子連れプログラマーVRRPG脱出計画
第3話 インパクト
「……パパ……」
目を覚ました少年。アイツの趣味全開の美少年が、今、俺にピタッと抱きついている。
「えーっと……状況が1ミリも理解できないんだけど。
これはどういうことなのか理論的に説明を求めたいわけなんだけど……」
「パパは、パパ」
「うん。そうか。
って、納得できる話ではないんだよね。
えーっと私は独身で、その、あれだ、子供が出来るようなこともしたこともないわけで、他人からパパと呼ばれるような覚えがないわけで……」
「酷いよパパ……」
うん、これはダメだ。埒が明かない。
こういう時はきちんとひとつひとつ絡まった問題を解きほぐしていくのが一番だ。
「……君の名前は?」
「忘れたのパパ?」
来ました、質問返し。
職場でこれをやったら後悔させるほど論破するけど、相手は子供。
大人になれ、俺。
「き、君の声で名前が聞きたいなぁ~、なんて……」
あーもー! どーしてこんな返しになるんだ俺!
「……ナユタ……」
「那由多……?」
「やっぱり忘れてたんだ。パパの嘘つき」
あれ、なんだろ、傷ついてるぞ俺……美少年の言葉って攻撃力が高いの?
いやいやいや、待て待て。
まずは最初のヒントを得られたことを喜ぼう。
那由多……那由多って言ったらあれだよなぁ……
「XXK-9781ー526」
「その名前は嫌いです。いつもみたいにナユタって呼んでくださいパパ」
顔をグリグリとこすりつけながら甘えてくる。
なんか、ほんわかする……これが……父性……
いやいやいや、今は状況判断のための情報収集が優先だ!
「ナユタ、外で何が起きてる」
「パパ、やっと名前で読んでくれた!」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔。
なるほど。
アイツが熱弁していたことの一片を理解できてしまったことが、心の底から悔しい。
「すまなかったなナユタすぐに気がついてあげられなくて。それでは外の状況を教えてくれ」
「はいパパ!
現在VR研究所は、ボクがいる勝武山の噴火活動の活性化の影響によるボク自身の暴走によって、一時的な機能不全状態です。
その機能不全状態の隙を突かれて現在5カ国からのクラッキングを受けております。
現行クラッキングに対しては防壁を展開、封じ込めには成功していますが、今後時間経過でボクの機能復帰が遅れてしまうともしかしたら制御権を奪われてしまうかもしれません」
「ちょっと待った---!!」
「はい、何でしょうパパ?」
「とんでもないことをさらっと言っているが、クラッキング!?
ありえないだろ! 那由多はクローズド環境で運用されているんだぞ!?」
「はい、ママ、えーっと研究員名 蕪 沙羅 氏のマシンと接続中に異常が起きたために外部からの侵入を許してしまったと考えられています。
また、そのマシン内の複数のプログラムもその際にボクの内部へと混線しました。
付け加えて、沙羅氏のパソコンによって接続されていたパパのパソコンともリンクしてしまい、パパの考えていた厨二病丸出しのいろんなものもボクの中、この世界に混ざり込んでます!」
「ちょっと待った---!!!」
「二回目ですねパパ」
「すーはー。落ち着け俺。
なぜ沙羅のパソコンが俺のパソコンとつながっているんだい那由多?」
「バックドアを仕込んでいたからですね」
「アイツ帰ったら絶対に殺す」
怒りを抑えるために大きく深呼吸をする。
「めちゃくちゃだが、とんでもなくめちゃくちゃだが、現状を理解する情報は少しづつ俺の中に入って来てくれている。
……もう一つ聞こう。那由多はなんでここに居るんだ?」
「……酷いですパパ……」
今にも大粒のナミダが溢れんばかりに悲しそうな顔をされるとパパ悲しい!
じゃない! ノリがアイツみたいになってしまう……
「正確に聞こう。那由多が俺の側に居る合理的な目的は何だ?」
「さすがパパ、ここでパパといたいからですと答えても良かったのですが……
パパにはボクをこの世界の最深部に連れて行ってもらいたいのです。
それに合わせて、各地に封じた各国のプログラムも対処してほしいです」
「……なるほど。
さっぱりわからん」
「簡単に言えば、クラッキングプログラムが沙羅氏のストーリーやパパのプログラムと混ざり合ってしまって簡単に分離が出来なくなってしまったので、ならばストーリーに合わせたキャラと強固に紐付けして固定化させて攻撃を緩ませようと試みまして、魔王とかそんなんに姿を変えています」
「つまり、俺はその魔王とかを倒しながらこの世界の最深部まで行けばいいと」
「理解が早い。さすがパパ!」
「やってられっかー!!」
「ノリツッコミですね」
「那由多がここに居るならそのまま処理すればいいだろ!?
