ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》
No.1―2 追われる少女
「うーん……痛てて……」
と、目を覚ましたクリスト。
目を開けると、見覚えのある路地の壁と、青い空が見えた。
どうやら気を失ったあの路地で、仰向けに寝ているらしい。すると、
「あ、目を覚ましましたか。良かった……。大丈夫ですか?」 
そんな心配そうな声が横から聞こえてくる。
その声のした方を向くと、クリストの上に華麗に着地した、あの少女が座っていた。
長い金髪に緑の瞳の、いかにも貴族様ですと言わんばかりの美少女だ。
「あ……君はさっきの……」
「えぇ……さっきは本当にすみませんでした。あ、私ソラミアって言います」
と、すまなそうに謝ってくるソラミア。
「いや、いいんだ。俺も考え事をしていて、周りを見てなかったし……。それより、あれからどれぐらいたったかな……?」
「ええと……10分ぐらいでしょうか」
「そうか……」
今からでも、王城に行けば無断欠勤にはならないだろう。
そう考えて、立ち上がるクリスト。 
「ま、まだ立たない方が良いですよ!?」
と言って止めようとしてくるソラミア。 
しかしクリストは、少女の制止を聞かずに立ち上がる。すると、
「……あれれ?」
クラッと軽い目眩を感じて、思わず座り込んでしまう。
「だから言ったじゃないですか!まだ立ち上がっちゃダメですよ!」
「成る程、確かに立つのは無理そうだな……」
そう結論づけて、地面に座り込むクリスト。どうやら怪我の方は大したことないらしいが、頭を強く打ったので、一時的にダメージが残っているらしい。
「さてと、それじゃあ俺はここから動けない訳だし、立派な遅刻の理由にはなるな」
どうやらここぞとばかりに仕事をサボる気らしい。
「あのー、私に怒ったりしないんですか?私にあれだけの事をされたのに……」
と、おずおずと訪ねてくるソラミア。
自分のせいでクリストに怪我をさせたことを気にしているらしい。
「うーん、特に怒るようなことでもないしな。それに、こうやって堂々とサボる理由が出来たんだから、むしろ有難いぐらいだよ」
クリストは普段から、遅刻のせいで魔法で吹っ飛ばされたり、剣で峰打ちされたりしている。
それに比べれば、このぐらいの事はどうということはないのだ。
「そ、そうですか。まあ、貴方がそう言うなら良いんですけど……」
と、少し引いているソラミア。
そんなソラミアを見ながら、クリストは最初から気になっていた事を訊ねる。
「そういえば、何で君は屋根の上から落ちてきたんだ?よっぽどの事がない限り、屋根の上なんて走んないと思うんだけど」
そう訪ねられたソラミアは、ビクリと肩を震わせると、
「信じてもらえないかもしれないですけど………私は今、『魔導教団』という組織に狙われているんです。この王都へは、彼らから逃げて来たんですよ」
「―――!」
『魔導教団』。
この秘密組織は、世界各地で破壊活動を行い、幾つもの国を滅ぼしてきた、まさに世界の敵そのものだ。
クリストが所属する『王国魔導騎士団』とは、過去に何度も激しい闘いを繰り広げている。
クリスト達王国魔導騎士団は、魔法と呼ばれる異能の力を使うが、『魔導教団』に所属するヤツは、魔術と呼ばれる魔法のレプリカを使うという情報もあるとか。
つまり、一般市民にとって、『魔導教団』とは恐怖の象徴の名前なのだ。
しかしクリストは、
「成る程、『魔導教団』か。そりゃまた、何とも厄介な相手に目をつけられたもんだな」
と、どこまでも冷静だった。
まるでそんな事には慣れっこだとでも言わんばかりに。
「………驚かないんですね。今まで会った人は、みんな驚いて私を遠ざけていたのに……」
と不思議そうな顔をするソラミア。
この少女にとっては、『魔導教団』の名前は孤独の原因なのだ。なので、『魔導教団』と聞いても驚かないクリストは、珍しかったのだろう。
それを聞いたクリストは、頭をガリガリとかくと、
「まあ、俺の仕事は『魔導教団』みたいなヤツらと戦う事だしな。今更名前ぐれーじゃ驚かねーよ」
と言った。
クリストは魔導騎士団に所属する魔導騎士なのだ。
「さてと、そんな事より、君はこれからどうするんだ?また逃げるのか?」
