魂喰のカイト

こう・くろーど

16話 2人目の弟子

 
 ロシュとの出会いから6日が経った。

 あの後、気絶していた人が目を覚ますまでに英雄ヒーローのスキルについて軽く説明した。
 ロシュは目を輝かせて聞いていたが、救世主メサイアの限定的発動条件、そしてまだ開拓されてない英雄ヒーローの能力に少しがっかりもしていた。

 あらかたスキルについての説明が終わると、次に来たのはロシュの質問ラッシュ。
 剣術について、身体能力についてなど、根掘り葉掘り聞かれたが、全ては半神人デミゴッドに関することになっているので適当に返事を返すか聞きながすかでなんとか乗り切った。

 だが、1つだけ乗り切れなかった話題がある。

「イルムさん、いや、師匠! 僕に稽古をつけてください!」

 あのときはどうしてそうなった! と思ったものである。
 ルティアのときは流れに任せて師匠になってしまったが、本来は師匠なんて俺にはふさわしくないのだ。
 この戦闘技術はすべてスキルによるものだし、人にものを教えたこともない。
 だから、ひたすらに断ったのだが――

「教えてくれなくてもいいです! 時々模擬戦でもしてくれれば、イルムさんの技をどんどん吸収してみせますから!」

 ――なんて言う始末。
 だが、俺もそんなに簡単に折れる人間じゃない。
 第一、模擬戦をしたところで、俺が手加減できるかすらわからないのだ。
 それに、ロシュに怪我をさせてしまうかもしれない。
 もちろんそれでも無理だ、と断った。
 すると、ロシュはシュンとした表情になった。
 泣き落としになんか応じないぞ、俺は!
 そう固く決心していた――はずだった。

 そんなこんなで気絶した人が目を覚まし、俺たち2人に向けて感謝の言葉を向けてくれた。
 若い女性で、森に薬草類の採取に来ていたところを襲われたのだそう。
 本当に助かってよかった。
 ゴブリンなんかに捕まってたら何をされるかわかったもんじゃないからな。

 その後、依頼で受けていたゴブリン討伐の報告用に討伐証明である右耳を切り取り、ロシュのカバンに詰め込んだ。
 切り取るのはロシュがやったのだが、遠目で見ている分にもかなりグロテスクだった。
 思わず少し目をそらしてしまったのは仕方ないことだと思う。
 だが、助けた女性の方はと言うと、何も表情を変えずに耳を切り取られていくゴブリンを眺めていた。
 やはり住む世界が違うと耐性とかも大きく変わってくるんだな、と再認識した。

 そして、3人揃って王都に帰ってきて、街門の近くで解散したわけだ。
 1人になった後は、まだまだ日が高かったのでショッピングをすることにした。
 最初に服屋で生活用の服を新調してもらった。
 さすがにTシャツとジーパン姿は目立つしな。
 露店である程度稼げていたのも大きかった。
 とりあえず一般人が身につけているような服の黒色を3着購入した。
 黒色を購入したのは、服屋の人がせっかくの黒髪だから合わせたほうがいい、と言ったからだ。

 それからも生活用品を買いあさり、日が沈む頃になるとかなりの大荷物になっていた。
 王都の通りには魔導具の明かりが地面に埋め込まれているので暗くはないが、夜になると流石にすることもないのですぐに宿に戻った。
 軽く食事を摂りすぐに睡眠、そして朝が来る。
 結構深く眠っていたようで、宿の朝食がとれる時間のギリギリだったことを覚えている。

 宿で急ぎ朝食を摂り、再び露店を開こうと外に出たとき、事件が起こった。

「おはようございます! 師匠!」

 ロシュが宿の前で待機してたのだ。
 なぜ俺の泊まっている宿が分かったのかということからして謎だ。
 怖くなって無視の姿勢を貫いて通りを歩いていると、隣で、それも大きい声で『師匠!』と何度も叫んでくる。
 周りの人々の視線は冷ややかだ。 
 こんな小さい子の話を無視しているなんて酷いやつだ、とでも思われているのだろう。
 これにはさすがに俺の意志も折れた。

 そうして、早朝の数分ロシュと模擬戦をすることになったのだ。

 それから今日に至るまでの6日、王都近くの草原で毎朝ロシュと戦った。
 幸いは俺がうまく手加減ができたことだろうか。
 ロシュがかわせる範囲での攻撃を繰りだし、俺はロシュの攻撃を全てかわす。
 そんな応酬を繰り返してきた。

「たぁぁああ!」

 そして、今も模擬戦の真っ最中というわけだ。
 木で作られた短剣の突きが飛んでくる。
 まっすぐと狙われたその一撃は、大して早くもないので軌道が簡単に読める。
 頭を右にそらすことで回避する。

