そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

尻尾

 ゴーレムがのんびりとしている間に、魔物達は数日前と同様に集まっていた。
 今度は牙の世代交代を果たした代わりの魔物も同席している。

「お初にお目にかかる。本日より牙の名を預からせていただきます」  
「気楽にいこうかぁ、それが良いと思うよ」
「俺らはもう立派な同士だ」
「感謝します」

 角、尻尾は頷くと角は尻尾へと問いかける。

「して、情報は掴めたのか?」
「そうだねぇ、わかった事と言えば西にできた道と言う位ですかねぇ」
「道だと?」
「えぇ、何か大きく重量のあるものが通った後、そして、その付近に元牙達の死体があったそうだよぉ」
「敵はそれほどに強大なのか」
「そして、西の果てにまで行った形跡が残ってるねぇ」
「と言うことはソイツは消えたと言うことか?」

 少しだけ歓喜の表情を浮かべた角、だが、尻尾は難しい顔をして首を横に振る。

「それはわからないねぇ、その元牙を殺した奴を見たものは居ないんだよ、なぜか、ね」
「それは、全て殺されていると言うのか!?」
「謎だねぇ、そうそう謎と言えばだよ」

 激昂しそうになったため一度話を変えようと尻尾はここ最近の不思議について話す。

「東南を別ける川から物凄い水飛沫が上がったと言う報告もあるね。急いで駆けつけたらしいけど何も居なかったみたいだよぉ?」
「ぬぬぬ、相手は幻影のような奴だな」
「警戒はしておくんだねぇ、いつ現れるかわかったものじゃない」

 苦虫を噛み潰したような表情でどうしようもないと告げる尻尾。鬼は驚愕する、あの数多の策でずいぶん昔にやって来た冒険者どもを罠にかけた知略が、逆に手玉にとられていると思ったからだ。

「警戒か、俺らは自分達の領地を見回りさせるとしよう」
「私らは罠を張っておくよ、とても力勝負になると勝てる気はしないからねぇ」
「我らも巡回をし異常が見られればすぐに報告しよう」

 ずっと静かにしていた牙の一言に微笑む角と尻尾。
 一族の危機的状況であるにも関わらず森のために尽力を尽くす所存らしい。

「それも良いけど自分達の身は護りなよぉ?」
「俺らは足は速くはないからな、助けは殆ど無理だ」
「そこは既に考慮しております」

 そこで尻尾は立ち上がりその場を去ろうとする。

「では、また何か分かったら宜しくねぇ。私らは罠を仕掛けるからね、この辺でおいとまするよ」
「わかった」
「ご武運を」

 手をヒラヒラさせて出ていく尻尾はその柔らかな表情を厳しくする。

「奇々怪々で私らと勝負する気かい? 面白いねぇ」

 自らの領地に戻り罠を張るように部下へと促し、自らもまた策を練るために戻っていった。


────────────────────────

 うん、実に良い天気だ。
 絶好の散歩日和だろう。
 散歩は別に嫌いではない。
 静かにのんびりしている方が好きなだけだ。

 今日は南側を探索しようと思う。
 正直、探索をしたからなんだと思うが暇なのだ退屈凌ぎに探索するんだ。

 少々無用心過ぎないか?
 とは思わないでも無いのだが、如何せんここの魔物はフレンドリーな奴が多かった。
 恐らく大丈夫だろう。

 未だに自分の事はわからないが、ここで静かに暮らすにしてもご近所に挨拶をしないのは常識的にダメだろう。
 だって急に変なゴーレムが徘徊していたらこの森の魔物も驚くだろうな。
 だから少しでも警戒心を下げるために挨拶回りだ。
 面倒だけどな実際は。

 さて、そろそろ南の辺りに入っただろう。
 途中で何かめぼしい物なんてないかなとは思うんだが、これといって無いな。
 果物が成っている木などは有るが俺は食べ物も水も要らないんだ。

 探索を続けること2時間。
 面白い事が起きた。
 歩いている途中に穴が空いたのだ。でも足首迄しか落ちなかった。
 土の具合が悪くて陥没したのだろうか。
 全く面白くはなかったな。勘違い。

 だが、多少は西側と違ってスリルがあるような気がするな。
 時々木と木の間に目視が難しいくらいなロープの様なものがあって好奇心でそれに引っ掛かると下から網のようなものが上に上がって行ったんだがそれきりだった。

 その他には、切り株の上に置かれた食べ物と一緒に葉っぱが置いてあり、『ぜひ食べてください』と書かれていた。
 いや、食べられないし。
 切り株は無視した。

 または、木にロープが引っ張れるように設置されていて、引っ張ってみるとどうやって吊るされていたのか。巨大な岩が落ちてきた。
 俺の頭に当たったら真っ二つだったけどな。

 いい加減俺も気づいたな。
 これは、歓迎されている!
 新人である俺を歓迎するための余興なんだな。
 なるほど、誰も来ないのは恐らく、奥で俺を待ってくれているのだろう。
 なんて良い奴等なんだろう。

