人間に恋をした女神

しげぞうじいさん

第十一節 見つけた


 ジェームズの部屋に戻った俺たちは皆に手に入れた情報を言った。

「……と言う訳だ。更なる謎が出てきた。考えるだけ阿呆らしいけどな」

「私にはわかりません、マスター。何故ジェームズさんを殺そうとしていたのかが」

「俺にもわからん。単純に仕事をしないこいつにムカついて考えたんじゃねえか?」

「そんなことで人を殺すなんて……酷過ぎます……酷過ぎますよ……!」

 シルヴィスの目に涙が浮かんできた。
 こういう時は頭を撫でてやるしか出来ない。

 ジェームズの代わりにシルヴィスが怒ってくれたことで、ジェームズは怒るに怒ることが出来なくなっていた。
 ただ、事実を受け止めていた。

「振り出しに戻った。いや、振り出し以上かもしれん。なんせ、たった一人の人間を見つけるんだ。この王宮に居ないとしたら街の中にいる可能性が高い。そうなった場合、見つけるのは非常に困難だ」

「だが、君は言っただろう。人を操るのなら近くにいなければ出来ないと」

「その通りだ、友よ。だが、この王宮を隈なく探し、そして獣人の耳から逃げることは果たして可能なのかと。それに消えた連中のこともある。闇雲に探すだけじゃダメだ。俺たちが先にバテる」

 最初の俺の推理が間違っていたかもしれない。
 やはり、俺に探偵の真似事は向いていないようだ。
 こうして説明しても、誰も納得していない。さらに大きな謎を呼んでしまった。
 これは俺の責任だ。昔なら罰を受けてもおかしくなかったが、俺はこの街に住むただの店の店長だ。どうやって責任を取っていいのかわからない。

 全員、訳の分からない敵に圧倒されて疲れが出始めている。
 このままでは襲われてもジェームズを守り切れない。
 それどころか、全滅する。
 なんとしてでもこの窮地から脱出しなければ……!

 足りない頭をフル回転させて考える。
 考えて、考えて、考えて……そして一つ気になったことが出てきた。

「なあ、ジェームズ。お前の親父さん、国王は今どこにいるんだ?」

「父上なら他国に行ってしばらく戻ってこないが……」

「なるほど。アンリーさんや、国王の部屋は当然あるよな? そこに入ったか?」

「入っていない。貴様は何が言いたいんだ?」

「ちょーっと可能性があるところが浮かびましてね。その、アモスがいるところは国王の部屋なんじゃないかと」

 皆が驚いた顔をしている。
 だが、今得られる情報を整理してたどり着いた答えはこれだけだ。
 ただの数の計算なら答えは一つだが、これは数の計算ではない。だから答えは一つではないのだ。
 他にも答えはあるかもしれないが、今出せる答えはこれだけだ。
 これにかけるしかない。

「国王の側近ならもちろん部屋の出入りも自由。そしてそこは普通の人が入れない場所だ。普通に考えればそこに行くと言う考えは浮かばない。俺たちは無意識的にそこを逃していたんだろうな」

「そう言われると確かに……」

 皆が納得し始めた。
 もしこれでミスをしたら俺はボコボコにされるかもしれない。
 だけど、これしか思いつかないのだ。
 これを逃せば俺たちの負け。ゲームオーバーだ。
 存在しない神に祈るしかない。

「消えた使用人たちは一旦置いておこう。アモスさえ見つかればわかることだからな」

「なるほど、わかった。では、私が案内しよう。敵もいないことだ。堂々と行こう」

「お前、ちょっとワクワクしてね?」

「皆には悪いが少しな。なんせこれが私が行う最初の大仕事かもしれんのだ。ワクワクしない方がおかしい」

 後でボコボコにしてやろう。それこそ肉離れから打撲、捻挫、突き指まで。
 ジェームズが先頭に行き、俺たち全員を案内し始めた。

 国王の部屋だったら最上階の三階かと思っていたが、実はそうではなかったようだ。まさかの二階のど真ん中にあった。
 これは俺たちが踊らされていたな。国王の部屋なんざ、まず探さないし、探したアンリーさんもここを避けていたことだろう。
 ボコる対象が増えたので気合が入る。指を鳴らして準備運動をする。
 部屋の前に来て、ジェームズが確認を取る。

「いいか?」

「いけいけ。思いっきり開けろ」

 ゆっくりと扉を開ける。
 中に入ると、国王の部屋だからなのか。他の部屋とは造りが違う。それに高そうな装飾品だらけだ。持って帰ってはダメだろうか。後でジェームズに交渉しよう。
 しかし、中には誰もいなかった。やはり外れだったのだろうか。

「……匂うな」

「誰か屁をこいたか?」

「馬鹿野郎。人間の匂いだよ。さっきまでここにいたようだな。まだ匂いがプンプンする」

 当たりだったようだが、一足遅かったようだ。
 流石国王の側近だ。頭がキレる。

「でも、廊下に匂いは無かった。だとしたらまだここにいるな」

「ああ、確かにここにいる。そして汗が出てきているのか、緊張した時の特有の匂いがする。チェスで言う所のチェックメイト寸前だな」

 こいつらの嗅覚マジで半端ねえ……
 緊張した時特有の匂いなんてあるのか……だとしたら俺が緊張していたことも既にバレバレだったのか……
 過去の自分を殴ってやりたい。
 だけど、今は目の前の敵が先だ。もう詰みかけているのだからな。

