元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

生徒会長

 嫌々、俺は扉を開ける。
 だが……生徒会室には生徒会長『吉澤 夏奈』しかいなかった。

「……失礼します。生徒会長だけってのは珍しいですね」
「ええ。そうですね。あなたに個人的な話があったので、嘘をつかせてもらいました」

 会長が何の用だ……?

 ……っと、その前に生徒会長『吉澤 夏奈』の説明をしようと思う。
 地獄耳……と、いう話はしたが、それ以外には、頭脳明晰、運動神経抜群、冷血、頼まれたことは何でもこなしてしまう、そんな人だ。だが、人付き合いが悪い。
 そんな彼女の容姿整っている。黒髪ロングで制服のシワは一つもないくらいに、きっちりしている。身長は170と女子にしては高く、制服がピシッとしていて格好いい。
 可愛い……と、いうよりは美人だ。
 自分で言うのもなんだが、容姿の良さを除けば、どことなく似ているような気がする。
 まぁ、彼女のような天才が何のために、この学校に入っているのかは謎なのだが。

「個人的な話……ですか?」
「一つ、学校の治安として気になった事がありましたので……」
「は、はぁ?」

 俺は学校の治安を守れるほどの器じゃねぇぞ?!

「この前の土曜日。あなたは何故、構内の茂み近くで、ボロボロになりながら、寝転がっていたんですか?」
「ブフッ!」

 俺は思わず吹き出してしまった。地獄耳って噂は本当だったのか?!
 それにしては異常すぎるよな……。

「す、すみません。思い出し笑いをしてしまって……はは」
「思い出し笑い……? あなたがですか。意外ですね」

 俺はどんな奴に思われているんだ?

「意外でしたか……はは」
「ところで……用件を戻します。何故、ですか?」

 さすが、冷血。
 話は必要最低限に抑えたいってか……。
 砦を奪還しに行ってました……! なんて、馬鹿みたいなことは言えないからなぁ。

「えーっと……。そうです! あれは確か、友達と鬼ごっこをしていて転がってたんです」

 酷すぎる、言い訳だ。
 まぁ、話を伸ばしたりはしてこないだろう。

「そうでしたか。用が無いなら、休日の学校には立ち入り禁止です。以後、気を付けるように。
 あなたの方からも、遊んでた方に言っておいてください」

 話が軽く済んで良かったー……。

「失礼します……」

 そう言いながら、扉を開けると、彼女が俺を呼び止める。
 何だよ……。まだ、あるのか?

「少し待ってください」

 すると、サッとその場を立ち上がる。
 黒い髪が少し揺れる。
 一本ずつ近づいてくる。ムスッとした顔の威圧感が怖い。
 そして、俺の目の前まで来た後……ニコッと笑った。

 怖っ! 心臓止まるかと思ったわ。まさしく『悪魔の微笑み』。

 笑ったままの状態で、今度は垂れていた黒髪を耳にかける。
 俺が女子に対して、地味に萌えるやつだ。
 ロングヘアの女の子が髪を耳にかけるのって良いよね!
 でも、何でこんな事を……?
 そんなことを考えている時には、俺の顔近くに彼女は顔を少し背伸びするように寄せていた。

 近っ……! 自分の顔が赤くなり、熱くなっていくのが分かる。

 そして、俺の口……ではなく、耳元に口を寄せて、囁いた。

「あなたと私は何だか似ていますね……。少し、興味があります」
「ふぁ、ふぁいっ?!」

 声が裏返ってしまう。こんな事をされたのは胡桃以外に無いので当然だ。
 そして、俺が返事をすると彼女は口を離し「面白いですね」と、言うと、それ以上は何も言わなかった。

 俺は恥ずかしさと戸惑いで震えながら、生徒会室を出た。

「ふぅ……」

 緊張したー! こんな形で生徒会室から出るとは思わなかったぜ……。
 これも、砦を攻略した御褒美と受け止めてもいいのかな。
 少し前向きに考えることにした。
 今まで、あんな事をしなかった生徒会長が……だからなー!
 美人なだけであって、少し好きになってしまいそうな自分がいた。
 まぁ、非リアなんて、こんなものだろう。

 俺はそんな上機嫌な状態で教室に戻った。

 そして、ダラダラとしながら、昼休みは終わり、気分は好調のまま、全ての授業が終了した。
 その後、学校は終わり、今日の砦探索に備えるため、俺は、すぐに家へ帰った。

 ガラガラガラ

 俺は引き戸を開けて、家に入る。
 母は仕事。父は今日の朝早く、俺達が起きる前にいなくなったので、誰もいない。
 階段を一気に駆け上がり、部屋に入る。

「おかえりー」
「ただいま」

 魔王様はピコピコとゲームをしていた。

「早速なんだけどさー、今日の砦! どうするよ」
「お前、テンション高いなー。何か良いことでもあったのか?」
「ま、まぁ。あることにはあるけど!」

 未だに浮かれている、俺だった。
 まぁ、冷血の彼女が、恐らく、俺だけにあんな事を言ったんだ。
 テンションが多少、上がるのは許してくれ。

「そうか。そうか。良かったなー」

 反応、冷たっ! 話そうかなー……とか、思ってたのに。

「ま、まぁ、いいか。ところで、今日の砦はどうするよ」
「ゲームしてるから、何となく考えたら教えてー」

 魔力が回復してから、調子に乗ってる、魔王様だった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品