元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

形状

 まぁ、作戦を考える。なんて、言っても、特に考えることは無い。
 何故なら、本に触れてはいけない。と、しか言い切れないからだ。

「魔王様。作戦なんてものは特に無いよ」
「そっかー」
「家を出る時間は十一時頃。その、三十分前くらいに親が寝るから」
「りょーかーい」


 この後は魔王様と特に話すこともなく、時間は十時半を過ぎていた。

「おい。魔王様、そろそろ時間だからゲームやめろ」
「はいよ!」

 丁度、キリがいいのか、魔王様はゲームをあっさりやめた。

「……お前、意外と早くやめたな」
「そうだぜ! よし、行くか!」
「いいけど……。親が寝始めたばかり……」
「その点は安心しろ!」

 そう言うと、俺の体に手を当てる。

「うわっ……! と?!」

 気が付けば、家の外まで出ていた。

「これくらいの距離ならワープ出来るぜ!」
「め、飯の力って、すげぇ……」
「俺の力だ!!」

 そんなツッコミを聞いた後に歩き始める。そして、少しすると、校舎前まで、辿り着いた。

「門、閉まってるけど、ワープで中に入ろうか」
「そう……だな」

 すると、魔王様は俺に手を触れる。気が付けば、体は校庭に立っていた。

 そんな校庭から、見える景色は真っ暗な校内だった。
 砦内に何だか似ている気がする。

「よし……。行くぞ!」

 俺達は校舎裏まで向かい、詠唱を始める。
 そして、調子の良い、魔王様は難無く詠唱を行い、不思議な感覚と共に教室内の光景が目に映る。

 でも……。その景色はこの前と違った。
 机が、もう一つ追加され、一輪の花は無くなっていた。

『……? ま、まぁ、気にすることは無いか』
『何がだ……? あー、あの机か。関係ないだろ。とりあえず、外に出るぞ!』

 そう言いながら、扉を開ける。
 そこも、この前とは違った。
『端っこの部屋』と、いうのは変わらないが、手前から、一部屋……。いや、二部屋前までの床から光が見えていた。
 教室の隙間から光が見えているのだろう。

 そして、もう一つ。

 真っ黒で何も見えなかったはずの、外は夜空くらいの明るさになっていた。

『……何だか、少しだけ変わっているな』
『この前とは形状が違うかもしれないなら気を付けろよ……』
『何かあったら、お前に頼むよ。魔王様』
『おう! 任せとけ!』

 と、小さい体ながらに胸を張る。

 やっぱり、砦内の魔王様は頼り甲斐があるなー。と、関心しながら歩き始める。

 光の差し込んでいる、部屋を覗くと、暗い影で出来たような人達が授業を行っていた。黒板にもしっかり字が書いてある。

 それは、人だけを除けば、授業そのものだった。

『何だか、気持ち悪いな……』
『確かに。授業をしているのに、声は聞こえない。人は影。だしな……』

 そんな奇妙な教室を二つ抜け、暗い廊下に入る。

『この前よりは、マシだけど……。暗いな』
『確かに……そうだな』

 今回は、短くなっているのだろうか……。
 そして、黙々と歩き続け、5分くらいが経った。
 すると、光が見えてきた。
 この前よりも確実に短くなっている。

 だけど……。

『この前より、明らかに暗くなっているな』
『だな、明るさは収まっている。普通に先が見えるくらいだもんな』

 トンネルを抜ける……。と、いうよりは少し明るいところへ行く。くらいの明るさだった。

 そして、そこへ向かうと、やはり『図書室』だった。

 が、この前に比べ、本棚からは少しの光が出ているだけで、金ピカな訳では無い。
 どれくらい光っているのか、分かりやすく言うのなら、水滴が太陽に照らされるくらいだ。

 だが、広さは相変わらずだ。

『こ、怖いよぉ……』
『この前みたいに、眩しくはないぞ?』
『そこは関係ない!』

 やっぱり本なのか……。何があったんだよ。

『そ、そっか。じゃあ、魔王様はここで待機して見張っててくれよ』
『俺は、また探索してくるから』
『わ、分かったぜ』

 少し、心配だが、部屋の探索を始める。

 とりあえず見渡してみて、気になる本は無かった。
 なので、この前と同じ。
 闇に包まれた、本がある通路へ入る。

「あれ……どこだ? ……あった!」

 その闇に包まれいた本を見つける。
 この前より、黒さが無くなっていた。周りの明かりが少し収まったこともあるとは思うが。

 黒、よりは……紺に近いような色。

 触れても大丈夫な気がするが、何が起こるかは分からない。
 とりあえず……。他の場所も見てみるか。

 そう思い、俺は他の通路へと移動した。


 探し始めて、何通路だったのかも思い出せない。

 様々なジャンルがあるので、面白いことは面白いのだが……長すぎるだろ!
 魔王様との距離もあるし……さすがに危険じゃないか?

 そう思った、俺は、急いで引き返す。
 数分すると、元の場所に戻ってくる。

『だいぶ、かかってたなぁ……』

 念話で、その声が聞こえる。
 魔王様は眠そうだった。まぁ、かなりの時間を暇にさせてしまったからな。

『ごめん。ごめん。思ったより長くてさ……』

 まだ、通路はあったが、その事は黙っておこう。
 伝えたところで意味は無さそうだしな。

 そして、奥まで行って思ったことがある。

 RPGのように進むのならば……。そこにある、紺色のオーラを纏った本。
 これは絶対、鍵になってくる。

 中の形状が変わっているのなら、本を触れた時の反応も変わっているはず。
 そう思い、紺色のオーラを纏った本の所へ向かった……。

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