そのゴーレム、元人間につき
森の魔物
プラウド王国の辺境ファン。
その近くにある、当初は静けさがまだあった森は現在では人には気がつかれないものの、騒がしさが拡がってきている。
魔物の数はここ数ヶ月で増加し、種類も増えている。
その近くに存在するファンとしては危ぶまれる状況だがここは辺境の中でもさらに遠く、人が立ち寄ることなど滅多にない。
そのお陰か、魔物は増えていく。
だがその魔物達は森から出るような真似はしない。
魔物達は独自の生活に満足しており、人を襲うようなことなどはもう考える事もしていなかったからだ。
そして晴天である今日も昼間から騒いでいた。
「よぉし! 酒を持ってこぉい!」
一人の大きな鬼は切り株に腰を降ろし、何処からか持ってきた酒を豪快に口に含む。
その傍らには既に何本も空になった酒樽が転がっていた。
飲んだ量は相当な数だろう、にも関わらず飲み足りないようだ。
ただえさえ真っ赤に染まっている皮膚が、酒と酔いのお陰か深紅に染め上がっている。
「角、いい加減飲みすぎだよぉ。それじゃ貯蓄してた分が無くなるんだけどねぇ?」
そんな鬼……オーガ族の長である角へと呆れたような顔をしながらも注意を促す者がいた。
見た目は10歳程の可愛らしい顔立ちの少年。
しかしその長く艶やかな薄茶色の頭部からは狐の様な耳と尻尾が生えていた。
「んだよ尻尾、お前がまた買ってこいよ」
しかめっ面になった角は自らよりも遥かに体格の小さい、華奢な子供へと無茶な事を言い出す。
もっともその言われた本人は子供などではなく立派な大人の個体、そして長の一人だ。
彼は妖狐と呼ばれる魔物の1種で、端から見れば獣人と変わらない見た目をしているため、
人間の住む街に訪れることがある。
名は尻尾。
「アホかな、私が買いに行ったところで持ち帰れる量はたかが知れているじゃないか。今は買ってきてくれる二人が居ないんだから節約はしなきゃダメだよぉ」
「マジかよ……結構飲んだから暫くは飲めねぇのか……早く帰ってきてくれ!」
屈強な体つきの角は晴れ渡る空へと咆哮を上げた。
その音量の大きさは、周りで同じようにはしゃいでいた他のオーガや別種族達のどの声量よりも大きく、森に響き渡る。
突然の咆哮により刹那の間静寂が森を支配するが騒がしさは波を返すように戻ってくる。
それどころか、何を勘違いをしたのか大声をどれだけ大きく出せるか競い始める程だった。
なお、優勝者は最初に声を上げた角だった。
「しかし角殿、少し川にて体を洗って来ては貰えんか? 我らは臭いに敏感でな、酒の臭いがキツくて仕方ないのだが」
未だに嘆いている角に追い討ちをかける者がいた。
それは1匹の狼だ。
狼と言ってもその体は二メートル以上あり、身体中を緑がかった黒に覆われた美しい獣だった。
割りと礼儀のなっている口調ではあるものの、彼もまた長の一人。
力をオーガ、知恵を妖狐とするならば素早さを司るであろう、そして自身もその強靭な脚力によって草原を駆る事を得意としている種族。
グラスウルフの長、牙だった。
「ほらほら、牙達程じゃあないけど私達も鼻が多少は効くんだから水浴びでもしてきなよ。あ、そうそう、自分達で散らかした酒樽は片付けなよ」
「ちぇ、今日は終わりか。おいテメェら! お開きだ! 掃除したら水浴びすんぞ!」
その体格に似合わず、しっかりと同じ種族の部下に指示を飛ばし自らも周りに放置されている酒樽を片付けていく。
割りと常識的な角。
「おや、やけに素直に聞くねぇ。いつもは渋るって言うのに」
「これは槍の雨でも降るやもしれんな」
