元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

リア充

 いつも通り、胡桃と学校まで来た。

 ふぅ……。好感度……ね。ギャルゲーか何かみたいな感じでいけばいいんだよな。

 俺はロッカーに荷物を入れ、誰かしらと話した後、席に着く。

 作戦はどうするかな……。

 とりあえず、飯の時間になったら、生徒会室まで行ってみるか……。

 一限、二限、三限、四限。

 授業はどんどん進み、遂に飯の時間になる。

「桐生君っ! 今日もご飯、食べるー?」
「ご、ごめんっ! 今日は先約が!」
「なら、私もー」
「ごめん! 今回……いや、当分はごめん!」
「そっか……」

 うわぁ!! 何か悪いことをした気分だ!

 俺は席を立ち、生徒会室へ急いで向かう。
 早歩きで向かう。
 教室を一つ、二つ抜けて、右側に曲がり、図書館に入ろうとした、その時……。

「……!」

 俺は黒髪が、とても綺麗な女性にぶつかった。
 それのせいで、彼女が後ろに蹌踉めく。

「あ、あの、すみません……」
「……。別に、気にしないで下さい」

 き、綺麗だとは思っていたけど、やっぱり会長か……。
 て、ていうか、どうしよう!

 ギャルゲーだったら、選択肢が出ているんだろうな。

『話がしたい。と、引き止める』
『その場から立ち去る』
『この場で、素直に謝る』

 とかか……。
 あー! どうしよう!

 と、考えていた時には、前へ歩き始めていた。

 生徒会長をこのまま先に行かせてもいいのか……? ギャルゲーとしては、最悪な気がするぞ?

 ……その時、俺の足は自然に動いていた。

 パシンッ

 俺の右手が彼女の左手を掴む。

 い、勢いで掴んでしまったけど、どうするよ!

「あ、あの、話が……あります。生徒会室に一緒に行きましょう」

 うわぁ!! こういうのはイケメンだけが、許される特権だろ?!

「そうですか? なら、行きましょう」

 そう言うと、彼女は俺の握っていた、左手を離し、今度は優しく手を繋いだ。

 ……?! ま、ま、ま、マジか……!


「生徒会長に男……?」「あ、あの冷血の生徒会長に……か?」

 など、声が聞こえてくる。
 めちゃくちゃ恥ずかしい。手を繋いできた、張本人。彼女も同じだったのか、頬が真っ赤になっていた。

 ……可愛いところもあるんだな。めちゃくちゃクールなのかと、思っていたけど……。

 そして、二人で生徒会室に入った。
 ここまでの道のりは、とても長く感じた。

「こ、こここここ、ここ、こんな所まで、手をつ、つ、つ、繋いでおいて何ですが……。何の用ですか……?」
「そ、そそそそそ、それは……」

 ど、どうしよう! 手を繋いでしまったせいで、仲直りして下さい。
 だけでは、済まないような気がしてきた。

 ……そうだな。

 ギャルゲー風に考えるなら……。

『付き合ってください』

 と、でも言うのか? 俺が勝手に期待してた。とかだと、恥ずかしいぞ?!
 確かに、付き合えば、砦の攻略がスムーズに進むことには間違いないと思うけれど……。
 で、でも、リスクがありすぎるよな。

 つ、次!

『結婚して下さい』

 論外! 次!

『仲直りしましょう』

 こ、これは無難だけど……。下手したら、砦を一生、攻略出来ない。みたいなことはあるかもしれないけどな。

 そうなったら……。

「ふぅ……。少し、考えてしまってすみません」
「は、はい」

『俺と付き合って下さい!!』

 ……ゴクリ。こんなの失礼だって分かってる。
 けど、仕方ないよな。

 そして、一瞬の間が開き、笑顔で語りかけるように『喜んで』そう言ってくれた。

 俺は『普通』から『リア充』に進化した!

「じ、じゃあさ……早速だけど、弁当。一緒に食べない?」
「うん! 壮一っ」

 わ、悪くねぇ!!
 で、でも、会長は何で俺なんかを……? って、気にせず、楽しむべきだよな。
 そこからは、呑気に話したり、色々したけど、まぁ、楽しかった!

 そして、昼休み終了のチャイムが鳴り、教室に戻ると……。

「お、お前、転入生かと思ったら、今度は『あの』生徒会長か!?」
「べ、別に、そんな関係ではないぞ?!」

 これは、まぁ、恥ずかしいから。と、決めた、夏奈との約束だ。

「お前らが、手を繋いで、歩いてたって……」

 う、噂って怖いな。
 あの一瞬……まぁ、俺にとっては長丁場だったんだけど。が、こんなにも早く、知れ渡るなんて……。

「な、何だ? その嘘は」
「おい。お前ら、席に着けー」

 五時間目の授業を担当する、教師が来た。
 だから、俺は、大人しく席に座った。

 そして、五限終了後……。

「ねぇ、桐生君っ! 私に、付いてきて?」
「お、おう?」

 か、可愛けど、俺の彼女は夏奈なんだ。
 下手な真似は、絶対にしないぞ。

 俺は浮気をするような男ではない。そう、自分に言い聞かせた。

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