦い!燃えるじゃないですか!」

「………そうか?変わったヤツだな、お前は」

そう言ったその瞬間。
ズズ……ンと不気味な音と共に、地面全体が揺れる。地上にいた魔導騎士達は知るよしもないが、それはゼラスが逃走する際に放った魔術によるものだ。

「なあっ………!?」

「ば、爆発ですか!?」

突然の事に慌てる魔導騎士達。当然だ。彼らの本業は事件の捜査などであり、荒事ではないのだから。
だがそんな中、スミラスだけは―――

「まさか魔導教団が抵抗を!?こうしちゃいられない、すぐにレイズ団長の応援に向かわないと!」

「お、おいちょっと待て!」

腰のホルダーから魔力拳銃マナリリボルバーを引き抜き、地下へと駆け出そうとするスミラスを必死で止める上司。

「放して下さい!早く行かないとレイズ団長が!」

「いいからとにかく落ち着け!お前が行ったところで足手まといになるだけだろ!」

「そんなのやってみなけりゃ分かりませんよ!」 

「だから待てって………おい!手の空いてるヤツ!こいつを押さえるの手伝ってくれ!」

その叫びを聞いて集まってきた数人に取り押さえられるスミラス。しかしなおも全力で抵抗していたその時だった。

目の前の扉の奥から、コツコツと階段を上がる足音が聞こえてきたのは。

「―――ッ!全員構えろ!」

その一言で、一斉に腰のホルダーから魔力拳銃マナリボルバーを引き抜く魔導騎士達。そしてその銃口を扉へと向ける。
コツコツという足音が徐々に大きくなってくるにつれて、魔導騎士達の緊張も高まる。そして扉の奥から現れたのは―――

1人の少年だった。

その少年を見たスミラスは、思わず話しかける。もちろん魔導騎士として当然のことではあるが、それ以上に一瞬だが感じたのだ。目の前の少年の瞳にわずかに宿っていた殺意を。

「おい君、君が魔導教団にさらわれた少年かい?」

「ええと………多分そうだと思います」

「そうか。どこかケガしているとかはないか?」

「大丈夫です。問題ありません」

そのやり取りでスミラスは妙な違和感を覚えた。少年の態度がやけに落ち着いていたからだ。普通、さらわれたとなればもっと取り乱すはず。ましてや相手はあの魔導教団なのだ。
だがスミラスがそんな違和感を解消する前に、上司が素早く会話に割り込む。

「君、レイズ団長がどうなったか知らないか?」

「あの団長さんなら………逃げた教団の人を追って行きましたけど………」

「そうか………。分かった、ありがとな。もう帰ってもらって構わないが、送ろうか?」

上司のその問いかけに少年が答えるより早く。横から別の声が割り込んできた。

「クリスト!大丈夫だったか!?」

その声の主は朱色しゅいろの短髪の青年と隣にはライムグリーンのショートボブの女性。今まさにこちらへ駆け寄ってくるところだった。

「ええと、あなた達は………?」

「あっ、えっと………この子の保護者です」

「ああ、そうでしたか。では我々が送らなくても大丈夫ですね」

「ええ、この子を助けて頂き本当に有り難うございました」

そう言って頭を下げる女性。そして隣にいた少年の手を握ると、もと来た道を引き返していった。
そんな親子の姿を見送りながらも、スミラスの胸にはさっき少年に覚えた違和感が棘のように突き刺さっていたのだった―――



**********************



クリストは迎えに来てくれた2人の手を取りながら、路地を歩いていく。ただし大通りとは反対方向の、人気がない方へと。 
そしてある程度歩いたところで、クリストは2人の手を離し一言呟く。

「悪かったな。わざわざ保護者のフリまでして・・・・・・・・・・迎えに来てもらっちゃってよ」

「まったく、いきなりなにかと思ったら『保護者のフリして迎えに来てくれ』だ?最初は新手の嫌がらせかと思ったぜ」

「まあ、そんな手間がかかる事じゃないんだから良いじゃない」

本当に呆れたような表情でぼやく青年を、隣に立つ女性がなだめる。それでも青年はまだ言い足りなさそうだったが、クリストは構わず話を進める。

「さてと、そんなことより例の件はどうなった?」

「首尾は上々……と言いたいところだが、無駄になっちまったらしいな。それにあの女の子も連れていかれちまったんだろ?」

「ああ、迂闊だった。まさかあそこで騎士団が介入してくるとはな………。おかげで俺の完璧な計画も狂っちまった」

「まったく、オレらが苦労して集めた教団の情報だってのによ………。団長と女の子がさらわれたとこなんか、屋根の上から飛び降りて加勢してやろうかと思ったぜ」

クリストの事を『団長』と呼んだ青年は、首だけ振り返って尋ねる。

「んで?あの女の子はどうすんだよ?」

「決まってんだろ、助けるさ」

そこでクリストは一度言葉を切ると、ニヤリと不敵に笑って宣言する。

「この魔導騎士団執行部団長、クリスト様がな!」

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