Koloroー私は夜空を知らないー

ノベルバユーザー131094

第四話 飯はうまい!服は綺麗!ここは天国か!?

リビングを中心として東側の部屋は散策が終わり、西は玄関and庭、南には何もないので、残りは北の二つの部屋、キッチンと風呂場である。ちなみにトイレとお風呂は一緒!…なので、どれだけお腹がゲリラ豪雨になろうともルーノが入っている間は我慢しなければならないという…。まあ、それは追々なんとかなるだろう。
しかし、キッチンと風呂場は昨日見てしまっているし、特に何か面白そうなものが置いてあるわけでもない。どうもルーノは物を買わない人らしく、必要最低限しか置いてないため、なんとも面白みのない家であった。
スッキリしている、サッパリしている、といえば聞こえはいいが、やたら白い壁と黒い床が目立つ寂しい家なのだ。絵画や絨毯など色のある物を置いておけばいいのに、謎の白黒モノクロ統一で本当につまらない。

…これが男の一人暮しと言うやつなのか…?

いやだがしかし、思い出してほしい。私が今使っている私の部屋、つまり私の寝室なのだが、ルーノと兼用ではない。
つまりルーノの部屋にルーノのベッドや持ち物があるわけで、私の部屋のベッドやタンスなどは必要のないものだったはずだ。
こちらに突然来て困っている私としてはとてもありがたい状況だったのだが、その部屋を物置にするなり、何か趣味の部屋にするだの方法はあっただろうに、まるでそこにあるじのいないベッドやタンスがあることを「当り前」かのように置かれている。

…つまり、ルーノは元々一人暮しではなかったのだと思われる。

あまりにもシンプルな部屋だから男と二人暮らししていた。という線もあるが、彼女のほうが出て行って、オシャレな家具や雑貨を全部根こそぎ持って帰っちゃった説もある。
食事や洗い物など、基本的な家事は慣れているので、元から家事は彼が担当だったのか、一人暮らしになってから長いのか…。いやしかし、その間にベッドやタンスは捨ててもよさそうだけど…。
今のところ謎に満ちた男の家に図々しく泊まり込んでいる私もどうかと思うが、所詮私は女と思われてもいないだろう。せいぜい、突然現れて世話することになったクソガキ程度だ。
…今までの人生も色恋沙汰とは無縁の人間だった。これからだってずっとそうだ。
自分から他人を愛することはないし、他人からも自分を愛してもらうことはない。

浅く広く、これ以上私の線には入って来ないで。
そう思って生きて来たのだから。

ルーノは私がこの世界に来た事情を知っていたうえで、世話を請け負うことを決めてくれているのはわかっている。そして、私はそれに甘えていて、彼はそれを受け止めてくれたのだ。
別段、彼に世話してもらう理由など本当はなさそうなのだが、彼がこの世界に来た理由を知っているのならば、彼の傍にいたほうがいいだろうし…というのと、私自身、一文無しで訳も分からず外の世界に放り出されるのだけはごめんだった。それだけは辛い。コミュニケーション能力、すなわちコミュ力がないから…。
だから!私はこの家にいるのであって…と…誰に言い訳してるんだろう私…。なんて、ブツブツと呟く。

こうも自分に彼との関係のことを言い訳するのは、今まで出会って来た人間の中で、彼が一番私の傍に近づいてきたからだ。それは実際の距離ではなく、精神的に、感情的に感じるものである。
心のどこかで決めている線の内側にスルリと入りこまれそうな、切望のような、不安なような…。

とにもかくにも、探検することを楽しみにしていた私はお昼ご飯を食べることすら忘れていたのを思い出し、早速ルーノの用意してくれていた食料を使いご飯を作る。
昼ご飯はパンにイチゴのジャム、それから卵でスクランブルエッグを作った。ジャムはルーノが気に入ってるお店の手製だというだけのことがあって、甘すぎず、イチゴの風味を生かした美味しいジャム、またパンもこの街の人気のパン屋のものらしく、サクサクっもちもちっふわっふわ!!の色んなパンがある。お勧めは少し塩で味付けしてある塩パン。パンの甘さと程よいしょっぱさがジャム無しで食べられるほど美味しいのだ…。
…スクランブルエッグ自体は特に味はないものの、味付けに借りたトマトケチャップが思わず笑みがこぼれるほど美味しい!!幸せ!!
はああ…こんなに毎日おいしいもの食べてたら太りそう…なんて思いつつ、幸せに浸ること数十分。
することもやることもなくなって読書に没頭し始めた私のもとに彼は突然帰って来た。