「おい、俺は礼儀は通すぞ。て言うか話聞かなかったら酒を隠しやがるじゃねえかよ!」
「マナーを守らないんだから当然の報いだねぇ」
「うむ、角殿も日に日に学んでいる。良い心がけである!」
「俺はテメェらの子供かっつーんだ」
ぶつぶつと文句を垂れ流しながらも掃除の手は止まらず、瞬く間に汚れていた森は綺麗になっていく。
その手際の良さから推測するに、かなりの常習犯なのだろう。
「随分掃除が上手くなったねぇ、どうだい? 今度私達の領地も掃除しに来ないかい?」
「む、そう言うことなら我らも頼みたいな、四足歩行故にゴミ拾いは時間がかかる」
「こちとらボランティアって奴じゃねぇんだよ、頼むなら酒出せ、酒」
「そんな事したら余計に汚れそうだねぇ」
「違いない」
「さっきと言ってること違うだろ!?」
3人? のやり取りは見ていて微笑ましく、長く培われてきた信頼関係がそうさせるものと感じる程だった。
とは言うが、尻尾や角はともかく、牙は代替わりをしており、その歴史は始まったばかりだが、ここまで中々濃い日々を送ってきている。
そのお陰か、良い関係を築いているようだ。
なお、代替わりが起こった原因はどこぞのゴーレムが挨拶代わりに吹き飛ばしたのが原因だったりする。
「ほら、掃除が終わったならその臭いのキツイ体洗ってきなよ。あー臭い臭い」
「同意である!」
「くそぉ……お前ら覚えとけよ!」
捨て台詞と共に、他のオーガ達がさっさと向かっていった川へと走り去っていく。
「さて、私達もこんなところに居ても退屈だし、各々帰りますか」
欠伸と伸びをしながら眠そうに尻尾は声をかける。
これは帰ったら寝るつもりなのだろう。
声をかけられた牙は黙ったまま、何かを聞いている様だった。
そんな牙の様子が気になった尻尾だが此方も何かに気が付く。
「うむ、嗅覚が鈍っていたせいで発見が遅れた」
「私も何となーく、感じたよぉ……侵入者だねぇ」
現在尻尾達のいる場所は南側、そして牙と尻尾が気がついた侵入者であろう存在の現在地は推測するに東、つまりこのまま行けば角達と侵入者は出くわすだろうが、念のために尻尾、そして牙は東へと向かうことにする。
足の早いグラスウルフとは違い、妖狐の素早さは貧弱そのものだ。
他の妖狐達へと待機命令を出した尻尾は牙へと跨がる。
牙も同様に指示を飛ばし、すぐさま森を駆け抜ける。
をするに止まる。
「んぉ? 尻尾に牙じゃねぇか。どうしたんだそんなに急いでよ」
少し追い抜いたが、角は何とか並走を開始する、牙も気を利かせ速度を落とした。
「どうやら侵入者っぽいよぉ」
「へぇ、そりゃまた、珍しいな。どの辺だ?」
「詳しい位置は分からないねぇ、どこぞの種族のせいで牙の鼻が鈍っちゃっててねぇ」
「おいおい、俺等が悪いってか? マジすまん」
「1ヶ月の禁酒を言い渡すのである!」
「マジかよ! そりゃないぜ!」
「そんなことより」
「そんなことより!?」
角にとっては死活問題の事をおざなりにされ、ショックを受ける。
だがそれも直ぐ切り替える。相手は侵入者だ、ただの酒飲みと化している角もこれでも立派な種族の長で森を守る民でもある。
その危機が迫っているとなると酒など二の次だった。
「相手の目的がわからないねぇ……恐らくは人間、彼らも呼んでおこう、念のためだ、全員で当たるよ」
「そりゃ過剰戦力じゃねぇのか?」
「得体が知れないんだ、万全を、そして全力を尽くすのは当然だね」
「まぁ、作戦担当は基本お前だしな、そこは任せるわ」
「牙、彼らを呼んでくれるかな?」
「了解である」
──ウォォォォォォン!!!
