元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

夏奈

 相手がオーラを纏っている……。

「何……で?」


 ――――――
 ――――
 ――


「……? 今日は具合でも悪いのか?」

 俺は夕食を取り、砦に向かう準備を始めていた。

「違う」

 一応、砦を見とく必要はあるよな……。あんな事をしてしまったから、無理そうだけど……。

「? まぁ、それなら良いんだけど……。それじゃあ、もう出発するか?」
「おう」

 俺と魔王は外に出て、校舎裏に立つ。
 そして、魔王様が詠唱を始める。

「それじゃあ、行くぞ!」

 不思議……。と、いうより、気持ち悪い感覚と共に教室の光景が映る。

「……?」
『お前、また、何かをしてくれたのかー!』

 あれ? そんなはずは無い。教室には、机がたくさん置いてあり、教壇もある。エアコンとか、学校内にあるようなものが、色々とある。
 この前までは無かったが、教室にも窓がある。暗くて、遠くが見えないので、外の景色は、よく分からないけど。

 まぁ、どうせ、初段階、もしくはそれ以下戻ってるんだ。無駄な体力を使わないように、普通に話そう。

「……お、俺が何とかしたから普通に話しても、だ、大丈夫だぜ!」
「ほ、本当か!」
「……」
「黙り込んでどうした?」
「あはははは。何も無いよ。お、俺の力だ!」

 と、強がってみせる。実際は何もしてないけど。

「そうか? そうか! なら、早く教室の外に出るか!」

 教室の引き戸に手をかけ、廊下に出る。

「「……!?」」
「な、なぁ……?」
「……」
「あのさ。俺、実際の学校ってもんには来た事ねぇけどよ」
「あぁ……」
「これって、お前の学校から、見える景色じゃないか……?」
「あ、あぁ。そうかも……しれない」

 ど、どうなってる?! ここは魔界じゃないのか?

 外の景色。それは、街灯が、刈り取られた田んぼを照らし、何も無い。
 ……。この何も無い景色は、俺の住んでいる街に違いない。

「……。ここは魔界なのか?」
「お、俺だって、分かんねぇよ。勇者達が、お前らにとっての現実世界で暴れようとしてるのかもしれねぇ……」

 は、はぁ!? 地球で暴れるって魂胆か? それなら、魔族が滅ぼさなくても、同じじゃねぇか。

「魔王様……。そうなったら、魔族は助けて……くれるよな?」

 俺は震える声で質問する。

「あ、あぁ。助けてやりたいのは、山々だが、俺らの、力もまだまだだからな……」

 はぁ……。やはり、砦を何とかしないといけないのか。

「分かった。じゃあ、とりあえずは、ここを何とかするぞ」

 この変化なら、何かあるだろ? しかも、元の世界なら、このまま普通に話して大丈夫そうだ。

「おう!」

 俺達は、歩き始める。
 だけど、ここから図書室までは二教室しか無い。だから、逃げるとなったら、確かに楽だ。
 そして、図書室に入る。魔界の方で闇の本があった場所を確認しても、何も無い。

「このまま進むぞ」
「おう」

 すぐ、生徒会室前に立つ。

「こ、ここを開けたら、砦の勇者が出てくると思うぜ……」
「おっけ! 俺の力を見とけ!」

 ガチャ

 扉に手をかけ、部屋に入る。
 そこは馬鹿広い空間で、奥に生徒会室に置いてある、立派な机が設置されていた。
 水晶らしきものは見つからない。つまり、倒すしかないってことか?


 そして、奥から声が聞こえ、上から何かが落ちてくる。

「やぁ。こんばんは。魔王様に……浮気君っ……!」

 チャラチャラした声がきこえる。そして、奥には、パーカーを着て、フードを目深に被った男。と……『生徒会長』が立っていた。

「相手は男と女か」

 と、魔王様が指の骨をボキボキと鳴らす。

『ちょっと待て』
『き、急に念話に変えてどうした?』
『あの女の人……。俺の知り合い。つまり、人間』
『なっ!? 勇者じゃねぇのか?』
『そうだ』

 ここで謝るしかない……。俺が何とか助けてやるしかない。それが、少しもの……償いだ!

「俺は浮気なんかしてねぇし……。生徒会長……いや、夏奈には個別の話がある! お前に用はねぇ! 斃れ勇者が!」

 すると、フードを深く被っていた男が、一気にフードを上げ、厳しい目で、俺を睨む。

「あ? 彼女も、お前には怒ってるってよ。だから、ここで俺がお前をぶっ倒してやんだよ!! やっぱり、魔王と契約するやつなんて、ろくでもねぇなぁ!」

 ……俺を馬鹿にするのはいいが、魔王を馬鹿にしてんじゃねぇぞ。人の弱みに漬け込む奴らが!

「夏奈! 悩みなら、俺が全部聞いてやる。だか……」
「うるさい! 壮一なんか……お前なんか消えちゃえ!!」

 ……それ程のことをしてしまったんからな。

「あーあ。また、泣いちゃった。お前のせいだよー? 桐生君っ」
「な、何だ何だ? お前はあいつと知り合いで?? どういう事だ?!」
「魔王様。今は、倒すことだけ考えてくれ。俺の人間関係は自分でどうにかするから」
「お、おう? 分かった」

 そう言い、俺と魔王様は手を握り、拳を向けた。

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