「おかえりなさい!!!」
「…ただいま」
ドアの音がするとダーッと駆け寄った私に彼はビックリした様子だったが、クスリと笑うと返事をくれた。右手に食材を、左手に謎の大きな袋を抱えていた彼はその荷物を机に置いた。
私はその様子をジッと見ていたのだが、彼は私を手招くと、謎の大きな袋を私に差し出した。
「中身を見ても?」
「もちろん」
私が謎の袋を開けると、中から出てきたのは、緩く楽に着ることができるロングワンピースが数着。
「これ、スカートが、二枚?」
「そう、最近の女性達は一枚目のスカートをたくし上げて内側のスカートを見えるようにするんだって」
「へぇ…」
全てよく見ると、外側のスカートは黒、内側のスカートは白となっており、白のスカートの裾に黒で様々な模様がつけられている。そこにエプロンなどがついてきて、よく観劇などに出てくる花売り娘の衣装のようだ。…色は白黒モノクロだが。
それも可愛くて私は喜んでいたのだが、奥から出てきた物に圧倒された。
以前、本に見たシュミーズドレス…という物に似ている。シュミーズドレスでよく見るジゴ袖――肩から肘上にかけて膨んでいる袖、童話白雪姫などお姫様の袖を意識してもらえればいいと思う――ではないが、バストのすぐ下をウエストとしてスカートが広がっている、元の世界で言えばヨーロッパの歴史に出てきそうな服だ。現代日本の服で例えるなら長袖ロングワンピース。色は黒、裾に金と銀の装飾が施してあり、首元は寒くないようハイネックになっている。実際のシュミーズドレスは薄手の布で作られていたが、こちらはしっかりとした生地で作られていて、着ても寒くなさそうである(しかし、家の中は暖炉で暖まっており、今のところ外に出てない私は寒さを感じたことはないのだが)。袖と裾にはフリルをあしらっており、とても可愛い服になっている。
もう一つはロングコート。首元から裾にかけて金色のボタンがつけられていて、とってもお洒落だ。これは一体…。
「手伝いしている教会の神父様に「妹がこちらで暮らすことになった」って告げたら、今日だけ早めに帰してくれてさ。いずれ外を出る時に必要になるのだからと帰りに服を買って帰って来たんだ」
服を見て固まる私に楽しげに話すルーノ。
「え、でも、これ」
私は、ファンタジー物が大好きで、ヨーロッパ地方の服に少し詳しい。だからわかる。
「上流階級の人達が着るような服、だよね?」
周りの家を見て行ったわけでもなく、この世界ではこれが当たり前なのかもしれない、が、質素な生活をしているように見えるのに私のこの服だけあまりにもお金をかけている気がする。
「それはいずれ着ることになる」
「え?」
いずれ…?こんな立派なものを着て、一体私は何処に連れて行かれるのだろう。
「まあ、それは衣装棚にでも仕舞っておいてくれ。まずはこっちの服に着替えよう。寒くないように羽織も買ってきてるから」
彼は私が出した服をさーっと片手に抱えると、もう片方の手で私の背中を押して部屋へと連れて行った。部屋に着くと彼はベッドの上に服を置き、シュミーズドレス風の服をタンスに手際よく片付けると、他のドレスをベッドに並べ
「どれがいい?」
と尋ねられた。…実際のところ、どれも可愛いから選ぶのは辛いのだが…とりあえず、一番右側の服を着よう。
「着替え方はわかる?」
「えっと…服脱いで、ストン!みたいな…?」
「…まあ、そうとも言える」
「なんとかなるなる」
「なんかあったら呼んで…とも、言えないし」
「頑張ります…」
異世界で男女二人だけの生活って難しい。こういう時、頼れるお姉さんとかいたらいいのに…とか、考えたりもするけど贅沢言わない頑張ります。自立精神!!
ルーノが部屋から出て行くと、今着ている服を脱ぐ。どうも袋の中にはまだまだ下着――なんでお前がそんな物買ってんだよバカヤロー!――とか羽織とか、髪留めとか色々あったが、とりあえず今着ている下着だけになって、ワンピースを普通に着た。
…確か、外側のスカートをたくし上げるのが流行だと言っていたので、適当にたくし上げてみる。エプロンをつけて、肩からショールを羽織ったら完成だ!…と、言いたいのだが、鏡がないため何とも言えないこの気持ち。正解なの?これ、正解?
とりあえず、部屋から出ると、廊下で待っていてくれたルーノ。くるりとその場で一回転する。
「じゃじゃーん」
「…うん、微妙」
おい!!!!!!!
「着方が」
「あ、そっち」
やっぱり正解じゃなかったらしく、モデルのアシスタントさんみたいにさっさと服の着崩れを直してくれるルーノ。素晴らしい!…しかしまあ、これも一人でできるようにならなきゃだよね…。む、ずかしい…。
「うん、いい感じ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼は笑うと、リビングへと戻っていった。私もそれに続く。彼がリビングのソファに座ったため、私も続いて彼の隣に座った。
「ルーナのことを神父様に話したら、ぜひうちで手伝ってくれって」
「本当!?」
「とはいえ、どこの家も女が働いてる場所はないから、本当は働かなくてもいいんだけど、それじゃあルーナつまらなくて家で死んでそうだから」
「それは…うん、そうなる」
一瞬、新しい場所に行けることに目を輝かせた。教会の手伝いなんて元の世界だったら一生関係の無い仕事だろう。…だが、すぐに私の顔は曇った。
バイトしたこともない、体力ないから毎日働く自信もない私に何ができるのだろうか。迷惑はかけないだろうか。しかし働かないと…。
だけど、外が楽しいなんて、誰が言っただろうか?