森へと木霊する、遠吠え。
それも3回。
それを発したのは牙、そしてその遠吠えは合図でもあった。
3回遠吠えが鳴り響けば、森の者には伝わるその合図。
侵入者が現れた時にだけ鳴り響く遠吠えは、瞬く間に森に広がり、各方向から雄叫び、鞭のしなるような音、地面に重いものを叩きつける重低音、太鼓のように鼓動を揺さぶる音など、様々な反応が帰ってくる。
森の祭りの騒がしさは時間を追う毎に増していく。
その近くにある、当初は静けさがまだあった森は現在では人には気がつかれないものの、騒がしさが拡がってきている。
魔物の数はここ数ヶ月で増加し、種類も増えている。
その近くに存在するファンとしては危ぶまれる状況だがここは辺境の中でもさらに遠く、人が立ち寄ることなど滅多にない。
そのお陰か、魔物は増えていく。
だがその魔物達は森から出るような真似はしない。
魔物達は独自の生活に満足しており、人を襲うようなことなどはもう考える事もしていなかったからだ。
そして晴天である今日も昼間から騒いでいた。
「よぉし! 酒を持ってこぉい!」
一人の大きな鬼は切り株に腰を降ろし、何処からか持ってきた酒を豪快に口に含む。
その傍らには既に何本も空になった酒樽が転がっていた。
飲んだ量は相当な数だろう、にも関わらず飲み足りないようだ。
ただえさえ真っ赤に染まっている皮膚が、酒と酔いのお陰か深紅に染め上がっている。
「角、いい加減飲みすぎだよぉ。それじゃ貯蓄してた分が無くなるんだけどねぇ?」
そんな鬼……オーガ族の長である角へと呆れたような顔をしながらも注意を促す者がいた。
見た目は10歳程の可愛らしい顔立ちの少年。
しかしその長く艶やかな薄茶色の頭部からは狐の様な耳と尻尾が生えていた。
「んだよ尻尾、お前がまた買ってこいよ」
しかめっ面になった角は自らよりも遥かに体格の小さい、華奢な子供へと無茶な事を言い出す。
もっともその言われた本人は子供などではなく立派な大人の個体、そして長の一人だ。
彼は妖狐と呼ばれる魔物の1種で、端から見れば獣人と変わらない見た目をしているため、
人間の住む街に訪れることがある。
名は尻尾。
「アホかな、私が買いに行ったところで持ち帰れる量はたかが知れているじゃないか。今は買ってきてくれる二人が居ないんだから節約はしなきゃダメだよぉ」
「マジかよ……結構飲んだから暫くは飲めねぇのか……早く帰ってきてくれ!」
屈強な体つきの角は晴れ渡る空へと咆哮を上げた。
その音量の大きさは、周りで同じようにはしゃいでいた他のオーガや別種族達のどの声量よりも大きく、森に響き渡る。
突然の咆哮により刹那の間静寂が森を支配するが騒がしさは波を返すように戻ってくる。
それどころか、何を勘違いをしたのか大声をどれだけ大きく出せるか競い始める程だった。
なお、優勝者は最初に声を上げた角だった。
「しかし角殿、少し川にて体を洗って来ては貰えんか? 我らは臭いに敏感でな、酒の臭いがキツくて仕方ないのだが」
未だに嘆いている角に追い討ちをかける者がいた。
それは1匹の狼だ。
狼と言ってもその体は二メートル以上あり、身体中を緑がかった黒に覆われた美しい獣だった。
割りと礼儀のなっている口調ではあるものの、彼もまた長の一人。
力をオーガ、知恵を妖狐とするならば素早さを司るであろう、そして自身もその強靭な脚力によって草原を駆る事を得意としている種族。
グラスウルフの長、牙だった。
「ほらほら、牙達程じゃあないけど私達も鼻が多少は効くんだから水浴びでもしてきなよ。あ、そうそう、自分達で散らかした酒樽は片付けなよ」
「ちぇ、今日は終わりか。おいテメェら! お開きだ! 掃除したら水浴びすんぞ!」
その体格に似合わず、しっかりと同じ種族の部下に指示を飛ばし自らも周りに放置されている酒樽を片付けていく。
割りと常識的な角。
「おや、やけに素直に聞くねぇ。いつもは渋るって言うのに」
「これは槍の雨でも降るやもしれんな」
「おい、俺は礼儀は通すぞ。て言うか話聞かなかったら酒を隠しやがるじゃねえかよ!」
「マナーを守らないんだから当然の報いだねぇ」
