過去と現在を結ぶ異世界ストーリー

なつきいろ

~婚約指輪と貪愛二人~最愛と純愛③

連邦国家ベルカイム・国都ベルカイム

様々な国家の人や文化、芸術が集まって成り立つ連邦国家
著名な芸術家などがこのベルカイムに集まることから『文化芸術の都』と呼ばれている
町並みは現代風に言えば西洋文化やら東洋文化やらエキゾチックやらとごちゃ混ぜな印象だ
お世辞にも整備されているとは言えない雑多な街といえる

□□□□

マイホームでお嫁さん会議が繰り広げられている中、俺はある目的の為にエステルと供に文化芸術の都ベルカイムに来ていた

俺もエステルもベルカイムは初めてなのでお上りさん状態で周りをキョロキョロしている
街行く人々に怪訝そうな顔をされたが初めての町なら誰でもキョロキョロするよな?

(イシスやエクスペインに比べるとなんか乱雑な印象を受けるな。文化芸術の都なんて言うから綺麗な町並みを想像していたんだが、技術者が多くベルカイムに集まるから文化芸術の都ということなんだろうか?だがこの乱雑さ嫌いじゃない!なんか落ち着くな~)

完璧に整理された部屋よりも多少散らかった部屋の方が落ち着く感じ?
なんかベルカイムはマイルームを連想させる居心地感なんだよなぁ

{ところでお師匠様は何故ベルカイムにきたのじゃ?まだヘイネ達とデート中なのではないのか?}

俺が妙な安心感を得ながら町並みを楽しんでいたら、エステルが今回のベルカイム訪問の意図を尋ねてきた
それはいい。それは別に構わないのだが・・・

(女神であるヘイネを呼び捨てかよ!確かにヘイネなら許可はするだろうが・・・。本当エステルはブレないよな。でもこういう勝ち気なところがまたたまらなくいいんだよな~。必ず俺の嫁に加えてやるからな!)

あかりを迎えてからもエステルへのアプローチは続いている
しかしやはりエステルには愛情スキルは見受けられない
俺に好意があるのは間違いないのにだ
何が足りないのかわからないがとにかく持久戦の構えだ

「婚約指輪を買いにきた。文化芸術の都ならいい指輪がありそうだと思ってな」
{!!!婚約指輪じゃと!?}

そう俺がベルカイムに来た理由は婚約指輪を買う為だ
あかりから教わった愛情表現の『言葉と態度でワンセット』を実行するつもりだ

普段俺の嫁達には惜しみなく愛の言葉を囁いてるし、キスなどの態度も示している
それでも十分なのだろうが、やはり『嫁』と言う立場をしっかりと確立させるなら婚約指輪という形に残る愛情表現は必要なのではないだろうかとずっと考えていた
イリアスの文化はどうか知らないが、少なくともお嫁さんに夢を抱く日本人のあかりは婚約指輪などもいずれ意識するに違いない
どうせいずれは必要になるものなら、ヘイネが来ている今がちょうどいい。まとめて全員に渡してしまおうと思ったのだ

もちろん俺なら指輪ぐらい簡単に創れるが、女の子が喜びそうな婚約指輪というものがどういうものかイマイチよくわからん
てか、わかるはずもない!そもそも俺には結婚経験ないしな!
だから下見ついでに情報収集といいものがあったらそのまま購入してしまおうと思っている

「エステルもいる?」
{・・・}
う~ん。ご機嫌斜めモードですか・・・

まぁこうなることは想定済みだ。分かった上で連れてきたからな
今回のエステル攻略戦の概要は現実の直視だ
俺と嫁達の関係をハッキリと意識させることでエステルの心の変化を促す方針である

そんな俺の企みなどわからないであろうエステルと供に俺は宝石店へ向かった

□□□□

国都ベルカイム・宝石店

【いらっしゃいませ。当店へようこそ。何かお探しのものはございますでしょうか?】

周りの店とは違い、煉瓦造りのちょっと高級そうな店へと俺とエステルは足を踏み入れた
そんな俺達を出迎えてくれたのは獣人の店員さんだった
イシスやエクスペインの店員はみんな人間族だったのでちょっと珍しい
こういうところは多種多様な文化の表れだろうか

