劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

9 心配事

 考えてみればそのお二人が離れた現在、里羽は御一人様である。
 いや、正確には赤坂と黒田で三人になっているわけだが、遭遇しなければお一人様だった訳で。

(……さすがになんつーかデリケートな問題なのかこれ。何故お前一人? とか聞けねえよな)

 赤坂が触れないでおこうと思った時だった。

「そんなお前はどうして一人なのだ?」

(黒田行ったああああああああああああああああああああああッ!?)

 これが古い友人のなせる業なのだろう。
 立ち入り禁止の柵を蹴り破る様に堂々と前へと進んでしまった。
 そして蹴り破られた里羽は微妙な表情を浮かべる。

「……まあ色々あるんだよ。僕が里羽である以上。色々とね」

 ……里羽である以上。
 その言葉にどういう意味が込められているのか正確な所は分からないが、今朝の渚や美月の話を思い返すと、おそらくクラスの中でこの段階から既に面倒な立ち位置になってしまっているのだろう。
 そして里羽の一言だけで長年の付き合いのおかげか色々と察する事ができたのだろう。黒田は少し心配するように里羽に言う。

「……お前も大変だな」

 だが里羽はその言葉に軽く笑みを浮かべて答えて見せた。

「まあ多分十分に解決できる問題だ。里羽という名前に纏わりついた因縁位、あっさりと打ち払ってみせるさ」

 ……やはり彼の家の特殊な立ち位置が今の彼の状況を作っているのだろう。
 事前に知っていた情報と今の言葉を照らし合わせると、色々と想像が付いた。

「だから余計な心配はするな。大体色々うまくいかなくて一人だったとしても、それはそれで別に問題はないさ」

 そう言った里羽はふと思いついた様に赤坂に言う。

「ああそうだ赤坂、お前ラインやってるよな? ID教えてくれよ」

「まあ別にいいけど」

 別にいいけどそれ一人でも別に問題ないとか言った後に言う事じゃねえと赤坂は思う。
 ……まあそれでもIDの交換はした。
 全く知らない中ではない。今朝の一件もあってか正直交友関係の距離感としては黒田と里羽はそう変わらない。
 だからそれは普通の事だし、そして普通に心配もする。

「まあアレだ。俺でよかったら相談位なら乗るぞ?」

「だから心配は無用だし余計な事はしなくていい。僕は人に借りを作るのは嫌なんだ」

「……そうか」

 まあ本人がそう言っているうちは下手に介入しないほうがいいだろうとは赤坂も思う。
 だから何もするなと言うのであれば何もしない。
 魔術師家系を取り巻く環境が特殊で下手に何もできない事は嫌という程知っているから。

「まあとにかくさっさと食べよう……って、ん?」

 里羽は七味のケースを持ってそう言った後、赤坂に言う。

「赤坂、そっちの七味取ってくれないか? こっちの空だ」

 どうやら近くの七味は空になっていたらしい。
 そして一番近い七味に最も近いのは赤坂だ。
 そして赤坂は七味に手を伸ばしながら言う。

「借りを作るのは嫌なんじゃなかったのか?」

「今の借りにカウントするのか!?」

「するだろ。な、黒田」

「ああ。醤油取ってならまだしも七味はなぁ」

「いやちょっと待て黒田。そこに何の差がある。なんか俺お前が一番普通科のやべー奴な気がしてきたんだけど」

「なに、本家には適わぬわ」

「誰が本家だ誰が!」

「もうなんでもいいからさっさと七味くれよ普通科のやべー奴」

「もうとりあえずその呼び方やめろやお前ら!」


 そんなやり取りをしつつ赤坂は昼食を終えた。
 正直色々と思う所はあったものの、里羽とは普通にいい友人関係を築けそうだと食事中の何気ない普通の会話も含めて考えてそう思った。
 ……思ったからこそ余計に心配なのだけれど。

 そして心配な事と言えばもう一つ。

 里羽と同じクラスにいる美月に対して、まあうまくやれているだろうと赤坂は判断していた。
 だけど里羽と話している内に。想像以上に普通にノリのいい良い奴と話しているうちに、一つ失念していたと思った。
 ……多分魔術科という環境は今までとは少し違う。

 普通クラスに魔術師家系の人間なんてのはいる方が珍しい物だが、全国二十校しかない魔術科に全国の魔術師家系の一年生が入学してくると考えれば、一クラスに何人もそうした特殊な家庭環境で育ったような人間が多くいる訳だ。
 ……里羽の場合、それが今彼を取り巻いている原因といってもいいだろう。

 では、篠宮美月は。

 魔術師家系の中でも飛びぬけて有名な篠宮家出身で、篠宮渚の従妹。
 そんな美月に向けられる視線は多分、中学時代に向けられる物とは大きく変わってくるかもしれない。

 ……だから心配だった。
 本当にうまくやれているのだろうかと。






 ……もっともそれは赤坂のいらぬ心配だったのだが。

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