人間に恋をした女神

しげぞうじいさん

第一節 ちょっと変わった日常


「いらっしゃいませー!」

 店を通常営業し、今日も忙しい日だ。ひたすら料理と酒を提供し、客の愚痴や世間話に付き合わなければならない。大変だが、中々に楽しいから辞めることは出来ない。

 シルヴィスとクレアが店の中で動き回っている間、俺は注文を受けた品をひたすら作る。
 あと一人、従業員がいたのだが、そいつは前回の件でブチ切れて辞めてしまった。だから人手が足りない。猫の手も借りたいところだ。

 今頃はどうしてるのかねぇ。

 あんまし活躍もしてなかったし、ほとんど役立たずだったが、それでも安否は気になる。最近は店にも来ないし、どこで何をしているのやら。

「いらっしゃいま……おや、エマじゃないか」

 クレアが歓迎の言葉を言い終わる前に、ある人物の名前を呼んだ。

「こんにちは」

 そう、エマだ。
 魔女と呼ばれて、街一つを火の海にした火傷の少女。それが今ではこの国の街で豊かに暮らしている。

「おう! エマちゃんじゃねえか! ちょっとおじさんに付き合えよ!」

「そんな男よりこっちに付き合えよ! なに、奢ってやるぞ!」

「むさくるしい男よりこっちに来なさいよ。歓迎してあげるわ」

 今ではすっかりご覧のありさま。この店の看板娘候補だ。

 顔に出来た火傷の痕は、ジェームズが手作りした仮面で顔を隠している。
何故あいつにそんな器用なことが出来て、なお自ら仮面を作ってあげたのかはわからない。問いただしても答えてくれない。

 そんな歓迎の声が飛び交うエマだが……

「貴様らみたいな屑に付き合う意味がない」

 と、アンリーさんの英才教育によって、かなり毒舌になってしまった。
 元々口が悪い子だったのだが、教育もとい指導のせいで、更に磨きがかかってしまった。

 こんな毒舌を吐いたら嫌われるだと思うが、何故か――

「くぅ! 癖になる言葉だぁ!」

「いつにも増してキレが良いねぇ!」

「ああぁ……!」

 と、客は変態ばかりなので、そこそこに人気がある。最後の一人は何か、別の意味で興奮しているような気がしないでもないが……

 毒舌を吐きながら、エマは真っ直ぐに俺の方に向かってくる。

「いつものください!」

「あいよ。毎度毎度、ご苦労さんなこった」

「一応、これも仕事ですから」

 年相応の話し方で、俺やあの事件に関わった奴に対してはこういう話し方になる。
 顔が半分隠れているとはいえ、それでも無邪気な笑顔を見せてくれる。あの時とはほとんど別人だ。

 いつも通りに用意していた弁当をエマに差し出す。
 ジェームズの働きによって、エマが救われたので、一応礼として二日か三日に一度弁当と言う名の差し入れをしている。それをエマが取りに来ているのだ。自分で来ればいいものの……

「今あいつどうしてる?」

 最近顔を見せに来ないので、若干だが心配になる。

「寝る間も惜しんで仕事してます」

「よし、いつも通りだな」

 仕事が出来ているのなら元気にしていると言うことだ。これ以上ない安否確認が出来たので、とりあえず安心した。

「エマはもう飯食ったのか?」

 時刻は昼前。腹が減ってもおかしくない時間だ。

「まだです」

「んじゃ、ここで食ってけよ」

「でも、それじゃあ……」

「料金は直接あいつに請求するからさ」

「最高級の料理を頼みます」

 カウンターに近い席に座った。

 どんな英才教育を施したのか、ジェームズに対しても酷くなったと思う。
 一応命の恩人であるし、国王なのだからそれなりの敬意と尊敬を込めて仕えた方が良いと俺は思います。
 ……あ、エマはアンリーさんの使用人だったか。あいつ、関係ないな。

 一人で納得したので、他の注文をそっちのけでエマ専用の料理を作り始める。
 年頃の娘なので、栄養があるものを食べさせてやりたいが、未だに好みがわからない。何が好きで、何が嫌いなのか。それを考えるのがかなり面倒だ。

「エマちゃ~ん!」

 仕事を一通り終えたシルヴィスがエマに抱き着いてきた。

「わっ!?」

「う~ん、この初々しい反応……たまりませんねぇ!」

「お前、最近何だか徐々におっさん化してきているぞ」

「失敬な! 私はまだまだピチピチの乙女です! 決してマスターみたいなおじさんにはなりません! 変態でもありませんし!」

 最初の方は認めよう。中盤も許そう。
 だが、最後の変態は余計だ。俺はいつでも紳士的な態度を心掛けているつもりだ。その紳士に変態など……無礼にも程がある。

 内心ツッコミたい気持ちを抑えて料理を作っていると、シルヴィスはエマにべったり。それどころか、頬ずりまでしている。

「ちょ……シルヴィスさん! 離して……!」

「良いじゃないですか~! 同じ女なんですから、少しぐらい~! うりうり~!」

 女と言う性別を利用して、純粋なエマを汚さないで欲しい。これがアンリーさんの耳に入ったら、それこそ問答無用で病院行き確定だ。

 されるがままのエマの前で華麗にフライパンを振り回し、いかにも料理人だと言う事をアピールさせる。
 何だか最近、俺が料理人だと言うことをほとんどの奴が忘れている気がするので。

「ほい、出来たぞ」

 エマに即席で簡単な料理を作り、綺麗に皿に盛りつけた。それを目の前に差し出す。

「あれ……これ、初めて見る……」

「ちょいっと工夫してみた」

「それって所謂毒味って奴ですよね?」

「それは言わないで欲しいね」

 確かに毒味と言うのは間違ってはいない。間違ってはいないのだが、何だか誤解を招く言い方になる。

「では、いただきます」

 綺麗に手を合わせて、俺の料理を食べ始めた。
 そのままモグモグと無言で口を動かすので、不味いのか美味いのかわからない空気が流れる。

 もしかして火の通し方が甘かったか? それとも切り方に問題があったか?
 などと言った不安が胸の中でうごめいている。
 出来れば一口目で感想を言って欲しいが、これも教育していくしかないな。

「あ、そう言えば」

 突然エマが手を止めて、話をしてきた。

「なに? 何か思い出したの?」

「ジェームズさんが“店が終わってからでいいから来てくれ”とのことです。何をしようとしているのかわかりませんけど、そう言ってました」

「まぁた面倒事にでも巻き込むつもりか、あいつは。俺を何だと思っているのかね」

「奴隷、じゃないですか?」

「シルヴィス。今日の店の片づけ、全部お前がしろよ」

「すいませんでしたー!」

 俺、勝利。
 こんな小さな戦いでも、勝てるとなったら、それなりに嬉しいものだ。
 まあ、既に武器を用意し、作戦を立てているので、負ける気はさらさらないが。

 その後、別の客の注文が入り、別の料理を作ることになる。
 一応食事処なのだから、客の要望に応えるのが義理だが、今この時間を削られたことに関しては非常に不満がある。それが狙いかと思い込んでしまう程に、タイミングが良いのだ。

 料理を作り続けている間にエマが食べ終わり、

「ご馳走様でした。それではまた」

 と、言って弁当を持って店から出て行ってしまった。
 その時に他の客から悲しそうな声が聞こえてくるが。それは無視しよう。大半がロリコン予備軍の連中だから。

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