魂喰のカイト

こう・くろーど

21話 3人組の訪問


「あのー。ここ、武器屋で合ってますよね?」
「あ、はい。武器屋ですよ――って、アーロン達じゃないか」
「ええっ!? イルムさん!」

 開店して記念すべき1日目。
 最初の客はどうやらアーロン達3人組のようだ。

「イルムさんって武器屋の店主だったんすね……」

 アーロンの相棒的存在であるウォルトが予想外だといった様子で言う。
 まあ驚いても仕方ないだろう。
 なんたってダンジョンで剣士っぽいところ見せちゃってるし。
 ぶっちゃけ商業をしてそうには見えなかっただろう。

 話を聞くと、3人は露店の噂を聞いて俺がいつも武器を売っていた場所に行ったらしい。
 もちろん俺は店を買ってここにいるため、露店を開いているわけもなく。
 Cランクへの昇格祝いに良い武器を新調しようとしていた彼らは途方にくれてしまった。
 と、そこで俺の露店商売の最初の客、Bランク冒険者のカルロスが現れ、露店ではなく店舗になり、ここに開いたことを伝えたらしいのだ。
 3人組はそれを聞いて、希望を胸にこの店に訪れたところ、店主が俺だったってわけだ。

「で、今日は3人の昇格祝いに武器を買いに来たんだろ? どれにする?」

 俺がそう問いかけると3人は別れ、店に掛かっている武器を見渡し始めた。
 アーロンは剣、ウォルトは斧、ミリーは杖が置いてあるところだ。
 それぞれが壁に掛かっている武器を見て、おおっ、と感嘆の声を上げている。
 どうやら好印象のようだ。

 最初にこちらのカウンターにやってきたのはウォルト。
 手に持っているのは片手用の少し大きめの斧だ。
 見た目は至極シンプルで、ハンドアックス、と言えばすぐに伝わる。
 ウォルトのたくましい体格ならピッタリだろう。
 重すぎる、大きすぎる、などの障害は考えにくい。

「よし、じゃあ大銀貨8枚だ」
「えっ! 安いっすね。金貨3枚はすると思ったのに……」
「ああ、本当は金貨1枚なんだけどね。まあ、あれだ。最初の客だし、顔見知りだから割引したんだよ」
「俺らは別にどれだけ取られようが良いんすよ? イルムさんには恩がありますし」
「ははは、気持ちだけ受け取るよ。恩返しはまた別の機会に頼む」

 俺がニッコリスマイルで言うと、ウォルトは少し納得いかないような顔をしたが、俺が意志を曲げないことに折れたらしく、素直に大銀貨8枚を渡してくれた。

 さて、次に選んだのはミリーのようだな。
 彼女は魔導師のようで、武器は杖だ。

 魔導師にとって杖は魔法のサポートをしてくれる道具となっている。
 埋め込まれている魔石を通して、使用者の魔力を増強する役目を持っているからだ。
 もちろん、あくまでサポートなので無くても問題はない。
 ただし、杖を持っているのと持っていないのでは明らかな威力差が生まれる。
 だから、できる魔道士は常に1本は持ち歩いていると聞く。

 ちなみに、俺が作った杖にも魔石は埋め込まれている。
 基本、魔石というのは魔物の体内で稀に生成されるもので、希少な存在であるらしく、もちろん俺はそんな魔石なんて持っていない。
 だから、最初は魔石無しで杖が作れるかどうか不安だった。
 しかし、武器創造クリエイトウェポンで杖を作ったら、もれなく魔石までついてきたのだ。
 よって俺の作った杖の先端には魔石と呼ばれる綺麗な宝石が輝いている。

 いや、作ったときは自分でもびっくりしたな。
 なんたって魔物の一部をスキルで作ることができるんだ。
 武器創造クリエイトウェポンが相当なチートスキルだということを再確認してしまった。

 それで、ミリーが持ってきたのは先端に青色の魔石が埋め込まれた比較的短めの杖だ。
 冒険者ということも合って、動きやすい短い杖を好むのだろう。
 合理的で正しい判断だと思う。

 俺が耳にはさんだ情報だと、軍の兵士、固定砲台として活躍する魔導師は大型で魔力の上昇幅の大きい杖を使う傾向にあるらしい。
 軍規模となるとやはり火力が重視されるのだろう。
 それに大勢の近接兵士、つまりタンクがいるしな。
 動き回る必要が無いという点も大型の杖が使われる要因になっているのだろう。

「あっ、ありがとうございます! イルムさんの作った武器を使わせてもらえるなんて光栄です!」

 もちろんミリーにもウォルトと同じ価格で売った。
 割引価格だ。
 それに対して喜ぶのはわかる。
 ただ、なぜこんなにも憧憬の感情を持たれているのだ。

 うーん、やっぱり助けたときのことが原因なのだろうか。
 彼女はよっぽど怯えていたし、ヒーローかなにかにでも見えたのかもしれない。
 何度も言うが、俺はそんなにヒーローのような人間じゃない。
 彼女が作る『イルムの像』に俺自身が追いつけてないことを理解しているからか、なんだか騙しているようで照れより先に罪悪感が来る。

 この感情には慣れるべきなのかな……。

 ――いや、違うな。
 少しは努力をするべきだろう。
 彼女たちのもつ『イルムの像』に少しでも近づけるように。
 胸を張って自分がヒーローだと思えるように。
 よし、少しずつでも変わっていこう。

 俺がそう決意を固めていると、3人組最後の客、アーロンが来た。

「これをお願いします」
「了解……あれ?」

 アーロンが差し出したのはショートソード。
 そのことに少しの違和感を覚える。

 どうして違和感を覚えるのだろう。
 そう思い、記憶を辿っていくと思いの外すんなりとその違和感の正体が掴めた。
 アーロンが以前使っていた武器はロングソードだった。
 しかし、今回差し出されたのはショートソード。
 その武器種の違いが違和感を生み出していたのだ。

「アーロンって確かロングソードを使ってたよな? ショートソードで良いのか?」
「はい、問題ないです。少しショートソードを使ってみたらそっちのが合ったんですよ。自分を見つめ直した成果です」
「へぇ、そうなんだ。自分に合う武器が見つかって良かったじゃないか」

 俺がそう言うと、アーロンは少しはにかんだ。

「正直、ダンジョンで襲われたときにすごく自分が情けなくなって。仲間を守ることもできず誰かの助けを待つだけなのか、って。それでもっと強くなりたいって切実に思ったんです。だから少しずつですけど鍛え直してるんですよ」

 そうか、アーロンも努力してるんだな。
 俺より若い子がこんなに頑張ってるんだ。
 だったら、俺も上に向かわなくちゃな。
 少しでもこの子達の憧れているイルムに成れるように。

 アーロンから大銀貨8枚を受け取る。
 3人は自分たちが買った武器を眺め、早く使ってみたいと言わんばかりの表情をしている。
 これは引き止めてちゃだめだな。

「よし、じゃあ3人とも。今日も頑張ってこいよ!」
「「「 はい! 」」」

 3人は元気な返事を返し、そのまま外に出た。
 
 さて、とりあえず今日も商売がんばりますかね。


 

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