元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

バレないように……

 結局、美味いと被りつく魔王様。
 なら、当分はこれで我慢してもらおう。

「なぁ。魔王様?」
「んっ……何だ?」

 魔王様はゴクリと口に入っていたパンを呑み込む。

「早速……なんだけどさ。明日はどこから砦を落としにいくとか決めてんの?」
「気が早いなぁ。どこにすっかな。お前の家から近いところがやっぱりいいよな」
「別にどこでもいいぞ。あまりにも遠すぎるのはキツいけどな」
「なら……学校の裏にある砦にでも行くか?」
「目立ちそうだな……」
「それでもいいか?」
「……まぁ、いいぞ」
「お前の飯とかも買わなきゃいけないから、今度から、平日は深夜に攻めることになるかな」
「しょうがないぜ。俺だって腹減るし!」
「まぁ、今日はゆっくり休ませろよ」
「もちろんだぜ! 今日は、ゆっくり休んで明日から、また、砦奪還開始だ!」
「おう!」

 それから俺は飯を食べ早めに寝た。


「ふぁあ」

 俺は休日。それも土曜日なのに朝八時には起きた。
 休日なのに、こんなにも早い。珍しいな……。

「魔王様ー。おはよう」

 俺はクローゼットを開けて魔王様を起こす。
 昨日とは違い、ぐっすりと眠りにつけたらしい。

「とりあえず飯食ったら、また来るから待っててくれ」
「……だったら、それから起こしてくれよ」

 と、不機嫌そうに頭をポリポリかく。

「ごめん。ごめん。今日の作戦のことでも考えててくれよ」

 そう説得し階段を降りる。

「おはよ」

 母さんと素っ気ない挨拶を交わし用意された飯を食べる。
 いつも通りの美味しさだ。

「ごちそうさん」

 俺は最後まで食べ終わり満足そうに腹を叩いた後、立ち上がり自分で使った食器を片付ける。
 それを終わらせ部屋へまた戻る。

「ごめん、少し遅れた」
「ん? 別にいいぜ。砦さえ、攻めにいってくれればな!」

 当たり前だ。
 俺は動きやすい格好に着替えて「当然」と、答えた。

 時刻は九時を回り、そろそろ出ようかなー。と、思い魔王様に「行こう」と、伝えた時。
 一つのトラブルに直面する。
 今日は母親も普通に家にいる。なので、バレるかもしれないのだ。

 ……くそ! また、これかよ!

「おい、魔王様。体も大きくなったし、ワープみたいなことは出来ないのか?」
「それは無理だ。この体だとな」

 なら、何か策を練らないとなんだけど……。
 普通に玄関から、そーっと出るしかないよなぁ……ははっ。

「普通に、そーっと……家から出るぞ。だから、その物音とか立てないように気をつけてくれ」
「なんだ。それくらいなら出来るぞ。流石に姿を消すのは無理だが、物音を立てないようにするくらいならな」
「なら、一昨日帰った時も使えよ!」

 俺のツッコミを無視するように魔王様は何かしらの詠唱を唱えていた。
 そして、魔王様は黙り込んだ。

「どうしたんだ? ま、魔力が足りねぇ……」

 何でだよ。姿は戻ってんだから魔力くらいあるだろ。
 一体、どうなっているんだか。

「ごめんな。普通にそーっと……行くぞ!」

 俺は、それに対してコクリと頷く。
 バレないといいんだけどなぁ……。

「あ、そーだ。行く前に、その角。なんとかしろよ」

 如何にも中二病の格好はまだ良いとして角はまずいだろ。角は。
 ハロウィンは終わっているんだからな。
 そう伝えると、魔王様は時期外れの麦わら帽子を被ってくる。

「これでいいか?」
「……まぁ、いいぞ」

 そして、遂に二つ目の砦を奪還する作戦が始まるんだ。と、いっても初日は偵察みたいなもんなんだが。

「……じゃあ行くか!」

 俺はそう言うと扉を開け、階段をそーっと降りる。
 勝負はここから始まっているのだ。バレたら、一日を無駄にしかねないしな。
 いつも通りのミシミシ音が、やけに大きく聞こえるが玄関の前まで辿り着いた。

 後は家から出るだけ……!

 ガラガラ

 俺は変に怪しまれないように扉を思いっきり開け、すぐに閉める。

「ふぅ……何とかバレなかったぜ」
「だなだなー。よしっ、歩いて学校まで行くぞー!」

 そこから学校まで魔王様と雑談を楽しみ、遂にいつもの高い坂まで辿り着く。
 幸い、田舎な事だけあって、今ままで会ったのは知らない農家のおじさんだけ。

 だが……ここからが大変だ。
 部活動のため校門は開いているのだが、そこがネックだ。
 その分、人も多くバレやすいのだ。
 ちなみに雑談の中にも有意義な話はあり、正面玄関から見て右端の所というのは分かっている。
 この学校の校庭は真後ろにあるため、そこから見られる可能性は、まず少ない。

 つまり、校門をバレないように通り、右端にある生徒会室。図書室。さえ気をつけていればバレずに魔界の方に行けるってことだ。

「バレたら……終わり。ってのは、お前にも分かるよな?」
「もちろん」
「なら、壁にそるような形で慎重に行きつつも、人がいないタイミングでダッシュをかけるつもりだ。いつでも走れるようにしとけよ……」
「おう」
「まず、この坂からダッシュで上る。いいな?」
「任せとけ!」

 俺達はバレないかの心配を振り切るかのように全力で坂を上った。

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