「……勿論です。私は捕まるわけにはいかない。絶対に」 
「……そうかよ。じゃあ、俺が少しアドバイスしてやる。よーく聞けよ?」
そう言って、おもむろに3本の指を立てるクリスト。
「君には3つの選択肢がある。まず1つ目。このまま尻尾巻いて逃げちまうことだ。とりあえずは安全になるが、永遠に続く。次に2つ目。逃げるのを諦め、ここで迎え撃つ。負けたときは悲惨だが、勝てれば自由の身だ」
スラスラと選択肢を並べ、説明していくクリスト。
その選択肢は、きちんとメリットとデメリットの両方が提示されている。
「そんな……どうしろっていうんですか。どちらを選んでも待っているのは地獄じゃないですか。そんなの……選べません」
現実を突きつけられ、今にも泣きそうになるソラミア。そんなソラミアを見たクリストが、慌て始める。
「お、おい、ちょっと待てって。俺は選択肢が3つあるって、そう言っただろ?」   
「……じゃあ、3つ目って何なんですか?」
と、涙目で訊いてくるソラミア。
クリストは少し考えたあと、
「今までの選択肢がの中で一番マシなやつだよ。だから安心しろって。俺も一緒に手伝ってやるよ」 
とソラミアを安心させるように言った。
その言葉に、気付けばソラミアは思わず笑っていた。
何かが面白かった訳ではない。
思わず笑ってしまうほど、クリストの何気無い一言が温かく優しいものに思えたのだ。
今まで、自分にかけられる言葉は、罵倒や拒絶だった。でも、この人は違った。
この人は、本気で私の事を考えてくれているんだと、そう思える程に。
「それじゃあ、その3つ目の選択肢、教えてもらえますか?」
と訊ねると、クリストも笑って、
「あぁ、勿論。3つ目っていうのはだな……俺達に依頼する事だ。自分を守ってくれってな。そうすれば、俺がお前を助けてやるよ」
と言ってくる。
ソラミアは少し考えた後、躊躇いがちに返事をする。
「あの……本当に私なんかを助けてくれるんですか?今まで、私に関わろうとした人はいなかったのに……」  
ソラミアの問いに、クリストが答えようとしたその時―――
   不意に路地の影から、黒いローブを纏った1人の男が出て来た。
いや、1人だけではない。
そこらの物陰や屋根の上に、いつの間にか同じローブを纏った集団がいる。
その数は全部で15人。
「こいつら、いつの間に……?」
と驚くクリストとは反対に、 
「こ、この人達は……『魔導教団』の……」
と、怯えた様子を見せるソラミア。
すると、最初に現れた男が、こちらに向かって話しかけてきた。
「私は『魔導教団』所属のゼラスという者だ。やっと見つけたぞ、生き残りの少女よ。大人しく我々と共に来い」
「……お断りします。あなた達と行くぐらいなら、今ここで戦った方がマシです!」
そう言い返すソラミア。 
しかし、ソラミアの足は震えていて、とても戦えるような状態ではない。そして、ゼラスもそれに気づいている。
「ふっ、その足でか?やめた方がいい、無駄に犠牲が増えるだけだ。君もそんな事はしたくないだろう?」
「―――ッ!」
ソラミアは言い返せず、悔しそうに黙り込む。その反応が、男の言葉が真実であると語っていた。
「さて、では行こうか」
そう言ってソラミアの腕を掴もうと伸ばした手を、横から別の手が掴む。
「おいオッサン。人の事を無視しといて、勝手に話を進めんじゃねえよ。この子に先に話を持ちかけたのは、俺の方だぜ?」
それは、今まで黙っていたクリストだった。
腕を掴まれたゼラスは、敵意を宿した眼でクリストを睨み付ける。
「なんだ貴様は?この手を離せ。さもなくば今すぐに消すぞ?」
「ははっ、冗談だろ?俺はただ、交渉すんなら順番を守れって言ってんだよ。大人としての常識ってやつさ」
と珍しくマトモな事を言うクリストだが、背が小さく子供に見えるクリストが言ったのでは、イマイチ説得力に欠ける。
「まあ、どちらを取るかはソラミアの判断に任せようぜ?―――それで、君はどっちの手を取るのかな?」
そう言ってソラミアに向かって手を伸ばすクリスト。
聞かれたソラミアは、少しの間目をつむって考え込む。やがてゆっくりと目を開けると、差し出されたクリストの手をゆっくりと握る。
「お願いします。私を助けて下さい!」
頼まれたクリストは、フッと笑って一言だけ返す。
