元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく

任務

 ……まさか、任務で『あれ』が必要になるとはな。
 俺は家に向かい、全力で走る。
 バス停を超え、丁度、一本道へ入った時に……。

「通しませんよ」

 俺の走路を阻害する者が現れた。とても綺麗とは言えないスーツを身にまとった男が俺の前に魔法を放つ。
 すると、足元の土が浮き上がるように飛び出し、俺は少しだけ宙に浮く。
 だが、魔王様のおかげか何事も無く地面に手を付き体制を整えられた。

「やぁ。久しぶりだね」

 そう。そこに立っていたのは俺が初めて解決した砦の主だった。

「……自首したんじゃないんですか?」
「ふふっ。彼の意思は無いよ。私だよ、私」
「お前は勇者か……」

 あの最初に倒した勇者が何故生きてるんだ……?
 魔王様の話だと、倒した人間は何事も無くなるんじゃないのか?

「そうそう。分かってんじゃんー。君にリベンジだよ」
「何故、生きてるんだ??」
「復活させて貰ったから」

 ……勇者側がどんどん強くなってるってことか??
 なら、こいつはぶっ倒さないとなんだよな。夏奈と同様、気絶程度に……な。
 俺は胸に力を込め、剣を想像する。
 すると、夏奈を斬り、少し血の付いた剣が空中に浮かぶ。俺はそれをがっしりと掴む。

「リベンジ受けてやるぜ」
「あの時は油断したからな。強くなったお前に油断はいらないと判断して……。遠慮なくいくぜ!!」

 相手は俺から距離を取る。何をするのか分からないので安易に近づかずにその場へ待機する。
 すると、相手は魔法の詠唱を始める。
 これはまずいんじゃないか!?
 俺は阻止しようと敵に向かって走り出す。だが、時既に遅し。

「これで終わりだァ!!」

 俺の周りの地面が動きを見せ始める。前方の地面が一気に浮かび上がり尖った岩が出現する。

「……っと」

 何とか、それを避けるも、前後左右に岩が出現し続ける。
 くそ……!
 避けることに精一杯で全く身動きが取れない。
 段々と岩も多くなり、通れる道も狭まっていく。

「これで終わりだ!!」

 かなり辛い岩が一つ置かれる。
 これにより、俺は全く身動きが取れなくなり、王手をかけられた将棋の王将のようにどこへも逃げられなくなる。
 岩へ囲まれ、動くことが出来ない。
 どうすればここから出ることが出来るのだろうか。

「ふふっ。君の負けさ。言う事はあ……!?」
「……出れねぇんだったら、壊すまでだよなぁ!!」

 俺は夏奈との対戦時に床を抉ったことを思い出した。その力があるなら岩を壊すことも容易い。
 普通なら斬れるはずもない岩を真っ二つに横へ切り裂く。その時に起こった風で岩の破片ごと相手に飛んでいく。
 それにより、体制が崩れた時がチャンス。
 いっきに接近し、相手の頭に剣を突き付けた。

「王手。お前の負けだ。敗因は俺に考える時間を与えたことだ」
「言う事はねぇよ……。さっさと殺せ」

 お前が単体なら、ぶっ殺してるけど『この人』の新たな人生があるんだからな。

「なら、頭を下げろ」

 すると、俺の靴を見るような形で目線を下に落とす。
 その下げた頭を柄の部分で思いっきり殴ると、勇者は簡単に気絶した。

 そんな勇者を放置し、俺は家へ向かう。
 その後も立ちふさがる勇者はいたが、あいつほど強いやつはいなかった。
 あれから対して時間をかけずに、家へ到着する。
 『あれ』は俺の机の上にあるはずだ……。

 ……あった!

 俺が持ってくるように頼まれた物。それは『鍵』だった。
 本当にこんな意味の分からない鍵が必要なのか……?
 でも、持ってくるように頼んだ魔王は、何故俺がこの鍵を持っていることを知っているんだ??
 俺だって、これを今朝手に入れたはずなのに……。
 あー! もう考えても無駄だ! 状況を打開出来るんだろ?! なら、持ってくだけ! それでいいじゃねぇか。

 俺は急ぐために、チャリを跨いで学校へ向かった。

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