劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

10 初陣を終えて

「お待たせ」

 競技場の外で待っていた美月と渚にそう声を掛けると、まず真っ先に美月が駆け寄ってきた。

「隆弘! 腕凄い事になってたけど大丈夫!? ねえ! 大丈夫!?」

「あ、ほら大丈夫だって。現実じゃなんの影響もねえよ」

 そう言って赤坂は先程まで粉砕骨折して動かなかった左手を美月の前で振ってみせる。
 もっとも今現在の腕が大丈夫な事は美月も分かっているだろう。いるけどやはりそこで心配してくるのが篠宮美月という幼馴染なのだ。

(……こりゃ痛いの我慢して正解だったな)

 我慢して。痛い所を見せなくてこれなのだから、もし素直に痛がったら美月がどんな反応をするか分かったものじゃない。
 そう思ったがその考えを即座に否定する。

(……いや、分かるか)

 実際一度死にかけたのだから。良く知ってる。
 もう見たく無いような、そんな顔を美月は浮かべる。

(……もっと頑張んねえと)

 何があっても美月にそんな顔をさせない為にも。

「でもなんか怪我は残んなくても精神的に来るって言うし」

「大丈夫、来てねえから」

「まあ赤坂さん本人が大丈夫って言うんですから大丈夫なんでしょ」

 美月とは対照的に落ち着いた様子で渚が歩み寄ってくる。

「赤坂さん、お疲れ様です」

「おう、お前が何度も特訓してくれたおかげで勝てた。ありがとな」

 そう言って赤坂が笑みを浮かべると、渚も微笑を浮かべる。

「どういたしまして。それなりにかっこよかったですよ」

 だけどその後すぐにその笑みはなんだか毒々しい物へと変わっていく。

「まあでも反省点はいっぱいありますよね」

「あります?」

「あります。正直開幕一秒で終わる勝負だったじゃないですか」

「……つまりお前は初撃でいきなりフルパワーでバースト打ち込めって言いてえの?」

「はい、そうですね」

 確かにあの攻撃を拳ではなく片腕を犠牲にするフルバーストだったなら。確かにそれで終わっていたかもしれない。
 だけど。

「……簡単に言ってくれるなぁ」

「簡単じゃないですか」

「お前だけだよそれ」

 正直赤坂にしてみれば、無事初撃で拳を叩き込めただけでも御の字だ。
 開幕から足元にバーストを打ち込み推進力を得て加速した訳だが、その速度の中で正確に攻撃を打ち込むのは中々に至難の業だと思う。
 そんな状態で一撃で腕が粉砕骨折するような技なんて使えない。それは流石に自殺行為に思える。
 ……少なくとも、今はまだ。

「じゃあ私だけじゃなくす為にも、もっと特訓しないと駄目ですね」

「お手柔らかに頼むよ」

「またまた。そんな事言っていざ始めてみるともっと激くとかドMみたいな事言いだす癖に」

「誰がドMだ誰が」

「あれぇ違いました? おかしいですね……本棚の裏に隠してあった本を見る限りてっきりマジでそういう感じかと」

「待て、その手の虚言は止めろ。断じてそんな変なジャンルのは置いてない!」

「あはっ、今口滑らせましたね? 聞いてくださいよ美月。赤坂さんちの本棚の裏に何やら如何わしい本が隠されているみたいですよ」

「ベットの下だけじゃなかったんだ……」

「……」

「……」

「……赤坂さん。なんかごめんなさい」

「……うん」

 知りたくなかった。

「ま、まあとにかくですよ」

 とても。とても気まずい空気になったので渚が無理矢理話題を変えようとしたその時だった。

「ちょおおおおおおおおおっとお時間よろしいですか!」

 気まずい空気をぶち壊す様な妙なハイテンションでズザザザと滑りつつ三人の前に現れた女子生徒がいた。
 あまりにも突然の登場にポカンとなった三人だが、とりあえず美月がその魔術科の制服を着た二年生に問いかける。

「えーっと、どちら様かな?」

「報道部です! 報道部の東雲です!」

「報道部?」

 東雲と名乗った二年生は胸元に手を置いてテンション高めで言う。

「校内新聞から校内放送! あと最近ではなんと、週一でFMラジオも始めました! むっちゃ公共の電波に乗っちゃってます!」

 そう言ってドヤァっという顔を浮かべる東雲。
 そんな東雲に渚が尋ねる。

「そんなお忙しそうな報道部さんが一体どうしたんですか?」

 渚にそう聞かれた東雲はテンションをさらに上げて興奮気味に言う。

「どうしたもこうしたもないですよ! 普通科なのに魔術科の生徒と決闘して勝利を納めた謎の一年が、何故か普通科に入学した千年に一人の天才魔術師、篠宮渚と一緒にいるんですよ! こんなのカモがネギと一緒にカセットコンロと土鍋とあとポン酢も持ってきて、調理そして後片付けまでやっていってくれたみたいな状況ですよ!」

