のん気な男爵令嬢

神無乃愛

公爵家の人々は行動が早い

 帝都に戻ってしまえば、何故か今度は恭しく頭を下げられた。しかも、マイヤを罵っていた人物まで、である。
「……言ってなかったけど、多分国王陛下たちは次何か馬鹿なことをすると終わりだからね」
 何爆弾発言していらっしゃるのですか、という言葉を何とか飲み込んだマイヤは、ヴァルッテリを睨んだ。
「彼らねぇ。『大変申し訳ありませんでした。国王夫妻の命令で仕方なく』って言ってきたよ。馬鹿馬鹿しいねぇ。最後まで忠義を見せてもらった方が、こちらも心証がいいんだけどね」
「長いものに巻かれるのも、必要ですわ」
 ヴァルッテリの執務室で、執事長、侍女長を交えて話している。
「マイヤ様はお怒りになられないのですか?」
「怒るもなにも、以前も申し上げたように、彼らを助長させたのはヴァルッテリ様ですわ。最初から彼らと向き合えば、性格くらい分かるものでしょう?」
「そういう問題?」
「そういう問題ですわ」
 侍女長が不思議がって問うてきたため、マイヤはあっさりと答えた。

 のだが。
 どうやら、ヴァルッテリ的に不服な回答だったらしい。だが、マイヤからしてみれば事実だ。
 彼らが本当に心を入れ替えるのは難しいだろう。何せ、ここにいる侍女の一部は、子爵位以下の令嬢だったりするのだ。マイヤよりも格上だ。
 格下令嬢の頼みなぞ、誰が聞きたいと思うのか。

 そのあたりは、ヴァルッテリたちに頑張ってもらうしかない。マイヤは服が無事で、己の仕事が出来れば、文句はないのだ。


 ある程度話がまとまったところで、解散……になるはずだった。
「マイヤ、どこに行くの?」
 執務室を出ようとしたマイヤを、ヴァルッテリが止めた。
「採取のため森までですわ。髪は隠していくので、大丈夫です」
「ちょっ……怪我治ったばかりだよ。却下」
「駄目です。わたくしとベレッカでないと、薬草の種類が分かりませんもの」
 ベレッカ一人の引率では、採取が大変なのだ。
「じゃあ、俺も行くから」
 颯爽とベルを鳴らし、もう一人の執事、トピアスを呼んでいた。
「二人でしばらくお願い。俺はマイヤのお願いに付き合うから」
 お願いしていないんですが。というマイヤの言い分は無視され、トピアスには「坊ちゃまが女性のお願いを聞く日が来るとは!」と感激された。

 マイヤ用の部屋に様々な罠を仕掛けつつ、ヴァルッテリに気づかれないうちに館を出た。

 向かった先の食堂で、オヤヤルヴィ公爵夫人に出くわすとは思いもしなかったが。
 しかも、夫人への対応に苦慮しているところに、ヴァルッテリとオヤヤルヴィ公爵までやって来て、店主からも常連からも顔色がなくなっていた。



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