TS転生は強制的に

lime

二十二話~ボクと迷宮と乙女ナタリー~


 迷宮の奥へと進んでいくと、確実にゴブリンと会う間隔が少なくなってきていると感じた。
 それは、ゴブリンを素手で殴っている為に生まれた嫌悪のせいなのか、それともただ単にボクの勘違いなのか、それともRPGではあるあるの、奥に進むほど難易度が高くなる仕様なのか、そういうことは全く分からないけれど、分かる事はただ一つ、ボクは今、すごく不機嫌だ。
 一応、マイク君達は定期的にボクに飴などの甘いお菓子を渡したりして、キレないように怒りを軽減させていたが、流石にボクの怒りはそれだけでは収まらない。……一応全部食べてるけど。
 
「マイク君、いつまでボクは戦っていないといけないのさ」 
「……お前、それも覚えてないのかよ」 
 
 ゴブリンを三十秒に一回くらいの間隔でゴブリンの顔を見て、ゴブリンの少し汚い皮膚を触り、ゴブリンを殴り、そしてゴブリンの返り血を浴びると言う事を一時間近く繰り返していると、そんな目的と言う些細な事等忘れるに決まっている。
 と言うかボクは心を限りなく無にすることで精神を保っているんだ。覚えている訳がないだろう。 
 
「マイク君はこの地獄を全く理解していないんだよ。三十秒おきにゴブリンの返り血を浴びると言う地獄を、そんな状態なんだから目的なんて忘れるよ」 
「……そ、それはごめんな。また忘れるだろうが、言っておくが、俺らの目標はこの迷宮の一階層の階層主フロアボスを倒す事だからな」  
 
 あれから、マイク君達は言葉まで気を遣うようになり、ボクが怒りそうな単語を言わないように気を付けている。……ナタリーはともかく、マイク君がそんな事をすると気持ち悪いよ。 
 それに、教えてくれた事はありがたいけど、階層主フロアボスが何処にいるかも分からない現状で、そんな事を聞かされた事に対してボクは絶望し掛けているよ。
 
「マイク君、交代してくれないかな、流石にもう無理」 
「分かった、じゃあナタリーは後ろを担当していてくれ、俺は前を担当するから」 
 
 ボクの交代すると言う言葉はかなり横暴な事だと言う事は分かっているし、前衛がボク一人しかいないと言う事も分かっているけど、流石に精神が持たない。発狂する。
 ……後、手がね、気持ち悪い。マイク君の魔法で出してくれた水で洗ってるけど。 
 
「ふう、頑張れ」 
「はあ、俺も頑張るが、魔力が尽きたらさすがに交代するぞ」 
 
 しかし、ボクも永遠に、ずっと敵と戦わないと言う訳にはいかない様だ。まあ、魔力と言う概念は知っているので分かっていたのだけど、もう少し長く夢を見させてもらいたかった。
 ……マイク君がボクが現実逃避しないように現実を見させているようにしか思えないんだけど。
 
「じゃあ限界まで頑張って!」 
「……はあ、分かったけど、限界まで頑張ると飴をあげられなくなる位にはなるが、良いのか?」
「それはだめだね」 
 
 やはりマイク君は下種な様だった。……飴をあげられない位、と言う事は事実なのかもしれないけれど、マイク君はボクを絶望させたいのかな? 
 飴をもらえないのならば、マイク君に戦ってもらうと言う事はしてもらいたくない。何事にも報酬と言う物は大切なのだ。 
 
「じゃあ、君の魔力が半分切ったら交代して」 
「……はあ、分かった」 
 
 報酬がなくなってしまうと言う事は、自分の中では一番の絶望なのでそれだけは本当に回避したいので、ボクも確りと戦う事を約束した。
 まあ、深淵魔法を使えば簡単なんだろうけど、流石に深淵魔法の事を知らないナタリーが居る状況で使うと言うのは難しいだろう。必ず質問攻めされるだろうし。 
 
「……これ、少し疲れるな」 
「そうでしょ、そうでしょ、ボクはもう疲れたんだよぉ」 

 マイク君も戦ってすぐに、嫌気がさし始めてしまったようで、表情を渋くさせながら少しだけ悪口を言っていたが、どんどんと魔法の精度が下がって行っているので確りとイラついていた。 
 
「マイクとライムって本当に仲がいいわよね、付き合ってるの?」 
「何言ってんのさ? 仲は良いかもしれないけど付き合ってるとか、そんなことあるわけないじゃん」 
 
 そして、マイク君が少しだけイラつきを隠していると、突然、後ろで殿を務めていたナタリーが良く分からない質問をしてきたので、少しだけ驚いてしまった。
 まあ、ボクたちは元々男同士で友達だったから、そういう風に身体の接触やらが有ったりするかもしれないけど、男どうしとかそんな事は絶対にありえないって言うのに。
 ていうかこういう話前にもあった気がするけど。 
 
「……こういう時に質問すれば真実を吐いてくれると思ったけど、そこまで馬鹿ではない様ね」 
「……ねえ、流石にそんなバカは居ないでしょ? それに真実しか言ってないんだけど?」 
 
 ナタリーの質問は良く分からないけどボクの事を貶してくると言う様な謎な質問だったけれど、ナタリー的には強引にでもマイク君とボクをくっ付けたい様だった。
 そんなにくっつきたいのなら自分が付き合えばいいって話じゃないの? とは思ったけどきっと言っても無駄なんだろうね。
 個人的には、女子の色恋の話は、オタク男が好きな物のカップリングとかを言っているようなものと同じ風に思っているんだけど……あながち間違ってないんじゃないの?

「はあ、じゃあライムは誰が好きなの?」
「居ないよ?」

 別にボクが嘘を吐き必要がないし、そもそもここでうそをついて下手な事を言ってしまうと、ボクがマイク君の事を好きだと言う風に勘違いさせてしまいそうだったので、真実を正々堂々と言ったのだが、ナタリーからは疑わしい目線で見られた。
 ……人に話を聞いておいてそんな風に見るんだったら聞かなければいいのに。

「お前ら、しょうもない話ししてないで先に行くぞ」
「別にボク発信の話題じゃなかったでしょ」

 そんな風に馬鹿話をしたり、執念深く好きな人を聞いて来るナタリーを鬱陶しく思いながらもボク達は迷宮の更に奥へと進んでいった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品