魂喰のカイト

こう・くろーど

38話 イルム対バース

 リディルに声を掛けつつ、魔王を警戒し続ける。
 何をするか分かったもんじゃないからな。
 助けに来たのに油断してピンチになりました、じゃ笑い話にもならない。

「イルム!! 無事だったのか!」

 リディルが驚愕と喜びの入り混じったような声を上げる。

「あー、まあ結構苦労したけどなんとかな。後、移動で寝てないせいで今も結構キツい」

 冗談混じりで軽く返した。
 寝てないのも苦労したのも本当だけどな。
 でもこの身体のおかげで大して辛くはない。
 移動も黒翼を展開して飛べば、狼に跨るより速かったし。

「……それほど強い魔力。貴様、何者だ」 

 いや、何者って言われてもなぁ。
 転生者?
 邪神を吸収しちゃった人間?
 勇者パーティのお手伝いさん?

「うーん……。リディルのマブダチ?」
「……マブダチって。緊張感の欠片もないね」

 おっと、リディルから呆れられてしまった。
 悪い悪い、そういうつもりはなかったんだ。
 ただ、いい回答が思いつかなかっただけで。

 魔物は俺の返事が気に入らなかったのか、舌打ちを一つ置いてから苛立たしげに口を開く。

「まあいいだろう。我が名はバース。貴様も相当な強さを誇るようだ。私が潰してやろう」

 バースと名乗った敵の総大将の腕が再生した。
 ちっ、再生するのか。
 わざわざ武器仕込みの右腕を吹き飛ばした意味があまり無かったな。
 でも、体力は削ることができたはずだ。
 流石に再生に何もコストが必要ないなんてことはあるまい。

 そうだ、鑑定。
 コイツのステータスを鑑定しておいたほうが有利だろう。
 魔物の軍団との戦いでは確認する暇もない連戦だったが、今ならできるはずだ。

 さて、どれどれ――って、マジかよ。
 実質無敵じゃん。

 再誕リバース
 死んでも復活することができる。
 どうしようもないな。
 どこかに封印しか手がないんじゃないか?
 滅ぼすことは無理そうだ。

 それと、もう一つ気になったのは――

「って、うおっ!?」

 確認している間に襲いかかってきやがった。
 それに、速度も早い。
 ギリギリ回避したが、危ないな。
 気は緩めるべきではないか。

 それじゃあ、動きに注意しつつこっちから攻めてみるかな。
 まずは様子見。
 暗黒剣に剣術スキルを乗せて剣撃を放つ。

 よし、掠った。
 見事に俺の剣がバースの身体に接触し、ほんの小さな掠り傷だが一撃を与えることができた。
 どうやら実力が違いすぎて不意打ち以外じゃ攻撃が効かない、なんてことはなさそうだ。

「舐めるなよっ!」

 俺が安堵したこと感じたのだろうか。
 バースは怒った様子で剣を連続で振るってきた。
 それを捌く。
 バースの右腕の剣が重いせいか、普段と違って低い金属の音が、部屋全体に鳴り響いた。

 連続攻撃も捌ききれないようなものではない。
 ある程度余裕をもって弾ける。
 防御面でも心配は必要なさそうだ。

 ……コイツばかり攻撃しているな。
 ここらで反撃を入れるか。
 早速、新たに手に入れた技を試させて貰おう。

「幻影!」

 まだ慣れていない為、言葉を発してイメージを固めながら発動をする。
 すると、バースの右腕が地とぶつかりあった。
 俺の使った”幻影”が効いたのだ。

 幻影のスキルを使って、俺の姿をした幻を、俺が回避した方向と真逆に走らせた。
 もちろん俺本人は、これまた”幻影”のスキルで姿を認知されづらくしている。
 よって、バースはまんまと騙され、俺の幻を追って切り裂いたってわけだ。

 それでどうなるかというと、バースは俺に大きなスキを晒すことになった。
 いやはや、スキだらけだね。
 どの角度から打ち込んでも攻撃が通る自信がある。

 そんな自信があるときに放つべきは出が早く威力が高い技。
 だとしたら魔法だろう。
 なんたってノーモーションだからな。

「ぐあああああ!?」

 暗かった城が一瞬明るくなり、再び闇に染まる。
 使った魔法は”雷穿”。
 炎獄は広範囲だし、闇葬は特殊な効果だったしで、一番効率よく単体にダメージを与えることができるのは雷穿だと先の魔物の軍団との戦いで判明していたのだ。