俺は店員さんに婚約指輪を見に来たことを伝えた
その店員さんはチラッと俺のことを伺うように見た気がする。・・・いや、確実に伺ったのだろう
もうこの展開には慣れた。俺はやはり幼く見えるらしい
悲しい日本人の性だよな・・・
とりあえず俺は何がいいのかさっぱりわからないので店員さんにオススメを聞いてみた

【婚約指輪でしたら、やはり定番のダイヤモンドリングでしょうか】

あっ・・・イリアスにもダイヤモンドあるのか
てか、なんでもかんでも地球に似過ぎじゃないか?
紅茶に、料理に、宝石ときましたか・・・
まさか擬似的地球でも創り出そうとしてるのか?
とりあえず婚約指輪だ!あまり時間もないしな!

「なんでダイヤモンドが定番なんです?他にも宝石ってありますよね?」

なんかいっぱいあったよな?サファイアとか?
宝石とか全く興味ないからわからん!
それでも指輪にはダイヤモンドってのはよく聞くけど、なんか意味あるのか?

【ダイヤモンドは硬い鉱物であり、その透き通るような輝きもとても美しいです。石言葉の「永遠の絆・純潔・純愛」という意味からも、婚約指輪の宝石としてふさわしいとされています】

ふ~ん。硬くて綺麗なだけなら他の宝石でもよくね?
まぁ確かにダイヤモンドの石言葉あたりはピッタリだけどさ
他の宝石でも近い言葉ならたくさんあるんじゃないか?
店員さんが実際にダイヤモンドリングをショーケース
から取り出して見せてくれた
まぁ綺麗だけど?なんかイマイチピンっとこないな・・・

【もちろん婚約指輪にあしらう宝石としてダイヤモンド以外を選ばれる方もいらっしゃいます。ダイヤモンド以外にお勧めなのは、 サファイアやルビー、パールなど 。いずれも美しく、希少性もあり、 婚約指輪に飾る宝石としてふさわしい品格があるといえるでしょう。また、自分の誕生石をあしらうのも素敵だと思います】

(あっ、やっぱり他の宝石でもいいのか。ダイヤモンドが定番なのはわかるが、みんなと同じってのはなんかこう個性がないというかなんというか・・・こういう感覚は俺だけなのか?俺の嫁はほかのやつらとは違う!特別なんだ!みたいな個性が欲しいな。しかもダイヤモンドに勝るとも劣らない宝石でさ。エステルにでも聞いてみるかな?)

先程から店員さんが見せてくれるダイヤモンドリングを、エステルが喰い入るように見ていたのは分かっていた
エステルもこういう貴金属類には興味あるらしい
こういうところは女の子らしいよな

「なに?エステルはダイヤモンドにでも興味あるの?」
{そ、そうじゃな!やはり憧れはあるのじゃ!ダイヤモンドリングは一種のステータスなのじゃ!}

(ふ~ん。じゃあ個性とか求めないほうが無難か?いやしかし・・・婚約指輪を無難という理由で決めていいのか?そりゃあダイヤモンドリングならみんな間違いなく喜ぶんだろうけどさ・・・。ただ、その辺の市民Aと俺の最愛ヘイネが一緒のダイヤモンドってのが気に入らないんだよなぁ・・・ダイヤモンド以上の宝石ってないのか?金ならたくさんあるんだが?)

俺の困惑を余所に店員さんの説明は続く
とりあえず耳では聞いているが店内の宝石を見回してみる

【しかし、ダイヤモンド以外で贈るなら明確な理由やコンセプトが必要だと思います】
「明確な理由やコンセプト?」

はぁ?なんだそりゃ?
なんでダイヤモンド以外だと理由いるんだよ!?
別の宝石選ぶやつだっているんだろ?