「ここで隠れられそうな場所と言えば、タンスの中かベッドの下ぐらいだぞ。子供じゃあるまいし、そんなところに隠れんだろうよ」

「しかし匂いがする。ここにいるのは間違いないんだが……」

 皆で捜索を始める。
 タンスの中、ベッドの下。窓、扉の後ろ。探せるところは全て探した。
 でも見つからない。何故だ……
 もう少しで捕まえられそうだったの、逃がしてしまったようだ。
 ショックで落ち込む。

「あれ?」

 シルヴィスが何かに気付いたようだ。
 顔をあげてシルヴィスを見る。

「何か見つけたのか?」

「いえ、見つけたと言うより……ここに床、動きますよ」

「え、動く?」

 気になったのでシルヴィスが踏んでいる床に力を入れて動かしてみる。
 動かそうとしたら本当に動いた。ほんの少しだけだが、動いた。

「でも、これはただ老朽化が進んで、床の石が縮んだだけじゃあねえのか?」

「石って縮むんですか?」

「熱の変化で体積が変わることがあるが、それは急激な温度変化でならの話だ。普通は縮んだりしない」

「んじゃ、これが意味することは……」

 俺たち全員の目が一斉に光った。
 獲物を見つけた獣の目。それが今この場にいる全員がしている。

「獣人さん、匂いチェックお願い」

「確認するまでもない。ここにいる。私の貞操をかけてもいい」

「かけんでいいわそんなもの。乙女なんだから自分の体を大事にしなさい。おじさん、怒りますよ」

「んじゃ、俺の処女もかけるわ」

「お前も乗るな。お願いだから自分の体大事にして。そういうのは好きな人同士でもらい合うものなんです。こんな時にセクハラ発言するのは獣人としての本能なのか? それともお前ら姉妹の頭がアーパーなのか?」

「「殺すぞ」」

「すいませんでした」

 声が重なっていたので恐怖を感じて速攻で謝罪をした。
 流石血が繋がっている姉妹からか……息ピッタリだ。
実は仲良いんじゃねえのかあんたら……

「私からは何も言えないが、とりあえずこの床の石をどかすか壊すか早くしよう。うずうずして仕方が無いんだ」

「それじゃあ多数決を取るわ。壊した方がいいと思う人ー?」

 全員が手を挙げた。
 決まりだ。この動く床を破壊しよう。
人間の俺が硬い石を壊すことは出来ないので、ここは獣人のお二人のどちらかに任せよう。

「私が壊す」

「いや、俺が壊す。お前はどいてろ」

「良いだろう。どちらが壊すか、今この場で決着をつけようじゃないか」

 獣人の二人が構えを取り始めた。

「止めんかい。この場で争うな。この石一枚の向こう側に獲物がいるんだ。喧嘩するのなら俺が壊すぞ」

「「死にたいか?」」

「ごめんなさい」

 こいつら……マジで仲良いわ。

 争う気が無くなったのか、獣人の二人はどちらが壊すかジャンケンで決めるようだ。
早くしてほしい、ここにいる全員がそう思った。

 ジャンケンの勝負は中々つかない。仲が良すぎて全部あいこになっている。
 いつになったら壊せるのか……気が遠いな。

「よっし! 俺の勝ちぃ!」

 やっと決まったようだ。
 全員が目の前にいる敵のことも忘れて雑談をしていたところだ。
 カーリーが床の上に拳を置く。

「そんじゃあ、遠慮なく行くぞ」

「やれやれ、やっちまえ。出来れば下にいるであろうアモスさんの脳天勝ち割るぐらいにな」

「待て待て待て。殺すのはマズイ。じっくりと拷問してからだな」

「何気にえぐいですね、アンリーさん。過去になにかありました?」

「緊張感ないな君たち……私もそうだが」

 また雑談が始まってしまった。
 いつになったら行動出来るんだろうか……

 カーリーが何回か深呼吸をして、拳をゆっくりと上げる。
 そして、拳はある距離で止まった。
 その拳を……

「おっらぁ!」

 思いっきり床の石に向けてぶつけた。
「バキッ!」と言う石にしては非情に軽い音を立てて、床の一部が壊れた。
 壊れた石は下にある空間に落下していき、その下から一人の男の声が聞こえた。

 アモス……なのだろうか。アモスでいいんだな、良いよな?

 アモスらしきジジイが、床の下にあった人一人分の空間の中で縮こまっていた。
 アンリーさんの言う通り、マジで胡散臭い。胡散臭すぎるわ……
 だけどやっと見つけた。

「「「「「み~つけた」」」」」

 全員の声が揃った。
全員の目線が揃った。
逃げ場を無くしたアモスは俺たちを一瞬見ると、失神した。
よほど怖かったのだろう。でも、まだ満足していない。
顔の骨が変形するまで殴らなければ気が済まない。

 すぐにアモスをそこから引っ張り出し、そして半殺しにした。
 それはもう、ボコボコに。
 顔が整形するぐらいまで。

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