「……それどんな状況なのかな?」

「とりあえずネギしか食ってねえことだけは分かる」

「カモ何しに来たんですかね……あ、今日鍋でもしようかな」

「あ、鍋いいですね! 私鍋全般好きなんですよ……じゃないですよ! なんで鍋の話になってるんですか!」

「割と自然な流れで」

「うん」

「ですよねー」

「そんな訳で三対一で俺達の勝利です」

「なんの勝敗!?」

 そんな事を言われながらとりあえず三人でウェーイってハイタッチしてみたが、誰一人として何に勝ったのか良くわからない。
 ……まあ鍋の話は置いておいて。

「それで、先輩は私達を取材しに来たと」

「あ、はい! そんな感じです! 今日の決闘で勝利を収めた一年生は何者なのか! そしてなんで篠宮渚が普通科にいるのか!? 新学期早々いいネタなんですよカモさん! ……じゃなかったお二人さん!」

「今この人とんでもねえ間違いしたな」

「本音出ましたよ。この人私達の事カモっていいましたよ」

「そういえばカモ鍋ってあれ季節いつだったかな? 春だっけ」

「秋ですね。残念ながら今シーズンじゃないです」

「残念」

「まあシーズン来たら一回やりますか」

「「賛成」」

「また鍋の話してる!」

「よし、帰りますか!」

「「賛成!」」

「ごめん、カモとか言ったのは普通に謝るから帰るのちょっとストーップ!」

 普通に帰ろうとした三人の前に回りこんで無理やり引き留める東雲。
 と、そこで乱入者が現れた。

「ちょおおおおおおおおおっとお時間よろしいですか!」

 今度は普通科の制服を着た、頭に赤いバンダナを巻いた二年生の男子生徒が東雲と全く同じテンションでズザザザと滑りつつこの場に乱入してきた。

(……報道部だろうなぁ)

「今の決闘の事について色々とお伺いしたく、あ、俺報道部の西本です! よろしくお願いします!」

(……やっぱり報道部だったなぁ)

 なんとなくテンションで察した。

(……しかしマズいな。このテンション二人はちょっとしんどいぞ)

 目の前の東雲と西本の東西コンビをどう対処するか少し悩み始めた時だった。

「おい西本コラ。なんでアンタが此処にいんのよ。魔術関連の記事は私が書くっつったでしょーが」

「ところがどっこいこの一年は普通科ぁ! だとすれば普通科の俺が取材するべきだ。そうだろ!? そうに違いねえ!」

「いーや違う! 参加者がどうであれこれ魔術科の行事だし!」

「しかしながらこの一年は普通科ぁ! そして俺も普通科ぁ!」

「アンタそれしか言えないの!?」

「それしか攻撃材料ねーんだもんしゃーねえだろ!」

「だったらアンタが引き下がればいいじゃない!」

 なんかお互いメンチ切り合って凄い口喧嘩を始めだした。
 そしてその陰で小声で赤坂達と美月だけに聞こえるように渚が言う。

「……もう面倒くさいんで黙って行きません?」

「……正直大変そうだしね。まあ私完全に取材対象から外れてるから大変も何もないけど」

「……拗ねるな美月」

「……拗ねてないもん」

「……で、どうします?」

「……流石に俺達絡みで喧嘩始められたら放置できねえだろ」

「……マジメですねぇ。じゃあまあさっさと仲裁しちゃってくださいよ」

「……了解」

 そんなやり取りを交わしてとりあえず目の前の二人を仲裁する流れになったので仲裁に入る。

「あの、なんつーか、じゃあもう二人で書けばいいんじゃないっすかね?」

「「部外者は黙ってろ!」」

「……あらら。いつのまにか部外者になってましたね」

 ちょっと呆れた様にそう言った渚は美月と赤坂の手を取って言う。

「だったら部外者はさっさと帰りましょう。このやべー奴二人からさっさとおさらばです」

「うん、もうそれでいいな」

「いいんじゃないかな。まあ私関係ないけどね」

「だから拗ねるなって。大丈夫、これからどんどん活躍してビックになっていこうぜ。な?」

「うん、頑張る」

「それじゃ、二人とも。さっさと行きますよ」

 そんなやり取りを交わして、三人はその場から離脱する。
 後ろから「いや、ちょっと待った部外者じゃねえ!」という東西コンビの声があがったが、とにかく逃げた。せめてどちらか一人に絞ってから来てほしい。



「いやー無事逃げ切りましたね」

「面倒な展開回避っと」

 あの後報道部の二人は少しだけ追いかけてきた後、割とあっさりと引いてくれた。
 今の赤坂達にインタビューを受ける意思はないと判断したのかもしれない。
 もっとも正直な所あの二人同時がキツいだけで、別に一方からなら話を聞かれても良かった。だから多分後日どちらかが接触して来たら普通に話しをすると思う。
 ……赤坂限定の話だが。

(……ま、冷静に考えりゃ俺はともかく渚はそういう取材受けたくないだろうしな。普通科に入った理由が理由だし。最初から逃げるのが正解か)

 渚の普通科の志望動機を思いだしてそう考える。

 決してそれは恥じるべき理由でもない。知られてはいけない理由でもない。
 だけど取材で語る様な話でもない。話すとすれば仲良くなった友達に話す位な、そんな理由。
 千年に一人の天才魔術師が普通科に入学した理由は、そんな理由なのから。

「劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く