そのゴーレム、元人間につき

ノベルバユーザー168814

去らば辺境

「マジで全部食っちまったのかエマ姉!?」
「いや、誰も食べなかったので勿体ないと思いまして……」
「いや、話してたから食べてなかっただけなんだけど!?」

 当然のごとく勿体ない精神を発揮し食事を平らげたエマへとフィルは突っ込みを入れる。

 流石に残しておいてあげてもよかったのではないか? そこそこ可哀想だぞ。

「良いですか、フィル君、他の面々も聞いてください。冒険者となるといつ食糧難に襲われるかわからないのです。ですから、食べられる内に食べる、世の中は弱肉強食であり生きることに貪欲になったものが生きていける世界なんです。なので私がご飯をいっぱい食べるのは当然なのです」

 などとエマは饒舌に語る。それを真に受けているフィル達冒険者志望組は頷いたり感慨に耽ったりしていた。

「エマ、本音は?」
「美味しかったのでついつい食べちゃいました」

 それみろ、ただそれっぽいことを言って逃れようとしただけだ。
 いや、エマの言うとおり食糧難に陥る事だってあるが、それは今言っても仕方ないと俺は思うんだ。

「言い逃れかよ! 真に受けたじゃん!」
「あながち嘘と言う訳でもないぞ、そういう状況もあるって話だ。聞いておいて損はない、エマは仮にも一応ギリギリ俺より先輩だからな」
「何故頑なに認めようとしないんですかランドさん」

 それはハッキリ言えばエマが何の役にたっているのか分からないからだ。
 孤児院の子供達の世話や情報収集などをしてくれてはいるが肝心の稼ぎは殆ど俺がやっているのだ。
 冒険者とは一体なんなのだろうと思うようになってくる。

「まぁ私仕事してないですもんね」
「あぁ、今では、いや、最初からただの穀潰しだからな」
「それ酷くないですか!?」
「本当のことだろう。悔しかったら是非とも依頼を受けて稼いでくれ」

 何故コイツは依頼を受けないのだろうか、単純に時間が無いらか? それとも俺が勝手に稼いでくるから怠けているのだろうか。
 謎は深まるばかりだな、考えるのは止めておこう。

「エマ姉は師匠に頼りっきりだな!」
「フィル君、彼方で食後の運動でもしますか?」
「笑顔が怖い!」

 そしてその発言は冗談などではなく本気だったようで引き摺られて連れていかれたフィルは数十分後にボロボロになって戻ってきた。

「し、死ぬ!」
「ランドさんが本気になればこんなものじゃないのでちゃんと訓練は頑張って下さいね」
「師匠が化け物なのは知ってるし訓練も欠かすつもりはないよ」

 その決意は揺るぎ無い。闘志を目に宿している、ふむ、良い目だ。格好かボロボロじゃなければな。
 さて、茶番はこれくらいにしておこう。パーティーもそろそろ終わりだ。俺達は此処等でこの街からおさらばするとしよう。

「エマ」
「あ、了解です」

 俺は椅子から立ち上がりエマへと声をかけると、エマもおれの言いたいことが分かったのか集まっていた子供の頭を撫でて俺の元へと歩いてくる。

 フィル達は何事かと顔を見合わせ、その他の子供達は不思議そうに首をかしげる。そのなかで院長だけは納得していたようで俺達に話しかけてくる。

「行くってことかい?」
「まぁな、長居するのも迷惑だろうし」
「そんなことは無いんだけどね」
「これからは自分達で頑張ってくれ。今までもそうやって暮らしてきたんだからな」

 そろそろ働かずに静かに過ごしたいんだ。こじつけでも俺は街から出るぞ。
 どうしてもと言うならエマをどうぞ、コイツがいると落ち着けないのでな。
 うん? 益々置いていった方が俺のためにならないか? 凄い、名案が浮かんだぞ。

「なぁエマ」
「嫌ですよ?」
「……何も言ってないぞ」
「私も着いていくので」

 ちくしょう、勘の良いガキは嫌いだよ。

 俺達3人の話を聞いて漸く合点がいったのか、慌ててフィル達は俺達へ問い掛ける。

「出ていくのは知ってたけどこれから出るのか!? 幾らなんでも早すぎないか師匠!」
「そうは言ってもな、特にすることも無くなったからな。お前達のことはダガシカシに任せたし、孤児院は領主が何とかするだろうし。ぶっちゃけ俺らがいる意味は殆どない」
「うぐ、それはそうだ。でも、師匠達はこれから何処に行くって言うんだよ。これから出て近くの村とか街までは結構かかるよ? 食料なしで大丈夫なのか?」

