元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

リミルちゃん

 はぁーぁ。何で、私がこんな奴を相手しないとなのかなー! ……魔王様の計画のためだしなー!!

 クソ勇者のゴミパンチを何度も何度も手で受け止め、奥へ返す。

「どうしたー? クソ勇者。さっきの威勢の良さは?」
「……るさいな! 黙って死ねよ!!」
「言葉遣いの悪い子は嫌い……だな!」

 クソ勇者の腕を掴み、背中に背負うようにして地面に叩きつける。
 と、いっても床が一緒に壊れて、勇者とリミルごと下に落ちちゃったけどねー。

「どうしたー? 勇者。そんな所で寝そべって」
「ッッ……。クソが……」
「あぁん? もう一回言ってみろ。てめぇが我が主の下僕を虐めてたのと同じ事をしてるだけだよなぁ?!」
「そ、それは……。それが! あいつのためだからでしょ……」
「きゃはははははっ! 面白いっ! あいつのため? 何考えてんの? 散々殺そうとしたり迷惑掛けといて、そんなのが通じると思ってんの? ……そういう偽善みてぇなやつが大っ嫌いなんだよ!」

 あいつのムカつく顔面を思いっきり蹴る。並の敵なら顔面から、一気に全ての骨が崩れ落ちるようになり原型を保てなくなるだろう。
 でも、こいつは擦り傷程度。

「ふふっ……。最高! お前は私がじっくり痛みつけてやるよ!」

 何度も顔を蹴り、踏み潰し、叩きつける。

 これこそ、まさに……至高!

「ふふっ。あはははははは……! いいねぇ、その目! でも、いつまでしてられるかなぁ?」

 私を本気で睨むも、ぐうの音も出ない。
 なぁんだ。音の出ない玩具は面白くないなぁー。もっと、こう泣き叫んで……あぁあぁ!!

「もう、つまんないよー! 泣き叫びなよ! 何も言わないならサンドバッグと同じだよー?」
「……。お、お前らは壮一君をどうするつもりだ……」
「あぁん? やっと喋ったと思ったら他人のことか? つまんねーの。でも、流石に飽きてきたから答えてやるよ。それはな……分かんねー」
「分から……ない?」
「魔王様が何をしようとしてんのかなんて知らねぇ。神にでもなるつもりなんじゃねぇか?」
「……?! つ、つまり……?」
「あぁ。『あの』計画を知ってるお前なら分かるだろ。話は終わり。もう、お前には飽きた。最後に言い残すことはあるか?」
「ふぅ……。桐生君、伝わるかは分からないけど。頑張って……。好……」

 ビシャッ

 私は上半身から上を魔法で全て消し飛ばした。血が一気に吹き出し、窓や床、壁に血が飛び散る。

「……全て終わって、気が向いたら教えてやるよ」



 ――――――
 ――――
 ――

 タッタッタッ

 俺は階段を駆け下りる。他の魔王軍のやつがぶっ倒したのか、敵はほとんどいなく、速やかに一階へ到着した。
 俺はグラウンドへ繋がる玄関。もしくは窓のある部分へ向かう。
 靴箱のある正面玄関を右に曲がろうとした時……。後ろから、声が聞こえる。

「ねぇ。死んでくれない?」
「か、夏奈?! どうしてここに? 大丈夫?!」

 一人を気にしている場合じゃない状況なのは分かっている。だが、誰だって好きな人。嫌いな人はいるだろう。
 俺はその好きな人を守るためなら、全てだって犠牲にしてしまうタイプな気がする。
 好きな人がいなくて、他のやつを助けたところでどうしようもないからな。

 俺は夏奈に駆け寄り、肩を触る。

 すると……。

「死ね」

 ザシュッ

 俺の胸に剣が突き刺さり……。血が吹き出す。

「ゲホッ……!」

 俺は胸から、口から、血を吹き出す。

「ひ、ヒール……」

 何とか、一命を取り留める。
 さっきよりも、回復の効果が上がった気がする。元の時よりも、力が湧いてくる。
 俺は回復した体を起こし、後ろへ一旦引く。
 夏奈は絶対に殺すわけにいかねぇし。気絶でもさせて、足止め出来ればいいのだが……。

「なぁ、夏奈! こんな意味の無いことをして、どうすんだよ?! この前、初めてのデートも行ったんだぜ? 思い出せよ!」
「知らない。死ね」

 ダメだ。完全に洗脳されている。グラウンドで暴れてる胡桃と一緒だ。
 グラウンドに早く行かねぇとだけど、夏奈を止めておかないと後々大変だし、自分自身も後悔しそうだからな。

「分かった。分かった。なら、お互いに倒し合おう。良いな?」
「そうこなくっちゃ」

 夏奈は細長い剣を俺に向けて、ぶん回してくる。
 とても、細い剣とは思えない立ち回りだ。大剣のように力強く振り回す。
 一方、逃げながらも打っている、俺の火の玉は全てかき消される。
 むしろ、剣で跳ね返ってくる始末だ。

 ちっ……。俺がもっと強ければ……!

 力が足りねぇ。これじゃあ、夏奈も胡桃も皆も……大切な者を守れねぇじゃねぇか!

「余所見してんじゃ……ねぇ……ぞっ!」

 夏奈の剣が俺の上半身と下半身を分解させる勢いの威力で飛んでくる。

「ヒール……! ヒール……! ヒール……!」

 だが、傷は塞がらない。痛い、痛い、痛い、痛い。

「……いてぇえええびゃぁあぁぁぁあ!!」

 俺の悲鳴、嘆きが廊下に響く。

「ふふっ。チャックメイトっ」

 これは完全に致命傷だ。もう、数十秒もすれば、放っておいても死ぬだろう。

 ……俺に力があれば、負けなかったのか? 何かが足りなかったのか? 力を願うことは駄目だったのか? 何がいけなかったんだよ!

 俺は全力で戦ってきたつもりなのに……。

 想いが足りなかったの……かな。他人への関心。でも、守りてぇ者だって、いっぱいあるんだよ!!


 ……その時。俺の胸に秘めていた力が開放された。

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