 ロシュは攻撃がかわされたことで不安定な姿勢になる。
 スキが生まれたのだ。
 すかさずロシュの首元に攻撃を向ける。
 俺は武器を持っていないので素手の手刀だ。
 もちろん寸止め。
 だが、ロシュが危機を感じるのには十分だったようだ。
 冷や汗が溢れ出ている。

「はぁっ、はぁっ、師匠、もう一回お願いします!」

 そう言い、こちらに向かってくる。

 ロシュは俺との最初の模擬戦以来、簡単にかわせるゆるい攻撃以外で、ずっと命の危機を感じるほどの攻撃を寸止めされ続けている。
 これにより、ロシュの中では恐怖が生まれているはずだ。
 だが、それは悪いことではない。
 あの手刀を繰り出させてはいけない、大きなスキができてしまう行動はここぞというときにしか使えない。 
 そういう考えが慎重さ、そしてここぞというときに攻める果敢さを生み出している。
 現にロシュの戦い方は賢く、ロシュの身体能力が高ければ俺に当たっていた攻撃もあるだろう。
 もちろん俺の無茶苦茶な身体能力で制したがな。
 表では余裕な顔をしてるけど、実際には俺も攻撃が当たってしまいそうで結構危ないのだ。
 師匠としての顔を立てるためになんとか防いでいるが。

 ぶっちゃけると身体能力を同じにしたらロシュと俺でどちらが勝つのかわからない。
 それほどまでに身体能力が俺の強さの割合を大きく占めているのだ。
 だから、この模擬戦は俺にも役立っている。
 不足している、弱点である経験を補えるからな。

 常にどうすれば効率の良い攻撃ができるか、相手に大きな負担を与えられるかを考えながら身体を動かす。
 難しいことだが、同格との戦いではこの考えの優劣で勝敗が決まってしまう。
 もし俺が自分と同格の相手と戦う羽目になったときのためにもこの模擬戦は有益だ。

「よし、このくらいで終わりにするか」
「はぁっ、はぁっ、そう、ですねっ」

 ロシュは息も絶え絶えである。
 すぐに地面にへたり込んでしまった。

 そんなロシュに魔法で作った水を持ってきておいた木の器に入れて渡す。
 ロシュは受け取ると、相当喉が乾いていたのか、一息にすべて飲み、器をこちらに返した。

「師匠は今日も露店を開くんですか?」

 少し落ち着いたのか、こんな質問をしてきた。

「いや、今日は一番弟子の大事な試験があってな、見に行かなくちゃならないんだ」
「一番弟子!? 僕以外にも弟子がいたんですか!?」
「ロシュより少し小さいくらいの可愛らしい女の子がな」
「そうだったんですか。くそぅ、一番をとられるって少し悔しいですねぇ」

 ロシュはそう言うが、目に嫉妬はこもってない。
 冗談で言っているようだ。

「まあそういうわけだから今日は露店は開かない。金も十分溜まってるし一日くらい大丈夫だろ」
「師匠は大金持ちですもんね」

 この数日間の露店でかなり稼いだ。
 他の武器屋に目をつけられても嫌だから、多少価格を上げ、商品数を少なくしたのだが、それでも飛ぶように売れていったのだ。
 それも最初の客であるカルロスと他の冒険者のおかげだろう。
 俺の店で買った武器を散々自慢し、宣伝してくれているらしいのだ。

 高ランク冒険者達の宣伝の威力は凄まじく、開店前、露店を開こうとしている段階で20人近く寄って来るほどだった。
 そのおかげで店は開店から30分もせずに閉まり、そのことも更に噂になっている。
 ――早朝に数分だけ開いている幻の武器店があると。

 売った武器は剣、刺剣、大剣、短剣、槍、斧、鎚、弓、杖の計9種類。
 客の要望に答えていくうちに増えていったのだ。
 だが、様々な武器を武器創造クリエイトウェポンで想像して作るのも案外楽しいもので、特に苦もなかった。

 まあそんなこともあって現在の所持金は金貨432枚。
 日本円で言うと43,200,000円
 1周間で4000万だ。
 自分でもびっくりだった。
 正直こんなに稼いでいいのかと不安になる。

 でも、稼いだものは仕方ない。
 とりあえず露店をやめて本格的に武器屋を始めようかと思っている。
 そのための家を買う費用として使う予定だ。
 それでも余った金は適当に寄付したり、贅沢したりで消費させて貰おうと思っている。
 これだけの金額をもつことなんてなかなかないからな。
 精一杯楽しもう。 

「じゃ、師匠。僕は冒険者の活動に行ってきますね」

 ロシュがそう言い、手を振った後に通りをまっすぐに進んでいった。


 よし、俺もルティアの試験を見に行くか。 






コメント

  • ノベルバユーザー119901

    あってたらすいません多分ですが一週間が1周間になってると思います

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