「ああ、任せとけ!」
と、目を覚ましたクリスト。
目を開けると、見覚えのある路地の壁と、青い空が見えた。
どうやら気を失ったあの路地で、仰向けに寝ているらしい。すると、
「あ、目を覚ましましたか。良かった……。大丈夫ですか?」 
そんな心配そうな声が横から聞こえてくる。
その声のした方を向くと、クリストの上に華麗に着地した、あの少女が座っていた。
長い金髪に緑の瞳の、いかにも貴族様ですと言わんばかりの美少女だ。
「あ……君はさっきの……」
「えぇ……さっきは本当にすみませんでした。あ、私ソラミアって言います」
と、すまなそうに謝ってくるソラミア。
「いや、いいんだ。俺も考え事をしていて、周りを見てなかったし……。それより、あれからどれぐらいたったかな……?」
「ええと……10分ぐらいでしょうか」
「そうか……」
今からでも、王城に行けば無断欠勤にはならないだろう。
そう考えて、立ち上がるクリスト。 
「ま、まだ立たない方が良いですよ!?」
と言って止めようとしてくるソラミア。 
しかしクリストは、少女の制止を聞かずに立ち上がる。すると、
「……あれれ?」
クラッと軽い目眩を感じて、思わず座り込んでしまう。
「だから言ったじゃないですか!まだ立ち上がっちゃダメですよ!」
「成る程、確かに立つのは無理そうだな……」
そう結論づけて、地面に座り込むクリスト。どうやら怪我の方は大したことないらしいが、頭を強く打ったので、一時的にダメージが残っているらしい。
「さてと、それじゃあ俺はここから動けない訳だし、立派な遅刻の理由にはなるな」
どうやらここぞとばかりに仕事をサボる気らしい。
「あのー、私に怒ったりしないんですか?私にあれだけの事をされたのに……」
と、おずおずと訪ねてくるソラミア。
自分のせいでクリストに怪我をさせたことを気にしているらしい。
「うーん、特に怒るようなことでもないしな。それに、こうやって堂々とサボる理由が出来たんだから、むしろ有難いぐらいだよ」
クリストは普段から、遅刻のせいで魔法で吹っ飛ばされたり、剣で峰打ちされたりしている。
それに比べれば、このぐらいの事はどうということはないのだ。
「そ、そうですか。まあ、貴方がそう言うなら良いんですけど……」
と、少し引いているソラミア。
そんなソラミアを見ながら、クリストは最初から気になっていた事を訊ねる。
「そういえば、何で君は屋根の上から落ちてきたんだ?よっぽどの事がない限り、屋根の上なんて走んないと思うんだけど」
そう訪ねられたソラミアは、ビクリと肩を震わせると、
「信じてもらえないかもしれないですけど………私は今、『魔導教団』という組織に狙われているんです。この王都へは、彼らから逃げて来たんですよ」
「―――!」
『魔導教団』。
この秘密組織は、世界各地で破壊活動を行い、幾つもの国を滅ぼしてきた、まさに世界の敵そのものだ。
クリストが所属する『王国魔導騎士団』とは、過去に何度も激しい闘いを繰り広げている。
クリスト達王国魔導騎士団は、魔法と呼ばれる異能の力を使うが、『魔導教団』に所属するヤツは、魔術と呼ばれる魔法のレプリカを使うという情報もあるとか。
つまり、一般市民にとって、『魔導教団』とは恐怖の象徴の名前なのだ。
しかしクリストは、
「成る程、『魔導教団』か。そりゃまた、何とも厄介な相手に目をつけられたもんだな」
と、どこまでも冷静だった。
まるでそんな事には慣れっこだとでも言わんばかりに。
「………驚かないんですね。今まで会った人は、みんな驚いて私を遠ざけていたのに……」
と不思議そうな顔をするソラミア。
この少女にとっては、『魔導教団』の名前は孤独の原因なのだ。なので、『魔導教団』と聞いても驚かないクリストは、珍しかったのだろう。
それを聞いたクリストは、頭をガリガリとかくと、
「まあ、俺の仕事は『魔導教団』みたいなヤツらと戦う事だしな。今更名前ぐれーじゃ驚かねーよ」
と言った。
クリストは魔導騎士団に所属する魔導騎士なのだ。
「さてと、そんな事より、君はこれからどうするんだ?また逃げるのか?」
「……勿論です。私は捕まるわけにはいかない。絶対に」 
「……そうかよ。じゃあ、俺が少しアドバイスしてやる。よーく聞けよ?」