【なぜなのか結論から申し上げますと、贈られる婚約指輪のほとんどがダイヤモンドリングだからです。婚約指輪はダイヤモンドと言ってもいいぐらいの認識を女性なら誰もが持たれております。ですので別の宝石にするなら、なぜその宝石なのか、という理由を必ず相手は欲しがるでしょう】

・・・。

な、なるほど
所謂指輪界の常識というやつか・・・
確かに宝石に全く興味ない俺ですら指輪はダイヤモンドとか知ってるぐらいだもんな・・・
女の子ならみんな知っている可能性はあるよな
さっきエステルが言ってた憧れってのもそういうことか
う~ん。じゃあダイヤモンドにでもしとくか~?

「エステルや店員さんもやっぱり婚約指輪ならダイヤモンドがいいとかそんな感じ?」

まぁ俺の意見よりも、女の子であるエステル達に意見を聞くのがベストだよな
そしてエステルだけじゃ意見が偏るので、店員さんにも意見を聞くのがポイントだ
エステルは公爵令嬢だから貴族側の意見を、店員さんからは一般側の意見を聞けばほぼ万全なのではないだろうか?

{そうじゃな。もらえるならやはりダイヤモンドがいいのじゃ!もちろんダイヤモンドでなくても構わぬがのぅ}

(いやいやいや!ダイヤモンドに目を奪われてますよね?ダイヤモンドでなくてもいい、とか明らかに強がりですよね?)

【私はお相手がおりませんので頂ける機会があるのでしたらどのようなものでも嬉しく思います。ただ個人的にはやはりダイヤモンドには憧れがございます】

(あ、やべ。なんか失礼な事聞いちゃったかな・・・しかし店員さんはフリーなのか。別に容姿も悪くないのに不思議だな?あ~!もしかして宝石店で働いてるから出会いがなかったり、高値の華とか思われてたりするのか?)

二人もこう言ってるし、とりあえずダイヤモンドでもいいかな?と決めかけた時に店の奥にあるショーケースに目がいった
それは他の宝石とはまるで隔離してあるように展示されていて値段表示がされていなかった
値段表示がない以上販売する予定のないただの見せ物なのかもしれないが、俺はその宝石の美しい輝きに心を奪われていた

そんな俺の横にきていたエステルが、その宝石を見てポツリッと一言漏らした

{オ、オラクロアなのじゃ!初めて見たのじゃ!}
うおわ!?びっくりした!急なハイテンションはやめれ!

それにしてもオラクロア?初めて聞いたな。地球にはない宝石か?
てか、エステルは初めて見た割によく知ってたな?・・・と思ったらちゃんと記載されてるじゃん!
なんで知ってるの?とか聞かなくてよかった。恥ずかしい思いせずに済んだよ、全く・・・

そんなやり取りをしている俺達を見て店員さんが少し困った顔をしてオラクロアについて説明してくれた
なぜ困った顔をしたのか少し気になるところだが・・・

【オラクロア鉱石は別名『ピンクダイヤモンド』と呼ばれております。桜色の可愛らしいものから、紅色のものまで幅広い色味が在ります】

確かに目の前にある宝石は淡い桜色で可愛らしい輝きを放っている
なるほど。ピンクダイヤモンドとは言い得て妙だ

【オラクロア鉱石には、一般的なダイヤモンドの宝石言葉の他に、恋愛にまつわる意味もあります。恋愛・求婚・婚約など、愛を示す言葉が多くあり『完全無欠の愛』の意味が込められています】

ほほぉ!完全無欠の愛とかその厨二感を煽る言葉がいいねぇ!
しかも話の内容からするとダイヤモンドと同等かそれ以上の価値か

【また、『七生の愛』や『偕同の愛』、『完結された愛』などの意味もありますので、最終的に結婚する二人にとってとても意味深いものとなることでしょう。他にも『両想い』『答え』『自信』など、恋にはぴったりな意味合いがたくさんあります】

・・・七生の愛?偕同の愛?なんだそりゃ?
聞いたことないな。店員さんにきい・・・いや待て!
もしかしたらこの世界では常識かもしれないぞ?
店員さんに聞いて恥をかきたくなかったのでエステルに尋ねてみる