 雷の一閃はバースの体を貫き、その腹部に小さな穴を開けていた。
 魔幻や魔導王の補正があってこれか。
 そうとう硬いな。
 だが。

 元々雷穿を単発で撃とうと思っていたわけではない。
 俺の魔力量なら連発も難しくはない。

「ああああああああああ!!」

 雷の槍が閃光を残しながら次々とバースに突き刺さる。
 バースはうるさい叫び声を上げているが、どうやら雷穿自体はギリギリ対処できているようだ。
 現に、致命傷に成りうる箇所にはまだ一度も攻撃が当たっていない。
 感知して避けているのだ。

 化物かコイツは。
 いや、見た目は十分化物だけど。
 俺がこれだけ雷穿を放たれて避けられるかと聞かれても縦には触れない。
 恐らく、コイツのように致命傷のみ避けるなんてこともできない。
 なんて奴だ。

 だが、今攻撃しているのは俺だ。
 受けているわけではない。
 それに、コイツはめぼしい攻撃スキルは持っていない。
 回避が困難なものなど少ない。

 気をつけるべきは黒触手と名付けられたスキルのみ。
 流石に捕まえられたら、まずいからな。
 めぼしい攻撃スキルが無いと言っても、全くダメージを受けないというわけではない。
 普通に痛いし、血もでる。

 ――っと、そろそろ放つのは止めておくか。
 このままトドメまで雷穿を放とうとすると、奴が慣れて回避されるようになるか、奴の回復力のせいでこちらの魔力が先に尽きる。
 こういう回復力のある敵は小さな攻撃の連打より大きい攻撃を数発放つほうが有効だ。

「キ、キサマァァァアアアア!」

 おっと、お怒りのようだ。
 まあそりゃそうか。
 一方的に攻撃されて、回避に神経を磨り減らされていたんだ。
 俺でもそうなる。

「殺してやる!!」
「それはこっちのセリフ――だけど、お前は殺しちゃダメなんだよなぁ」
「……殺してはいけない? もしや貴様!」

 みるみるバースの顔が驚愕に染まる。
 見ていて気持ちの良いものだ。
 誰かを驚かせるのは嫌いじゃない。

「なっ、何故貴様ソレを! まさか、鑑定持ちか!?」
「ああ、そのとおり。鑑定持ちだ。悪いがお前のスキルは全て把握している。再誕リバース。面倒くさいスキルだこった」 

 本当に面倒くさい。
 殺しちゃダメなんだからな。
 束縛でもしなきゃマズイってことだ。
 それも生きたままで。

 魔法を完全に封じて手足をちょん切って、舌を噛めなくして――他に何がいるかな。
 とにかく面倒くさい。
 それに封印したら魂喰だって使えないじゃないか。

 ――って、魂喰?
 あれ、もしかして行けるんじゃないか?
 魂を喰ってしまえばスキルなんて関係無いじゃん。
 復活する魂が無いんだから。

「ふっ、そうか。鑑定持ちだったか」

 バースがさっきの驚きが嘘のように冷静になった。
 まあそうだろうな。
 どうせ知られたとことで、封印以外に対処方法なんてないのだから。
 コイツを弱らせて封印するなんて至難の業だ。
 できる人間などいないだろう。

