魂喰のカイト

こう・くろーど

6話 若手冒険者との出会い


「ダンジョンって明るいんだな」
「ええ、王都のダンジョンは整備されているらしいですからね」

 俺とルティアは王都内のダンジョンに来ている。

 王都の門の近くにあって、見た目は完全に洞窟だったが中は整備されているらしく、所々にランタンが置かれていて明るい。

 今はゴツゴツした壁に囲まれながら、その明るく平らに整えられた1本道を歩いているというわけだ。

「ガーゴイルは岩の肌を持った飛行型魔物……だったよな?」
「はい。でも魔法攻撃に弱いらしいので、イルムさんだったら大丈夫ですよ!」

 ああ、そうだったな。

 冒険者から教えてもらった情報ではリザードマン、ガーゴイルともに物理に強く、魔法に弱い。
 剣はその強靭な肌と鱗に弾かれ、突きでもしたときには自慢の得物がぽっきり折れる。
 初心者泣かしと呼ばれる魔物だそうだ。

 よって、魔法が使える俺らが有利だとルティアは思ったらしい。
 魔法に弱かろうが強かろうが関係ないんだけどね。

 俺は魔導士じゃないし、剣術スキルも持ってる。
 なにより暗黒剣とかいうトンデモスキルがある。
 ルティアは勘違いしてるけど、俺は近接ももちろんいけるのだ。

 まあ訂正はしないけど。
 信じてもらえるか分からないし。

「お、分かれ道だな」
「うーん、どっちに進みましょう?」

 目の前には分かれ道。
 どっちも同じような雰囲気で、大した違いもない。

 看板くらい立ててくれたらいいのにな。
 右には何がありますよ~、みたいな。

 あぁ、でもそうしたら初心者の講習にはならないのかな?
 初心者用ダンジョンって言われるくらいだから初心者が探索に慣れるようにしているのかもしれない。

「とりあえず左に行ってみるか。何もなかったら戻ってきて右に行こう」
「はい! わかりました」

 ひとまず左の道を選んで進む。

 うーん、ずっと同じ景色の中を歩いてると飽きるなぁ。
 なんだかんだ言って日本では休日は家にこもりっぱなしだったから、こういうところを歩くのに慣れてないのかもしれない。
 出勤するときだって現代日本じゃビルと広告で退屈しないしな。

「ルティアを担いで走ったらダメかな?」
「ダメですよ! さすがに恥ずかしいです!」

 やっぱり年頃の女の子にとって他人に担がれるというのは恥ずかしいことらしい。
 俺的にはパッパと移動して材料集めできるし楽だと思うんだけどなぁ。

 仕方ない、しばらく歩くか。
 魔物が出てきたら少しは退屈しなくなるだろう。

 そう思いつつ1歩踏み出した――そのとき。

「きゃああああああああ!!」
「誰かぁぁああ!助けてくれえええ!!!」

 悲鳴が聞こえた。

 声質からしてまだ若い。
 きっとひよっこ冒険者だろう。

「ルティア、担いでもいいよな?」
「うっ、仕方ないです……」
「よし、じゃあ行くぞ」

 ルティアも許可してくれた。
 人の生死が関わる状況だからプライドを捨ててくれたらしい。

 顔を赤らめるルティアを素早く抱え上げた後、足に力をこめて走る。

 黒翼はこんな狭い場所じゃ使えないから走りだ。
 でも、問題はない。
 普通に走っただけで結構速度がでるからな。
 この体はとんでもない力を秘めているのだ。

 走っていると1分もしないうちに冒険者の姿が見えてきた。

 腰を抜かしている3人とそれをかばうようにして立つ1人の女性。

 3人の方は男2人、女1人であり、装備を見てみると見るからに初心者だ。
 男2人がシンプルなショートソードを、女の方は杖を持っていて、3人とも新品の皮鎧を身にまとっている。

 それに対して、かばって立っている女性は俺らと同じ悲鳴を聞いてかけつけた人だろう。
 手に持っている剣は同じくシンプルなものだが、使いこまれている。
 皮鎧も3人より良い素材のものを使っているらしく、斬りつけられた痕があるが、破けてはいない。

