子連れプログラマーVRRPG脱出計画

穴の空いた靴下

第27話 魔王ベルダ

 サラの氷結魔法を皮切りに戦闘は開始される。
 敵本体と俺達との間に巨大な氷の壁を作り出す。
 一部の敵は壁に巻き込まれているが、それでも敵の数は多い、俺は両手に剣を持って迫りくる敵を排除していく。
 リビングアーマーの振るう剣や槍が俺の側をかすめていくが、その動きは想像の範囲内だ。
 交わしては攻撃を叩き込む、余裕があればこちらからも積極的に攻撃を加えて敵を一体でも減らしていく。
 サラは上手に立ち回りながら魔法によってごっそりと敵の数を減らしていってくれる。
 敵の指揮者であるシレンがサラの魔法を避けるために壁の向こう側へ行ったのは大きい。
 さっさとこちら側の敵を殲滅させたい。

「もちろん都合良くは行かないよなー」

 シレンの魔法がとうとう氷の壁を破壊する。

【小癪な手を使いおって!】

 敵の射手が一斉に弓を構える。

「ずるいな、相手はお構い無しで弓を撃ってくるのか!」

 急いで弓の部隊に肉薄しようとするが、やはり数で勝る敵に阻まれる。
 見切れはするがいかんせん数が多い。
 サラの魔法は容赦なく敵の数を減らしてくれている。

【フハハハ! 撃てーーー!!】

 空から弓の雨が降り注ぐ、流石にこれを交わすことは難しい。

「まぁ、周りにこんだけ盾がありますから……」

 周囲のリビングアーマーを巻き込む形で技を放つ。

「転昇脚!」

 一番基礎的な浮かせ技だ。
 派生も早いし隙も少ない、普通はこのまま空中技につなぐが……

「転昇脚! 転昇脚! 以下略!」

 次々と鎧を空中に蹴り上げて傘を作る。
 矢の雨が鋼鉄の鎧に当たってキンキンと高い音をたてている。
 勢いを失った矢が振ってくるが、ダメージを受けるような物ではない、傘は周囲からワラワラと集まってくるので片っ端から空高くに打ち上げていく。
 もう少し考えられる敵だったら矢の雨には少し困ってしまっただろう。

 サラは風の魔法で矢を逆に利用して敵に撃ち込んでいる。
 何らかの魔法付与とかされていない矢なら魔法使いにはほぼ無効かな……
 普通の水平射撃なら多少違うんだろうが、こういう降らせるタイプは魔法使い相手には得策じゃない。

 傘を作りながら弓部隊の中に飛び込んで蹴散らしていく。

「これ、敵の攻撃頻度も減らせるし……うん? まてよ?」

【おのれ人間! このシレン直々に相手してやろう!】

「転昇脚!」

【ぐえっ!】

 見事に打ち上げられるシレン、そのまま地面に落ちてくる。

「転昇脚! サラ、俺に他の敵が近づかないように援護してくれ」

【ごはっ!】

「はーい」

 落下してきたシレンにもう一度同じ技を仕掛ける。
 連続使用には何かペナルティがあるかと思ったが、全く同じようにシレンは宙に舞う。

「転昇脚! あー、これ……あかん奴だな」

【ぐはぁ!】

 再びシレンは宙に舞い上がる。
 できの悪い格闘ゲームやアクションゲームにたまにあるお手玉と言うやつだ。
 浮かせ技を永遠に続けていれば一方的に敵を攻撃し続けられる。

「転昇脚!」

【……】

 何発目か忘れた転昇脚を受けたシレンは空中でキラキラと灰になって消えていった。
 周囲の鎧は糸が切れたようにガラガラと崩れ落ちていった。

「これはやばいバグだな……根底条件からのやり直しレベル……」

「パパは顔色ひとつ変えずにお手玉していて狂気を感じました」

「仕方ないよ、検証したり考察してる時のリョウは何言っても聞いてないから、自分がやってることもただの作業としか思っていないよ」

「ああ、確かに。シレンとか言ったっけ? 悪い事したなぁ」

 馬具のデバック作業のついでに倒してしまった。酷いことをした。
 名前も持っていたしもう少し格が上の敵だったはずだ……
 まぁ、いい。改善案はきちんとメモにとっておく。

「さて、本城に入ったようだから気をつけて進もう」

 魔王城内の敵はどうやら属性の関係でハイド、スニーク状態でも襲ってきた。

「ふむ、これが当たり前だよな」

「あんまり大規模に釣らないように気をつけよう」

「パパもママも冷静で何よりです」

 こういったゲームの基本だからね。サラもそこら辺はバッチリ理解している。
 少数をこっちに引き寄せて少しづつ安全に殲滅していく。
 こちらは戦闘できるのが二人だけだ。
 圧倒的な力があっても、数で押し切られてしまう可能性はある。
 慎重に慎重に。

「こういうの嫌いじゃないしね」

「潜伏系ゲームも好きだもんねーリョウは」

「緊張感がね、あと気が付かれずに一気に攻めきれると達成感も」

 敵に気が付かれずに背後から一刀のもとに斬り伏せて、大慌てで混乱している敵を一気に殲滅していく。まるでパズルゲームみたいにコンボが続くような気持ちよさがある。
 シークやハイド状態で敵の視界に入ればばれるが気配遮断して視界の外から一気に攻撃を加える爽快感はなかなかのものだ。

