元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

作戦開始『後編』

 凄く大変そうな話だな……。

「私は部屋から出ます。
 そして駅近くの交番まで歩いて向かいました。怖かったし、精神状態は異常だったと思います。
 丁度、橋を渡りきろうとした時だったでしょうか。
 そんな時、後ろからサイレン音が鳴り響きます。
 自首するんだから丁度良い。そう思ってたんですけどあの警報音って迫力があるんですよね。
 私は意識をまた失ったのか気づいた時には川に飛び込んでました。
 水飛沫が一気に上がります。
 流れはそこそこありましたので流されていきました。
 死ぬのかなと思いつつもダメだと思い、流れに身を任せ、浮き、息をし続けました。
 そして流れ着いたのがこの地だったのです」
「そこで願った……と」
「はい……結局、何も変わってなくて自己中だったんです。
 そして勇者様……いえ勇者に付け込まれてしまったんです。
 あらぬことを適当に吹き込まれ全部無くしてしまえば楽になる。とね。
 そんな事で心を揺らがされ、私が願った願いはこうでした。自分が助かりたいがためだけの願いでした。

『妻の存在を無かったことにして欲しい』

 最低でした」

 ……確かにそれは酷いな。
 でも弱みを握って手玉に取る勇者も最悪だな。

「……そこからは悩み続けの毎日でした。
 何故、あんな事をしたのか。悔やみ続けました。
 そして今に至ります」
「そこで俺らに会って勇者の命令通りに動いた。と……」
「そうなりますね。だから、普通に命令通り動くつもりなんですがっ……」

 そう言うと床に倒していた体を起こして立ち上がる。
 そして一つ間を置き涙を拭いてから聞いてきた。

「一つだけ聞かせて下さい。

『私は最低だと思いますか?』」

 なんて答えればいいんだよ! これ。
 俺は困り、魔王様に相談しようとする。

『魔王様。どうするよ』
『…………あ?』
『大人しかったから何か考えたりしてたんだろ?』
『そ、そ、そうだぞー! 何も思いつかなかったけどな!』

 結局、一人で考えろってことか。

「……」

 俺は返答せずに黙り込んで考えてしまう。
 これが一番相手に対して失礼なのでは無いだろうか。

『あー……もう面倒くさいな』

 魔王様がかったるそうな眠そうな声を脳内で出す。

 そして……

「お前がクズなんだろ。面倒くさいな!」

 魔王様はそう叫んだ。
 相手の心に突き刺さるかのように。

「魔王様……それはだ……」

 俺は必死に止めようとするが相手の威圧に耐えきれず途中で言葉が切れてしまった。

「……」

 相手は黙り込み俯く。めちゃくちゃキレてしまったのではないかと不安がよぎる。
 そう思った矢先、相手は……いえ彼はニッコリと笑った。

「そうですよね。何を悩んでいたんでしょうか……馬鹿らしい。
 私はクズ。
 それで終わりですね。
 もうあなた方を倒す気はありません。大人しく自首します」
「でも勇者との願いで存在を失くしてしまったんじゃ……」

 と、正直に思ったことを話す。

「そうでしたね……なら、あなた達が頑張れるように支援します」
「ど、どういう風に……?」
「言葉が悪かったですね。今の私には願いも思いもさほど無い。
 あるのは自首をしたいという諦める気持ちのみ。簡単に……とは行かないかもしれませんが楽にはなってると思いますよ。
 なので頑張ってくださいね」
「……分かりました!」

 そう伝え俺は砦に入るためバス停裏に戻る。

『何かあいつ。良いやつなのか悪いやつなのか分かんねーやつだったな』
『そうだな……まぁ俺達は勇者をぶっ倒すだけだろ。あの人が自首するためにも!』
『だな……じゃあ準備はいいな?』
『もちろん! 絶対勝つぞ!!』

 魔王様が詠唱を始める。
 ……ふぅ。俺は目を閉じ気合を入れる。
 そして開いた時には牢獄……ではなく一本の通路にワープしていた。
 通路の少し奥には大きな扉。高さは三メートルくらいありそうだ。
 そこまでは俺らを招待するかのように赤い絨毯が敷かれ、間隔を置いてランプが設置されている。

 その通路を一本また一本歩く。思いを願いを叶えるために。

『とうとう勇者とのご対面だから気を付けろよ……』
『分かってる……何が来るかは分からないからな』

 俺は絶対に勝つという強い思いを持ち進む。
 そして遂に扉の前まで来た。
 すると自動ドアが開くように扉が奥に開かれる。

 そして開かれた先はとても大きく丸い部屋になっていた。
 広さとしては半径二十メートルくらいなのでは無いだろうか。
 力が弱まっているせいか部屋の中には何も無く、真ん中一番奥に凄い作りがしてある何かがある。
 そこには人間1人分くらいの半径があり、透き通るような青で出来た水晶が周りの金や銀のような輝くもので作られている何かをまとい宙に浮いていた。
 浮いていたといっても普通に手で届くくらいのところにはあるので安心して欲しい。

『魔王様。あそこにある水晶を壊せば……って、どうやって壊すんだ?』
『あれが俺の手に触れた瞬間に闇染まっていくように壊れるから安心しろ』
『分かった』

 と、脳で警戒しながら話していると上の方から忍者が降ってくるかのように中央に人が出てきた。

「……来てしまったか。待っていたよ」

 そう話した男は白髪のロングヘアで後ろで髪を結んでいる。目はツンとした猫目で白いタキシードに身を包んでいる。
 手にはレイピアのような武器を装備していてキザな感じだ。
 イケメン騎士といったところだろう。

「調子に乗ってられるのも今のうちだぜ。力は弱まってんだろ……?」

 と、ドヤ顔をするが調子に乗ってるのは俺だし。力が無いのも俺だ。
 完全なブーメラン発言だった。

「はっはっはっは! 弱そうなのは君達の方じゃないか。魔王様も落ちぶれたなぁ」

 あの距離からこの小さい魔王様が見れるってどんな目をしてるんだよ……。

「うっせ! ぶっ倒してやるから覚悟しとけよ!」

 魔王様が言い返すと相手は馬鹿にするかのように髪をファサっと靡かせる。

「そうかそうか……私を楽しませてくれよ」

 と、爽快に笑った。

 ……舐めやがって。絶対に倒してやるからな!

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