仕事をすれば→仕事が増えて→追い込まれて
その人に押し付けられてやらざるを得なくなったものをこなすと、その人を甘やかす行為となってしまい、一度請け負ってしまった物から逃げれることはなく、助けてと訴えた先で言われた言葉「勝手にお前がやった」。それが子供の私に言う、大人の言い訳だった。

暗い顔をしている私を見てルーノが、頭を優しく撫でた。ジワリと涙腺に来そうで、下唇を噛みしめた。
そう、この人は私の気持ちに同情するのではなく共感するように傍にいるのだ。
それは、私が他人と線引きした線を掻き消すように…。
「ルーナは、さ、俺のことをあまり知らないだろう?」
「え?うん」
当然だ。ルーノは昨日、初めて会った人なのだから。
「…俺は、君のことをよく知ってるんだ」
「…どういう、こと?」
彼がこちらを見た。私も彼を見た。
「訳は、上手く言えないんだけど…君が小さい頃よく笑ってたことも、泣いていたことも、辛くて眠れない日も、幸せで満ち足りた気持ちも、全部全部、知ってるんだ」
それは、ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような。
「君が、全てを諦めた日も」
彼の言葉に、体が硬直した。そんな風に、あの日のことを言ったのは【あの子Maiden】以外、いないはずだった。沢山の人にその時の気持ちを話さねばならない時はあったけれど、皆は大したことはないと、それは逃げだと、よくあることだと、お前が悪いと笑ってそう言っていた。けど、彼は。
「元々教会は俺と神父様の二人でなんとかできるくらいで、掃除や雑用なんかをやってくれる人が一人増えればいいな、って言う程度だから、しんどい時は休んでくれて構わないし、行きたいときは来てほしい。手伝ってくれたら、俺は嬉しい」
私は横にいる彼の顔を見た。彼は、笑っていた。
「私は、行ってもいいの?」
彼は大きく私を肯定した。
ここ黒の街は、全ての人を受け入れる場所なのだから」

彼が何者なのか。未だに私は何も知らない。
ただ一つ言えるのは、彼はとても私に近い人だ、ということだった。

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