そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

助けたその後

「な、何故です!? 普通今の流れは行くところでしょう!」
「あー、あれだ。この戦いでめっちゃ疲れたしその上王都遠いし……あと、荷物とかあるし?」
「なぜ最後が疑問系なんだ……」
「兎に角面倒だから行かない。報酬とかはアンタが勝手に孤児院にでも振り込んでくれ、その方がアピールになるだろ?」

 その言葉を聞いて七三の眉はピクリと脈動する。だが、周りの護衛の達は何のことかさっぱりわかっていないようだ。

「……何故知っている?」
「院長から聞いたぞ、安心しろ、これでお前を脅すような事はしないぞ。多分、きっと……ちょっと考えさせて」
「そこは断言して欲しいのだが……」
「だってお前が他に何をやらかすか分かったもんじゃないからな」
「安心しなさい。私はもうクダラン真似はしない、院長殿にかけて誓う」

 院長にかける事がどんな説得力を持つかは知らないが。まぁ、良いだろう。

「変な真似したら次はお前達があの狼の様になるからな? ちゃんと覚悟しておけよ?」

 そう言って護衛の連中に睨みを聞かせたあとで、俺は手を振って、その場から去っていく。
 今回は助けたけど次はないので気を付ける様にと釘も刺しておいた。
 まぁ、来るまでは無傷だったのだろうし、帰りも問題はない筈だ、このあとの事は知らん。


《シン・ブンシ》

 まさか、カマさんの頼みだとしても私達を助けるとはな、早速と現れたと思えば馬車に群がる狼型の魔物をアッサリと撃退するとは、あの男、本当に何者なのだ?

 いや、あの規格外の化け物は一先ず放って置くが、私達を襲ったあの狼の魔物、あんな魔物は見たことも聞いたこともない。
 私が知らないだけか? だがあの強さは異常だ、護衛の者達が手も足も出ていなかった。
 ……ランド、だったか、彼がいなければ今頃私達は……。

「いや、そんなことよりもこの事を王都にて伝え、討伐隊を派遣せねば、カマさん達どころか辺境ファンすら危うい。宝は諦めて貰うが今回のこの件を利用するか」

 利用と言うのは、私が所属する派閥にて討伐隊を派遣し、あの魔物達を撃退、そうしてその功績で此方の成果を上げて、宝の件は不問、若しくは無かったことにでもすれば良いだろう。
 それに、この私が派遣された事は国などには伝えてないから問い質されるが、異変を察知し自ら調査したとなれば派閥としては此方の方が歓迎だろう。

 両者とも利益がある。まぁ、一先ずさっさと王都へと帰らねばならないけどな。

「では、また奴等が戻ってこないうちに帰りますよ」
「はっ!」

 一刻も早く国へと伝えよう。

 そう決心して私達は王都を目指した。

《ランド》

 七三を助けて数時間また走り続け、俺は辺境ファンへと戻ってきた。
 最近は忙しく働いているので継ぎ足し森に戻ったら半年はのんびりと過ごしたい気分だ、昼は孤児院で夜は依頼と退屈を紛らわす日々だ、ゆっくりとしたいじゃないか。

 祠は落ち着くんだよな。1度、依頼ついでにその辺の森でボーッとしようとするとゴブリン等に絡まれるのでおちおち休んでもいられない。

「しまった、七三に1発八つ当たりするのを忘れていた」

 よし、今度合ったときにするとしよう。2発。
 そう決心しながらも俺は孤児院へと歩を進める……前にギルドへと憂さ晴らしをしようと思い足を運んだ。

「久しぶりだな! 俺と勝負しろ!」
「おい、流石に会っていきなりそれはないだろケチャップ。ランド君、久しぶりだね、覚えてるかな?」
「いや、全く知らん。じゃあな」

 ギルドに入るなり俺に絡んできた初対面の冒険者達、何やら俺と会ったことがあるような口振りだが恐らく詐欺とか言う人を騙して金を奪うと言う奴だろう。
 そう言うのは無視しろとエマに言われているので無視しようと思う。

「またか! おい、待てってば!」

 俺の前に回り込んでくる男。なんだコイツ、邪魔だな。後ろにも何か苦笑いしながらも俺の道を塞いでる奴がいるし。

 ……これは、あれだな喧嘩だ、喧嘩を売られているんだな。
 ギルドでの揉め事はいけないとは思うがそんなものは所詮人間の作ったルールであり、俺には関係ないな。よし、殺ってしまおう。

「10秒待つ、直ぐに退け」
「だから話を聞けって……」
「1、死ね」
「2から10は!?」

 俺の拳は目の前の男目掛けて容赦なく放たれるが男はギリギリの所で交わした。
 ただし、その避ける過程で塞いでる道を開けてしまったのが運のつきだ。
 俺はその場から離脱するべく入り口へと走り飛び出すことにする。

「お、ランド。戻ってきたのかブヘェ!?」
「あ」

 入り口から急にダガシカシが出てきた。あまりに突然だったので思わず飛び蹴りを放ってしまった。
 クリーンヒットしたお陰でダガシカシと共に外へ飛び出した俺は一瞬迷う。

「右か左か……」

 ダガシカシの事をどうするか等は一切考えていない。コイツは頑丈だ、きっと問題ない。

「孤児院の方に向かうから左だな」

 そうして俺はギルドを去っていく。

「ダガシカシさん!? 大丈夫ですか!?」
「おい、誰か、手伝ってくれ、ちくしょう、ランドの野郎。次こそ勝負してもらうからな!」

 後ろから何やら声が聞こえるがよく聞こえなかったな。
 俺はダガシカシの犠牲は無駄にはしない。絶対に逃げ延びてやろう。


 走ることを止めて歩いていること数十分、今は以前エマのご機嫌とりに来た商店街的なところまで来ている。孤児院まであと少しと言うところだ。

 時間もまだそこそこ残っているので色々物色していると、また前のように尻尾に遭遇した。
 コイツは暇なのだろうか……ならば森に帰れば良いのに。

「やぁ、ランド君。お疲れ、どうやら問題は色々解決した様だねぇ?」
「まぁな、それにしても尻尾。暇なのか? なら1人でも帰れるんじゃないのか?」
「今の私ならそこいらの魔物に遅れをとることはないけど、久しぶりの人里だ、森の皆にお土産を選んでいるところだよ」
「意外と律儀だな」
「私、こう見えても纏め役だからね、彼らは餌付けしている内は逆らわないからね」

 さらりと酷いこと言ってるぞコイツ……あ、でも角は酒さえ与えてれば言うこと聞くからな、あながち悪いことでも無いのかも知れないな。

「そうか、なら金はやるからもう少し買ってやってくれ」
「おや、奮発するねぇ、良いことでもあったかい?」
「いや、単純に金が余っている。俺自身使う事がないから本当に最低限あれば良いからな」
「そう言うことかい、なら分かった。君の分まで面白いものを買って帰るよ」

 俺は尻尾とも別れた後少しだけ物色し、エマへのお土産を買いつつ孤児院へと戻る。ついでにフィル達冒険者志望組の分も買った。エマだけだと文句言われそうだったからな。

「と言ってもエマのはわりとご機嫌とりの為だったりする」

 アイツはヤベェ、機嫌を損ねると隣でネチネチ愚痴ってくるのだ。昼夜問わず、精神攻撃は俺の弱点でもあるのかもしれない。

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