 やっべ、そういう準備が必要なの忘れてたな。ほら、俺ってば食料も休憩も要らないからな。
 本当に一般的な常識が抜けているようだな。さて、どんな言い訳をしたら良いだろうか。

「それは大丈夫です。私達のお仲間が準備は進めてくれていますので」
「へ? エマ姉達って二人旅とかじゃないの?」
「そんなことは一言も言ってませんよ? 仲間はちゃんといるんですよ。ですから直ぐにでも出られるのです」

 仲間……あぁ、尻尾か。着いてきた割には接点が無いし何してるかも分からなかったから忘れてたわ。
 アイツ本当に何しに来たんだろうな、確かギルドマスターと会ったときは旧友と会うとか何とか言ってたような……。

「俺達にも紹介してよ」
「悪いな、ソイツは余り人に会いたがらないんだ。だから無理だな」
「そっかー、残念だな。ま、いつかは紹介してくれよな、師匠」
「アイツ次第だな」

 さて、無駄話はこれで終わりだ。フィルの野郎のせいで長話になり引き留められていると言う罠にかかっている。抜け出さねば。

「じゃ、この辺で」
「ちっ、やはりフィル程度の会話力じゃ無意味だったか」
「スティーブ、あんたとフィルって親友の筈よね?」

 なるほど、この作戦はスティーブ考案か、まさか友人を使うとは……恐ろしい子! フィルは気がついて無いようだがアルカは驚愕、リズは苦笑いを浮かべていた。
 いや、スティーブよ、自分で来なさいよ。

 スティーブの微妙罠を回避し、俺とエマは外へと出る。院長や、フィル達、そして他の子供達も見送りをするようで、大所帯で孤児院の前に集まっている。

「じゃ、またいつかな」
「師匠、今度は俺が勝つぞ!」
「フィル、俺達が勝つに訂正しろ」
「アンタ1人で師匠みたいな化け物に勝てるわけ無いでしょ!」
「私達なら何れ勝てますよ。師匠に」
「ぼ、僕も頑張るよ」
「私は既に勝つと確信してるからね!」

 生意気なガキ共だ、次会ったら少し位本気を出させて精々俺を楽しませてくれ。
 ダガシカシでもまだ無理なのでフィル達もまだまだかかるだろうがな。

「院長も、コイツらを宜しく頼む。たまにダガシカシが顔を出すそうだからアイツに投げてくれ」
「分かったよ。本当に世話になったね」
「院長さん、色々と頑張って下さいね!」
「はは、まぁ、出来る限りの努力をするさ」

 苦笑いを浮かべながら返事をする院長だが、ふむ。たまに色々と頑張るか……孤児院の事だろうか、それとも七三の事だろうか。
 まぁ、それは俺が気にすることでもないか。

 手短に院長との別れの挨拶を済ませ、門へと向かおうとすると馬車が此方へと向かってきているのが見えた。
 見たこと無いな。趣味の範疇からして七三の物ではないな、何分普通に上等な馬車だ。まさに領主が好みそうな。

 馬車は俺達を通過するかと思いきや目の前で止まり中から人が出てくる。ふむ、知らん顔だな。俺達に何か用でもあるのだろうか。

「どうも、ランドさんでよろしいかな?」
「ん? あぁ、俺がランドで間違いないぞ」
「都合が宜しければ領主様に会って欲しいのですが……お時間戴けますかな?」

 何やら領主は俺に用があるらしい。

「どうする?」
「行っても良いのでは? と言うか行かなきゃ駄目なのでは?」
「それもそうか」

 男へと向き直り大丈夫だと示し、馬車へと案内された。
 乗り込む前にフィル達に再度別れを済ませた後で、領主の館へと向かうことになった。何の用なんだろうか男に聞いたが詳しくは会ってから話すと言われ内容は分からないらしい。




 領主の館に着くと早速応接室に案内される。領主は、すでに待っているようだ。
 案内してくれたメイドが扉を開けると領主の他にももう1人、領主に向かい合う様に座っている者が1人。