{『七生の愛』とは何度生まれ変わっても変わらぬ愛を捧げるという意味なのじゃ。『偕同の愛』とは死後の世界でも供に愛しあっていきたいという意味なのじゃ}

ふむふむ。それは確かにすごい愛ですな。というか、
・・・生まれ変わるのか死ぬのかハッキリしろよ!
と無粋なツッコミはしないでおこう
てかどっちも死ぬこと前提なんだがいいのかな?
・・・まぁそれだけの愛を表してると言いたい訳か

【奇跡が起きなければ出会えない鉱石とも言われておりますので、『二人が出会えたことの奇跡』という意味にも繋がり、より二人の絆を高めてくれるでしょう】

かぁ~!クサい!クサいがいいな!
奇跡とか運命とかって言葉は女の子は弱いからな!
これだ!これしかない!全力で購入しよう!

「説明ありがとうございます。個人の好みもあるでしょうが、俺はこれオラクロアが気に入りましたね。これでお願いしたいです」

そんな俺の言葉を聞いた店員さんは、やはりか、とでも言いたそうな困った表情を向けてきた
またこの困った顔だ。なんなんだ?気になるな・・・

【申し訳ありません。そちらの商品は在庫がございません。またいつ入荷するのかも全く目処が立たない状況でございます。】

値段表示がない以上それぐらいのことは想定内だ
だからと言って諦めるつもりはないがな!
ないなら探せばいい!店員さんならもしかしたら知ってるかも?

「ないのはわかりましたので、どうやったら手に入るかだけ教えてください。直接採取してきますから」
【・・・え?こちら展示されている物をお求めにならないのですか!?】

あ~!やっとわかった、店員さんが困った顔した理由が!
俺もどっかのバカ同様展示してある物を要求してくると思ったのか。まぁそんなことするのは大概貴族のあほ共だろうが
いちいち無駄なテンプレなんか踏んでいられるか!

「それを販売できないのは分かっているつもりです。お店に箔をつける為の一種のデモンストレーションですよね?こういうお店ならそれがどれだけ有効かわかりますから」

こんなの地球では当たり前のようにあったことだよな
イリアスではどうか知らないがあまり見たことはないな
ん~、それにしてもデモンストレーションをするのはいいが詰めが甘いんだよなぁ。俺ならこう・・・
店員さんを見て俺はそう思わざるを得なかった

{ほほ~!大人の対応なのじゃ!さすが妾のお師匠様なのじゃ!}
そうだろ、そうだろ。ついでに好感度もあげてくれな?

エステルとついでに店員さんからの尊敬の眼差しが気持ちいい!
ありがとう!地球の知識!そう感謝せざるをえなかった
とりあえず時間がないので店員さんに改めて尋ねてみた

「オラクロア『鉱石』ってことは採取できますよね?」
【厳密に言えばできなくはないですが・・・。ただ鉱石ではあっても鉱山から採取するのではありません。魔物が生成する鉱石なんです。そしてその魔物というのがオラクロアドラゴンなのです。故に奇跡が起きなければ出会えない鉱石と言われているんです】

うん、それのなにが奇跡なのかさっぱりわからん!
まぁオラクロアドラゴン倒せばいいだけなんだろ?
店員さんから場所を聞き出した俺達はそのまま店を後にした

□□□□

魔樹海・最浅層 14時30分

『魔樹海』
教国イスニールと魔境の境に接する広大な樹海である
樹海は最浅層・浅層・中層・深層・最深層の5つのエリアに分かれており最深層にいくに従い魔物も非常に強くなる
魔山49層クラスが魔樹海では中層と深層の境となる

今俺とエステルはオラクロアドラゴンを求めてこの魔樹海にきていた。店員さんの話だとここにいるらしい
タイムリミットはお嫁さん会議が終了する16時だ!

