人間に恋をした女神

しげぞうじいさん

第十三節 報い


 アモスが白状したことで、事件の真実がわかった。
 アモスは使用人たちの朝食にジェームズ暗殺用以外に調合した薬を使って使用人たちの意識を奪い、殺せと言う命令を出していた。
 薬で操られていた使用人や一般人は王宮の地下で発見された。全員無事だ。

 そして、王子を暗殺しようとしていた国王が国に帰って来た。
 ジェームズは王宮の中で国王と対峙していた。
 それを俺たちは柱の陰に隠れて見ていた。

「父上、お早いお帰りで」

「……留守中何か問題は無かったか?」

 ジェームズの姿を見た国王が一瞬だけ固まったのがわかった。
 自分の計画が失敗した、そう言っているのも当然だ。

「私が開いた食事会で参加していた貴族と商人が三人殺されました」

「なるほど。それは貴様の責任だな?」

「ええ、そうです。ですが、元々の原因はあなたにあるのでは?」

「……何が言いたい?」

「私は全てを知っています。あなたが私を殺そうとしていたことを。私を殺してその心臓を食らい、生き延びようとしていたことを」

 国王の顔が固まる。険しくなる。
 だが、流石無駄に歳を食っているだけあるのか、それ以外の反応はない。
 これも予想通りの展開なのだろうか。

「馬鹿げた話だ。何故余が息子のお前を殺すのだ? それもただ自分が生きたいが為に。これは反逆、と受け取ってよいのだな?」

「反逆は貴様だ!」

 突然ジェームズが怒鳴った。
 その怒鳴り声は国王を一歩後ろ下がらすだけの迫力があった。

「今更隠し通せると思うな! 全てを認め、そして罪を償う時だ! それが国王としての義務であろう!」

 ジェームズが国王に向かって一歩ずつ近づく。
 それに対して国王は一歩ずつ後ろに下がっていく。

 自分の息子、ジェームズに怯えている。圧倒されている。
 これでこの王の器が知れた。ただの威張ったジジイだと言うことが。

「この王宮に仕える全ての者が貴様とアモスが犯人だと言っている! これでもまだ逃げると言うのか!」

 これは半分嘘だ。
 使用人全員は意識が無かった状態だったので何も憶えていない。
 だけど、アモスから事情を聞いた人たちは全員ジェームズの味方になっている。
 もう、この王に味方は誰もいない。頼るべき相手もいない。
 チェックメイトだ。

「な、何を言うか息子よ……余はこの国の王であるぞ……その王に反逆すると言うのはどういうことか……」

「ならば今ここで私がこの国の王となろう!」

 ジェームズが最後の一歩を踏み出して伸ばした手を横に薙ぎ払った。

「我が名はジェームズ・ノア! 国王の息子にしてこの国の王子! そして、今から国王となる者! 我が名において、汝、アーチボルト・ノアの王位を剥奪し、この国から追放する!」

 それを合図にジェームズの後ろにアンリーさんが現れた。
 その手には一本の剣が。

 ジェームズはその剣を鞘から抜き取り、父親である国王に剣先を向けた。

「選ばせてやろう。死か、追放か」

 中々決まっているじゃないか。流石王子だけのことはあるな。
 ただ仕事をしない馬鹿かと思っていたが、なるほど。この国を統べるだけの器は持っているらしい。

 選択肢を与えられた国王……いや、元国王か。元国王は歯を食いしばっている。
 自分の権力を奪われ、そして今受け入れられない二つの選択肢を選ばされているのだ。
 権力者として、これ以上の屈辱はないだろう。

「余は……余は……」

「どっちだ? どちらがいい?」

「余は……貴様如きに負けるはずがないのだ!」

 恐怖から逃れる為か、現実から逃げる為か、元国王はジェームズに飛びかかった。

「貴様を殺せば余は再びこの国の王として君臨する! 貴様を殺し、その心臓を食らってやろうではないか!」

 馬鹿な奴だ。武器を持った相手に素手で立ち向かおうとするなんて。
 玄人でもない限り無理だ。

 ジェームズは目を閉じ、剣を構えて前にいる元国王を叩き切った。
 殺そうとしていたとは言え、父親の命を奪う瞬間を見たくなかったのだろう。
 ジェームズの剣が元国王の体の肉を切り裂いて、地面にぶつかり、金属音が聞こえた。

