ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》
No.1―5 執行部の存在
黒煙立ち込める路地裏から大通りへと脱出したクリストとソラミアは、すぐに集まってきた野次馬の中に紛れ込んだ。
「………あの人達、どうなっちゃいましたかね?」
「さあな。死んでない事だけは確かだけど」
話ながら周囲を油断なく見回すクリスト。
だが人が多い大通りでは、特定の人物を見つけ出すなんて不可能に近い。 
「ダメだ、この人混みじゃ分からん。最悪の場合アイツらがすぐそばまで来ている可能性がある。注意しとけよ?」
「わかってますよ。それよりこの街にも騎士団の詰所とかあるんですよね?そこに逃げた方が良いですか?」
「うーん、それはヤメといた方が良いかなぁ。この国の騎士団は荒事に馴れてないから。仕事が基本事件の捜査とかだからな」
この国の騎士団は『魔導騎士団』と銘打っているが、実際に魔法を使えるのはごく少数なのだ。なので魔法が使えない普通の騎士は、街で起きた事件の捜査などを担当する事になっている。
「それじゃあ、この国では誰が魔導教団とかと戦っているんですか?」
「あくまで都市伝説のレベルなんだがな。この国には『執行部』と呼ばれる非公式な少数精鋭の騎士団が存在するらしいんだ」
「それじゃあその『執行部』さん達が?」
「そう、裏の仕事を請け負っているってワケ。真偽のほどは定かじゃないけどな」
この国には様々な都市伝説が存在するのだが、最もメジャーなのがこの『執行部』なのだ。ただ噂によれば、その存在を知っているのは騎士団の中でも限られた人間だけなのだとか。
だが連絡手段も分からないこの状況では頼れない。
「………打つ手なし、ですか?」
「………かもな」
思わぬところで自分の無計画さを再確認するハメになるクリスト。これはいつも通りの『あのプラン』で行くしかない。
「よし、じゃあとりあえず城に向かうか」
「え、何でですか?」
「あの城には俺の知り合いがいるんだ。そいつに全部丸投げして解決してもらおう」
「………すごく前向きな他力本願っぷりですね」
クリストに呆れた視線を向けるソラミア。
だが、クリストの他力本願は今に始まった事じゃないのだ。
「最終的には解決すればいいんだ。終わりよければ全てよし、だろ?」
「それもそうですね。それでは早く城に行きましょうか!」
そう言って歩き出そうとしたソラミアの手が、いきなり路地から伸びてきた手に掴まれた。そしてそのまま声をあげる暇もなく、ソラミアの体は暗い路地へと引きずりこまれてしまう。
「―――ッ!?ソラミア、大丈夫か!?」
慌てて路地へと駆け込んだクリストの目に、ぐったりとして動かないソラミアと、その体を脇に抱えるゼラスの姿が飛び込んできた。
「おや、貴様もいたのか。ちょうどよかった」
「うるせぇ!んなことよりさっさとソラミアを放しやがれ!」
怒気を孕んだクリストの叫び声。
その迫力に数人の男達が後退りする。
だがゼラスはその怒りを気にもとめず、落ち着き払った態度で話を続けた。
「それは出来ぬ相談だ。これも我々に与えられた使命なのでね。命をかけて果たさせてもらう!」
「へっ、そうかよ。だったらコッチも力ずくで取り返させてもらうぜ!」
そう叫んでクリストが1歩を踏み出そうとしたその瞬間。
ガツン!と後頭部にいきなり衝撃が走った。
その一撃を放ったのは、背後に潜んでいたゼラスの手下の1人。
(くそっ、目の前のコイツに気をとられて…………背後に気づかなかったか………ッ!)
