度重契約により最強の聖剣技を

初歩心

第十話 銀竜との対峙①

しばらくすると、空から雲を切り青紫色の光線がこちらに向かってきた。
放たれた衝撃波で空中の雲が銀竜を中心に散っていき姿を露にする。
恐らくあれが本体だろう。

反映の守護鉄岩石」リフィ・プロトジオ・フェロ

グランディーネが展開した黒い光沢を持った巨大なひし形の鉄岩盾と青紫色の光線が激突し轟音を上げ、辺り一面を眩い青紫が照らしだす。

「! これは…っこらえ……切れない。リナ、もっと私に聖力供給を!!」

「クッ、言われなくても······やってるわよ!! 」

苦渋に満ちた顔を浮かべながらなんとか耐えているグランディーネの発言どうり、そうもちこたえそうにないらしい。
白い冷気を吹き出しながらところどころひび割れ始めたのだ。
このままでは、自信たちがやられるどころか聖域まで被害が及んでしまう。
今、この状況で俺が取れる最善の策は……

「グランディーネ、あとどのくらいもちこたえられる?! 」

「······もって五分て···っところかしら」

「五分か······姉ちゃん作戦がある。姉ちゃん!! 」
あっけにとらわれていたのか声をかけると姉は体をビクつかせた。

「ごめんね、瞬ちゃん。何、どんな作戦」

「俺と姉ちゃんで聖力技と属性技、交互に攻撃して銀竜の左翼をたち切る。
 そうすれば、バランスを崩して軌道がそれるから少なくとも聖域の被害を最小限に抑えられるはずだ······ただ、チャンスは一度きりしかないんだが」

「······私と瞬ちゃんなら大丈夫だよ。やろう」

姉は、目を閉じ胸の前に左手で拳を握りながらそう答える。
ゆっくりと開かれた紺色の瞳は、やる気と自信に満溢れていた。

「よし、決まりだな。なるべく付け根近くを狙ってくれよ」

「うん。お姉ちゃんに任せなさい」

こんな危機が迫る状況下の時にだけ姉が頼もしく見えるのは······なぜだろうか? 不思議でならない。

「ああ、頼りにしてるさ」

そう言葉をかわすと、俺たちはいまだに青紫色の凍てつく光線を放つ銀竜を見据える。

「リナ、なんとか持ちこたえてくれ!! 」

「分かってるわよ、お願いだからへまだけはしないでよね!! 」

 失敗だけは避けなければならない、この単純な作戦はそれほど重要であり聖域の命運がかかっていることは十分分かりきっていた。思わず、聖剣を握る右手に力が入いる。

「いくぞ、姉ちゃん」
「うん」

意識を集中させ、地を駆けると俺と姉は白銀の竜の真上、上空にいた。
 急降下するなか、まず姉が聖剣を構え攻撃体制にはいる。
 剣先が薄い刀のような白い聖剣が白いオーラを纏い輝き始めた。
姉は、スカートをなびかせながら一回転しつつより勢いをつけ銀竜の前方の付け根部分を凪ぎ払った。
切り落とすほどの威力は無いものの深い裂け目ができていた。
姉が傷をつけた位置は数ミリのずれもなく完璧だった。
 今のところ銀竜も、こちらの行動に気付くことなく光線を放ち続けている。

······次は俺の番だな。

ファイオラセルを振りかぶり構えると目を閉じ意識を集中させる。
鼓動が高鳴り自らの聖剣に火炎が渦巻いていくのを感じる。

       「!!!」

構えを解き、目を開くと全神経を研ぎ澄ませて振りかざす。
赤い閃光が縦に一閃走り一瞬にして容易く左翼の骨肉を絶ちきった。
 絶ちきられた左翼は燃えながら落下し、切断された断面はマグマのように赤かくなる。
 振り向くと銀竜は痛みに悶え咆哮をあげるていた。
バランスを崩し、青紫色の光線は遥か上空へと向けられる。
やがて放たれていた光線はだんだんと小さくなり、消失した。
もくろみどうり失敗することなく上手くいったのだ。
 俺は、着地すると張り詰めていた空気を思わず一息吐き出した。

 「さすがだね、瞬ちゃん」

先に、着地していた姉が手を差しのべてきたので握り返すと少し引っ張られその反動を利用しながら立ち上がる。

「いや、姉ちゃんがずれもなく確実に傷をつけてくれた、お陰だよ助かった」

「そうでしょう? もっと誉めてくれていいんだよ」

嬉しそうに目を輝かせている姉には悪いが姉弟の関係だと普通逆だと思うのだ。
それに、また褒めたら調子に乗って無理難題な要求をしてくるに決まっている、姉なのに……

「礼は言ったからな」

「つれないな、瞬ちゃん。お姉ちゃん悲しくなっちゃうよ······でもお姉ちゃんは本当に瞬ちゃんが大好きなんだからね、もっと色々な事を私に頼ってもいいんだよ」

悲しげに目線をふせながらそう言うと 
こちらに向け笑みを作る。
この行動が計算されたものだと俺は知っている。
姉は、弟をからかうのが昔から好きだったからである。
だが、今では異界化後の重度のブラコン化とあいなって本気なのかどうなのかは正直言って分かりにくい部分もなくはない。

