のん気な男爵令嬢

神無乃愛

公爵夫人は常識家

 あっという間に日は過ぎ、婚約披露の夜会になった。
「お嬢様……往生際が悪いですよ」
 マッサージだの、エステだのから逃れるために色々を策を施したが、ベレッカの前には無力すぎた。
「出来れば、このようなことをしたくないわ」
「それが令嬢としての務めですよ。ったく、夜会関係になるといきなり及び腰になるんですから」
 その言葉に、ベレッカと一緒にマッサージをする夫人付きの侍女が笑っていた。
「まぁ、嗜み程度でよろしいかと。中には、そういったものに金をつぎ込みすぎて資金繰りが大変な家もございますし」
 王家が最たるものですけどね、と毒を吐く侍女に、さすがのマイヤもドン引きした。
「坊ちゃまが婚約なさっていた姫君なんて贅沢なうえ我侭ばかり言って、奥様を何度怒らせたか」
「……あらまぁ」
「お嬢様のことが話として入ってくると、王家主体で決めたはずの婚約は、王家からの破棄。そして再度王命でお嬢様との婚約です」
 王命とは一体何なのかと言いたくなる内容である。
「お嬢様がまともな神経の持ち主でようございました。失言したお馬鹿どもは全部王家から寄越された間諜もどきですよ。坊ちゃまはそのあたりに疎くて」
 ヴァルッテリの愚痴まで入ってきたところで、夫人がドレスを持って来た。

 いいのか、公爵夫人。それは使用人の仕事ではないのか。その言葉を出すには、夫人の顔が怖かった。
「数点用意しておいてよかったわ。まったく、ヴァルッテリの住む別邸にいる使用人は躾すらなっていない」
 ……どうやら、公爵夫人が取っておいた一着のみが無事だったらしい。間諜もどき、恐るべしである。

 さすがに、マイヤが持つスキル「真贋」はレベルが低い。仮に高かったとしても、初めて訪れたお宅で使うのはマナー違反というものだ。
 スキル「真贋」のレベルはゾルターンとダニエルが高い。現在マイヤは鍛えている真っ最中である。
「使用人としても、下位貴族の人間としても失格ですわね」
 これ幸いに、別邸の梃入れを張り切る夫人の言葉をマイヤは聞かないことにした。

 人間、長いものに巻かれる必要も時としてあるのだ。

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