そう言って、おもむろに3本の指を立てるクリスト。
「君には3つの選択肢がある。まず1つ目。このまま尻尾巻いて逃げちまうことだ。とりあえずは安全になるが、永遠に続く。次に2つ目。逃げるのを諦め、ここで迎え撃つ。負けたときは悲惨だが、勝てれば自由の身だ」
スラスラと選択肢を並べ、説明していくクリスト。
その選択肢は、きちんとメリットとデメリットの両方が提示されている。
「そんな……どうしろっていうんですか。どちらを選んでも待っているのは地獄じゃないですか。そんなの……選べません」
現実を突きつけられ、今にも泣きそうになるソラミア。そんなソラミアを見たクリストが、慌て始める。
「お、おい、ちょっと待てって。俺は選択肢が3つあるって、そう言っただろ?」   
「……じゃあ、3つ目って何なんですか?」
と、涙目で訊いてくるソラミア。
クリストは少し考えたあと、
「今までの選択肢がの中で一番マシなやつだよ。だから安心しろって。俺も一緒に手伝ってやるよ」 
とソラミアを安心させるように言った。
その言葉に、気付けばソラミアは思わず笑っていた。
何かが面白かった訳ではない。
思わず笑ってしまうほど、クリストの何気無い一言が温かく優しいものに思えたのだ。
今まで、自分にかけられる言葉は、罵倒や拒絶だった。でも、この人は違った。
この人は、本気で私の事を考えてくれているんだと、そう思える程に。
「それじゃあ、その3つ目の選択肢、教えてもらえますか?」
と訊ねると、クリストも笑って、
「あぁ、勿論。3つ目っていうのはだな……俺達に依頼する事だ。自分を守ってくれってな。そうすれば、俺がお前を助けてやるよ」
と言ってくる。
ソラミアは少し考えた後、躊躇いがちに返事をする。
「あの……本当に私なんかを助けてくれるんですか?今まで、私に関わろうとした人はいなかったのに……」  
ソラミアの問いに、クリストが答えようとしたその時―――
   不意に路地の影から、黒いローブを纏った1人の男が出て来た。
いや、1人だけではない。
そこらの物陰や屋根の上に、いつの間にか同じローブを纏った集団がいる。
その数は全部で15人。
「こいつら、いつの間に……?」
と驚くクリストとは反対に、 
「こ、この人達は……『魔導教団』の……」
と、怯えた様子を見せるソラミア。
すると、最初に現れた男が、こちらに向かって話しかけてきた。
「私は『魔導教団』所属のゼラスという者だ。やっと見つけたぞ、生き残りの少女よ。大人しく我々と共に来い」
「……お断りします。あなた達と行くぐらいなら、今ここで戦った方がマシです!」
そう言い返すソラミア。 
しかし、ソラミアの足は震えていて、とても戦えるような状態ではない。そして、ゼラスもそれに気づいている。
「ふっ、その足でか?やめた方がいい、無駄に犠牲が増えるだけだ。君もそんな事はしたくないだろう?」
「―――ッ!」
ソラミアは言い返せず、悔しそうに黙り込む。その反応が、男の言葉が真実であると語っていた。
「さて、では行こうか」
そう言ってソラミアの腕を掴もうと伸ばした手を、横から別の手が掴む。
「おいオッサン。人の事を無視しといて、勝手に話を進めんじゃねえよ。この子に先に話を持ちかけたのは、俺の方だぜ?」
それは、今まで黙っていたクリストだった。
腕を掴まれたゼラスは、敵意を宿した眼でクリストを睨み付ける。
「なんだ貴様は?この手を離せ。さもなくば今すぐに消すぞ?」
「ははっ、冗談だろ?俺はただ、交渉すんなら順番を守れって言ってんだよ。大人としての常識ってやつさ」
と珍しくマトモな事を言うクリストだが、背が小さく子供に見えるクリストが言ったのでは、イマイチ説得力に欠ける。
「まあ、どちらを取るかはソラミアの判断に任せようぜ?―――それで、君はどっちの手を取るのかな?」
そう言ってソラミアに向かって手を伸ばすクリスト。
聞かれたソラミアは、少しの間目をつむって考え込む。やがてゆっくりと目を開けると、差し出されたクリストの手をゆっくりと握る。
「お願いします。私を助けて下さい!」
頼まれたクリストは、フッと笑って一言だけ返す。
「ああ、任せとけ!」
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