「そんなこと言ってないで少しは警戒したらどうなんだ、まだ終わったわけじゃないだろ? 」

「はいはい……(瞬ちゃんの分からずや)」

 姉は、ため息混じりにそう答えた。
なんかボソッと聞こえたような気がするのだが……いや、待てよ? 
この人こんなため息つける人だったか!?
なぜだか、ため息まじりに出された白い息といい微かに聞こえる吐息といいいつもより艶っぽく見える。
もしかして今回は本当に姉のピュアな心だったのかもしれない。
いや、今は気を引き締めろ。
たとえ、それが真実だとしても姉にこれ以上危険な目に合わる訳には行かない。
 もっと強く、そしてもっと状況を冷静に判断できるようにならなければ。
あくまでも家族としてだが大切な繋がりを失いたくはなかったからだ。

「さっきの一撃、二人ともすごかったじゃない 
さすが英雄と称えられるだけあるわ」

「えぇ、本当に······もう少し遅ければ私たちは消えていたわね」

後ろを振り向くと、リナがグランディーネを支えながら近づいてくる。
彼女の閉じられた右目からは血が流れ右手は力なくだらんとしている。
激痛が走りそうな状態なのに平然と受け答えられる彼女が不思議である。

「……痛くないのかそれ? 」

「痛いわよ、それはもう痛いに決まっているでしょう」

そう言いながら彼女は微笑む。
なんだこの女神……怖い。
俺の顔はさぞかしひきつっていることだろう。

「そ、そうか。お大事にな」

「グランディーネ、嘘つかないの。 私が聖力でカバーしてるんだから痛みなんてほとんどないじゃない」
 
なんだ、そう言いう事か。

「演技が下手だよ。グランディーネさん、私は分かってたよ」

バカな、いつも戦闘の時以外は腑抜けな姉が見抜けて俺が見抜けないなんてなんか劣等感が……

「何となくな」

 つい嘘をついてしまった。

「そうなの? とても演技には見えない心配ぶりだったのだけれど演技がお上手なのね英雄様は。
まあ、飛び散った岩石が右目を引き裂いてフルに活動していた右腕はしばらく力が入らないだけだからたいした傷ではないのだけれど」

右目を岩石で裂かれる……大した傷だろ!!

「……話はここまでだな」

思わずツッコミたい気持ちだったが前方を見据えると離れたところに銀竜が右翼の翼でバランスを取りながら降り立った。
周りの雪が風圧で舞う。
 荒い鼻息を鳴らし光を放つ殺気だった紫色の目をこちらに向けるが、動こうとはしない。
 今度こそ深手を与えたことで警戒しているのだろうか。
だが、銀竜の魔力が格段に上昇しているのを感じる。
まだ理性を保っているがもしかしたら暴走しかけているのかもしれない。 
そうなると、もう手がつけられないくらい強靭になり聖域に間違えなく被害がおよぶ。
最悪の場合、自爆する恐れもある。
すぐにでも対処しなければ。

「グランディーネいけそう……じゃないよな」

「申し訳ないのだけれど、戦力にはなれなさそうね。
今の私にできるのは自信の防御くらいかしら」

「私も、加勢できないわよ。
グランディーネの治癒にほとんど聖力を回しているんだから」

「だよな……人手がほしい」

それはもう猫の手も借りたいくらいに。
 
「瞬、マスター呼びました? 」

「!! 背後に急に立つなよ、心臓に悪いだろ」

「……心臓弱いですか? 」

「いや、そう言う事じゃないんだが。
ビックリして心臓が止まるていうあやだ」

「……? マスター、瞬は死にますか」

  やっぱり常識が通じない

「死なないよツクヨミちゃん、瞬ちゃんは将来、私と家族の垣根を越えた関係になるまで生き続ける盟約を私と結んでいるんだよ」

「そうですか、なら大丈夫ですね」

それで理解し頷けるお前の気が知りたい……姉の言動は、もういいや拉致があかない。

「まぁいいか、とりあえず守備はお前に任せるからなツクヨミ」

「任せて。
マスター、念のため水神の加護をかけておきます」

「よろしくね。ツクヨミちゃん」

「ツクヨミが持つ属性神の加護か? 」

「瞬は知らないだろうから説明する――――」

「―――大体は分かった。じゃあいくか、姉ちゃん」

「うん、どこまでも一緒にいこうね。
添い遂げよう瞬ちゃん」

「それはごめんだ……頼むから今は真面目に協力してくれないか」

「瞬ちゃんのバカ!! はぁ……仕方ない弟の頼みなら今は姉として聞かないとね」

そんな会話をしているさなか何かを忘れているような気がしてならなかったが俺と姉は、銀竜に向け地表から出た鋭い氷柱を聖剣で絶ちきり縫うように足場として利用しながらも加速する。
こちらに気付いた銀竜は咆哮を上げ、空中には数えきれないほどの細かく鋭い氷棘が出現した。

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