{さすが魔樹海なのじゃ、広いのぅ。して、お師匠様?どうやって最深層まで行くのじゃ?}
魔樹海の広大さを一目見たエステルが尋ねてくる

もはや猶予がない以上、こんな広大な樹海をちまちまと探してはいられない
獲物オラクロアドラゴンはきっと最深層にいる違いない!
俺がそう当たりをつけたことをエステルに話していた
目の前には鬱蒼と木々が広がる魔樹海の入口に立った俺は不敵な笑いをしてエステルに尋ねる

「簡単な話さ・・・なぁ、エステル。エステルは飛ぶ斬撃を見たことがあるか?(俺はある!)」
{飛ぶ斬撃じゃと!?}
そうそう、そういう反応が欲しかったんだ

俺は神剣ふぉるきなを抜き、片手で刀を上部に構え、もう一方の手で刀を持っている腕を支えた体勢で構える
刀を持つ手と足に力を入れながら、

「眼・耳・鼻・舌・身・意。人の六根に好・悪・平・またおのおのに浄と染。一世三十六煩悩。・・・一刀流・三十六煩〇鳳!」

そう唱えた俺は一気に刀を振り下ろす!
渦を巻きながら放たれた飛ぶ斬撃は目の前に鬱蒼と広がる木々を木っ端みじんに吹き飛ばし、やがて一筋の道を作った・・・決まった!ねぇ、どう?決まったよね!?

【スキル『真空波』を取得 ランク:不明】

はい、調子に乗りました。ただの真空波です
刀持つとなんとなくやっちゃう気持ちわかんないかな!?

{本当お師匠様は無茶苦茶なのじゃ・・・まぁこれで進みやすくなったがの}
な~んだよ!あっさりしてんなぁ

こうして俺達は魔樹海のど真ん中を悠々と歩いて最深層まで向かうことにした

□□□□

魔樹海・最深層 14時40分

{お、お師匠様!?どうしたのじゃ!?}
「・・・」

最深層だと思われる入口で今俺はエステルを抱きしめている
いちゃいちゃしているのではない。いや本当はすごくしたいけどね!?ただ余り時間的猶予がないからさ・・・
なんでそんなことになっているのかだが・・・
最深層入口に着いたとき時間節約の為に、俺達は分かれてオラクロアドラゴンを探すことに決めた

(・・・正直かなり不安だ。と言ってもエステルの力はもはや魔物程度では問題ないぐらいの強さなのだが。しかし絶対ないとは言えないし・・・単純に初めての場所なのに俺の側にいないということが恐怖だ。万が一エステルになにかあったらと考えると不安過ぎて離れたくない!)

「いいか?エステル。無理だけはしないでくれ。少しでも身の危険を感じたらすぐ逃げるんだ。もしくは大死滅圧をしろ。わかったな?そうしたら魔物の尽くを殲滅して即かけつけるからな!いいか?絶対無茶はするなよ?」

エステルを抱きしめていた腕に更に力を入れる
エステルの暴力的な柔らかさが俺の体に伝わってくる
た、たまりませんなぁ!山脈がむにゅんむにゅんとぶつかってくる
上から覆い被さるような体勢だからかエステルからの抵抗は少ない

{心配しすぎなのじゃ!大丈夫なのじゃ!は、早く離れんか!}
ほら、これですよ。完全にナメきっている。だから不安なんだ

「どんなに力があっても相手を侮るな。自分に驕るな。そして周りを常に注意しろ。それが戦いの基本だ。慢心や油断が思わぬ身の破滅を招く。エステルが少しでも傷ついてみろ?それはもうエステルだけの痛みじゃない。俺だってエステル同様痛いんだ。だから本当に気をつけてくれ」

あ、やばい。少しシリアスチックな雰囲気が・・・
でも今のエステルをそのまま行かせるのはなにかと不安だしな
それにもうちょっとエステルの柔らかさを堪能したい

{なんで妾が傷つくとお師匠様まで痛むのじゃ?よくわからぬのじゃ。妾の傷とお師匠様は関係ないはずなのじゃ}

エステルは心底理解しがたいといった感じなのだろうか
覆い被さるように抱きしめているので、表情は窺い知れないがきっと眉間にシワを寄せて難しい顔をしているに違いない

しかしエステルがなにがわからないのか逆に俺もわからない
まぁこの際わからないことは置いておこう
ただ・・・俺とエステルは関係ないだと!?
その言葉にはさすがに呆れた。そして同時に怒りも沸いた
俺がエステルに抱いてる感情はエステルなら分かっているはずだ!
分かっているなら俺とエステルは関係ないはずないだろ!

