ラスボス転生!?~明日からラスボスやめます~
勇者、勇者、勇者です!!
「マナ様。1つ言ってきたいことが......」
細々とした声で、リッカが手を挙げている。
「どうしたの? リッカ」
そして、リッカの挙げていた手が、ガチャガチャンと機械音をたてて変化していく。
「えっ!?」
突如として現れた異変に驚く。リッカが、こういうことを出来るのは知っていたけど、実際に見るのと、ゲームで見るのは違う。
鉄の細かいパーツが世話しなく動き、一つの物になろうと形を作っている。
そして、変化が終わった時に現れたものは、私には、よく見た事があるもの。――――大型のテレビモニターだった。
「......すごい」
おー、と感心していると、そのモニターに映っている映像に違和感を覚える。
「これは、何の映像? 絨毯?」
写し出されている映像は、大体が黒色、そして、所々に金色や白色等が混ざった絨毯のように見えた。
「マナ様~これは勇者です~」
「ん? 勇者? いや、私には勇者なんて見えないけど......」
画面の中を必死に探しても、"勇者"の姿はどこにも見えない。
シーナが言った勇者という言葉に、首を傾けて疑問を抱いていると
「お姉ちゃん、もう少し拡大できる?」
セツナが、ちょっと助けてくれた。
「分かった、やってみる」
すると、モニターに表示された映像は、少しずつ拡大していき......本当の姿が見えてくる。
絨毯だと思っていたものに、肌色が見えたときに、シーナの言った「これは勇者です~」の言葉の意味を理解した。
「ひゃ!!」
可愛いらしい悲鳴が不意に出てしまった。
私が、絨毯だと思って見ていたものは、全て『勇者』だったのだ。
何千、何万という勇者達が、そこに密集していた。まるで、絨毯と見違えるほどに......
背筋がゾッとするのを感じる。これが全部、私を狙う勇者なの!?
え!? さっきラスボスやるって言ったけど、「もう、ラスボスやめてもいいですか!?」と、そんな言葉が口から出そうになる。
すると、ローエンはこんなことを言った。
「こうなることも、カナ様は予測しておられました。我々の準備は整っております。マナ様の命令一つで私共は動きます」
その言葉で、五人の視線が1つに集まる。
私の命令1つで、この映像に映るものは、赤い絨毯へと変わるだろう。なぜなら、ここにいる五人の全てが1人で国1つを滅ぼせるほどの実力があるからだ。
実力だけでなく、その能力も強力無比だ。
例えば、リッカ。全身をあらゆる兵器に変えることが出来る。また、機械ならば変化する事が可能。現在、大型モニターに変わっている事が何よりの証拠だ。
勿論、他の四人も、人に向けるには強すぎる能力を持っている。
だから、私が出す命令は......
「勇者達を倒して、貴方達の力を私に示して。ただし......誰一人殺さないこと。これが条件」
ラスボスらしく、悪そうな顔で口角を吊り上げながら......しかし、ラスボスらしくない、優しい命令を出す。
そして、私がそう言った途端、五人は嬉しそうに答えた。
「「「「「マナ様の意のままに」」」」」
部屋を出ていく五人を見送る。そして、私もこの世界に来てから始めての外を眺めようとベランダに出る。
扉を開けると、まず目に入ったのは、大きくて紅い月。新しいラスボスが生まれた日にふさわしい、満月の夜。
夜だというのに、勇者達の魔法によって明るく照らされる。私の大切な仲間達が華麗に踊り、その度、勇者達の悲鳴が聞こえる。
そして、不意に私の元に向かってきた炎魔法に、割って入る人物? がいた。
「主様には、魔法でも触れさせないぞォォォ」
と、うるさいデリドラが庇ってくれた。
しかし、デリドラに炎魔法が当たった瞬間に、向かってきた時よりも早いスピードでその魔法は、跳ね返って行った。まるで、鏡にでも当たったように、同じ魔法が飛んでいく。
これが、デリドラの能力。魔法の反射。しかも、跳ね返った魔法は、威力、スピードが二倍になって発動者に必ず当たるという凶悪な能力。
そのギラギラと光を反射する、デリドラの肌に触れた瞬間、魔法は跳ね返る。
そして、小さな翼をピコピコ動かして、私の元を離れていった。デリドラは月の光を反射して、赤く輝く。
真っ赤に染まった本物のドラゴンのように......
そして、勇者達に起きたもう1つの異変。
何も無いところで突然、勇者達が倒れ、起き上がらないという異変が起こっていた。
そして、その異変があった場所には決まって青い髪の少女が立っていた。
「勇者さん達。もっと早く動かないと、セツナが追い詰めちゃいますよ」
屈託のない笑顔で勇者達を恐怖に落としている少女。セツナは、時間を止める事が出来る。正確には、時間が止まっていると思うぐらい遅くする事が出来る。
しかも、その能力は自分だけでなく仲間にも使うことが出来るというチート性能。
使い方次第では、セツナが居るだけで、目に見えない速さで動き続ける無敵の軍隊が完成する。
私が転生してすぐにあった騒動の途中でデリドラが突然壁に埋まったのもセツナが時間を遅くして、デリドラを埋めたからである。
セツナが歩く度、その後ろには、勇者達が倒れていた。
大勢の勇者達が倒れていくその姿と、その中を平然と歩く少女。異質な光景がそこには広がっていた。
戦場には、大砲の音が高らかに鳴り響く。まるで、新しいラスボスが誕生したことを祝福するかのように......
三分後。数千、数万と居た勇者達は、誰一人として立っていなかった。
死屍累々(死んでないけど)と言った感じだった。
「マナ様~。見てましたか~私達の活躍」
シーナのいつもの間延びした声が聞こえる。
帰って来た五人は、いつもより頼もしく、かっこ良く思えた。
そんな姿をみていると、どこからか声が聞こえた気がした。
「どうだい? 君は、この世界を楽しめそう?」と。
そうだね、私は......私は......
「私は、大切な仲間を持った。カナさんって人に託された想いに答えようと思う。だから......君達と仲良くなりたい。ねぇ、カナさんの事、教えてくれない? 興味あるんだ」
ラスボスは、今日もラスボスを続ける。
新しい仲間達と供に......楽しく昔話に花を咲かせながら。
後ろに転がる勇者達に背を向け、歩き出す。
立ち上がる者は誰も居ない。ラスボスの部下にすら勝てなかった勇者達は、体だけでなく、心もボロボロに打ちのめされていた。
「私を倒したいなら、レベル999になってから出直してね」
まぁ、それだけじゃラスボスには勝てないけどね。
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