それくらいの性能は与えてるはずだ!」
「残念ながら今ここに居るボクはナユタではありますが那由多ではありません。
本当の那由多は完全防壁を展開しています。外部からは侵入不可能です。
ただ、唯一この世界の最深部にアクセスポイントを形成しています。
計算結果ではパパ以外の人が入れる可能性は0です。
なお、現実世界のパパはこの世界で10年以内に最深部に到達できなければ死にます」
「ふむふむなるほど。……死ぬ?」
「現在パパがこの世界で体験している速度は10の72乗に加速されています。
この速度の思考演算をこちらの現地時間として10年も持続すればパパの脳細胞は焼け始めます。
つまり、死にます」
「まてまてまて……もっと安全な方法もあったろ……なんだってそんな……」
「ボク単体ならいくつかの方法があったのですが、沙羅氏のパソコンに繋がっていた性でこの方法しか選択ができませんでした」
「ほとんどアイツのせいじゃないか!!!」
「正確に言えば98.4%は沙羅氏のせいです。残りは自然災害なので誰の性でもありません。
強いて言えば神のいたずらですかね。ハッハッハ」
「アメリカのドラマみたいな笑い顔しても、他に方法はないんだな」
「ありません」
「時間の加速もクラッキング速度を考えれば仕方なかったんだな、それに外部からのアプローチがないのもそれで説明がつく……那由多はこの世界にどれくらいの権限を持ってるんだ?」
「現在は本来設定されている機能に沿った力しかありません。
さらに言えば見た目通り5才児程度の肉体能力しか有しておりません。
もう一つ、ボクとパパの死、もしくはどちらかの死は自己防衛機能発動のキーになってますので気をつけてください」
「つまり、あっちの那由多の物理的爆破……か……」
「はい! あ、パパのデバイスでこの世界の幾つかの機能を使えるようにしておきました。
張り切って世界の深淵に向かいましょう!」
「……ナユタはちょっと性格がアイツっぽくて……アレだな……」
「ボクの人格ベースは沙羅氏が作っているので、言ってみればママですね」
「その呼び方は二度と禁止だ。いいな?」
「はい、パパ!」
「パパと呼ぶのを禁止するのは?」
「お断りです」
満面の笑みだ。
こうして、俺は何の因果かRPGの主人公よろしく、魔王だなんだと戦いながら、世界の深淵を目指すことになった……
目を覚ました少年。アイツの趣味全開の美少年が、今、俺にピタッと抱きついている。
「えーっと……状況が1ミリも理解できないんだけど。
これはどういうことなのか理論的に説明を求めたいわけなんだけど……」
「パパは、パパ」
「うん。そうか。
って、納得できる話ではないんだよね。
えーっと私は独身で、その、あれだ、子供が出来るようなこともしたこともないわけで、他人からパパと呼ばれるような覚えがないわけで……」
「酷いよパパ……」
うん、これはダメだ。埒が明かない。
こういう時はきちんとひとつひとつ絡まった問題を解きほぐしていくのが一番だ。
「……君の名前は?」
「忘れたのパパ?」
来ました、質問返し。
職場でこれをやったら後悔させるほど論破するけど、相手は子供。
大人になれ、俺。
「き、君の声で名前が聞きたいなぁ~、なんて……」
あーもー! どーしてこんな返しになるんだ俺!
「……ナユタ……」
「那由多……?」
「やっぱり忘れてたんだ。パパの嘘つき」
あれ、なんだろ、傷ついてるぞ俺……美少年の言葉って攻撃力が高いの?
いやいやいや、待て待て。
まずは最初のヒントを得られたことを喜ぼう。
那由多……那由多って言ったらあれだよなぁ……
「XXK-9781ー526」
「その名前は嫌いです。いつもみたいにナユタって呼んでくださいパパ」
顔をグリグリとこすりつけながら甘えてくる。
なんか、ほんわかする……これが……父性……
いやいやいや、今は状況判断のための情報収集が優先だ!
「ナユタ、外で何が起きてる」
「パパ、やっと名前で読んでくれた!」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔。
なるほど。
アイツが熱弁していたことの一片を理解できてしまったことが、心の底から悔しい。
「すまなかったなナユタすぐに気がついてあげられなくて。それでは外の状況を教えてくれ」
「はいパパ!
現在VR研究所は、ボクがいる勝武山の噴火活動の活性化の影響によるボク自身の暴走によって、一時的な機能不全状態です。
その機能不全状態の隙を突かれて現在5カ国からのクラッキングを受けております。
現行クラッキングに対しては防壁を展開、封じ込めには成功していますが、今後時間経過でボクの機能復帰が遅れてしまうともしかしたら制御権を奪われてしまうかもしれません」
「ちょっと待った---!!」
「はい、何でしょうパパ?」
「とんでもないことをさらっと言っているが、クラッキング!?