だから俺は抱きしめていたエステルの体を離し、エステルの瞳に俺しか映らないぐらいエステルをジッと見つめた
そしてエステルの瞳に俺しか映っていないのを確認した後、をエステルにぶつけてみた

「エステルはなんにも分かってない!体が痛いんじゃないんだよ!心が痛むんだよ!大切な人が傷つけば誰だって悲しむものだろ?心が痛むものだろ?それに俺とエステルは関係ないだと?いい加減にしろ!!いつも俺がどんな気持ちでエステルに接しているか見れば分かるだろ!俺にとってエステルは大切な人なんだ!!だから俺とエステルは関係ないとか二度と言うなよ!それだけは絶対の絶対だ!もう一度言ったらさすがの俺も怒るぞ!!」

これだけ俺の愛情を込めた想いを伝えたんだ
きっとエステルは感動して愛情スキルを覚醒。
そしてそのまま俺に抱き着いてきてキスしてくるに違いないと密かにほくそ笑んでいた
さあ!結果は如何に!

{・・・へ?妾がお師匠様の大切な人じゃと?}
「・・・は?俺の態度から普通分からないか?」

辺りをヒュ~と寂しげな一陣の風が吹き抜けていく
俺達はお互いキョトンとした顔で固まっている

(・・・いやいやいやいやいや!なに!?なんなのこの状況!?どういうこと!?まさかエステルは俺の気持ちに気付いていなかったのか?・・・え?冗談だよな?あんなにアピールしたんだぞ!?普通気付かないか!?はっ!どっきり!?ドッキリなんだろ?これ!?・・・と、とりあえず落ち着こう。な、なんにせよエステルに確認しなくちゃな)

{妾がお師匠様の大切な人・・・大切な人・・・あぁ!分かったのじゃ!シャル達と一緒で友達として大切な人という意味なのじゃな!}
はぁ!?確かにシャル達は大切だが大切の意味が全く違う!

解答を導き出したエステルは、どうじゃ?すごいであろう?と言わんばかりのドヤ顔でその大きな胸を張っていた
もちろん、たゆんたゆん、と揺れていたのは言わずもがなである

「現実逃避してじゃねぇ!俺はどう考えてもアピールしまくってただろ!普通気付くわ!どんだけ鈍感なんだよ!」

そのドヤ顔があまりにも子憎たらしかったので思わず、お前はバカか?と、チョップしてしまった
俺はエステルのあまりの鈍感ぶりにお仕置きが必要だなと思っていたところ、頭を抑え涙ぐんでいたエステルが恨めしげに俺を睨んできた
そのエステルの真に迫る様相に俺は少なからずたじろいだ

(あれ?なんでエステルが怒ってるんだ?今回は俺が怒っていい場面なはずだよな?睨まれる謂われはないんだが!?)

なにがなんやらと困惑している俺を無視して、ついにエステルが吠えた

{気付くはずがないのじゃ!いつもお師匠様はふざけておるから全然わからないのじゃ!それに・・・お師匠は一度も妾に、お師匠様の気持ちを言ってくれたことがないのじゃ!妾はエスパーじゃないのじゃ!態度だけでは分からないのじゃ!気持ちを、想いを、言葉にしてくれないとわからないのじゃ!}

「!!!」

それはまさにエステルの心の叫びと言ってもよかった
エステルは既に泣きそうな表情ではあるが泣く気配はない
人前で泣かないのは貴族のプライドだからだろうか

(俺の前でぐらいなら泣いてくれてもいいのに・・・。いやこんな状況を作り出した張本人が言うことじゃないか。それにしてもあかりに続いてまた俺はやらかしたのか・・・。言葉を紡ぐ重要性は理解したつもりだったが、単なるつもりに過ぎなかったようだ。理解することと実践することのなんと難しきことよ・・・。気持ちを切り換えろ!しっかりしろ!3度失敗しないよう心に深く刻まいとな!)

