劣等魔術師の下剋上 普通科の異端児は魔術科の魔術競技大会に殴り込むようです

山外大河

12 ランチタイム・ガールズサイド in普通科 前編

「……しかしながらまあ、まさか篠宮とこんな形で再開する事になるとは。人生何が起きるか分からんものだな」

「私もまさかこんな形であなたと再会するとは思いませんでしたよ」

 昼休み。方や自らに付いた二つ名に嘆き、方やそのやべー奴への恋心が第三者バレてしまうという大事故が起きている同時刻。篠宮渚は普通科の屋上で茶髪ロングのクラスメイト、白川葵とそんな会話を交わしていた。

 実を言うとこの二人は初対面ではない。

 友達だった訳ではない。会話も少し交わした事がある程度だ。それでも白川は渚の事をよく知っていたし、渚は渚である意味忘れられない相手である。

「二年ぶり、ですかね」

「うむ。早い物だな。あの苦い思い出からはや二年か」

 そう言って白川は笑うが、その苦い思い出は当時の白川にとっては笑い話にならない様な一件だったのだと思う。

「中学一年の時も中学二年の時もどの大会も一回戦で当たって瞬殺。流石にあの二年間はショックで寝込むかと思った」

 そう言って白川は苦笑いを浮かべる。
 そう、白川は渚がかつて何度も魔戦で戦った対戦相手だった。
 多分相当渚のクジ運が良かったのか白川のクジ運がえげつない程に悪かったのか、最終的に全国大会に繋がる大会やそれ以外を含め出場した大会の全ての一回戦のカードがこの二人。もはや奇跡としか言いようのない現象が起きれば流石に互いの事を覚えている。

「……おまけにリベンジもさせてもらえなかったからなぁ」

「引っ越しちゃいましたし、そもそも三年の頃には完全に止めちゃってましたからね。なんか色々とすみません」

 渚が美月の家で暮らす様になったのは中学二年の八月上旬。七月下旬に行われた世界大会後の事だ。
 故に三年の大会の頃には出場する県大会が別になり、全国大会にでもでないかぎりは再戦できない。
 そしてその頃には……本当に色々な事があって。色々な事があったおかげで渚の中で魔術を止める決心がついていた。
 だから再戦の機会はなかったのだ。
 ……とはいえ仕方がないとはいえ、なんだか勝ち逃げしてしまったみたいで申し訳ない。

「もしよかったら公式戦じゃ無いですけどお受けしますよ?」

「望むどころだ……って言いたいけど、そもそも結果が見えてるからな。やめとくよ」

 そう言って白川は苦笑いを浮かべる。

「篠宮が居なくなって中学生になって初めて公式戦で勝てた。そこからも順調に勝ち進めた。それでも終わってみれば県大会ベスト8だ。それに私に勝った奴も次の試合であっさり負けてるし、まあ結局その程度の実力だったのだ。リベンジしたとして篠宮に勝てる気がしないよ……魔術科の入試にも落ちた事だし」

「あ、受けてたんですか魔術科」

「うむ。まあ正直魔術はあんまり得意では無かったのだが、己を強くする事には興味があってな。それで戦う為の魔術を本格的に勉強したかったのだが……残念ながら落ちた」

「……県大会ベスト8って簡単に言いますけどそれ結構な実力ないと行けませんし、多分それだけの実力があったら受かってると思うんですけど……失礼ですけど、当日緊張して失敗しちゃったタイプですか?」

「いや絶好調」

 白川はそう否定する。

「じゃあなんで……」

「あ、いや実はベスト8というのも魔術で勝ち上がったというより武術だったというか……」

「……武術?」

 なんだか無茶苦茶な事を言い始めた気がして思わず聞き返す。

「ああ、私の家は古武術の道場なのだ。流派は白川無心竜といってな、私の段位は五段だ。魔術無しでの戦いではそう簡単に負ける気がしない」

「は、はあ……」

「で、まあ強化魔術だけはある程度できたのでな、間合いに入る事さえできれば篠宮みたいな規格外が相手でなければ捌けた。それがベスト8にまで進めた理由だ」

「……普通ある程度の強化魔術だけじゃそこまで進めない筈なんですけど。えぇ……」

「凄いだろう」

「ええ、正直無茶苦茶すげえって思いますよ。一体何なんですか白川無心流」

「私が知る限り最強の武術だ」

「……なんかすっごい説得力がありますねぇ」

 確かに思い変えてみれば、今まで戦ってきた白川は他の対戦相手と違い妙に落ち着いて様になった構えを取っていた記憶がある。そして本来ならばある程度の出力の強化魔術とその五段とかいう無茶苦茶強そうな武術を絡めて相手を倒す様な戦闘スタイルを渚にも向ける筈だったのだろう。
 何かする前にいつも終わらせてしまっていたけど。

(……しかし武術ですか)

 聞いた限り白川の戦い方は赤坂の戦い方とほぼ同じだ。
 接近して殴る。接近して蹴りを入れる。後は投げ技。それを我流の喧嘩殺法でやってのける赤坂とほぼ同じ。
 ……もしかするとある程度の強化魔術程度でベスト8まで上がれたその武術を少しでも赤坂に齧らせば飛躍的なパワーアップが望めるかもしれない。
 そう思って頼んでみようと思ったのだが、それより先に白川が言う。

「で、その凄い白川無心流をあっさりと破った篠宮は、一体どうして普通科なんかにいるのだ? 別に私の様に落ちた訳ではないのだろう?」

 ……気が付けば自分の話になってしまっていた。

 ……何故自分が普通科にいるのか。
  その問いへの解を答えるかどうか、昔ならばとても悩んでそう簡単に口にはしなかっただろう。
 ……魔術の天才として崇められた自分がそう簡単に口にできるような事ではないから。
 周囲の期待を裏切る様な事になってしまうから。

 だけど今なら。
 そういう事を堂々と言える様になった。言える様にさせてもらえた今なら、報道部の様な輩には言いにくくても友達になった相手になら言えるだろう。
 だから答える事にした。

「ああ、単純に他にやりたい事が出来たんです。それが何なのかは秘密ですけど」

 ……流石にまだ胸を張れる程の実力じゃないから、その詳細を大っぴらにはしないけれど。
 それでも。ちゃんと明確に、他の事がしたいから此処に居るという事は言える様になった。
 そしてそれを聞いた白川は笑い声をあげる。

「もったいないなぁ。千年に一人の天才篠宮渚だぞ。その得意分野を捨ててしまうなんて勿体なさすぎる」

 そう言って笑った白川だったが、それでも少しだけ真剣そうな表情で渚に言う。

「でもそれが捨てられるだけのやりたい事が見つかったわけだ。中々できる事じゃない」

 そして再び白川は笑って言う。

「一体何をやりたいのかは聞いてほしくないなら聞かないけれどこれだけは言っておくよ。頑張れ篠宮」

「はい」

 そう言って渚も笑みを浮かべた。
 ああ、そうだ。頑張る。これまでもこれからも必死に頑張る。
 決して嫌いではない。寧ろ楽しさだって見出していた。そんな千年に一人とまで言われた得意分野からドロップアウトしてまで進もうと思った道だ。
 頑張れるだけ。頑張れる限界まで頑張る。
 そうでなければ自分の背中を押してくれた二人に失礼だ。
 だから、そう改めて心に刻んだ。

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