意識を刈り取るのに十分なその一撃を喰らったクリストは、そのまま石畳に倒れてしまう。
「悪く思わないでくれよ。これも『あのお方』の悲願のためなのだから」
クリストが意識を失う寸前、ゼラスがそう言うのがかろうじて聞こえた。そしてその言葉を最後に、クリストの意識は深い暗闇の中へと沈んでいった―――
**********************
その一部始終を向かいの建物の屋根の上から見ている人影があった。2人組の人影は、フードを深く被っているため顔はわからない。唯一わかるのは、体つきから片方が女性、もう片方が男性であるという事のみ。
「あーあ、やられちゃったよ。早く助けに入った方が良かったんじゃねぇの?」
「団長からの指示を無視するつもり?なにもせず見てろって言われてるのに」
座りながら少し不服そうに呟く男の方を、隣の女性が咎めた。だが、会話をしているその2人の視線は常に魔術師達を追いかけている。
「へいへい、わかってるよ。要はアイツらのアジトを突き止めればいいんだろ?簡単じゃねーか」
「どんな仕事でも油断しないで手は抜かない。それがアタシ達のやり方だよ?」
そうこうしている間にも、魔術師達は少年と少女を担いで路地の奥へと消えていく。
それを見た男は、立ち上がると指をポキポキと鳴らして言う。
「さぁて、それじゃあそろそろ『執行部』も動くとするかなぁ!」
「………あの人達、どうなっちゃいましたかね?」
「さあな。死んでない事だけは確かだけど」
話ながら周囲を油断なく見回すクリスト。
だが人が多い大通りでは、特定の人物を見つけ出すなんて不可能に近い。 
「ダメだ、この人混みじゃ分からん。最悪の場合アイツらがすぐそばまで来ている可能性がある。注意しとけよ?」
「わかってますよ。それよりこの街にも騎士団の詰所とかあるんですよね?そこに逃げた方が良いですか?」
「うーん、それはヤメといた方が良いかなぁ。この国の騎士団は荒事に馴れてないから。仕事が基本事件の捜査とかだからな」
この国の騎士団は『魔導騎士団』と銘打っているが、実際に魔法を使えるのはごく少数なのだ。なので魔法が使えない普通の騎士は、街で起きた事件の捜査などを担当する事になっている。
「それじゃあ、この国では誰が魔導教団とかと戦っているんですか?」
「あくまで都市伝説のレベルなんだがな。この国には『執行部』と呼ばれる非公式な少数精鋭の騎士団が存在するらしいんだ」
「それじゃあその『執行部』さん達が?」
「そう、裏の仕事を請け負っているってワケ。真偽のほどは定かじゃないけどな」
この国には様々な都市伝説が存在するのだが、最もメジャーなのがこの『執行部』なのだ。ただ噂によれば、その存在を知っているのは騎士団の中でも限られた人間だけなのだとか。
だが連絡手段も分からないこの状況では頼れない。
「………打つ手なし、ですか?」
「………かもな」
思わぬところで自分の無計画さを再確認するハメになるクリスト。これはいつも通りの『あのプラン』で行くしかない。
「よし、じゃあとりあえず城に向かうか」
「え、何でですか?」
「あの城には俺の知り合いがいるんだ。そいつに全部丸投げして解決してもらおう」
「………すごく前向きな他力本願っぷりですね」
クリストに呆れた視線を向けるソラミア。
だが、クリストの他力本願は今に始まった事じゃないのだ。
「最終的には解決すればいいんだ。終わりよければ全てよし、だろ?」
「それもそうですね。それでは早く城に行きましょうか!」
そう言って歩き出そうとしたソラミアの手が、いきなり路地から伸びてきた手に掴まれた。そしてそのまま声をあげる暇もなく、ソラミアの体は暗い路地へと引きずりこまれてしまう。
「―――ッ!?ソラミア、大丈夫か!?」
慌てて路地へと駆け込んだクリストの目に、ぐったりとして動かないソラミアと、その体を脇に抱えるゼラスの姿が飛び込んできた。
「おや、貴様もいたのか。ちょうどよかった」
「うるせぇ!んなことよりさっさとソラミアを放しやがれ!」
怒気を孕んだクリストの叫び声。
その迫力に数人の男達が後退りする。
だがゼラスはその怒りを気にもとめず、落ち着き払った態度で話を続けた。
「それは出来ぬ相談だ。これも我々に与えられた使命なのでね。命をかけて果たさせてもらう!」
「へっ、そうかよ。だったらコッチも力ずくで取り返させてもらうぜ!」
そう叫んでクリストが1歩を踏み出そうとしたその瞬間。
ガツン!と後頭部にいきなり衝撃が走った。
その一撃を放ったのは、背後に潜んでいたゼラスの手下の1人。
(くそっ、目の前のコイツに気をとられて…………背後に気づかなかったか………ッ!)
意識を刈り取るのに十分なその一撃を喰らったクリストは、そのまま石畳に倒れてしまう。
「悪く思わないでくれよ。これも『あのお方』の悲願のためなのだから」
クリストが意識を失う寸前、ゼラスがそう言うのがかろうじて聞こえた。そしてその言葉を最後に、クリストの意識は深い暗闇の中へと沈んでいった―――
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その一部始終を向かいの建物の屋根の上から見ている人影があった。2人組の人影は、フードを深く被っているため顔はわからない。唯一わかるのは、体つきから片方が女性、もう片方が男性であるという事のみ。
「あーあ、やられちゃったよ。早く助けに入った方が良かったんじゃねぇの?」
「団長からの指示を無視するつもり?なにもせず見てろって言われてるのに」
座りながら少し不服そうに呟く男の方を、隣の女性が咎めた。だが、会話をしているその2人の視線は常に魔術師達を追いかけている。
「へいへい、わかってるよ。要はアイツらのアジトを突き止めればいいんだろ?簡単じゃねーか」
「どんな仕事でも油断しないで手は抜かない。それがアタシ達のやり方だよ?」
そうこうしている間にも、魔術師達は少年と少女を担いで路地の奥へと消えていく。
それを見た男は、立ち上がると指をポキポキと鳴らして言う。
「さぁて、それじゃあそろそろ『執行部』も動くとするかなぁ!」
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