俺は想いを新たにエステルを抱きしめようとしたが、振り払われてしまった
女の子に振り払われた経験なんて今まで一度もなかったので正直堪えた。仕方ないとは言え悲しくもあった
ただそれだけ俺はエステルを傷付けてしまったんだよな・・・嫌われても仕方がないぐらいに

(いやいや!またエステルを傷付けてしまうところだった!気をつけないと。エステルが俺を嫌うことはきっとない。それは俺も同じだ。それぐらい俺とエステルはお互いを貪り求めている。それこそが貪愛である俺達の真骨頂なんだからな!だから今!エステルを貪り求めないでどうする!たかが一度振り払われたぐらいでショゲるな!俺らしくもない!何度振り払われようと目の前のエステルを貪り求め続けろ!!)

貪愛と化した俺は嫌がるエステルを強引に抱き寄せた
これでもきっと嫌われない。今ならわかる
俺の胸の中でエステルに激しく抵抗されるも痛くはない
エステルはきっと俺以上に傷付いたんだろうから
・・・やっぱり少し痛いかも。精神論だけじゃままならんよ?実際は。心頭なんたら火もまた涼しだっけ?普通に熱いからな?
そして今だに続くエステルの抵抗にもめげず俺は口を開いた

「エステル好きだ!」

抵抗していたエステルの体がビクリッと跳ね上がり、激しい抗議は陰を潜めた
もうごちゃごちゃご託はいらない
言葉は想いで、態度は抱擁で、俺の気持ち全てをエステルに伝えた

{・・・妾はお師匠様の事嫌いなのじゃ!}

ぐふっ!!嫌いと言われたが本当は嫌われてはいない。
わかっちゃいる。わかっちゃいるんだが・・・
嫌い!って言われると結構くるもんだな・・・

「そうか。でも俺はエステルが好きだ。だからこれからも一緒にいたい。エステルは俺と一緒にいるの嫌か?」
{妾はお師匠様が嫌いじゃ。でもお師匠様とは一緒にいるのじゃ!お師匠様とそう約束したからの。妾は約束は破らぬ女なのじゃ!}

ぷっ。思わず吹き出しそうになったわ!
なんて下手くそな言い訳だよ!なんか可愛いな!
そうだよな。エステルは約束を破らないんだよな。うんうん

「ありがとうエステル。これからも一緒にいよう。俺はエステルが好きだから一緒にいたい。エステルは俺との約束を破らない為に一緒にいる。間違いないよな?」
{そ、そうなのじゃ・・・}

慌ててる、慌ててる。意地張ってるのがバレバレだな
エステルも本当は俺が好きだから一緒にいたいんだよな
可愛いやつだ・・・だからかな?エステルがすごく愛おしい
・・・前はダメだったけど今ならどうだろう?

「なぁ、エステル。改めて『約束』しないか?俺は夏休みの間だけじゃなく、これからもずっとエステルと一緒にいたいし、エステルにずっと一緒にいてほしい。エステルはどうだろうか?もしエステルも俺と同じ気持ちでこれからもずっと俺と一緒にいたいと願うなら・・・『約束』してくれないか?」

俺は心を込めた抱擁を解き真っすぐエステルを見つめる
そして俺における『約束』の意味をエステルに静かに語った
しばらく俺の説明に耳を傾けるエステル
そして次第にエステルの視線が俺の唇に集まるのを感じた
エステルが意識してくれているのが嬉しかった
そんなエステルがポツリッと一言尋ねてきた

{・・・必要だからキスするのじゃな?}
そのセリフどこかで聞いたな・・・

そしてハッと思い出す。あれは武術大会が開かれる前のことだった

~~回想開始~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
回想は記憶収集を取得した場面である

「その通りだ。それでな、一つ問題があるんだよ。余りにも強力な魔法の為、特別な制約があるみたいなんだ。相手に触れないといけない訳だが、なにやらキスをするか、してもらわないといけないみたいなんだよ。場所はどこでもいいらしいが。制約は使用者の影響を強く受けるみたいでさ。それでエステル、どちらがキスする?」

