元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

ここまでの経路『前編』

 んっ……。
 俺は、気絶したんだよな……?
 でも、何か、感覚がおかしい。

「えっ……?」

 驚きの声を上げてしまう。
 何故、俺は立っていて、目の前には敵が倒れているんだ?
 そして、ぐるんと周りを見渡す。

 ……魔王様。それに、夏奈が倒されていたのだ。だ、誰がこんな事を……? 何で、俺はこの場に立っていたんだ?
 その誰かの襲撃に怯えて、立ったまま気絶したのか?

「おい。魔王様。しっかりしろ!」

 と、肩を揺らすがびくともしない。

「夏奈? 大丈夫か?」

 頬をツンツンとしてみるが何も起きない。と、とりあえずは紐を解くか。
 そう思い、紐に手をかけると、一瞬にして、紐が解け、紐はどこに行ったのか、無くなる。

「……壮一?」
「あぁ、そうだ。大丈夫か?」

 俺は立ち膝で肩を抱き上げるようにして起こす。

「……」

 ぐすっと泣き出し、俺に抱きつく。

「ど、どうした?」

 そして、抱きつきながら、俺の胸でモゾモゾと、独り言のように話し始める。

「私……。一人になるのが寂しかったから。それで……その、壮一の事を殺そうとしちゃった……裏切ったから……。それに、恩人のために」
「……殺そうとしたことは良いよ。理由があったんだよな?」
「うん……。勇者様との約束だったから」
「そっか……。大変だったね」

 そう言い、優しく頭を撫でると、夏奈はすべて話してくれた。

「……そっか」

 俺が簡単に説明しよう。
 夏奈は昔、地味で本が大好きだったそうだ。友達。それも、親友と呼べるものは一人くらいしか、いなかったそうだ。
 そんな時、親友と夏奈は絶交(複雑な理由で)してしまい、本当に仲のいい人は居なくなってしまった。
 夏奈は、それにより、本にのめり込んだ。そんな夏奈は周りから、『怖い人』や『関わりづらい』『相手に出来ない』と、勝手な偏見で決めつけ、段々と関わろうとする人も減っていった。
 やはり夏奈も仲良くはしたかったみたいだ。

 追い詰められている時、もう一つの事件が起こった……。

『夏奈の両親の離婚だ』

 元から、仲がそこまで良くなかった夫婦の離婚への極めつけは『浮気』らしい。
 浮気後、夏奈を引き取った母親も八つ当りを繰り返し、苦しめる日々だったそうだ。
 詳しい話は聞かなかったけど。

 そして、新しい生徒会長を決めるシーズンの時。もちろん、夏奈が生徒会長をするなんて、誰も思っていなかった。

 夏奈自身も、生徒会長をするなんて思っていなかっただろう。
 生徒長会が決まる前日。
 夏奈は学校が終わると、すぐに家へ帰る……はずだった。

「やぁ。お姉さん。ちょっと手伝ってもらっても良いかな……?」
「ごめんなさい。忙しいので……」
「そう言わずに、手伝ってくれたら、お礼でも何でもするから」

 人の心が恋しくなっていた夏奈は、そんな言葉にすら揺さぶられたのだろう。
 名前も何も知らない、突然、学校裏に現れた彼に付いて行った。
 まぁ、それが勇者で契約したという事だ。
 願いは『強くなりたい。周りに頼らず、一人で生きられるくらいに……』と願ったらしい。

 それに伴い、「分かった。なら、周りの記憶を全て改竄させて貰うよ」と話し、暫く頭痛に悩まされると、高い身長を活かした、綺麗な姿にイメチェンされていたらしい。
 
「……凄い」
「君へ対する、周りの記憶が全て改竄された。文武両道で次期生徒会長って、事になっている。君の願い通り、一生、君と自ら関わろうとする人は居なくなったけどね」
「……本当に?」
「あぁ。気になるなら、試してみればいいさ。まぁ、お前の願いは叶えた。何かあった時はよろしく頼むよ」
「わ、分からないけど……よろしく?」
「あぁ。よろしく」

 ……そして、次の日になった。

 全校朝会での挨拶。

「新生徒会長。吉澤 夏奈さんへの受け継ぎ式を行ないます」

 本当に、生徒会長になってしまい、しっかりと仕事をこなしたらしい。
 その姿は、当時一年の俺からしても、凄かった。格好良かった。

 夏奈が、そんな生活を送って、丁度、十ヶ月くらい経った時だろうか。
 再び、あの男が夏奈の前に現れた。

 トントン

「はい。何でしょうか」
「しっかりしちゃって、久しぶりだねー。夏奈ちゃん。元気にしてた?」
「……!」
「そんなに驚かないでよー! 君に『お願い』が合って来たんだ」
「……何ですか?」
「君には、嘘で惚れさせて欲しい男がいる」

 そう言い、彼が取り出した写真。

 それは――

『桐生 壮一の写真』

 俺の写真だった。

「この人を惚れさせろ。と? 何のために」
「んー……そうだな。君が契約した勇者のために」
「……? わ、分かりました」

 そして、俺を生徒会室に一人で呼んだところに至る。

 ここで、俺に関わり、好きになってしまったそうだ――

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