劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

8 全身全霊の一撃を

 何かの悪い夢だと中之条は思った。
 この戦いは100パーセント勝てる戦いだと。
 100パーセント無傷で終えられる戦いだと、そう認識していた筈なのに。
 だからこそデフォルトルールという普通は絶対選ばない戦闘形式での決闘を申し込んだのに。
 それなのに開幕で何発も拳を喰らい、ただの一撃も攻撃をまともに喰らわせられず……そして。

「次はアンタだ」

 こちらの最大限の一撃を破壊された。
 その代償に左腕が垂れ下がっているが右腕は健在。つまり今の一撃をあともう一度放てるという事だ。
 確実に今の自分にかかっている強化魔術とデバイスによる能力強化。そして硬化魔術を足しても防ぎきれず一撃で終わるであろう一撃をあと一発。
 否、垂れ下がった腕もこちらに向ける事ができれば更にもう一撃放つ事もできるかもしれない。
 その位はしてくるだろう。

 だって目の前の赤坂隆弘という普通科の少年は、片腕がイカれているにも関わらず平然とそこに立っていられる様な化物染みたメンタルを持ち合わせているから。


 ……そして。

「……ッ」

 今の結界魔術は相当量の魔力を消費する術で、今のは確実に決めにかかった一撃だ。
 ……二度目は打てない。
 遠隔結界は強度を上げなければ拳で砕かれる。そして強度を上げるまでのワンクッションで接近されるし、そもそも強化した結界も拳で破壊される可能性もある。それどころか先程の散弾にぶつけてきた腕が壊れない程度の衝撃波では可能性どころか確実に破壊される予感があった。
 そしてハルバードと結界、そのどちらをどう運用しても初撃は防げない。受けて反撃する。その手段で無ければ目の前の機敏な一年に攻撃を当てる事すら適わない。それですら今まで適わなかった。

 つまりは積んだ。
 もうギブアップするか、殺されるか。その二択しかない。

(俺が一年の普通科に……しかも自分で吹っ掛けた決闘をギブアップ……ふざけんな、できる訳ねえだろそんな事!)

 だができなければ、確実に上半身が吹き飛ぶような一撃を受けなければならなくなる。
 それだけは回避しなければならない。

(だ、だが……あんな無茶苦茶な威力の衝撃、デフォルトルールで喰らってたまるか……ッ!)

 それだけは死んでも嫌だった。死ぬほど怖いし。

(考えろ。どうすればいい。俺は一体どうすれば……)

 そして中之条は目の前の相手の事を冷静に考えた。
 対処方法を。付け入る隙を。とにかく必死に考えた。
 考えた末に、一つの可能性を見出した。

(……そうだ。なりふり構ってられるか。勝つのは俺だ)

 今この絶望的な状況から打開する為の最大にして最高の策を。







 そして赤坂隆弘は一歩前へと踏み出した。
 その右手で目の前の敵を叩き潰す為に。
 だが思わずその足を止めてしまった。
 それは別に予想もしていなかった攻撃をされた訳でもない。そもそも攻撃どころか、目の前の中之条は新たな結界すら張っていない。
 ただ、その場で笑いだした。

(……急にどうしたんだコイツ)

 赤坂が突然の笑い声に理解できないでいると、中之条は突然手を大きく広げて叫び出す。
 観客席の生徒たちに主張する様に。

「おい皆聞いてくれ! コイツはイカサマをしている!」

「……は?」

 突然の大声で放たれた言葉に思わずそんな声が出てしまう。
 いきなり中之条は何を言っているのだろうか。
 思わず呆れたような口調で赤坂は言う。

「アンタ、急に何言いだすんだよ」

「こんな魔術科の試験に落ちた才能の無い奴が、半年程度でこんなに強くなる筈がない! いや、そもそもコイツは魔術を使っていないのにこんな馬鹿げた動きをしているんだ! どう考えてもインチキだろ。ああそうだ、コイツは何か細工をした! インチキをしたんだこのインチキ野郎! こんなもんお前の反則負けだ!」

「えぇ……」

 思わず呆れてそんな声が出てきた。
 ここまで戦っていてこれだ。見苦しいにも程がある。

「細工ってアンタ。んなもんできると思ってんのか? 聞いた事ねえけどこんな装置に細工する方法とか」

「じゃあてめえの力は何なんだよ! それが全ての証拠だろうが」

 ……一応そこまでいうなら説明してやろうかなとは思った。
 だがこの力は渚でさえ理解するまでに時間を有したし、そもそも説明が長すぎる。今決闘という形で此処に立っていいる人間がするべきことじゃない。
 ……とはいえもう決闘どころでは無くて、中之条はこちらに指を指して叫ぶ。

「とにかくお前のやっているのはインチキだ卑怯者! 卑怯者! 卑怯者! 卑怯者! はい皆さんご一緒に! はい!」

 その言葉にざわついていた会場が静まり返った。
 当然だろうと赤坂は思う。
 確かに反則の様に、そう思う人間もいるだろう。実際魔術を使っていない人間が人間離れした力を使い始めればそう思うのも無理はない。
 でも、それは無いだろうと。お前がそこで音頭を取るのはおかしいだろうと。
 流石に誰も乗らなかった。
 赤坂もまた冷ややかな視線を向ける。

「なあ、とりあえず再開していいか?」

 そう言って赤坂はガタガタ震えている中之条に一歩距離を詰める。
 さっさとこの茶番を終わらせよう。

「もしアレだったらギブアップしてくれよ。受けるから」

「す、するかそんなもん!」

「じゃあさっさと、この茶番終わらせるぞ!」

 そして赤坂は走りだす。
 そしてそんな赤坂を止めようと中之条が叫び散らした。

「そ、そもそもこのデフォルトルールとかいう非人道的なルールでやってる事自体がおかしいんだ冷静に考えれば! だからこんな勝負は無効! 引き分けって事でいいだろ! そうじゃねえとおかしいだろ! く、来るな! 無理無理無理無理!」

 そうして中之条が張った結界を右手の裏拳で破壊し、一気に踏み込んだ。
 そして中之条の振るったハルバードを態勢を低くして躱し、そして右手の平を中之条の胸元に叩き込もうとした、その瞬間だった。

「やめろ! やめ……ぎ、ギブアップ!」

 そう叫んだ中之条が中之条が正面から消え去り、右手が空を切った。

 ギブアップは対戦相手が認めた時にのみ成立する。
 赤坂はずっと中之条がギブアップしたらその時点でそれを承認するつもりでいた。
 故にギブアップが認められ、中之条が姿を消しその手は空を切ったのだろう。

 ……それがつまりどういう事か。

 しばし場は静寂に包まれる。
 が、次の瞬間、静まり返って会場から歓声が沸き上がった。

 とても呆気ない幕切れだったけれど、それでも赤坂隆弘の完全勝利を実感させてくれる感性は心地がいい。
 周囲を見渡し渚と美月の方を見ると腕を組んで頷く渚と、安心した様な表情を浮かべる美月の姿が見える。
 後は安心してるのか呆れているのか良く分からない雪城の姿も。

(まあとにかく、俺の勝ちだ)

 そして赤坂は右手を空に向けて掲げた。
 とりあえずギブアップしてくれたおかげで右腕が無事で済んで良かったと、そう思いながら。

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