死人を想う人を想う

ハナハリラ

プロローグ





【私が光の死を知ったのは、彼女が死んで一週間後の事だった。】




その日は、ただぼんやりと暗く雨が少し降っていた

「光はまた休み?明」

隣の席の真菜は、私が席に着くやいなや私の顔を除きこむように聞いてきた

『知らない』

私は間を置かずに答えた

「連絡しても既読にすらならないんだけど、明は何も聞いてないの?」

『何も聞いてない』

「ふ〜ん……あ!雪歩おはよう!あのさぁ、この前の…」

それだけ聞くと、真菜はくるりと私に背を向け向こう側の席の子と話し出した



私と光は、幼い頃からの幼馴染で
小、中、高と同じ学校に通ってきた


光は明るく誰とでも仲良くできほとんど人見知りもしなかった。
その為、私とは違いいつでも人の真ん中にいた


中学では、先生からも慕われ生徒会長を前代未聞の二年間やりとげた
ずっとみんなが希望していた制服のスカートの丈の変更やリボンの発色を変えたりもした
その為、中学では【小森 光】の名前を知らない人はいなかった

高校に入ると何を思ったのかサッカー部のマネージャーになり、一躍時の人ととなった

私達の通う箱梅高校のサッカー部は県内でも有数の強豪校で、たくさんの生徒がサッカー部に在籍していた
その為、マネージャーもそれなりに人数がいてなおかつ、可愛い子が多いと有名だった

その中でも、光は特に目立っていた

もともと愛想もよく人見知りもしなかったおかげで
他校生からの人気もすぐに高まり
気がつけばただ光を見る為だけに練習試合の応援に来る生徒もいた




そんな幼馴染を持った私は
彼女の横にいた為、虐めや嫌がらせにも合わず
先生からもそれなりに慕われ
クラスの中でも1人にされる事はなく
ただ静かに生きてくる事ができた


どちらかと言えば私は
人見知りが激しく、常に人の目を見る事なく相手に合わせて適当に相槌を打つだけだった
できれば何も意見したくないし
できれば誰にも注目されたくなかった




そんな光が一週間前から急に何の連絡もなく学校を休むようになった
誰がメールしても返事はなく既読にすらならなかった

私も連絡はしてみたものの
みんなと一緒で何の音沙汰もなかった


【私にはきっと何かあったら…】


ずっと一緒にいた私は
何かあれば私にだけは連絡が来るだろうと心の何処かで思っていた為
最初、彼女が休んでいる事をそれほど気にも留めてはいなかった


【ただ……】




ガラガラガラ


「おはよう!HRを始めるぞ!!」


「あれ〜?先生スーツじゃん!何?何〜なんかあんの?」


「こら!東堂、席に着きなさい!」


その日、先生は真っ黒なスーツで教室に入ってきた

これまでに先生がスーツを着ていたのを私は入学式の時にしかみた事がなかった

いつも生やしたまんまの無精髭は綺麗に剃られ
髪の毛もブラッシングされたようで整っていた
眼鏡の下では少しだけ暗雲が立ち込めたような影が一瞬映ったようにもみえた


私は何となく嫌な予感がした
それは私だけではなかったようで
いつもは先生が入ってこようとお構いなしに話している女子生徒も
何となく何かを察したようでそれぞれに口を紡ぎ教卓の方を向いた

「えー…おほん…」

先生は少し何かを詰まらせたような咳をし下を向き沈黙した
言葉に困っているのか、それとも選んでいるのか
それはとても長い沈黙だった

誰1人として口を開く事なく
まるで時間が止まってしまったようだった

窓の外の雨音だけが微かに聞こえ
そのおかげで時間が進んでいる事だけがわかった

「あ……おほん。皆さんにお伝えしなければならない事があります」

先生はいつもとは違う淡々とした声で淡々と話しだした
教室の空気が一瞬進みだした

「皆さんと一緒にこれまで勉学を共にしてきた小森 光さんなのですが…先週の10日に急死されていた事がわかりました」

教室の空気はもう一度止まった
誰も声1つ発する事もなかった

先生は淡々と続けた


「急な事だったそうで…家族の誰も学校に連絡できなかったそうです。後、お葬式なんですが宗教上の理由で家族だけでの密葬とゆう事だそうで…………残念ながら…もう皆さんが小森さんに会う事はできません」


ずっと下を向いて話していた先生はやっと顔を前に向けゆっくりと続けた


「皆さんいろいろな想いや疑問があるとは思いますが、先生がわかる事、言える事は以上です。1時間目のHRは自習にします。皆さん少しずつでいいのでゆっくりと受け止めて下さい。気分が悪く早退を希望する人は先生の所に来て下さい。今日は、先生が全部の責任を持ちます」


先生は全てを話し終えるとゆっくりとした歩みで教室を後にした

ドンっと鈍い音がして扉が閉まるまで、誰1人として何も言わず動きもしなかった




扉が閉まると少しずつゆっくりと教室の時間が動きだした

すすり泣く声や、小さな嗚咽や「本当に?」「何で…」などいろいろな声や音が聞こえてきたがどれもとても小さい音だった

「嫌だ…嫌だ…何で…」
と真菜が隣の席で泣きながら呟く声が聞こえた



たくさんの悲しみと泣き声の中
私はただ下を向いていた


【あぁ…そうかだから…】

私は1人、だだその現実をすんなりと受け入れる事ができた

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