 3人の方は日本で言うと高校生になりたてくらいかな?
 前に立っている女性は恐らく高校3年生くらいの歳だろう。
 こんな若い子でも冒険者として頑張ってるんだなぁ。

「くっ、なんで上層に下層の魔物が……!」

 怯えている冒険者たちの一歩前に立つ女性がつぶやく。

 彼女の目の前にいるのは両手にそれぞれ剣を持ち、鉄製の兜から紅い瞳をのぞかせている人型の魔物。
 体にはぼろぼろな布のようなものをぐるぐる巻きにしている。

《魔物:ダークゴブリンファイター ダークゴブリンの上位互換。低い身長を活かした素早い動きが得意。単純な実力では単体でBランク冒険者に匹敵する。普段は3~4匹の小隊でいることが多い。》

 ゴブリンの進化系ってわけか。

 確かに俺の想像していたゴブリンに近しいものがある。
 これが下層のモンスターってことだな。
 Bランクで互角、それが複数ってことは下層は一筋縄ではいかない場所なんだろう。

 と、少し離れた場所で鑑定をしていると、女性の剣が折れた。
 かけつけた人が倒せるんだったら無理にでしゃばる必要はないだろうと思っていたのだが、どうやら助けが必要なようだ。

 ルティアをそっと下ろして冒険者に声をかける。

「おーい。もう戦えないんだろ? 俺が倒すよ」
「は、はぁ!? 無理だって! こんな強い魔物!」
「俺たち、いや、この方だって無理だったんだ! あんたみたいな素人丸出しのやつが勝てるわけねぇ!」

 腰を抜かした若手冒険者の男たちが叫ぶ。
 どうやら俺はそんなに弱そうに見えるらしい。

「剣はっ! 剣は持っているか!? あれば寄こせ! 私が逃げる時間を稼ぐから、早くっ!」
「あ、はい――」

 折れた剣の代わりを求める必死な叫び。
 少しでも時間を稼いで逃げさせようとしているらしい。

 男の1人が剣を渡そうとするが――

 ビュン!

「いや、俺が戦うから下がってていいよ。怪我するかもしれないし」

 一瞬で魔物と冒険者たちの間に入る。

「な、何が起きた!?」

 先ほどまで戦っていた女性がなにやら言っているが、身体能力ですとしか言いようがない。
 少しスピードを出しただけなのだ。
 なにも特別なことはしていない。

 女性のさらに後ろの若手たちは唖然としている。 
 まぁ、そうだろうな。俺でも自分の速度にはびっくりしてるし。

「暗黒剣」

 剣を引き抜く。

 黒の色で、少し反っている刀身。
 その漆黒の中に咲く紅のラインが脈打っている。
 背には翼を模した荒々しい波。

 俺のイメージする暗黒の剣だ。
 うん、シンプルながら中二感あふれてかっこいい。

 引き抜いて剣を確認していると、ダークゴブリンファイターが両手の剣を地面に引きずりながらこちらに向かってかけてきた。

 リーチに入ったのか、2本の剣を振る予備動作に入る。
 だが、俺にはその動作1つ1つがすべて止まって見えた。

 剣術スキルのお陰か、既に頭の中にはこの状況で最善となる太刀筋が無数に浮かんでいる。
 その中で1番動きの少ないものを選ぶ。

 ズシャ!

 右半身を前にだし、剣を2度振り下ろすだけ。   
 だが、それは熟練の動きであり、洗練されている。

 ダークゴブリンの右腕と左腕が吹き飛び、バランスを崩して後ろに倒れ込む。
  すると、魂喰ソウルイーターの条件を満たしたらしく、脳に声が響いてきた。

魂喰ソウルイーター

 そう呟くと同時に、あれだけ痛みでもがいていたダークゴブリンファイターはピクリとも動かなくなる。
 息の根を止めたのだ。

「えっ、は?」

 冒険者の男の口から言葉が漏れる。
 周りもルティアを含めて開いた口が塞がらない模様。

 突然やって来た静寂を破ったのはさっきまで初心者たちをかばっていた女性だった。

「す、すばらしい! 貴方はさぞかし名の売れている剣士様なのですね!」
「え? いや、剣士じゃないし名も売れてないよ?」
「そうでしたか! しかしその腕前! 並大抵の者ではありません!」
「その通りですよ! 先ほどは素人なんか抜かしてしまってすみませんっした! そして、お2方とも、助けてくれてありがとうございました!」