 でもまあ、俺には魂喰がある。
 封印なんてことしなくてもコイツを完全に滅ぼせる。
 まだ言わないけどな。
 言って逃げられたらたまったもんじゃない。 

「なに感心してんだ。いくぞ、バース!」

 下手に話すと魂喰が感づかれそうだ。
 ここは話を無理矢理にでも終わらせ、攻める。

 身体能力的には互角と見ていい。
 とすると、同じ攻撃のパターンはすぐに見切られる。
 ”幻影”の戦法はもう通じないだろう。
 だとすれば、また新しい攻撃法だ。

「――幻影刀!」

 俺が発動すると同時に暗黒剣が姿を変える。
 音は無い。
 しかし、確実に俺のイメージ通りに変化した。

 幻影刀は、その名の通り日本刀の形をしている。
 ちゃんと鞘付きだ。
 変わらず全体的に黒々しくなっており、鞘に収まっている刀身の紅いラインも健在だ。    

 魔導王による補正によって魔法を簡単にイジれるようになった。
 暗黒剣を刀に変形することだってな。

「いくぞ!!」

 鞘から刀身を抜き放つ。
 その動作は準備ではない、攻撃。
 そう、居合だ。

 恐るべき速さの斬撃がバースを襲う……ことはない。
 それもそうだ。
 リーチに入ってないからな。
 バースも警戒しつつ俺の行動に頭が理解できていない。

 しかし、さすがはバースと言ったところか。

「不可視っ!!」

 またもや致命傷を避けやがった。
 これも一回切りの戦法だ。
 刀のままではどうしようもないので、幻影刀を暗黒剣に戻す。

 この居合は刀身による通常攻撃とともに、目に見えない透明の刃を大量に飛ばしている。
 普通なら居合による斬撃と不可視の刃の両方から避けないといけないのだが……。
 今回はバースが近づいてこなかったから仕方がない。
 不可視の刃だけで攻撃した。

 それにしても、決定打が与えられないな。
 不可視の刃で与えたのは、小さな傷のみ。
 バースの傷は触手によって次々と埋まっていっている。
 どうしたものか。

「うっ、ぐ……」

 そう考えていたとき、バースがよろめいた。
 何故だ?
 あれだけの傷でよろめくほどバースは脆くないはずだ。
 だとすれば別の原因?

「イルム! そいつは吸収した魔力で身体が崩壊を始めている! 殺すなら今だ!」

 なるほど。
 魔力を吸いすぎたってことか。
 それで身体が耐えきれていないと。

 そう考えると、魂喰って便利だな。
 どれだけ強い奴からでも身体が崩壊することはない。
 って、そんなこと考えている場合じゃないな。

 まだ魂喰は使えない。
 もう少し削らないとダメか。

「クソッ、一方的に嬲られて終わるものかっ!!」

 バースが再び突進してきた。
 先程よりも早い。
 ここぞとばかりに力を全部放出してやがる。
 死んでも復活できるからこその特攻って訳か。

 再び剣と剣がぶつかり合う。
 しかし、前と違い斬り返せない。
 諸刃の剣って怖いなホント!

 ここはスキルで対処するか。

「嵐壁!!」 

 俺とバースの間に暴風が吹き荒れ、壁を形作る。
 バースが嵐壁の出現に思わず下がった。
 それを見逃す俺ではない。

「らぁぁぁああ!」
「なにっ!?」

 嵐壁は俺に害をなさない。
 バースが通過したら風による力でボロ雑巾のように切り刻まれるだろうが、俺が通ろうと何も起こらない。
 俺はそのまま嵐壁の中を黒翼で突切り、バースを斬りつけた。

 クリティカルヒットってやつだ。  
 今のは手応えあり。
 深く斬り裂けた。
 再生する暇も与えない。

 そのまま斬り上げる。
 俺の速度に対応しきれないバースはバツ印になるように傷を負った。
 返り血を浴びるが、気にしてられない。
 倒れたバースに近寄る。

 よし、確実に致命傷を与えたみたいだ。
 回復できていない。
 そうする体力も残っていないようだ。
 もう瀕死ってとこか。
 魂喰で喰わせてもらおう。

「グッ……。ハハ……ハッハッハッハ!! 貴様ァ、やるではないか! いいだろう、貴様が生きている内に、必ず殺す! 貴様の最期はこの私が頂く!!」
「ちっ、うるさいな……。お前に次なんてねぇよ……!!」

 俺がそう言った瞬間、バースの顔が青くなっていき、表情が抜け落ち始めた。
 死に向かっている。
 ダメだ、死んでしまってはまた復活する。
 そう思い、急ぎ魂喰を念じ、発動させた。

 それを境に、バースは抜け殻になったかのようにピクリとも動かなくなった。


「魂喰のカイト」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く