「うむ、角殿も日に日に学んでいる。良い心がけである!」
「俺はテメェらの子供かっつーんだ」
ぶつぶつと文句を垂れ流しながらも掃除の手は止まらず、瞬く間に汚れていた森は綺麗になっていく。
その手際の良さから推測するに、かなりの常習犯なのだろう。
「随分掃除が上手くなったねぇ、どうだい? 今度私達の領地も掃除しに来ないかい?」
「む、そう言うことなら我らも頼みたいな、四足歩行故にゴミ拾いは時間がかかる」
「こちとらボランティアって奴じゃねぇんだよ、頼むなら酒出せ、酒」
「そんな事したら余計に汚れそうだねぇ」
「違いない」
「さっきと言ってること違うだろ!?」
3人? のやり取りは見ていて微笑ましく、長く培われてきた信頼関係がそうさせるものと感じる程だった。
とは言うが、尻尾や角はともかく、牙は代替わりをしており、その歴史は始まったばかりだが、ここまで中々濃い日々を送ってきている。
そのお陰か、良い関係を築いているようだ。
なお、代替わりが起こった原因はどこぞのゴーレムが挨拶代わりに吹き飛ばしたのが原因だったりする。
「ほら、掃除が終わったならその臭いのキツイ体洗ってきなよ。あー臭い臭い」
「同意である!」
「くそぉ……お前ら覚えとけよ!」
捨て台詞と共に、他のオーガ達がさっさと向かっていった川へと走り去っていく。
「さて、私達もこんなところに居ても退屈だし、各々帰りますか」
欠伸と伸びをしながら眠そうに尻尾は声をかける。
これは帰ったら寝るつもりなのだろう。
声をかけられた牙は黙ったまま、何かを聞いている様だった。
そんな牙の様子が気になった尻尾だが此方も何かに気が付く。
「うむ、嗅覚が鈍っていたせいで発見が遅れた」
「私も何となーく、感じたよぉ……侵入者だねぇ」
現在尻尾達のいる場所は南側、そして牙と尻尾が気がついた侵入者であろう存在の現在地は推測するに東、つまりこのまま行けば角達と侵入者は出くわすだろうが、念のために尻尾、そして牙は東へと向かうことにする。
足の早いグラスウルフとは違い、妖狐の素早さは貧弱そのものだ。
他の妖狐達へと待機命令を出した尻尾は牙へと跨がる。
牙も同様に指示を飛ばし、すぐさま森を駆け抜ける。
をするに止まる。
「んぉ? 尻尾に牙じゃねぇか。どうしたんだそんなに急いでよ」
少し追い抜いたが、角は何とか並走を開始する、牙も気を利かせ速度を落とした。
「どうやら侵入者っぽいよぉ」
「へぇ、そりゃまた、珍しいな。どの辺だ?」
「詳しい位置は分からないねぇ、どこぞの種族のせいで牙の鼻が鈍っちゃっててねぇ」
「おいおい、俺等が悪いってか? マジすまん」
「1ヶ月の禁酒を言い渡すのである!」
「マジかよ! そりゃないぜ!」
「そんなことより」
「そんなことより!?」
角にとっては死活問題の事をおざなりにされ、ショックを受ける。
だがそれも直ぐ切り替える。相手は侵入者だ、ただの酒飲みと化している角もこれでも立派な種族の長で森を守る民でもある。
その危機が迫っているとなると酒など二の次だった。
「相手の目的がわからないねぇ……恐らくは人間、彼らも呼んでおこう、念のためだ、全員で当たるよ」
「そりゃ過剰戦力じゃねぇのか?」
「得体が知れないんだ、万全を、そして全力を尽くすのは当然だね」
「まぁ、作戦担当は基本お前だしな、そこは任せるわ」
「牙、彼らを呼んでくれるかな?」
「了解である」
──ウォォォォォォン!!!
森へと木霊する、遠吠え。
それも3回。
それを発したのは牙、そしてその遠吠えは合図でもあった。
3回遠吠えが鳴り響けば、森の者には伝わるその合図。
侵入者が現れた時にだけ鳴り響く遠吠えは、瞬く間に森に広がり、各方向から雄叫び、鞭のしなるような音、地面に重いものを叩きつける重低音、太鼓のように鼓動を揺さぶる音など、様々な反応が帰ってくる。
森の祭りの騒がしさは時間を追う毎に増していく。
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ノベルバユーザー147034
続きマダ〜(`・ω・´)チンチン