 若手の冒険者達は俺に謝って、助けに入った女性と俺にお礼を言った。

「私はミラ=ケーティと申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 かばっていた女性の名前はミラというらしい。
 ストレートの金髪を長く伸ばしている、美人さんだ。

 喋り方とかから冒険者っぽくは見えないな。
 どちらかと言うと騎士っぽい。

「俺の名前はイルムだ」
「イルム様ですか。ところでイルム様はどうしてこのような場所に? 貴方の実力なら他に割のいい場所があるはずですが」
「ん? そうなのか?」
「ええ、この場所はあくまでも初心者用のダンジョン。 あまり強い魔物はでませんし、採取できるものも高価ではありません」
「ああ、そうなんだな。でも今回は金を集めに来たんじゃないんだ。この子――ルティアって言うんだが――の病気を治すための薬の素材を集めに来たんだ」

 ルティアの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫でる。
 撫でられて慌てる顔が可愛らしい。

 俺の言葉を聞いて納得したミラは、再び口を開く。

「なるほど、その必要な素材とはどのようなものですか?」
「んーと、確か”リザードマンの鱗”と”ガーゴイルの目玉”だな」
「そうですか、ではこれを」

 そう言い、袋を手渡してきた。

「ん? なにこれ?」
「リザードマンの鱗とガーゴイルの目玉です。私も生活がかかっているのですべて渡すわけにはいきませんが、薬用ならこれくらいで足りるはずです」
「えっ。いや、さすがに受け取れないよ」
「いえ、これは私たちを助けてくださったお礼です。受け取っていただかないと顔が立ちませんので」
「んー、そんなもんなのか? じゃあありがたく受け取るよ」

 俺が袋を受け取ると、待ってましたと言わんばかりに若手冒険者達が話しかけてきた。

「オレ、アーロン=バーネスって言います! あの、どうやったらそんなに強くなれますか!?」
「あ、おい! アーロンずるいぞ! ウォルト=マレンです! 俺にもぜひ教えてください!!」
「ミリー=ウィロビーって言います! 男たちは放っておいていいんでアタシに!」

 元気いっぱいだな。

 アーロンは物語の主人公って感じの風貌。
 具体的に言うと金髪蒼眼のイケメンで、身長は平均。
 マッチョじゃないし、痩せこけてもない、理想的な体型だ。

 対するウォルトは高身長で大柄。
 だが、顔はいかつくなくて、どことなく優しそうだ。
 アーロンとも気の知れた中らしいのは目に見えてわかる。

 ミリーは金髪ツインテールの小柄な女の子。
 気が強そうだが、さっきの魔物との戦いで1番怖がってた子だ。
 本当は怖がりなんだろうか?

「うーん、強くなる方法かぁ」

 正直まったく分からない。
 気がついたら邪神吸収してて強くなってましたとしか言いようがないんだよなぁ。

 だが、ルティア、ミラを含めた周りが全員目を輝かせて俺の言葉を待っている。
 なんか言わないといけないよなぁ。

「えーと、俺はある魔物を倒して強くなったから具体的なことは分からないけど……そうだな、闇雲にするんじゃなくて誰か憧れる人をもってその人を目指すといい、とは聞いたことあるよ」
「つまり、イルムさんを目標に毎日ひたすら鍛錬をすればいいわけですね! 分かりました! オレ、絶対イルムさんに追いついて見せます!」
「ああ、俺もイルムさんみたいに人を守れるよう強くなってやるぜ!」
「アタシもイルムさんを目指してがんばります!」

 あれ? なんで俺が目標になってんの!?
 いや、確かに強くはなったけどみんなに憧れられるほどの人格もないし、心が広いわけでもないよ!?

 

 と、そんなことがあったが、俺は無事に素材を手に入れた(いただいた)ので、冒険者たちと別れてダンジョンを出ることになった。

 ダンジョンに潜ったのはほんの数10分、魔物に出会ったのは1回だったけど、外に出てみるとなんだか名残惜しいものを感じた。

 ルティアを無事合格させられたらもう1回潜ってみたいな。

 そんなことを考えながら、薬屋に再び足を向けた。


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