「普通の強さのパーティだとこれだけの連戦はハードだよね」

「リアリティを求めるか、ゲームであることを忘れないか……」

「リアルがある人がプレイしていたらプレイ時間の制約もありますよね……」

「そこら辺をバランスよくすると、2時間位でクリアできるぐらいってのが現実的な落とし所なんだろうな……」

「実際には中の人がいてのパーティ構成だろうから……」

「キャラクターをNPC扱いで連れていけるとかにしてソロにも配慮するって方法も取られてますよね」

「あれはいい案だと思う。使われた方にも使った方にもメリットをもたせたいな」

「結局、リアル志向だとしてもゲームらしさがあったほうがプレイするのかもしれないな」

「難しいところですねぇ……」

「ほんとになぁ……」

 まるで仕事の打ち合わせみたいな苦労話あるあるみたいになったが、順調に魔王城内の探索は続いていく。
 左右の塔で大型の中ボスが守る強力な武器、防具を手に入れたり、中枢の階層に行く前にまたネームドボスが現れたりもしたが、飛行タイプ以外は空中技バグがあるために敵にならない。
 三魔将のうち力のガルド、魔のベリウスはハメで倒してしまった。
 技のカレラだけは空中回避で避けられたが、壁叩きつけ永久ハメを見つけてしまって、ずっと壁ドンしていたら終わってしまった。

「これ、ほんとに駄目なタイプのバグだね」

「パパも僕も死にたくないですけど、この戦い方は……」

「しょうがないじゃない、戦闘のデバック一つやってないんだから!」

「正直、その状態できちんとある程度のゲームしてる方が奇跡だよな。
 設定厨の鏡だよサラは」

「褒められている気がしない……」

「まぁ一番すごいのはナユタだよな、ベースとなるVR世界にこれだけの要素を瞬時に組み込んでリプログラミングするなんて、生みの親の一人として鼻が高い」

「パパのPC内の大量のプログラムにママの資料、設定の数々、この世界は僕にとって兄弟みたいなものです」

「向こうに戻ったら、さらに優秀な兄弟にしてあげないとな!」

 しばらくハイド&アタックで順調に進んでいく。
 城の内部の構造も中間地点を超えてからはゴージャスになっている。
 敵も立派な騎士のようなパーティ単位で隙なく巡回していたりと、なかなか思うように進めなくなっている。
 魔法による障壁結界に音声遮断させて一部隊ずつ排除していく。
 戦闘パターンも多岐にわたって、俺やサラを楽しませている。

「サラ、後衛頼む! 前は押さえ込む!」

「りょ!」

 まるで時代劇のような殺陣を身体が勝手にしてくれて、それを間近で見ているような感覚。
 すさまじい爽快感だ。
 サラもまるで中身が入っているかのように華麗に敵を排除していく。
 長年一緒にゲームをしているからか、考えることを先読みして対処してくれるような、そんな気さえしてくる。
 一緒に冒険しはじめて、たくさんの戦闘を重ねてその感じはどんどん強くなっている。
 一緒に遊びまくっていた中高生の頃を思い出して、ほんのり甘酸っぱい気持ちになることも少なくなかった。

「さてと、長い旅もここで終わりそうだな……」

 マッピングした地図を見ると、構造的に王の間とかんがえられる大きな扉の前で皆の顔を見回す。
 連戦の疲れもなく、身体は温まってきた。

「こっちは平気だよリョウ」

「パパ、ママ、魔王だけは予想ができないから、十分注意してね」

「そうだな……ハッキングかましてきてる無礼者らしいから、早々にご退場願おう」

 ぐっと力を込めると扉は開いていく。
 内部は想像と異なってがらんどうとしている。
 場内風の内壁だった外のほうが立派なくらいだ。

「これは……まるで削り取られたみたいだな……」

「パパ、たぶんデータを物理的に収集してるみたいです。アイツが……」

 正面玉座があっただろう更地に黒色の球体がまるでカビの菌糸でも周囲に伸ばしているように存在している。

「あれが、魔王……スパコンベルダか……」

「触手の先がバチバチいっているのは建築物をデータ化して収集してるのかな?」

「多分そうだと思います。周囲のデータ量が極端に少なくなっています。
 なるほど、こういう風に反映するんですね……」

「分解は時間がかかりそうだけど、捕らえられたら同じ末路だな……
 この部屋には四天王的なものはいないのかな?」

「いたとしても、アレ、選択してデータを取り込んでるように見えないわよね」

「確かに……」

「何にせよ、さっさとご退場願おう。せっかく作り込んだ城内をこれ以上荒らされるのはもったいない」

 慎重に距離を詰めていくが、敵が動く気配はない。

「サラ、初撃は遠距離にしておこう、一気に触手が伸びてくるなんてことになったらゾッとしない」

「了解! でっかいの御見舞してやるんだから」

 サラの手に強大な魔力が集中していく。
 魔法陣が構成され、空中に広がっていく、この世界の魔法の駆動はなかなかに胸をおどらせるかっこいいものもある。

「マキシマムファイアーブラスト!!」

 突き出された手から積層魔法陣が構成され、巨大な炎の渦が放たれる。
 ついつい魔法名を叫びたくなるのもわかる。
 いいなぁ魔法。

 炎の渦に包み込まれ、か細い触手は灰となって崩れ落ちていった。

「あれ? 結構楽勝なパターン?」

「……そうも行かないみたいです」

【敵性行動確認、敵性体の排除へと移行します】

 黒い球体にビシビシとヒビが入り、ついにはその殻が砕け散る。

「おーおー、わかりやすいのが出てきたな」

 その中からは、教科書通りのデーモン、悪魔が現れた。




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