『なっ!?』

「さっき使用許可くれたし今更なしはダメだぞ?」
『・・・必要だからキスをするのじゃな?』

「そうだ!必要だからキスをしたい!どちらがする?」
『お、お師匠様からでお願いするのじゃ。でも唇は嫌なのじゃ・・・』

「分かった。じゃあ頬にするな?」
『・・・』

~~回想終了~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エステルが尋ねてきたのはあの時と同じ質問だ
確かにあの時わずかな違和感を俺は感じていた
俺はあの時エステルが必要だからキスしたいと伝えたつもりだった
だって俺の気持ちがエステルに伝わっていると思っていたから
俺の想いをエステルにキチンと伝えもせずに・・・

結局俺の気持ちはエステルに伝わっていなかった
当たり前だ。俺はエステルに伝えていなかったのだから
だとしたらあの時エステルは俺の答えをどう受け止めていたのだろうか?

(きっとキスしたいとは受け止めていないだろうな。下手したら使キスしたいと受け止めてしまったのかもしれない・・・技を使う為だからキスさせろとか言われたらそりゃ誰だって萎えるわな。あの時唇を嫌がられたのはそのせいかもしれない。もしかしたら今の質問もあの時と同じなのではないだろうか?多分そうなのかもしれない。だとしたら俺の答えは・・・)

「違う!俺がエステルとキスしたいんだ!『約束』はその過程でしかない。だからと言って『約束』を軽んじてはいないからな?勘違いするなよ?ただそれ以上に大好きなエステルとキスをしたいんだ!俺にはエステルが必要だからな!」

エステルは俺の答えに目を見開いて驚いている
その答えがくるとは予想していなかったと言わんばかりだ

「エステル、いいよな?」
{・・・}

俺はエステルの瞳を見つめ、先への了承を促した
エステルは答えなかった
俺はどこかで『無言は肯定の証』だときいたことがある
だって反対の意思は言葉で伝えないと伝わらないから
ならエステルが答えないのはキスしていいと受けとるべきだ
だって俺は、俺達は貪愛だからな!図々しいぐらいがちょうどいい

「エステル好きだ!」
{!!!}
そして俺はそのままエステルと唇を重ねた

それは軽く唇を合わせただけのフレンチキス
貪愛なのにフレンチキスとはこれ如何に?とは思うが、今の俺達にはこれぐらいがちょうどいい

エステルを貪り求めたい気持ちはあるが今は少しも焦りはない
少しずつでいい、少しずつ俺達の関係を確かなものにしていけばいいのだから

(俺の気持ちは既に伝えた。だからエステル。あとはお前の気持ちだけだ。いつか俺にその秘めた気持ちを伝えてもいいと思う日がきたのなら想いを言葉にして欲しい。その日がくるまで俺はエステルを好きで居続けるからさ・・・神眼!)

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『恋慕』ランク:∞
伝説の乙女スキル
対象のことを好きで好きでたまらないのに
素直になれないちょっぴり切ない乙女のみが取得可能
効果は段階で解放される、解放される効果は『見事』の一言
解放条件は人それぞれ
※素直になれない乙女心の為、恋慕対象には恋慕スキル視認不可

(注:ユウジは真の神眼効果により全て見えています)
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エステル=L=シェルストリーム 12歳 ♀ レベル:319 15月8日

種族:人間
職業:魔導師

『恋慕』Lv.4
(Lv)   (効果)      (解放条件)
・Lv.1 恋慕度による身体強化  常に一緒に
・Lv.2 全能力成長速度激増   恋の自覚
・Lv.3 全能力消費魔力減5   やきもち
・Lv.4 『恋慕の情』解放    気持ちが知りたい
・Lv.5 『愛情スキル』解放   愛の告白
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これが俺と唯愛の賢妻エステルの『はじめての約束』だった

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