 斬られた元国王は血を吹き出し、そして倒れた。
 暗殺を企てた王は死んだのだ。暴君は死んだ。そして、ジェームズが国王となった瞬間だった。

「ハァ……ハァ……」

 ジェームズの息が荒い。
 初めて人を斬った、と言う感じだろうな。
 肉を斬る感触は俺でも嫌になる。それを素人のジェームズが行ったのだからさぞかし辛いことだろう。

 ジェームズの目が開き、血を流して倒れている父親の姿を見る。

「父上。私はあなたの命を奪ったことを生涯忘れません。この罪業は、私の命が終わるその時まで私を苦しめることになるでしょう。それが私の犯した罪なのですから」

 最後までカッコイイ台詞を言うじゃないか。
 これじゃあ、万が一に備えて隠れていた俺たちは用済みだな。
 さっきからそこで飛び出しそうなカーリーを抑えているのも大変だったし。

 柱の陰から出てきてジェームズの元に向かう。

「素晴らしい姿だったぞ、友よ。いや、今は国王様か」

「友でいいぞ、友よ。私はまだまだ未熟だ。時間はかかるが、私は必ずこの国を統べる良き王となると誓おう」

「……国王様」

 ジェームズの近くにいたアンリーさんが膝をついてしゃがんだ。
 服従の姿勢。
今、この獣人はジェームズを主と認めたのだ。

「私は今まであなたを過小評価していた、見下していた。そのことをどうかお許しください」

 アンリーさんが頭を下げて下を向き、目を閉じる。

「今、私の主はあなたになった、私の王はあなたになった。……我らが王よ。どうか、どうか……。私を、愚かな私を罰してください。あなたに全てを委ねます、ノア陛下」

「ならば……」

 ジェームズがアンリーさんの方へ体を向かせ、剣を構え、そして地面に突き立てる。

「ならば、これからも私の手助けをしてくれ。私はただの人間、非力な人間だ。とても一人でこんな大きな仕事は出来ない。もしかしたら私はサボってしまうかもしれない。その時にいつものように君に怒ってもらわないといけない。だから、これからも、今までと同じように私の接してほしい。そんな堅苦しいのはごめんだからな」

 少しだけ微笑み、アンリーさんを見つめる。
 その言葉を聞いたアンリーさんは顔をあげ、ジェームズを見つめる。

 この二人は王と従者。そして、友としてでもある。それ以上の関係かもしれない。
 そんな関係がジェームズは楽しかったのだろう。だからそう言ったのだ。

「お言葉、確かに承りました」

 アンリーさんが立ちあがる。
 その顔は嬉しそうな顔をしていた。
 その顔をして口を開け、言葉を伝える。

「じゃあ、早速この汚い死体を一人で片付けてください」

「……え?」

 ジェームズの目が点になる。俺たち全員の目も点になる。
 さっきまでこの人、完全に服従していたはずなのだが……俺たちの耳が腐ったのかもしれない。聞き間違いかもしれない。

「……すまん、今なんて言ったんだ? 良く聞こえなかったんだ」

「どれだけ聴力が悪いんですか、この馬鹿王。この死体を片付けてくださいと言ったんです」

「……私が?」

「そうです。早くしてください。血の匂いがきついので今すぐにでも失礼します」

 暴言とも思えるような言葉を残してアンリーさんはこの場から去っていった。
 あまりのことなので腹を抱えて笑いを堪えている一人を除いた俺たち三人は固まったまま動けない。動ける気がしない。

 固まった首を動かし、ジェームズの目を見る。目が合った。

「……これで良いの?」

「……良いんじゃないかな……私にもわからない。助けてくれ、友よ」

「すまん。これだけは無理だわ。……後は頼んだ! 逃げるぞ、シルヴィス!」

「え、あ、はい!」

 全速力でこの場から走り去る。
 死体の後片付けなんざごめんだ。だから逃げる。体力が続く限り。
 俺の後を追いかけるようにシルヴィスが走り、そして抜き去った。
 こいつ……俺より走るの速いのか……

「マスター! 早くしてくださーい!」

「クソが! 若いって素晴らしいことだなおい!」

「んじゃ、俺も先に行ってるぜ」

 二人が俺を置いて先に走って行く。

 綺麗に終わるはずだったのになんだこの結末。
 脚本家は誰だ! 出てこい!

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