 俺はそのまま、様々な歓迎(?)を受けながら奥へ奥へと進んでいった。

 少しだけ拓けた場所に着いただろうか。
 広場みたいだ。
 回りを見渡していると、俺の後ろから何か小さい衝撃が入ったと思えば、沢山のロープが俺に巻き付いた。

 すると茂みの奥からは魔物? が出てきた。
 ハテナが着いたのは姿が魔物っぽくなかったからだ。
 俺と同じような2本ずつの手足に、尻尾を生やし、頭には耳が付いていた。
 しかも狐っぽい
 服は浴衣とか言う奴だな。
 なぜ狐とか浴衣とか分かるのかは知らない。
 初めて見た気がするが不思議と懐かしい。

「どんな獲物が入った来たのかと思って焦ったらまぁさかゴーレムとはねぇ」

 他の狐の人間とは違う雰囲気を纏っている人物が現れた。
 それは他とは違う長い黄色の髪を背中まで伸ばし目はどこか悟らせないような狐目と言うやつだ。茶色い浴衣をつけている。

「君には悪いけど死んでもらうよぉ」

 手を上げると、俺に巻かれているロープを持っている狐人間たちが手に火を灯した。
 なにあれ、カッコいいな。

 するとロープへと火を灯し、火が俺に向かって四方八方から走り出す。

──ゴゥ!

 という燃える音がして、雰囲気の違う狐人間は笑う。

「ふっふっふ、どうだい? 私達の塵芥戦術焔の威力は? と言っても聞こえていないか」

 はて、俺はなんで蝋燭に見立てられたんだ。
 俺は蝋燭じゃないぞ。
 あ、わかったこれが俗にいう、 
 フレンドリーファイアだな。
 いやー凝ったこと考えるな。

 相当歓迎されているのだろう。
 ここは好意にしたがって受けておこう。
 人付き合いは苦手だが、楽しんでくれてるようなので良い。
 ほら、ずっと笑ってるしな。

 暫くして火が消えた。
 笑っていたのに静まったぞ。
 どうしたよ、笑えよ。

「ば、馬鹿な! 塵芥戦術焔が破れるだと!?」

 なんで動揺してるんだろうな。
 もっと楽しもうぜ。
 ん? あぁ、そうか、今度は俺が挨拶しなきゃな。

 俺はこのサプライズの企画者であろう。
 狐人間にご挨拶だ。

「な、平気で動くのか! 火を放つんだ!」

 俺にどんどんフレンドリーファイアが当たっている。
 俺はそれのファンファーレを快く受け止めながら進んでいく。

 するとどうだろうか。
 俺の体に浮遊感が起こり、下に落ちていく。
 結構大きな穴だ。 

 ビックリしたなさすがに。
 こんな大きな穴がたまたま空いているとは。
 これも狙ったサプライズならスゴいな。

 上から狐人間が覗いていた。

「はーっはっはっは! こんなこともあろうかと掘っておいて正解だよぉ! 例えゴーレムでも助かるまい!」

 狙ってはいなかったのだろうか。
 心配そうに見ていたな。
 安心してくれ無傷だ。


 俺は軽く飛んで穴からでる。
 その時にちょっとやり過ぎて覗いていた狐人間に落ちそうになったがギリギリ手前で止まることができた。
 いやぁ、怪我がなくて何よりだ。
 ん?どうしたよ。 
 ガタガタ震えているな。
 ここはそんなに寒いんだなやっぱり。

「す、済みませんでしたぁ! 命だけは助けてくださぁい!」

 土下座されてるけどなんでかな。
 多分あれだな、ようこそいらっしゃいましたー!的な。

 取り敢えず少し離れよう。

「ゆ、許してくれるのかいぃ?」

 パアッと明るくなった狐人間。
 変わった魔物だなぁ。

「いやはや、この無礼は詫びるよぉ、少しでも勝てるとか思たけど無理だったねぇ。牙がやられるのも無理はないよぉ」

 笑いながらなんか喋ってるな。
 牙? なんだ?
 気にしてても仕方ない。
 この先には何かがあるのだろうか。

「あ、そこから先は私達の家だよぅ、良ければ謝罪を含めて招待させてもらうよぉ」

 といってくる狐人間。
 すると他の狐人間が耳打ちし始める。

「なぜ理性の存在しないゴーレムを招待しようとしているんですか! 住家が荒らされて終わりですよ!」
「そんなこと言われてもねぇ、死ぬよりは大分ましだと思うんだけどねぇ。それに私たちじゃ役不足だ。手に終えないよぉ、つまり機嫌をとることしか出来ないよぉ」 

 なにやらボソボソとしゃべっている。
 このあとの歓迎会の話だろうか。
 本番はこれからってことか。
 でも、悪いが探索というやるべき事があるんだ。
 今日は遠慮するとしよう。

「おや? 来ないのかい。仕方ないねぇまた会うときはお手柔らかにねぇ」

 手を差し出してくる狐人間。
 挨拶か、返さないとな。

 俺は右手を差し出す。

「ふぉ!」
「し、尻尾様ぁ!」

 吹き飛んだ狐人間。
 やはり流行っているんだな。
 俺にはこのノリについていくことはできんな。
 おっと、こんなことをしている場合じゃないな。

 俺はその場を去り、探索を続けることにする。

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