ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.1―3 依頼は守る

静まり返った王都トライスの路地裏で、2人の男が真正面から対峙する。

「ほう、貴様は私の邪魔をするのか?」

「ああ、それが依頼なんでね。俺は依頼はキチンとやり遂げる性分なんだ」

ゼラスの威圧を含んだ問いを、クリストはさらりと笑って受け流す。その顔には焦りや恐れの感情は見当たらない。

「ふむ、いい度胸だ。では我々は貴様を敵と見なすが構わないな?」

「もちろんさ。 元々俺は『魔導教団』がだいっ嫌いだからな。今更敵対するぐらいなんてことはない」

「ハハハッ、貴様のような子供を殺すのは気が引けるのだがな。悪く思うなよ?」

「おい、今俺の事を子供扱いしやがったな!」

「今そんな事言ってる場合ですか!?」

思わずツッコんでしまうソラミア。
するとその場にいる全員の視線が一斉にソラミアへと向けられる。

「ああ、君の事をすっかり忘れていたな、生き残りの少女よ。そうだな、そろそろ仕事を始めるとしよう」

そう言ってゼラス達が揃って腰から剣を抜く。
それを見たクリストは、ソラミアをかばうように前に立ち腰を落として構える。
右手を前に、左手を胸の前で構えて男達の攻撃に備える。

「あくまで戦うつもりか。まあいい、れ」

ゼラスが呟くように言うと、脇で静かにたたずんでいた男の1人が前に出た。

「ゼラスさん、本当に殺っちゃって良いんですね?」 

「もちろんだとも。殺ってしまえ」 

「了解です………よ!」

語尾を叫ぶと同時に、男は剣を頭の上から一直線に振り下ろす。その剣がクリストの命を完全に立つ、そこにいた誰もがその未来を予見した。

だが、結果はちがった。

振り下ろされた剣がクリストに直撃する直前。
今まで動かなかったクリストが突然動いた。
胸の前に構えた左手で剣を持った男の腕を掴むと、思い切り引っ張った。
自分の体の左側を剣が通過するように調整して。

「うおわっ………!?」

当然腕を引っ張られれば、体勢は崩れる。
体勢を崩し隙だらけの男の体めがけて、クリストの右拳が飛ぶ。

「ふっ………!」

カウンターで放ったクリストの拳は、男の右頬にクリーンヒット。男はそのまま壁まで吹っ飛ばされて動かなくなる。

「油断大敵ってやつだな。もう少し部下を教育した方がいいぜ、ゼラスさん」

「これは驚いた、子供の割にやるではないか。ウチにも欲しいぐらいだな」

「残念だがソイツは無理だな。俺が嫌だよ」

何気ない会話のように見えるが、2人とも目が笑っていない。お互いに隙を狙っているのだ。

そして、事態は急速に動き出す。

突如、クリストに吹っ飛ばされていた男がムクリと起き上がったのだ。
その瞬間、その場の全員が動いた。

ゼラスはクリストへと斬りかかり、他の男達が魔術の詠唱を開始する。
魔術を警戒すれば剣で倒す、剣を警戒すれば魔術で倒すという完璧な作戦だ。
勝利を確信したゼラスの顔に笑みが浮かぶ。

だが、クリストは思いがけない行動をとった。

ゼラスが振り下ろした剣の柄を、左手で弾く。
弾かれたゼラスの剣は、クリストの右肩を掠めて背後へと流れる。そして体勢を崩したゼラスに、クリストが蹴りを叩き込む。

「ぐふッ………」

「まだだぜ、ゼラスさんよぉ!」

そう叫んだクリストは、動きの止まったゼラスの胸に拳を叩き込んだ。
するとゼラスの体が吹っ飛ばされ、ちょうど魔術を詠唱していた男達のど真ん中に落ちた。
さすがの男達も判断にとまどり、魔術の詠唱が止まる。

そしてそれこそがクリストの狙い。

「よし行くぞ、ソラミア!」

「ええっ、ちょっとどこにですか!?」

ソラミアの腕を引っ張り、近くの路地へと駆け込む。
後ろでゼラスが何か叫んでいるが、気にしている暇はない。

薄暗い路地を全力で走るクリストとソラミア。
その後ろには、剣を装備した男達が追いかけてきている。

こうしてクリストの路地裏を舞台にした大逃走劇が開始された―――

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