ありえないだろ! 那由多はクローズド環境で運用されているんだぞ!?」
「はい、ママ、えーっと研究員名 蕪 沙羅 氏のマシンと接続中に異常が起きたために外部からの侵入を許してしまったと考えられています。
また、そのマシン内の複数のプログラムもその際にボクの内部へと混線しました。
付け加えて、沙羅氏のパソコンによって接続されていたパパのパソコンともリンクしてしまい、パパの考えていた厨二病丸出しのいろんなものもボクの中、この世界に混ざり込んでます!」
「ちょっと待った---!!!」
「二回目ですねパパ」
「すーはー。落ち着け俺。
なぜ沙羅のパソコンが俺のパソコンとつながっているんだい那由多?」
「バックドアを仕込んでいたからですね」
「アイツ帰ったら絶対に殺す」
怒りを抑えるために大きく深呼吸をする。
「めちゃくちゃだが、とんでもなくめちゃくちゃだが、現状を理解する情報は少しづつ俺の中に入って来てくれている。
……もう一つ聞こう。那由多はなんでここに居るんだ?」
「……酷いですパパ……」
今にも大粒のナミダが溢れんばかりに悲しそうな顔をされるとパパ悲しい!
じゃない! ノリがアイツみたいになってしまう……
「正確に聞こう。那由多が俺の側に居る合理的な目的は何だ?」
「さすがパパ、ここでパパといたいからですと答えても良かったのですが……
パパにはボクをこの世界の最深部に連れて行ってもらいたいのです。
それに合わせて、各地に封じた各国のプログラムも対処してほしいです」
「……なるほど。
さっぱりわからん」
「簡単に言えば、クラッキングプログラムが沙羅氏のストーリーやパパのプログラムと混ざり合ってしまって簡単に分離が出来なくなってしまったので、ならばストーリーに合わせたキャラと強固に紐付けして固定化させて攻撃を緩ませようと試みまして、魔王とかそんなんに姿を変えています」
「つまり、俺はその魔王とかを倒しながらこの世界の最深部まで行けばいいと」
「理解が早い。さすがパパ!」
「やってられっかー!!」
「ノリツッコミですね」
「那由多がここに居るならそのまま処理すればいいだろ!?
それくらいの性能は与えてるはずだ!」
「残念ながら今ここに居るボクはナユタではありますが那由多ではありません。
本当の那由多は完全防壁を展開しています。外部からは侵入不可能です。
ただ、唯一この世界の最深部にアクセスポイントを形成しています。
計算結果ではパパ以外の人が入れる可能性は0です。
なお、現実世界のパパはこの世界で10年以内に最深部に到達できなければ死にます」
「ふむふむなるほど。……死ぬ?」
「現在パパがこの世界で体験している速度は10の72乗に加速されています。
この速度の思考演算をこちらの現地時間として10年も持続すればパパの脳細胞は焼け始めます。
つまり、死にます」
「まてまてまて……もっと安全な方法もあったろ……なんだってそんな……」
「ボク単体ならいくつかの方法があったのですが、沙羅氏のパソコンに繋がっていた性でこの方法しか選択ができませんでした」
「ほとんどアイツのせいじゃないか!!!」
「正確に言えば98.4%は沙羅氏のせいです。残りは自然災害なので誰の性でもありません。
強いて言えば神のいたずらですかね。ハッハッハ」
「アメリカのドラマみたいな笑い顔しても、他に方法はないんだな」
「ありません」
「時間の加速もクラッキング速度を考えれば仕方なかったんだな、それに外部からのアプローチがないのもそれで説明がつく……那由多はこの世界にどれくらいの権限を持ってるんだ?」
「現在は本来設定されている機能に沿った力しかありません。
さらに言えば見た目通り5才児程度の肉体能力しか有しておりません。
もう一つ、ボクとパパの死、もしくはどちらかの死は自己防衛機能発動のキーになってますので気をつけてください」
「つまり、あっちの那由多の物理的爆破……か……」
「はい! あ、パパのデバイスでこの世界の幾つかの機能を使えるようにしておきました。
張り切って世界の深淵に向かいましょう!」
「……ナユタはちょっと性格がアイツっぽくて……アレだな……」
「ボクの人格ベースは沙羅氏が作っているので、言ってみればママですね」
「その呼び方は二度と禁止だ。いいな?」
「はい、パパ!」
「パパと呼ぶのを禁止するのは?」
「お断りです」
満面の笑みだ。
こうして、俺は何の因果かRPGの主人公よろしく、魔王だなんだと戦いながら、世界の深淵を目指すことになった……
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