元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

 胡桃とダラダラ話していると、気がつけば街へ到着していた。
 なので、バスから降りる。

「あ、そういえば。胡桃は、今日どこに行くんだ?」
「んー……内緒!」

 と、少し悲しそうな顔をする。
 ……何かあるんだろ。この前もそうだった。今日はしっかり聞かなき……。
 ……彼女の姿は人影に消えていった。
 俺は、そんな彼女をチラチラと見守ることしか出来なかった。まるで、不審者だ。
 チラチラと見ながらも、大きな信号を渡った時。胡桃が数人の男に囲まれているのが見えた。


 ――――――
 ――――
 ――


「君、可愛いねー」
「俺達といい事しない?」
「……辞めてください」
「いいじゃん! ちょっとくらい」
「っせぇな……。さっさと連れてっちまおうぜ」

 まぁ、好都合か。
 さっさと……。


 ――――――
 ――――
 ――


 お、おい。連れて行かれてるけど大丈夫かよ!
 俺は滝のように流れる人混みに逆らうようにして、反対側に戻る。

 胡桃が路地裏に連れて行かれた?! ヤバいな……。いざとなったら、魔法を使ってでも守らねーと……。

 それより、信号早く変われよ!
 こういう時の信号は長く感じる。遅刻しそうな時と同じ感じだろうか。

 そんな下らないことを考えていると、信号はすぐに変わる。
 俺は、人混みを振り払うようにして全力で前へ進む。

 あと、ここを曲がって……すぐそこが路地裏だ! そして……路地裏が見えた時。

 ブァッ!

 眩いような光に包まれた。警察か何かが反対側から懐中電灯で照らしているのだろうか。
 それとも、スタンガンか何かでビリビリってなり……。いや、それは漫画とかの大袈裟な演出だろ。
 それより……何が。

 俺が急いで、路地裏を確認すると、先程まで、胡桃に絡んでいた数人の男が口から泡を吹き、白目で気絶していた。

 胡桃、強っ……! じゃなくて……。これは何かあるな。

 そう。俺はこのような力を知っている。

 考え事は、とりあえずは家に帰り、魔王に伝えてからだな。

 その後、格安メニューを購入した俺は、急いで家に帰った。

「たっだいまー!」

 魔王様がいると思われる、リビングに急いで入る。

「て、テンション高いね……。壮一。頭大丈夫?」
「いやー、まお……じゃなくて、田中いるかなーと思ってさ」
「田中君……? それなら、昨日の昼頃? に、手紙を置いて居なくなったわよ」
「昨日言えよ!」
「いや……寝てたからさ」
「そっか……じゃなくて、朝に言えよ!」
「忘れてた! てへ……! ほら、これ」

『それじゃぁ。僕は帰るねぇ!』

 物凄く子供っぽいな! それより、帰ってこれないってことは……。魔王城に何か用事でもあるのかな?

「そっか。まぁ、残念だけど、そのうち会えるでしょ」
「だねー」

 そして、俺は夕食を取り、部屋で準備を済ませ、ゲームなどをした後、眠りについた。


 ……痛っ! ベットから落ちたのか?! めちゃくちゃ高い距離から落下した気がする。
 寝てる時の感覚って強いな……。
 目を開ける……。あれっ? こんなに明るかったっけ!?

「さぁ! 準備が整いました! 赤コーナー! チャラすぎて、気色悪い男! 栗松くりまつ きよしぃ!」
「っせぇなぁ!」

 その声のあと、影が見えてくる。
 街にいて、気絶させられてたやつ!?

「青コーナー! 私達にとって、都合の悪い男! 桐生 壮一!」

 ん? ん? 俺は寝ぼけていて視界が悪い目を擦る。

「ルールは簡単! 相手をぶっころした方の勝利です! レディーゴー!」

 戦う場所は、先の見えないような平らの場所。
 な、何すればいいの? 殺す?!

「まぁ、お互い良くわかんねぇんだし、殴り会おうぜ!」

 そう言い、殴りかかってくる男。
 いやいやいや急すぎやない!?
 その程度のヘナチョコパンチなら、投げつけられる。
 俺は、柔道の背負い投げのように思いっきり下に叩きつける。

「痛たたたた……ちっ。試してみるか」

 そう言うと、再び同じようなパンチで殴りかかってくる。
 俺は、その『試してみる』が何かは分からないので、投げつけるのではなく、パーで受け止める。
 次の瞬間……。

 ビシャッ

 俺の血液が飛び散り、床や顔につく。
 痛ってぇえぇえ!

「すげー……! マジで魔法が使えた」

 魔法?! ていうか、凄い痛いんだけど。これ、本当に夢か?
 しかも、こいつ遠慮無し。人生、諦めてるって感じかよ。

 ……なら、こっちも本気でいくしかないよな。殺される前に殺る。夢なんだろ? だったら、所詮幻想だ。

 負けてたまるかよ!

「ファイヤ!」

 相手に激しい炎の玉が飛んでいく。速さに大きさ。格段に威力が上がっているのが分かる。

「あっちぃ!! てめぇ、何すんだよ!」
「先にやってきたのはてめえだろ……」

 絶対に負けたくない。夢だろうと、殺されるのはごめんだからな……!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品