 いや、コイツの場合は1人と数えるべきか1匹と数えるべきか迷うがな。

「あれ? 尻尾さんじゃないですか。どうしてこんなところに?」
「おやぁ、エマ君にランド君、奇遇だねぇ。私は顔馴染みに挨拶をしに来ただけだよぉ、そっちはどうしたんだい?」
「俺達は領主に呼ばれたから来たまでだ」

 俺とエマ、尻尾が話し込んでいると、目を丸くして状況を眺めていた領主が口を開いた。

「尻尾、彼らと知り合いなのか? 親しいようだが……」
「あぁ、忘れてたよヘンリ。今回来たのは彼らに同行させてもらったのさ、私のような老体だとここまで来るのは忍びないからね。護衛して貰ったのさ」

 良くもまぁ口から出任せをいけしゃあしゃあと言えたもんだ、流石は狐だ。

「で、領主。俺達に何のようだ」
「おっと忘れていたよ。何せ君ら問題が解決したのに来てくれないからさ、寂しかったんだよ」

 いい歳こいたおっさんがしゅんとするなよ気持ち悪い。
 あと何らかの連絡は普通に忘れてたわ、反省はしていない。
 それと解決したのが分かってるなら報告なんか要らないだろう。俺はお前の部下では無いからな。

「そうそう、報酬はギルドで受け取ったかな? それとは別に何か欲しいものは無いかな? いやなに、これは私個人のお礼だ。遠慮せずに受け取ってくれ」
「そうか、エマ。何かあるか?」
「私ですか? 特には無いですね……と言うか殆どランドさんのお陰ですしランドさんが決めてください」

 ふーむ、何か欲しいものか。
 今後のために俺自身の強化をしたいな。そろそろ森のやつらの攻撃が強くて直ぐにヒビが入るかな。

「じゃあ、俺くらいある鉄の塊、インゴットをくれ」
「へぇ、そりゃまたどうしてか聞いても?」
「俺の能力は物を加工する力があるからな。今の俺の武器は石の剣だ。そろそろ装備を変えようかと思ってな」
「なるほど、それでは別に身の丈ほども要らないんじゃ無いかな?」
「いや、色々と試作したいものがあるからな。多いに越したことはない」

 七三の護衛から奪った鉄の剣等もあったのだがあれはこっそりと加工してフィル達の武器を作って倉庫に閉まってあるのだ。
 院長にはフィル達が使えるくらいになったら渡すように言ってある。

 つまり、手持ちの鉄が無いので俺を強化するには鉄不足なのだ。

「分かった、今すぐ用意するように言おう。少し時間がかかると思うけど大丈夫かな?」
「用意してくれるだけでもありがたい。ギルドにでも届けてくれ」
「うん、そのように手配するよ」

 そう言った領主は部下に指示して迅速に鉄の塊の用意を開始する。

「しかし尻尾は、やっぱり領主とも知り合いだったか」
「おや、予想はしてたみたいだねぇ」
「ギルドマスターとの仲も良かっただろ、なら自ずとその予想は出来る」
「確かにそうだねぇ、しかしヘンリもギルバードも老けたねぇ」
「いや、尻尾。君が変わらんだけだ」

 その後も色々と他愛も無い話をして、時間を過ごした後、仕事が早いようでもう鉄の塊の用意か終わったらしくギルドに運んでいるとの事だ。
 そろそろおいとまするとしようか。

「尻尾、俺達はもう出るぞ。どうするんだ」
「ん? あぁ、了解。私も直ぐに行こう、ギルドで合流しようか」

 俺とエマは先に領主に別れを告げてギルドに足を運び、その後ダガシカシにフィル達の事を改めてお願いし、絡んできた何処かで見たことのある冒険者を一蹴した後で鉄の塊を受け取った。

 その後合流した尻尾と共に街の門へと向かう。
 当然のごとく鉄の塊は持って歩くことになる。嵩張るなぁ、とか移動遅れるなとか思ったりしていたのだが、スキルさえ使えば浮かせる事くらい出来るのを思い出して浮かびあげる。
 両手が空いたと思えばエマのお姫様だっこが来ると言うまさに一難去ってまた一難である。

 そして肩車を当然のように所望する尻尾、ぶん殴ってやろうかと思ったが止めておいた。
 肩には子供にしか見えない男、お姫様だっこをされた女、隣で謎の浮遊をしている鉄の塊。その中心にいるフルフェイスの男がかなりの速度で平原を走っている様子は恐らくシュールだろうなと思いながらも俺達は森へと帰っていく。

 今回の滞在も長かったかか……またいつかだな、辺境ファン。

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